2016年1月31日日曜日

社員の老親介護問題、企業存続を揺るがす深刻さ…自分で介護&費用拠出はダメ(6)

発表で教授が主として報告なさったのは、「介護離職を予防するための両立支援対応モデル導入実証実験」(厚生労働省)だった。得られた回答サンプルは4万件を越したという。

 この調査で「就業継続見込みが強い」と自ら回答した社員たちについて、いくつか関連している環境が示された。

1.自社の両立支援制度について認識している
2.行政や地域の介護支援制度について知識を持っている
3.恒常的な残業が比較的少ない
4.有給休暇を消化しやすい
5.
上司とのコミュニケーションがとれている

 学会にしては大いに具体的で身近な問題についての発表であり、多くの人にとっても参考になるであろう。

(この項 終わり)

2016年1月30日土曜日

社員の老親介護問題、企業存続を揺るがす深刻さ…自分で介護&費用拠出はダメ(5)

40歳以上の社員に対してセミナーを開いたり、情報を記載したリーフレットを配ることにより情報提供をするのが有効だという。情報とは、介護保険でどのような補助を受けられるのかや、ケア・マネジャーの使い方などについての知識だ。そして、「介護は誰にでもやってくる問題」だと社員に認識させて、それにそなえさせることだという。これらにより、介護休業や介護離職の割合を低くすることが期待できるという。

費用は親が拠出、会社は社員へ豊富な情報提供を


「介護制度を利用する費用? それは親に出させなさい。老親は年金をもらっているのでしょう? それを拠出させなさい。不動産があれば金融資産に変換したりもするのです。最悪なのは、地方に住んでいる老親を呼び寄せてしまうこと。こうすると自分と自分の家族の介護負担も大幅に上がってしまう。あくまで諸制度を知り、最大に活用することで対処することが重要です」(佐藤教授)

(この項 続く)

2016年1月29日金曜日

社員の老親介護問題、企業存続を揺るがす深刻さ…自分で介護&費用拠出はダメ(4)

自分で介護させない、介護をマネジメントさせる


 佐藤教授は言う。

「社員が自分で介護したのでしょう? それでは駄目です。現在一介護案件について、一度限りですが連続で最大93日の介護休暇を与える法制になっています。しかし、自分だけで介護しようとする限り、この93日間を過ぎてしまったらどうするのですか。この期間に、自分で介護しなくて済むために動くことを、その社員に啓蒙するのが会社側に期待されることなのです」

 佐藤教授が出席者たちに、現行の介護保険の制度をどれだけ知っているかと尋ねると、多くの者がしっかり認識していないことがわかった。「ご自身は介護保険に加入していますか?」という質問に、多くの参加者がとまどった。答は「40歳から全員加入する」だが、私も含めて、まさに介護をする側となる「介護世代」の人たちである。なかには、会社で人事部門に属する人が自社の介護支援制度をしっかり理解していない、という状況も明らかとなった。

「社員の介護問題について、企業自身が何か介護したり手助けしたりということではありません」(佐藤教授)

(この項 続く)

2016年1月28日木曜日

社員の老親介護問題、企業存続を揺るがす深刻さ…自分で介護&費用拠出はダメ(3)

介護の負担感は、育児のそれよりも大きいそうだ。つまり、育児の手のかかり方は成長とともに少なくなるし、プロセスも予想できる。ところが、介護の場合は親が存命な限り先が見えない。配偶者の大きな関与や手助けを得られない社員が持つ負担感は男女共に大きい。

 佐藤教授の発表後に私がコメントしたのは、「企業にとって、介護は育児よりも大きな経営課題となってきた」ということだ。具体的に次のように経験を語った。

「以前幹部社員を転勤させようとしたら、『介護している自分の老親が同居していて、妻から自分だけとなる介護について強い難色を示された』と言われた。また知人の経営者が、地方に住む母親が亡くなり父親が独居老人となったので、いわゆる『遠距離見守り』を始めたが堪えられず、来年引退を決めた。この社長は従業員社長で、親会社はこれを機会にその会社を閉鎖することにした」

「遠距離見守り」とは、月に数回訪問してケアすることだ。このほかにも、老親介護のために幹部職から残業のない一般職への降格を願い出た事例なども知っている。

(この項 続く)

