2014年12月28日日曜日

ヤマダ電機、限界突破のカギ・ご用聞き販売の破壊力(3)

これは成功すればかなりの売り上げ増に直結する。高齢化社会が進行し家電やIT製品について知識がなかったり、そもそもショッピングに出かけるのが億劫になる世帯が増えてきている。そこへ馴染みの電器屋さんがタブレットを見せながら説明してくれれば、購入機会は増えるだろう。

 課題としては、個々の電器屋がどれだけ親切・親身になって高齢者世帯に入り込めるかだ。電器屋が製品の配置やインストールだけでなく、便利屋を兼業して家具の移動や配線工事、不要品の引き取りまで手がけるようになったら、その世帯の消費の大きな部分を引き受けられるようになる。売るモノは家電に限らず、総菜から、弁当、食材まで納品する仕組みまで視野に入る。専用タブレットを世帯にあまねく配ってしまうくらいのビジネス・モデルまで踏み込めば、ヤマダとしては一気に商機が広まるといえよう。

(この項 終わり)

2014年12月27日土曜日

ヤマダ電機、限界突破のカギ・ご用聞き販売の破壊力(2)

実は同社の売り上げは今年度初め以降好調とはいえない状況が続いている。消費増税の反動もあるのだろうが、月度売り上げは4月以降、毎月前年同月比減が続いている。インターネット販売として「ヤマダモール」を展開し、取扱商品数こそ350万点以上としているが、アマゾンや楽天などを追撃するような迫力ではない。それどころか消費者が実店舗で商品を品定めして、実際の購入は楽天やアマゾンなどのECサイトで購入するという「実店舗のショールーミング化」が進んでおり、ヤマダにとっては深い悩みとなっている。

●新顧客層開拓で一気に商機広がる


 今回のご用聞き販売は、今まで来店してくれなかった顧客層に商品を売り込むという点が新機軸だ。ヤマダと提携している全国約3400の地域電器店が馴染みの顧客を家に訪問し、「ご用聞き」型で注文を取り、ヤマダに発注するという。パンフレットの代わりに専用タブレットで商品を見せ、商品の配達もその電器店が行う。ヤマダではこの形態も含めて、ネット関連全体の売り上げを現状の数百億円規模の年商から6年後には2000億円以上に引き上げるとしている。

(この項 続く)

2014年12月26日金曜日

ヤマダ電機、限界突破のカギ・ご用聞き販売の破壊力(1)

ヤマダ電機が「ご用聞き販売」を開始することが先月、明らかとなった。ヤマダは家電量販業界で圧倒的な売り上げトップである。2014年3月期決算ベースで約1兆9000億円という年商は、2位のビックカメラ(同8000億円強)の実に2倍だ。

 しかし、この業界の一強横綱は、その大きさゆえの悩みにも直面している。さらなる成長戦略をどう描くか、という悩みだ。日本全国に展開する店舗数は1000を超えてしまった。一方、日本に「市」は790ある(2008年時点、以下同)。「市」となる要件の一つは人口3万人以上で、つまりヤマダは日本のすべての3万人以上の地域市場に出店を終えてしまっているということだ。ちなみに人口5万人以上の都市数は541にすぎない。

 ヤマダの1店舗当たりの平均年商は19億円程度ということになるが、3万人規模の市には1万世帯くらいが生活すると見て、それらの商圏で全世帯が年間にヤマダの店舗で19万円程度の消費をしているという計算が成り立つ。一口に言ってしまえば、市の大部分の世帯がヤマダで年に19万円ほどのお買い物をしている、ということだ。

IT関連製品も含む電化製品を年間19万円程度も買う顧客層に、今以上に売るにはどうすればよいのか。つまりこの限界成長が、ヤマダが直面するようになった問題だ。
 実は同社の、、、

(この項 続く)

2014年12月25日木曜日

キリン、暗黒の5年間、組織改革失敗で意思決定遅延(3)

●屋上屋を架したキリン


 一方、キリンHD社長の三宅氏の大きなM&A案件としてはブラジル2位のビール大手スキンカリオールを2000億円で買収。しかし、その後1000億円の追加投資を行う事態になり、14年6月期は営業赤字のままだ。

 

グループ経営でも三宅氏は大きな足跡を残せなかった。キリンHDは傘下に中間持ち株会社としてキリンを置いている。組織論的にいえば、これが「屋上屋を架す」状況となっている。キリンHD、キリン、キリンビールの各社で経営陣が重複していて、状況をさらに複雑にしており結果として意思決定の遅滞、経営責任の不明確化、役員の責任範囲と承認当事者の錯綜など、不都合が不可避の構造だ。

 キリンHDのような巨大会社でサラリーマン社長が経営にあたる場合、このような「共同責任」型の組織を温存したがるのだろう。しかし、それは往々にして共同無責任体制に帰結する。
 この5年間では、オーナー企業だったサントリーHDのほうが歩を大きく進めた。3月から新体制となるキリンHDは今までの桎梏を乗り越えていけるだろうか。

(この項 終わり)

2014年12月24日水曜日

キリン、暗黒の5年間、組織改革失敗で意思決定遅延(2)

三宅社長時代の5年間、それはキリンHDにとっては暗転の時代だった。直近の14年度中間期決算(1-6月)では売上高が前年同期比3.6%減の1兆562億円となり、サントリーHDの後塵を拝してしまった。純利益は実に76.5%減の140億円となった。サントリーHDの純利益は171億円で、通期でもキリンHDはサントリーHDを下回ると予想されている。

 サントリーHDの佐治信忠会長は果断な経営を展開してきた。中でも大きな意思決定としては、世界最大の蒸留酒メーカー、米ビーム社の買収と、ローソン会長だった新浪剛史氏の社長スカウトが挙げられる。いずれもオーナー経営者でなければ実現できない大胆な意思決定だった。

 そしてこれらの佐治氏の意思決定には、キリンHDとの統合破談がモメンタム(経営力学)として働いたのではないか。つまり、ビーム買収は「キリンHDより大きな規模になるためにM&Aを実現する」という意思、そして新浪氏の獲得は「大企業キリンHDの能吏型サラリーマン経営者とは対極にある個性派カリスマ経営者を後継に」という意思の表れだと受け止められる。

(この項 続く)

2014年12月23日火曜日

キリン、暗黒の5年間、組織改革失敗で意思決定遅延(1)

12月22日、キリンホールディングス(HD)は社長交代を発表した。2015年3月末の株主総会で、三宅占二現社長が退任して代表権のない会長に退き、磯崎功典氏が新社長に就任する。磯崎氏は中間持ち株会社・キリンと事業会社キリンビールの社長を務めている。

 三宅氏が社長に就任したのは10年2月のこと。サントリーHDとの経営統合を進めていた加藤壹康(かずやす)社長が統合破談を受けて辞任したため、緊急登板だった。破談の最大の理由が、両者の持ち株比率だった。キリンHDは両社の事業規模などを根拠に当初キリンHD対サントリーHD=1対0.5を提案。その後の交渉で1対0.75までサントリーHD側の比率が引き上げられたが、結局合意に至らなかった。それから5年弱、両社の飲料業界における勢力図は大きく変わってしまった。