2016年1月27日水曜日

社員の老親介護問題、企業存続を揺るがす深刻さ…自分で介護&費用拠出はダメ(2)

介護する男性社員が急増


佐藤教授の報告によると、主な介護者(介護に当たる家族)で男性の割合は2001年の調査では23.6%だったが、10年には30.6%と急増している。そして、この増加傾向は今後とも継続するとされる。理由としては、女性配偶者にも親がいるので女性はそちらの介護を優先と考える。そもそも女性も就業している割合が増えてきている、などだ。

 被介護者、つまり老親のほうを分析すると、75歳を過ぎると要支援・要介護の割合が高くなる。ところが、まさにこの年齢層の親に対処すべき子供の年代は40代後半から始まる。40代後半から50代、そして定年までというと、多くの企業で女性より男性が幹部社員として登用されている割合が圧倒的に多い。私はそれがいいと考えているわけではない)。

(この項 続く)

2016年1月26日火曜日

社員の老親介護問題、企業存続を揺るがす深刻さ…自分で介護&費用拠出はダメ(1)

国際戦略経営研究学会の戦略経営・理論・実践研究会が1月20日に開催され、出席した。 
「Thinkstock」より

 今回の発表者は佐藤博樹・中央大学戦略経営研究科(ビジネススクール)教授で、報告テーマは『仕事と介護の両立支援:介入研究の結果から』だった。

 佐藤教授は出自が社会学で、ビジネススクール教授としては人事管理論がご専門。経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」の運営委員長や中央大学の「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト」の代表なども務められている、当該分野で権威とされている学者である。

 学会での報告なので、発表は佐藤教授のグループが実際に調査をして得られたファクトの報告、分析というかたちをとった。私が出席した理由は、テーマそのものがまさにコンカレント(現代的)で、多くの企業と幹部個人たちがすでに直面している問題についての調査、報告だと思ったからだ。はたして、その期待は裏切られなかった。

(この項 続く)

2016年1月25日月曜日

川崎重工、想定外の損失計上で快進撃にブレーキ…「負け犬」船舶事業を捨てるべき(6)

そんなことはないだろう。告げられない、のだ。PPM分析の場合、社員や事業リーダーへの告知は難しい。「ドッグ:負け犬」となれば「もう撤退するよ」という告知となる。アメリカなら転職準備を始めなさい、というシグナルと受け取られるだろう。「キャッシュ・カウ:金のなる木」ということでも複雑だ。「君の事業はもう成長しなくていい。投資もしない。そのままプロダクト・ライフ・サイクルの衰退期に入っていって、静かに利益貢献をしてほしい」などと明示されて、意欲を高めることができる幹部がどれだけいるだろうか。

 川崎重工の現在の好調は、「航空宇宙部門」という「花形」事業のおかげだ。これが続いているうちに「船舶海洋部門」をカーブアウト(切り離し)して社外に出してしまうことだ。そして、そこで得られるキャッシュを他5部門に効果的に投資する。こんなやりくりで同社は「次の1兆円」を目指すことができる。

 村山社長が航空宇宙部門出身だけに、同部門の好調に酔って事業ポートフォリオ戦略を出動しない「無策の時間」があったりすると、14~15年の成長はほどなく止まってしまうだろう。

(この項 終わり)

2016年1月24日日曜日

川崎重工、想定外の損失計上で快進撃にブレーキ…「負け犬」船舶事業を捨てるべき(5)

ROIC分析を経営実践に活かし続けろ


 川崎重工では、7事業部のレベルを超えて32のビジネスユニット(BU)をROICチャート分析しているという。そして、それによりBUを5つの格付けランクに分けている。それは当然のことで、PPM亜流のROICは事業の優先順位、投資順位を求めるものだからだ。多岐にというか広範な事業展開をしている同社のような大企業では、経営トップといえどすべての事業の詳細について把握できない。詳細を把握することなしにメリハリを付けた経営をしていく技法が必要なのだ。


 川崎重工の場合、ROIC分析に基づいた格付けをBUレベルでは開示していないという。社員は自部門の格付けは知らないというのだ。これについて太田和男CFO(最高財務責任者)は、「『ウチはコングロマリット(複合体)経営。強い事業と弱い事業が相互に補完できる体制づくりが優先』と語り、事業の選択と集中には慎重だ」(「日経ビジネス」(日経BP社/1月18日号)と説明している。