三宅社長時代の5年間、それはキリンHDにとっては暗転の時代だった。

(この項 続く)

2014年12月22日月曜日

公開中止の金正恩暗殺映画、ソニー平井社長の関与・承認が発覚 致命的な愚行(3)

●侵された表現の自由


 さて、SPEをソニーが買収して25年目で初めて起きたソニー本社社長から現場へ出たこの指示について、次のように評価できるだろう。
・映画産業と製造業の本質的な違いを平井氏は理解していない。
・巨大産業であるソニー本社社長が口を出すような話ではない。


映画産業は娯楽産業だが、その根底には表現の自由がある。表現の自由は、報道の自由と言論の自由に連なる重大な社会的要件だ。例えば、マスコミ産業が金書記を論評しようとして北朝鮮政府から抗議されたとしよう。そこで筆勢を収めてしまうようなことがあれば、それはそのマスコミにとって自殺行為だろう。
 形がある製品のデザインに対してトップが口を出すようなことと混同してはならない。SPEにとって核となっているビジネス価値を平井氏は理解することなく、自己規制により貶めてしまった。それもトップの指示によって、である。過去25年間、前任社長も含めてなされることのなかった「表現行為への関与」という愚行が行われた。大きな戦略的判断ミスである。

 またこの映画の最終シーンを3つ用意させ、その1つを直接承認したということについて、「グループ年商数兆円の日本を代表するグローバル企業のトップがすることか」とも疑問を抱かざるを得ない。
 現在、電機メーカの中でソニーは残念ながら負け組とされている。平井氏が就任して以来業績は下降を続け、発表される業績予想はそのたびに下方修正を繰り返し、平井氏の社長退任観測まで取り沙汰される事態となっているが、露呈した『The Interview』をめぐる平井氏の動きは、社長としての判断力の欠如を表しているといえよう。

(この項 終わり)

2014年12月21日日曜日

公開中止の金正恩暗殺映画、ソニー平井社長の関与・承認が発覚 致命的な愚行(2)

この「インタビュー」を行う主演を務めるセス・ローゲン監督とエイミ-・パスカルSPE共同会長との間で交わされたメールなども暴露され、それらのやりとりの中に平井氏が登場するのだ。

アメリカのニュースサイト「Vulture」は19日、
暴露されたメールなどを時系列にして紹介している。以下、一部を筆者訳で引用する。

「2014年7月:平井氏はそれまで米国でのビジネス活動に口出ししたことはなかったが、問題のシーンを望んでいないことが明らかとなった。SPEのマイケル・リントン氏がエイミ-・パスカル氏に送ったメールで、セス・ローゲン監督にその(=首が吹き飛ぶ:筆者注)シーンをカットさせるよう指示した。
 9月:最終シーンが3バージョン用意され、平井氏に送られた。平井氏が1つを承認した」
 リントン氏はそのほかに暴露されたパスカル氏宛てメールの中で、「今回のような要請は過去25年間の間になかったことだ」として、事の重大さを強調してローゲン監督を説得するように告げている。外資系企業では、この平井氏の通告は「さもなければクビだ」というはっきりしたメッセージにほかならない。パスカル氏としても動かざるを得なかった。

(この項 続く)

2014年12月20日土曜日

公開中止の金正恩暗殺映画、ソニー平井社長の関与・承認が発覚 致命的な愚行(1)

ソニーの米映画子会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)がクリスマスに公開を予定していた映画『The Interview』の公開中止を決定した。SPEへのサイバー攻撃について米オバマ大統領は19日、ホワイトハウスで行われた記者会見で「北朝鮮政府が関与している」と断定し、「相応に対処する」との方針を表明した。

 今回のサイバー攻撃でSPEの社内資料やメール履歴が大量に漏洩したが、その中にソニー本体の平井一夫社長が登場している点が注目される。
『The Interview』は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記をパロディ的に扱った作品と伝えられている。金書記とのインタビューに向かうトーク番組司会者らが、中央情報局(CIA)の指示で金書記の暗殺を試みる。ラスト・シーンでは金書記の生首が爆発により吹き飛ばされ、その画像なども現在インターネット上に出回っている。

(この項 続く)

2014年12月18日木曜日

コメダ珈琲、上場で露呈した快進撃のピーク 大株主、成長限界察知し株式売り抜け狙う(3)

コメダ、成長限界を乗り越えられるか

 MBKはコメダを上場させて市場で株価を形成させ、その株価を基準として相対で持ち株を売却するか、市場放出するしかないのだ。つまりコメダの上場準備はMBKのエグジット準備にほかならない。

今MBKがエグジット態勢に入ったのは、「コメダの快進撃は今がピーク」と見たからではないか。筆者も某フランチャイズ本部で加盟店募集の責任者を務めたことがあるが、新規加盟の問い合わせや応募により2年後までの新規開店は概ね見渡せる。実際コメダでは前述したとおり新店舗の増加数が14年度は50店ほどになる。13年度の増加店数が81であり、そこまでは毎年増え続けていた。また、コメダの快調を見て、スターバックスやルノアールが郊外型の喫茶店形態への進出を急いできた。

 成長速度は鈍るだろうが、コメダは悲願としている国内1000店舗は達成できるかもしれない。しかし、そのあたりが国内での成長限界となるのではないか。上場後にコメダが探るべき戦略は海外展開か、別ブランド追加(又は取得)によるチェーン展開ということになるだろう。

(この項 終わり)

2014年12月17日水曜日

コメダ珈琲、上場で露呈した快進撃のピーク 大株主、成長限界察知し株式売り抜け狙う(2)

この好調な成長を続ける同社が上場をするのは、株主MBKの意向が強いと思われる。まず、コメダは特に多額の資金を必要としない。同チェーンはフランチャイズ展開をしており、直営店は加盟店店長や店員の研修拠点という性格が強く、9店しかない(14年3月時点)。また、製造業でもないので機械設備などの購入も少ない。

●上場はMBKの事情


 一方、MBKはエグジット(出口)戦略として同社を上場するしかない。MBKが同社株式を同じく投資ファンドであるアドバンテッジ・パートナーズから取得したのが13年2月。つまり別ファンドによる2次買収だったわけだ。その買収額は430億円ほどだったと推定されている。アドバンテッジはコメダの持ち分78パーセントを所有していたが、コメダ創業者からの購入額は36億円、MBKへの売却による自社取り分は約257億円と推定できる。つまり約220億円の売却益を得たことになる。

 では、1次取得者だったアドバンテッジが見事な売り抜けを果たしたその分、2次取得者となったMBKは高い買い物をしてしまったのか。実際、MBKがコメダホールディングスの全株式を他のファンドや事業会社に相対で売却しようとすると、取得額の430億円をスタート金額とするのは難しい。
 コメダの直近の年間経常利益額は14億円ほどであり、EBITDA倍率(時価で表されている企業価値が、年間に創出される企業のキャッシュフローの何倍になるかを示す。その会社を取得した時に何年分のキャッシュフローで賄えるかも意味する)は30倍以上、つまり株式取得額の430億円を回収するためには30年以上の回収期間を要することになる。

前述のとおり同社の設備投資額が少額なら、減価償却費もEBITDA計算上は無視できる範囲だろう。一般的にM&Aの適正額は、EBITDA倍率7倍程度とされ、積極的なM&Aで日本電産の永守重信会長兼社長は「自分はEBITDAが10倍を買収の上限としている」と述べている。

(この項 続く)

2014年12月16日火曜日

コメダ珈琲、上場で露呈した快進撃のピーク 大株主、成長限界察知し株式売り抜け狙う(1)

名古屋発祥で現在は全国展開する喫茶店チェーンのコメダ珈琲を運営するコメダ(臼井興胤社長)が、2016年中に株式上場する方針であることが明らかとなった。大株主であるアジア系投資ファンドMBKパートナーズが12月10日までに持ち株会社コメダホールディングスを設立したのが、上場への準備とみられている。

 郊外型喫茶店をフランチャイズ展開している同社は順調に業績を伸ばしている。14年2月期のコメダ店舗全体の売り上げは420億円と対前年同期比16.7パーセント増の好調で、売上高営業利益率は22パーセントとなりスターバックスコーヒージャパンなどの同業大手を上回っている。肝心の加盟店舗数も直近3年間では次のように順調に増加している。
・11年度:38 新店舗(計435店舗)
・12年度:59 新店舗(計487店舗)
・13年度:81 新店舗(計561 店舗)
(同社資料「フランチャイズ契約の要点と概説」より)


さらに14年度(15年2月期)には610店となる見通しとされるが、、、
(この項 続く)

2014年12月15日月曜日

『本質を見極める勉強法』中原圭介 書評218(2)

中原圭介氏のバックボーンは歴史学だ。そのため、東西古今の歴史と宗教についての古典をしっかり読み取り、ご自分の見識の基礎的学力としている。

文系の方が経済エコノミストというのは、アンマッチな気もするが実はそうではない。かくいう私も文学部国文科である程度の言語マニュプレーション能力を養ってきたので、経営戦略の策定などに辿り着いた。

本書では、読書や新聞の読み方、知識の自分内部での組み合わせなど、同感するよい教えも多い。しかし、英語の習得についてのご見解については私は見解を異とする。中原氏は各国の現地言語を重要視なさっているが、私は世界を渡り歩く手形の一つがブロークン・イングリッシュだと思っている。

(この項 終わり)

2014年12月14日日曜日

『本質を見極める勉強法』中原圭介 書評218(1)

サンマーク出版、新刊。副題に「未来予測の超プロが教える」と。

中原さんには、先日行われた経営者ブートキャンプの大同窓会でお話しいただいた。主な論点は、
ー アベノミクスは破綻する。
- 日本人の暮らしは欧米に比べ悪くなっていない。
- 為替はさらに円安に。近く120円。
- 原油は1時持ち直すが、続落。
など。

明解に近未来を「見極め」ていらした。本書はご本人から現場で頂いた。まず感想としては
「稀有な読書人だな」
というもの。経営者ブートキャンプには、もの凄い読書家が二人既にいる。特別講師の出口治明ライフネット社創業会長と井上和幸経営者jp社創業社長だ。

私も少ない読書量ではないと思うが、このお二人はさらに桁違いだと思っていた。中原氏はそんなシーンに現れたもう一人の大読書家である。中原さんの特徴は、、

(この項 続く)

2014年12月12日金曜日

りそな総研で「本当に使える経営戦略」 取締役実力アップセミナー


りそな総合研究所が「取締役実力アップセミナー」を三回に渡って開催。
- リーダーシップ
- 経営戦略
- コンプライアンス

私は第2講を担当。掲題のタイトルで1日セミナーを行った。信任の取締役を対象として、適宜な構成のセミナーだと思った。

「戦略カード」を使って、「5つのステップ」を走らせて、各自の会社での戦略の立て方を演習して貰った。もちろん1日では本格的な戦略までは立てられない。「立てる技法」を学習して貰うわけだ。幸い、皆さんとても真剣に取り組んでくださり、アンケートでの満足度も高かった。

2014年12月10日水曜日

燃料電池車で脚光浴びる岩谷産業とは?水素ステ設置の卓越戦略、石油元売りが陥った罠(3)

戦略的に見ると、同社の今回の決定は非常に見事だといえる。開始当初は赤字となるが、その総額はスタンド20カ所の設備投資に比べれば取るに足らないだろう。水素ガスの製造・供給コストはエクスペリエンス・カーブ(累積製造量によるコスト低減)により時間がたつにつれて急激に下落し、数年を経ずして事業は黒字化するだろう。

 さらに同社にとって有利なのは、競合相手となるはずの石油元売り大手が水素ステーションに参入できない点だ。傘下に無数のガソリンスタンドを抱え、それらの多くが加盟店として独立した法人であり、それらの反発が必至だからだ。そもそも石油元売り大手の主力事業は石油の精製であり、水素ガスの普及は、その主力事業の脅威となりかねない。つまり、典型的な「イノベーションのジレンマ」である。水素ガスという「破壊的技術」に対して、自動車エネルギーで先行する石油元売り大手は動けないのだ。

 今後10年、電気自動車や水素自動車が普及していくといわれる中、自動車エネルギー市場ではどのような動向が予想されるのか、次稿で考察してみたい。

(この項 終わり)

2014年12月9日火曜日

燃料電池車で脚光浴びる岩谷産業とは?水素ステ設置の卓越戦略、石油元売りが陥った罠(2)

11月に入って同社は追い打ちを掛けるように、15年開設当初から「イワタニ水素ステーションにおける水素価格を1100円/kgに設定する」と発表した。

「この価格は、資源エネルギー庁ロードマップに掲げられている『2020年にはハイブリッド車の燃料代と同等以下を実現する』という目標を、5年前倒しして販売当初より実現したものです。FCV【編註:燃料電池車】の本格普及に向けて水素供給インフラの整備を進める当社は、そのような市場からの強いご期待にお応えすべく今回の価格設定に至りました」(11月14日付同社プレスリリースより)

●イノベーションのジレンマ
 戦略的に見ると、同社の今回の決定は非常に見事だといえる。

(この項 続く)

2014年12月8日月曜日

燃料電池車で脚光浴びる岩谷産業とは?水素ステ設置の卓越戦略、石油元売りが陥った罠(1)

岩谷産業(本社、大阪・東京)は年商5000億円規模の割には知名度が低く地味な企業だが、それは取扱商品の構成によるところが大きい。同社の主力事業はLPガスやカセットこんろを中心としたエネルギー事業、水素をはじめとする産業ガス事業である。そんな同社の名前が、今後急速に消費者の間で知れ渡ることになるかもしれない。