せっかく複雑な分析技法を開発・駆使しているのに、その結果は発表しないし、使わないという。つまり、財務部門の単なるシミュレーションであり、太田氏の時間潰しということであろうか。

(この項 続く)

2016年1月23日土曜日

川崎重工、想定外の損失計上で快進撃にブレーキ…「負け犬」船舶事業を捨てるべき(4)

一企業が複数の事業にどのように経営資源を分配するのかを決定するための手法のひとつとしてPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント、別名:BCGマトリックス)がある。ROIC経営の手法と得られるチャートは、実はPPMとよく似ているというか、PPMの応用というべき技法だ。PPMをさらに精緻に複雑にして、PPMと同じ結果を得ようとしているにすぎないともいえる。

 PPMの場合は、Y軸に市場成長率、X軸にマーケット・シェアをとり、4象限の中に自社の各事業をプロットする。PPMは1980年代に発表された古い技法だということと、両基準とも相対的で主観が入るなどの批判により衰退してきたが、私に言わせればわかりやすく使いやすい技法なので、経営コンサルタント会社が顧客からフィー(報酬)を取れないのが衰退の理由だった。

 川崎重工の場合、PPMによれば「船舶海洋」は「負け犬」に、「航空宇宙」は「花形」に分類される。PPMでは前者は撤退を、後者は優先事業としなさい、と示唆される。

(この項 続く)

2016年1月22日金曜日

川崎重工、想定外の損失計上で快進撃にブレーキ…「負け犬」船舶事業を捨てるべき(3)

実は村山氏が社長に登板したのも、この船舶海洋部門の動きと関連していた。13年に前経営陣が同部門改善の究極の一手として三井造船との経営統合(全社)を図ったのだが、村山氏など他部門の取締役の反対があり解任された。

ROIC経営とはPPMの変形


 村山氏は、ROIC経営という耳慣れない経営技法を引っさげてこの巨大企業を率いてきた。

川崎重工で主要事業とされるのは、他に「ガスタービン・機械」「モーターサイクル&エンジン」「車両」「プラント・環境」「精密機械」だ。「船舶海洋」と「航空宇宙」と合わせて7主要事業とされる。ROICはリターン・オン・インベステッド・キャピタルの略、つまり投下資本利益率だ。経常利益額を投下資本で割った数値で、大きいほどいい。

 川崎重工の場合、Y軸に営業利益額、X軸にROIC(%)を取る。座標軸はそれぞれをゼロとすると、4象限からなるチャートが得られる。このチャートに7事業の数値をプロットし、さらにそのプロット点を中心に当該事業の年商を円として表すと、規模感も一目で掌握できる。

(この項 続く)

2016年1月20日水曜日

川崎重工、想定外の損失計上で快進撃にブレーキ…「負け犬」船舶事業を捨てるべき(2)

航空宇宙部門が「スター」なら、船舶海洋部門は「ドッグ」

「機械の百貨店」とも称される川崎重工は、多岐にわたる事業を7つに分けて経営している。そのなかでも好調で業績に寄与しているのが、村山社長の出身母体でもある航空宇宙部門だ。同部門は16年3月期予想では営業利益を対前年比21%増となる440億円と見込んでいる。村山社長自身も年初にこう意欲を示している。


ボーイング向けは、この3年で計1000億円を投資した。開発中の最新機「777X」向けでは、昨年、名古屋第一工場(愛知県弥富市)に生産・組み立ての新工場の建設に着手した。自社生産するロボットを導入し、自動化を進める。今後も生産技術を高めたい」(1月16日付SankeiBiz記事より)
 一方、今回損失計上の原因となったブラジル事業は船舶海洋部門だ。同部門は15年9月の半期実績で、31億円の営業赤字に沈んだ。同社の7事業部のなかで唯一の赤字部門だ。今回の特損計上で部門赤字額は年度合計としてさらに大きくなる。

(この項 続く)

2016年1月19日火曜日

川崎重工、想定外の損失計上で快進撃にブレーキ…「負け犬」船舶事業を捨てるべき(1)


1月14日、川崎重工業が221億円の損失を計上し、第2四半期通期(15年4~12月)の業績見通しを下方修正すると発表して株価が下振れした。一時は株価が340円(16年1月21日)となるなど、昨年の高値647円(15年3月19日)の半分近くまで下げている。