10月、同社は 2015年度までに東京、名古屋、大阪、福岡 の4大都市圏を中心に、20カ所に商用水素ステーションを設置 すると発表。現在主流のガソリン車の次にくる駆動エネルギーとしては、電気自動車と水素自動車がすでに実用段階に入ってきている。普及の課題は、燃料を補給するスタンドの数が少ない点だ。多数のスタンドを新規に開設するというのは社会的インフラ整備レベルの問題であり、行政の補助はもとより巨額な設備投資を必要とする事業となる。

(この項 続く)

2014年12月7日日曜日

香港デモで露呈した中国の“本性” 失墜したアジアの国際金融都市、香港集中から分散へ(3)


●アジアの国際ビジネス・センター、分散の時代へ

 路上占拠の強制排除が行われれば、「東洋の真珠」が失う輝きは大きい。香港が享受し国際資本を引きつけてきた自由経済・自由統治が実は「蟷螂の斧」のように危ういモノ、少なくとも中国の思惑三寸によるものだということが世界中に示されてしまった。

これにより、アジアにおける国際金融センターとしての位置付けは低下し、グローバル企業が置くアジア・パシフィック本社の拠点立地としての競争力は一段と低下していく。欧米、日本などの大企業は、すでにアジア本部をシンガポールや上海などに置くところが多くなってきている。

 今後はアジアのどの都市が、香港に代わって国際ビジネス・センターの役目を果たすようになっていくか。その答は「集中」ではなく「分散」だと考えられる。具体的にはシンガポール、上海に加え、イスラム商圏の中心となるマレーシアのクアラルンプール、2億5000万人の消費者を擁するインドネシアのジャカルタ、東南アジアの経済発展国タイのバンコクなどが、それぞれビジネスの中心地となっていく。こうした「分散」は、アジアの発展にとって「一極集中」よりも望ましいことといえよう。

(この項 続く)

経営者ブートキャンプ 大同窓会


12月6日は、経営者ブートキャンプ第10期の第3講が昼間行われ、夜は大同窓会が挙行された。

5年間、10期に渡り開催されてきた講座の卒業生50名近くが参集してくれた。懐かしい顔ぶれに囲まれ、嬉しいひとときを共有できた。同窓会のゲスト・スピーカーとして多くの著作がある経済アナリスト中原圭介氏が来場してくれて、半時間の講演。学び、交歓して旧交を温めた夕だった。

2014年12月6日土曜日

香港デモで露呈した中国の“本性” 失墜したアジアの国際金融都市、香港集中から分散へ(2)


この発表を受け、民主的な選挙に変更するよう訴える若者や市民が蜂起し、民主化デモが政治・経済の中心である金鐘(アドミラルティ)や商業地区の銅鑼湾(コーズウェイベイ)、九龍半島中部の繁華街・旺角(モンコック)を埋め尽くした。

 一連の経過より、筆者は「いよいよ中国が香港統括について本性をむき出しにしてきた」とみている。筆者は1970年代から香港に関する著書や論文を発表し、日本華僑華人学会が創立されたときは発起人として名を連ね数年間役員も務めてきた。1992年から4年間は香港上場企業の日本法人で社長を務め、渡港歴は数十回に及ぶ。

 香港が英国から中国に返還された97年、返還式典で初代行政長官の董建華(トン・クンファー)氏と接触したが、当時中国は公式見解として「少なくとも50年間は1国2制度として、香港の現行のやり方を許容維持する」としていた。これが説得力を持って世界に受け止められたのは、中国が香港の次に併合を狙っている台湾に対して不安感を与えないためだとされていた。

 しかし筆者は当時、現地の空気から「そんなことはないだろう」と感じていた。1国2制度という「衣」の下には、拡大主義の中華思想という「鎧」が見えていたのだ。

(この項 続く)

2014年12月5日金曜日

香港デモで露呈した中国の“本性” 失墜したアジアの国際金融都市、香港集中から分散へ(1)


香港で2017年に実施される次期行政長官の選挙制度が民主的でないとして始まったデモで、民主派デモ隊の学生リーダーらが1日、ハンガーストライキを開始。前日にデモ隊と当局は激しく衝突しており、緊張が高まっている。

 その一方で、11月末現在で200名近くの逮捕者を出し、香港大学が実施したデモに関する一般人への調査では約8割が「占拠をやめるべきだ」と回答しており、道路占拠やデモへの参加者は急激に減っている。当局による強制排除が実施されデモは収束に向かうとの見方も強い。

 今回のデモは、次期香港行政長官選挙への立候補について以下の新しい制限が設けられたことに端を発した。
「候補者は1200人の指名委員会で過半数の支持を得た者から2~3名に絞る」
「指名委員会は政界、工商・金融界、専門業界、労働・宗教界の4大分野から選出する」


 つまり、反中国政府的な人物は事実上立候補できない。立候補者は事実上政府が選ぶということだ。この発表を受け、

(この項 続く)

2014年12月4日木曜日

東京商工会議所の本部セミナーで、戦略策定セミナー

東京商工会議所の本部セミナーで、「「実務に基づく実践型経営戦略講座」。

毎年12月の定番セミナーとして依頼されている。1日みっちり「戦略カード」を使って実地に経営戦略を立てて貰う。セミナーを終えてのアンケートでも圧倒的に5と、少し4という好評で、また来年も、とのこと。生きていれば。

年内の公開セミナーは、
  • 「本当に使える経営戦略と計画の立て方
  • りそな総研 
  • 2014年12月12日(金10:00-17:00
  • LinkIcon詳細とお申し込み [ch0]

    で打ち止め。
     

    2014年12月3日水曜日

    社長が選ぶベスト社長に永守氏、何がすごいのか?ゼロから1兆円企業に、驚愕の経営手法(2)


    1973年の創業以来、50社ほどを買収してきた。これは1年に1社以上という考えられないペースであり、それを40年も続けてきたというのは驚愕に値する。投票したのが現役社長だからこそ、永守氏の手腕のすごさに打たれ、恐ろしいまでの集中と成長への執念に対して、ベスト社長として1票をためらわずに投じたのであろう。

    ●永守氏の経営手法

     今回のランキング結果を掲載した同誌は、付帯して永守氏と柳井正ファーストリテイリング社長の対談を掲載している。筆者は対談収録時に会場で聴講したが(詳細は筆者ブログ参照)、柳井氏はテレビなどでたびたび目にする機会があるので既視感があった。一方、永守氏は筆者が「動く同氏」を見るのが初めてだったこともあり、特に強い印象を受けた。あの柳井氏に比しても永守氏の「大物感」は強く、オーラと存在感が会場に広がっていた。
     永守氏はよく「M&Aの神様」のように呼ばれるが、対談では「買うまでが20%で、買った後にかける力が80%」と語った。さらに、「高い買い物はしない、この半年で8件も買収を断念した」とも明かした。

     永守氏の経営技法については、『日本電産 永守重信、世界一への方程式』(田村賢司/日経BP社)がとても明快に紹介しているので、興味のある方はご一読いただきたい。筆者が主宰する「経営者ブートキャンプ」でも、永守氏を今期のテーマ経営者にした。課題図書を選ぶために永守関連本を何冊も取り寄せ目を通したが、同書が豊富に資料などを収載しており、最も本質に迫っている。永守氏の経営手法について勉強することは、経営者のみならず一般のビジネスパーソンにとっても大きな糧になることは間違いなく、同書を手に取ってみることをお勧めしたい。
     

    (この項 終わり)

    2014年12月2日火曜日

    社長が選ぶベスト社長に永守氏、何がすごいのか?ゼロから1兆円企業に、驚愕の経営手法(1)

    「日経ビジネス」(日経BP社/11月17日号)が「社長が選ぶベスト社長」の調査結果を発表した。1位に輝いたのが、永守重信日本電産会長兼社長だ。有効投票数は東証1部上場社長の65票、それ以外の企業社長の48票でいささかサンプル数が少ないきらいがあるが、永守社長が1位という結果に筆者も異論はない。

     永守氏は同社創業者であり、ゼロから始めた日本電産グループを年間売上高約1兆円の規模にまで育て上げた。主力事業は産業用モーターという地味な部品製造だが、同社の急成長で特に意義が大きいのは、従来型産業であるという点である。モノづくりを行う製造業であり、自社の技術、製造力、そして販売力の総力戦で戦っている。ITやeコマース、金融でなく、仕入れも在庫も物流も存在する伝統的産業のルールの中で規模を拡大してきた。

     この急成長を牽引したのが、永守氏が得意とするM&A戦略だ。

    (この項 続く)

    ビッグホリデーの破天荒経営 20歳で創業し年商800億円、取引先への忠誠心で大胆行動(2)

    岩崎安利社長
    バス旅行を拡充させようと、ブルーバス社(現千葉中央バス)の代理店になると、ブルーバスとは資本関係もないのに自社の名前を東京ブルー観光社に変更して(69年)、代理店としての覚悟を示した。

     この同社の「取引先へのきっぱりとしたコミットメント」はその後も続く。街の代理店としては敷居が高かったANAからの販売代理権を得るときには、「他の航空会社の切符はこれからも一切扱いません」と、旗幟を鮮明にした。この姿勢が評価され、後に都内に中小約600社もあった街の旅行会社に対するANAの専売代理店として認められた。一方でそれら約600社の旅行会社にも、ANAの航空券を扱うようにまとめ上げてしまった。こんな豪腕経営者は滅多にいない、そして人間的魅力がなければ成せない戦略である。

     筆者は岩崎氏とビジネス上の関係を71年に初めて持った。当時主催していた学生スキーバスのバスのチャーター先を探して、まだ板橋区にあった東京ブルー観光社を訪れたのである。飛び込みで入って来て、「バスを10台志賀高原に出してくれ」と無茶を言った学生を、営業所長と名乗る岩崎氏が真摯に対応してくれ、太っ腹に受注をしてくれた。岩崎氏は実際はオーナー社長だったのだが、「若いので営業所長なんて言っていたんだ」と、その後20年ぶりくらいに再会した時に笑って言った。まだ弱冠28才だった岩崎氏は、それにしては貫禄があったし、剛毅で愛嬌のある「営業所長」だった。

     85年にビッグホリデーに名称変更以後の業容拡大や活躍については、すでに数多く報道されており広く知られているが、経営者のみならずビジネスパーソンが、岩崎氏の類いまれで大胆な行動力から学ぶ点は多い。

    (この項 終わり)

    2014年12月1日月曜日

    ビッグホリデーの破天荒経営 20歳で創業し年商800億円、取引先への忠誠心で大胆行動(1)

    旅行代理店大手のビッグホリデー(東京都文京区、岩崎安利社長)が11月19日、創業50周年記念パーティを開いた。都内のホテルで開かれたパーティには1000人以上もの招待客が溢れ、口々に祝意を唱えていた。

    中でも伊東信一郎ANAホールディングス社長、加賀美俊夫オリエンタルランド会長などの来賓がこぞって讃えたのが、創業社長である岩崎氏の経営力、そして人間的な魅力である。

     岩崎氏が現在では年商800億円規模にまで成長した同社を創業したのは1964年、20歳の時だった。夜学の高校を卒業して、昼間働いていた旅行会社の見よう見まねで同社を創業した。高校卒業即創業など滅多にあるケースではなく、当初の社名は北日本ツーリスト・ビューローだった。三畳の広さで始めた街の旅行代理店を、岩崎氏は情熱と戦略で拡大していく。

    バス旅行を拡充させようと、、、


    (この項 続く) 

    2014年11月29日土曜日

    メガバンクで社長(頭取)に戦略発表会

    最大手の銀行で、社長以下トップ3人の役員に戦略発表会を行った。

    関係会社の幹部12名に「戦略カード」を駆使して貰った。戦略的課題出しとそれらの解決策を戦略カードにより、カード出し(個別作業)をしてきて、本日はグループで重要カードの選定をして貰う。4人ずつ、3グループで作業をして貰った。

    午後は、社長以下銀行本社の3役員に対して発表会を司会、講評。今回は時間的制約があり、当日のタイム・マネジメントに気を使った。社長は分刻みで動いているので、予定を遅らせることが出来ないからだ。上手く予定に収まり、その点でも面目を施した。

    2014年11月27日木曜日

    サントリー新浪社長、就任まで4年越しの深慮遠謀 ローソン玉塚体制へ周到に禅譲 (3)

    サントリーホールディングスの佐治信忠会長(左)と新浪剛史社長(右/「同社HP」より)

    恐らく、新浪氏はもうローソンを卒業したくなっていたのではないか。三菱商事社員だった新浪氏が子会社のローソン担当となったのが00年、送り込まれて社長に就任したのが02年のことだった。すでに10年以上経過しており、働き盛りの経営者としては、もうとっくに飽きてしまっていたのだろう。

     新浪氏のハラは10年にはすでに決まっていたのではないか。その準備のために玉塚氏を招聘し周到に経験を積ませ、4年かかってサントリー転出にこぎ着けた。このような時間軸でみると、新浪氏と佐治氏の間には強固な信頼関係があることがうかがえる。見方を変えれば、このような周到な準備なくして、サントリーのような巨大な同族企業が外部から経営トップを迎えるようなことは実現しなかったともいえる。

     4年越しで実現した人事がサントリーでどのように機能し、そして同社がどのような成長をみせるのか、目が離せない。

    (この項 終わり)

    2014年11月26日水曜日

    サントリー新浪社長、就任まで4年越しの深慮遠謀 ローソン玉塚体制へ周到に禅譲 (2)

    サントリーホールディングスの佐治信忠会長(左)と新浪剛史社長(右/「同社HP」より)

    サントリーの佐治信忠社長(当時、現会長)が新浪氏に初めて社長就任を打診したのが、同年だったと報道されている。新浪氏がこの時点でどのようにコミットしたかは明らかではないが、同年10月、ローソンは玉塚氏を招聘した。当初玉塚氏は国内事業を担当したが、13年には海外担当となった。

    「新浪剛史CEOは、昨年玉塚氏を国内担当から海外担当に移した時からすでに、翌年となる今年の経営権の玉塚氏への禅譲を決めていた、と今回私は思った。そのために、玉塚氏に国内に続いて海外部門を担当させ、両方での『経営土地勘』を持ってもらったと見る」(前出ブログ記事より)


    ●ポスト新浪体制を自ら確立


     では、なぜ新浪氏がサントリー社長就任の話を受けたのか。


    (この項 続く)

    サントリー新浪社長、就任まで4年越しの深慮遠謀 ローソン玉塚体制へ周到に禅譲 (1)

    サントリーホールディングスの佐治信忠会長(左)と新浪剛史社長(右/「同社HP」より)
    10月、サントリーホールディングスの社長に新浪剛史氏が就任した。玉塚氏登用の経緯を振り返ると、新浪氏の深慮遠謀がうかがい知れる。

     新浪氏のサントリーへの転出が発表されたのは今年6月のことだったが、実は筆者は4月にブログでそれを予言していた。
    「この若さでこんな有能な経営者が次のステージを目指さないわけがない。それが外部転出なのか、三菱商事ワールドの中での別ポジションなのか。今年か、遅くとも来年には新浪氏には新しいタイトルが付くことを予言しておく」(4月23日付記事『ローソン新浪剛史CEO会長就任を深読みすると』
     
     この記事は新浪氏がローソン会長、玉塚氏が社長に就任するという新人事が発表された直後に書いたものだが、「新浪氏はローソンの外に出て行く」と筆者は直感した。

     新浪氏はローソンから転出するために、今春になって泥縄的に玉塚氏を社長に据えたわけではない。話はサントリーとキリンホールディングスの統合交渉が破談した2010年2月に遡る。

    (この項 続く)

    2014年11月24日月曜日

    『同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論』 武井一喜 書評217(3)

    ファミリービジネス企業の業績が、一般企業に比べて優れている、というのは「常識の嘘」的な事実だ。しかしこれは日本だけでなく、欧米いや世界中での傾向だし、世界の経済やビジネス、雇用の大部分はファミリービジネスが担っている。それらのことを本書は詳しい資料で物語っている。

    著者は、その優越性を「ファミリネスス」という言葉で説明し、それこそがファミリービジネスを形作っている経営資源だとした。これは、新見だった。

    多くのファミリービジネスが現在悩んでいるのが経営承継の問題だろう。子息経営者に対して
    「ファミリーとビジネスの板挟みになったときは、親孝行や墓参りをした後で意思決定をすることをお勧めします」
    などとしているのは、同じコンサルタントしての私に
    「すごい!」
    と思わせたさりげない助言だ。

    私が指導しているいくつかの同族会社のファミリーメンバー経営者に、本書を課題図書として読んで貰うこととした。好適。

    (この項 終わり)

    2014年11月23日日曜日

    『同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論』 武井一喜 書評217(2)

    著者の武井氏は
    - コロンビア大のMBAである。
    - 同族会社を4代目として嗣ぎ、倒産させた。
    - ファミリービジネス専門のコンサル会社を始めた。
    - この分野の世界的団体、FFIから日本人初の認定員となる。
    - 欧米で開催されるFFIの総会に毎年参加、日本を代表してきた。
    ー (社)日本ファミリーアドバイザー協会を立ち上げ、理事・事務局長。

    前著から4年、満を持して世に問うた本書は、その間の世界での学的進歩を紹介し、武井氏の実地でのコンサルとしての豊かな経験、第一人者として集中してこの分野を拓いてきた専門家としてのご見識などが集約された。

    たとえば、、、

    (この項 続く)

    『同族経営はなぜ3代で潰れるのか? ファミリービジネス経営論』 武井一喜 書評217(1)

    クロスメディア・パブリッシング社、新刊。実は著者は4年前にそのタイトルも『同族経営はなぜ3代でつぶれるのか?』というタイトルの書を同じ出版社から上梓している。そして、その時も私は書評を書いた。
    2010年8月25日http://yamadaosamu.blogspot.jp/2010/08/blog-post_25.html

    同じ著者で同じ出版社から、『つぶれる』と『潰れる』と漢字使いだけが違うタイトルの本を出すというのは混乱する。私なら新しい題を付ける。

    さて本書の場合、同じような袋に盛られたのが同じ酒、というわけではない。めでたく、より芳醇なウマ酒がしっかりたくさん入った。

    「同族会社」は近年の経営学では「ファミリー・ビジネス」と呼ばれるようになって、この20年ほどの間に急速に研究が進んできた分野だ。著者の武井氏はこの分野で書を著すべきあらゆるご経験を有している。それらは、、、

    (この項 続く)

    2014年11月22日土曜日

    ユニクロ柳井・非情経営の強さ ローソン玉塚「みんなでがんばろう」経営の危うさ(2)

    玉塚元一ローソン社長(「同社HP」より)

    しかし、あれから15年ほど、玉塚氏の経営遍歴つまりキャリア・チェンジはしばしば華々しく喧伝されてきたが、その話題に伴うような実績を残せてはおらず、結果として「東洋経済」で「負け続けたプリンス」と評されてしまった。 


    ●「みんなでがんばろう」経営が孕む危険
     玉塚氏の経営スタイルについて、同誌記事は次のように紹介している。


    「誰とでも一瞬にして打ち解けることができる。それこそが玉塚の最高のスキルである」
    「今はチーム玉塚として、みんなで肩を組んで歩いている」(ローソンのフランチャイズ店舗の有力オーナーの談)
    「全社員が考えて、全社員が実行する経営にしていきたい」(玉塚氏の談)

     こうした玉塚氏の経営スタイルは「みんなでがんばろう」という基本方針に基づくものだと推察されるが、実は企業経営上の危うさを孕んでいる。そして実際に玉塚氏は勝ち切れなかった。
     一方、ファストリで玉塚氏を社長から解任した柳井正氏(現社長)は、「君には降りて貰う」と言い渡せる経営スタイルだ。
     前者のスタイルを営業本部長のリーダー・スタイル、後者をCEOとしての経営スタイルと分類できるが、ローソン社長に就任した玉塚氏の本格的かつ最後となるであろう「逆襲」の成功を切に希望する。


    (この項 終わり)

    ユニクロ柳井・非情経営の強さ ローソン玉塚「みんなでがんばろう」経営の危うさ(1)

    玉塚元一ローソン社長(「同社HP」より)
    「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/11月22日号)が『玉塚元一ローソン社長の逆襲』という特集記事を掲載している。「負け続けたプリンス」という副題が付いており、見出しには「大学ラグビー、ユニクロ…。最後の最後で勝利を逃す男、玉塚元一。大手コンビニで人生最大の逆襲に打って出る」と、遠慮のない表現をしている。実は筆者も自身のブログ記事で「この、『目立った実績が何もない』スター経営者はどこへ行くのか」と評したことがあり、「東洋経済」記事と同様な見解だ。


     玉塚氏は、筆者が卒業した米サンダーバード国際経営大学院の後輩だ。2000年頃、アリゾナ州フェニックス本校から学長が来日した際、筆者が日本の同窓会会長を務めており、レセプションに玉塚氏も出席していただき挨拶を交わした。たしか当時はファーストリテイリングの副社長だった。
    
    「ラグビーで鍛えた堂々たる体躯。身長は181センチ。甘いマスク」(「東洋経済」記事)の玉塚氏はグッド・ルッキングで、誰の印象にも残った。育ちの良さや洗練された物腰、そして何よりその後ファストリ社長に就任したこともあり、まさに我が校OBの星となってくれた。スキーの腕前もプロ並みと伝えられており、「若大将」社長、スター経営者として脚光を浴びていたのが2000年代前半のことだった。

     しかし、、、

    (この項 続く)

    2014年11月20日木曜日

    上場会社で戦略発表会

    夏から指導していたとある上場会社(小売業チェーン)で、今日は戦略発表会。

    4名の幹部(取締役や本店の店長、二人の部門長)が準備してきた部門戦略と全社戦略(取締役)を発表してくれた。

    発表を受けたのは、社長と常務、そしてメインバンクから4名。発表者の下のレベルの幹部達5名。発表者はイヤでも緊張する。

    発表スライドについては、先週からメールを介して添削して上げた。今日は朝から出かけて、午前中は一人一人にリハーサル指導。午後2時からの本番に備えた。発表は一人40分枠、その中を発表20-25分、講評やコメントが残った時間。

    リハーサルより本番の方が出来がとてもよかった。指導者として面目を施したが、やはりこのレベルのエグゼクティブというのは基本能力が高い、と感じた。

    2014年11月19日水曜日

    アサヒビール、なだ万買収の不思議 販売増・認知度向上などの相乗効果期待薄か(2)

    アサヒは年商1兆7000億円(連結ベース、2013年12月期)、グループ社員数1万8000人以上だ。一方のなだ万は創業1830年という老舗だが、年商150億円、社員数1300人と、売り上げ規模でアサヒに2桁劣る。このような2社が資本関係に入ったとしても、買収側のアサヒにとってどれだけ戦略的な「報酬」が期待できるのだろうか。

    ●相乗効果に疑問

     なだ万は国内に26店、海外に7店の高級和食レストランを展開している。アサヒはなだ万海外店を通じて、そのプレミアム・ビールの海外認知度を高めること狙っているとの見方もあるが、世界中に散らばるレストラン7店のみでは、その効果は限定的といえよう。かといって、海外展開を急速に加速させることも難しい。老舗の和食レストランの質を担保する板前の育成には長期間を要し、このクラスの料亭にふさわしい仲居を海外で確保することも容易ではない。ファスト・フードのチェーン店を海外出店するのとは次元の異なる話である。

     また、なだ万各店で出すビールはすでに9割がアサヒの商品だといい、販売量増につながる効果は見込めない。
     逆になだ万にとっては、安定した経営資金的なバックアップを得られるだろう。
     こうして分析してみると、この買収は、あまり相乗的な効果を見込めないと筆者は考える。アサヒにとって買収の実質的な効能は、取引先企業の接待を担当する専門料亭を獲得したという程度で終わりかねないのではないか。

    (この項 終わり)

    アサヒビール、なだ万買収の不思議 販売増・認知度向上などの相乗効果期待薄か(1)

    11月14日、アサヒビール(東京・墨田区)が老舗料亭のなだ万(同・新宿区)を買収すると発表した。アサヒは、その目的を次のように説明している。

    「老舗料亭の経営ノウハウを取得し、外食企業に対する営業提案力の強化につなげることにあり、海外進出を積極化している外食企業に対しても、ノウハウの提供が可能となります。また、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された『和食』文化をリードしてきた『なだ万』ブランドを、グループ力を活用し、日本国内および世界に広めていくことも視野に入れています」(同社プレスリリースより)


     現在アサヒは高級ビール「ドライプレミアム」の販売に力を入れるなどプレミアム戦略を推進しており、その路線とのマッチングを図った買収とみられている。しかし、ビール飲料と高級外食産業に実際どれだけの相乗効果が期待できるのだろうか。この買収がまず違和感を与えるのが、両社の規模の違いすぎる点だ。

    アサヒは年商1兆7000億円、、、

    (この項 続く)

    2014年11月18日火曜日

    オリックスの弥生買収、マーケ4P的巧妙戦略 中小企業の半数を顧客基盤として獲得 (2)


    そんな弥生を買収するオリックスは、融資、保険、リースなどの商品を保有しており、取引相手が法人の場合、福利厚生から年金設計、運用まで引き受けることができる。また、それらの金融商品を売り込む組織も人員も豊富に抱えている。

    ●4P戦略的に高い効果を期待

     

    マーケティングで重要だといわれる「4P戦略」とは、プロダクト、プレイス、プロモーション、プライスの4つだが、オリックスはもともとプロダクトを保有していたところへ、弥生の買収によりプレイス、つまり流通経路(販売先)が一気に広まったことになる。

     加えて、プロモーションという点でも、プロ野球球団のオリックス・バファローズを保有しており、弥生の会員企業へのサービス、もしくは新規顧客企業獲得のためのツールとして、バファローズの試合の入場券を利用できるかもしれない。もちろん球団としては入場者増となる。

     残りのプライスの点では、弥生を通して日本の中小企業の半分をカバーできるため、さまざまな面でスケールメリットを生かした価格政策を実施できる。
     以上のオリックスのビジネス展開は、弥生の会員顧客チャネルを通じて行われるため、弥生にとっても新たなビジネスチャンスとなる。つまり、今回の買収は両社にとってまさに「Win-Win」のディールとなり、戦略的には極めて妙手である。

    (この項 終わり)

    オリックスの弥生買収、マーケ4P的巧妙戦略 中小企業の半数を顧客基盤として獲得(1)

    総合金融サービス大手オリックス(東京・港)は11月13日、会計ソフト開発・販売の弥生(東京・千代田)を総額800億円強で買収すると発表した。

     弥生は1980年代から、中小企業にとって単独で会計・業務用ソフトを開発することが高負担だった状況を踏まえ、業務用パッケージソフトを納入してその運用を指導・支援する「会員会社」を開拓してきた。顧客基盤である会員数は120万社を超えるとみられる。

    日本における小規模事業者(従業員30名以下)の総数は334万社ほどであり、そのうちで実質休業状態の企業もあるため、日本の中小企業全体の半分近くを顧客にしているといえる。さらに、業務用ソフトはサポートサービスやアップグレードなども発生するため、一度売ってしまえば終わりという「売り切り」でないため、顧客企業と強い関係を構築することができる。

     そんな弥生を買収するオリックスは、

    (この項 続く)

    2014年11月17日月曜日

    『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』 書評216(3)

    それから、巻末に示されているのがお約束のようなデシジョン・ツリー。選択を無限に場合分けして得意がる技法だ。結果、選択肢は一つの事象について50以上も出現し、それぞれについての採択率は1%を切る割合の中での選択を迫る手法だ。

    デシジョン・ツリーの技法は数学の領域理論の範疇のものであって、つまり人文学の世界の話しではない。経営は言うまでもなく、不整合な人間が行う行動である。

    およそ自然人の意思決定にはなじまない技法がデシジョン・ツリーである。その効能というと、経営コンサルがクライアントにいたずらに圧倒感を与えるに適しているものである。

    楠木建や星野佳路なら「コンセプトから思い付け」と言う。実はそれも常人にはなかなかうまく出来ないのだが、まだその方が可能性がある。

    (この項 終わり)

    『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』 書評216(2)

    本書を開いていみると果たして、事業会社(普通の会社のこと)を多数指導してきたコンサルタントらしい筆致だ。つまり意思決定の方法を詳しく指南しているが、自らは意思決定をしてきていない、つまり経営者として責任を取らなければならない立場ではそんなことはして来なかったというコンサル立場である。

    著者による意思決定プロセスのそこかしこで、「・・をリストアップする」とある。その項目出しがいかにも簡単なようにさらりと指示されているが、現場では一つのアイデア出しに呻吟している。その「リスト」なるものをどう出し、どんなリスト例が示されているか。

    またまとまったケースとして示されているのが、とある中間管理職のキャリア選択というものだが、それは言うまでもなくビジネス・デシジョンではない。エグゼクティブの意思決定論にはなじまない例示だ。

    それから、、、

    (この項 続く)

    『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』 書評216(1)

    クロスメディア・パブリッシング社、新刊。

    マッキンゼー本というのは世にたくさんある。一つの理由はOBが多いから。OBが多い理由は、Up-or-Outという就業原則のため。それは「次のステップに偉くなれなければ止めてください」というものだ(本当の話)。

    さて、数多い日本のマッキンゼーOBの中でも俊英なのがDeNA社を創業した南場美智子さん。南場さんは昨年ベストセラーとなった『不格好経営』(日本経済新聞出版社)の中で、こう述べている。
    「マッキンゼー時代に習得してコンサルした理論など、何の役にも立たないことが(自分が実業に出て)よく分かった。」
    そしてこうまでも実際書いている。
    「昔のクライアントにあったら、土下座して謝りたい」
    私がやっていた会社の一つも、前任社長の時代にマッキンゼーには非道い目にあった(これは私の個人的評価である)。

    というわけで、私はマッキンゼー本には偏見を持っている立場だ。そんな立場から本書を開いてい見ると、、

    (この項 続く)

    2014年11月16日日曜日

    新将命氏、箱田忠昭氏と三巨頭会談、久々。


     
    新 将命さん
    箱田 忠昭さん

    お二人と会食。伝説の外資経営者(新さん)とカリスマ講師(箱田さん)と並んで弟分が山田。

    箱田さんとは32年、新さんとは22年ほどの長い長い付き合いだ。それぞれ個別に親しくして頂いて、新さんに10年ほど兄事してから知ったことがあった。箱田さんが新入社員時代の最初の上司が新さんだったということ!

    近年は「三巨頭会談」と戯れ名を付けて、年数回会食を続け、旧交を温め続けている。私が親しくさせて頂いている先輩格の方もすっかり少なくなった。どうか、三人組で元気で四方山話を続けていきたいものだ。
    

    2014年11月15日土曜日

    ベネッセ、“実質的な”経常利益は100億以上の増加?漏洩事故で「血の入れ替え」加速(2)



    今回発表された経常利益の予想が265億円ということは、賠償支払いの250億円がなければ経常利益は500億円を超える勢いだということを示している。つまり、前年実績より100億円以上も伸びたことになる。同社の実質的な業績は伸びていると読むべきなのだ。

     さらに売上高に至っては、事件の影響を受けても前期の4660億円から4670億円へと伸びる予想であり、筆者の経営者としての経験から推察するに、「大事件で世間を騒がせた後にあまり売上高が伸びると批判を浴びる恐れがあるので、少しだけ伸びるという数字に収めておこう」という同社経営陣の意向が働いたと思われる。そのため、15年3月通期の実績は、今回の予想値より上振れする可能性が高い。「事件がなければ経常利益は100億円以上伸びていたはずで、売上高は実質的に伸びた」となり、期中の6月に社長に就任したばかりの原田泳幸氏の手腕が大きくたたえられることになるだろう。

     実は原田氏は、事件を契機として大胆な経営陣の入れ替えを進めており、社内では「血を入れ替える」と表現しているという。
     原田氏は事件を奇貨として、今後さらに同社内での経営基盤を確立していくだろう。

    (この項 終わり)

    ベネッセ、“実質的な”経常利益は100億以上の増加?漏洩事故で「血の入れ替え」加速(1)

    ●ベネッセの業績予想は下方修正ではない

     10月31日、べネッセホールディングスが2015年3月期業績予想を発表した。7月末の四半期短信では、同月に発覚した会員情報漏洩事故を受け、異例の「未定」としていた。今回発表された予想では、経常利益を約265億円としており、前期実績の350億円と比較すると一見、大幅な減額のようにもみえる。

     しかし、こうした見方は誤りである。筆者は9月、週刊誌の取材で次のように述べた。
    「情報漏洩事件がベネッセの業績に与える影響は一過性のもので終わるだろう。通年のグループ経常利益が半減する程度で済むのではないか」
    「会員に対しての、情報漏洩関連での賠償が約250億円と発表されている。同社(ホールディングス)の近年の経常利益額はおおよそ安定して400億円前後なので、それが今期は半減するほどのインパクトはある。しかし、赤字に陥るようなことはない」

     今回発表された経常利益の予想が265億円ということは、、

    (この項 続く)

    2014年11月12日水曜日

    人手不足!

    猫の手も借りたくて、、
    首都圏でも、地方でも各社が人手不足に悩み始めている。

    指導している首都圏のとある会社は、材料加工業で典型的な3K産業だ。業容は拡大しているのに、今春から現場の社員の採用が思うようにいかなくなった。

    今月指導に行ったら、
    「先生のお陰で」
    と、礼を言われた。聞くと、9月に私が
    「社員に報奨金を出して、紹介制度を一時的に発布したら」
    といったことが奏功したという。5万円の奨励金で、70名の会社に4名採用できたという。それも現業の弟、あるいは何と息子を入れた、というではないか。

    当社の未来は明るい。そう思わなければ、誰が子息を入社させようとするだろうか。私も付いているし。