 同社が30%出資しているブラジルのエンセアーダ社の資金繰りが悪化して特別損失を計上するのが主因。2016年3月通期の業績についてはまだ見直ししていないが、岩井コスモ証券は今後さらに数十億円規模の損失拡大が懸念されるとして、レーティング(株式格付け)を「B+」から「B」に、目標株価を530円から390円に引き下げた。

 今回の特損計上は、13年6月に社長就任以来快進撃を続けていた村山滋社長の足を止めたかたちとなった。数年来1兆3000億円前後を徘徊していた同社の年商を、14年3月期には約1兆4000億円、15年3月期には約1兆5000億円と伸張させ、16年3月期には1兆6000億円超となる業績予想で走ってきたからだ。

(この項 続く)


2016年1月18日月曜日

「心が折れた」LLIXIL藤森社長、なぜ突然退任?(5)

資本家と対峙するプロ経営者の蹉跌


 ジョウユウ問題でつまずいてしまった藤森氏に対して、市場は厳しい評価を下していた。藤森氏の着任後にLIXILグループの時価総額は1.3倍になったが、同期間で業界第2位のTOTOはそれを3倍以上とした。LIXILは活発な海外M&Aを展開するなどの投資を続けたため、収益力ではTOTOの後塵を拝してしまっている。潮田氏は自らも大株主ゆえに、そうした株価の情勢にも苛立ちを増していたのではないか。

任期半ばの退任となった藤森氏は、プロ経営者としての能力を全開する前に志半ばとなってしまった。プロ経営者とは、経営の専門家、あるいは専門経営者である。しかし、当該会社に対する立場は当然、資本家ではない。潮田氏のようなオーナーがいて、その資本家から経営委託を受けて任に当たる。当然ながら高額な報酬やストック・オプションなどを含む多額の成功報酬が提示される。

 逆にいえば、それだけの高給を食むのだから、結果責任も含めていつ更迭されても仕方がないという諦念を持って邁進しなければならない。
 次のステージを待つ身となったプロ経営者・藤森氏のこれまでの尽力に、拍手と心からのエールを送りたい。専門経営者の活躍の場はいくらでもある。時代はプロ経営者を必要としているのだ。

(この項 終わり)

2016年1月17日日曜日

「心が折れた」LLIXIL藤森社長、なぜ突然退任?(4)

藤森氏が潮田氏に請われてLIXILのCEOに就任したのは、11年8月のことだった。5社が合併してLIXILが誕生した4カ月後のことだ。外資出身の経営者が日本の大企業に招聘された。プロ経営者が登場した大型事例として私は大いに期待した。その組織にプロパーで存在している経営陣では成し遂げられない、新しく大きなことを実現してくれるのではないかと思ったのだ。

 藤森氏の経営改革には一定の評価を与えられる。まずジャック・ウェルチ仕込みの米ゼネラル・エレクトリック(GE)流「事業の取捨選択」で重複した事業を「水回り」など4部門に再編した。旧来の経営からの脱皮ということでGEなどから人材を集め、今や事業会社LIXILの取締役10人のうち9人が外部からだ。

 何よりの功績は、事業の海外展開を推し進めたことだろう。私は以前から、衛生陶器各社が本格的に海外進出をしないことに苦言を呈してきた。藤森LIXILは、米衛生陶器のアメリカンスタンダードや独水栓金具のグローエなどの企業買収を通じて、就任時3%にすぎなかった海外売上高比率を3分の1近くまで拡大した。これは大きな功績だ。

 しかし、グローエの独子会社ジョウユウが多額債務に関連していたことから、660億円もの損失を計上したことが、今回の人事の大きな引き金となったとも見られている。

(この項 続く)

2016年1月16日土曜日

「心が折れた」LLIXIL藤森社長、なぜ突然退任?(3)

「2年前から指名委員会で5~6人の候補者と面談を重ねてきた。65歳の執行役員の定年、瀬戸氏の状況などを考えて今が一番のタイミングと判断した。決断したなら早いほうがいいと、(事業会社LIXIL社長兼CEOとしての)1月の瀬戸氏の招請を決めたのは藤森氏だ」(15年12月23日付日本経済新聞より)

次期社長の選考を開始していたことは、藤森氏には伝えられていなかったのではないか。それが指名委員会の性格だからだ。そして、「16年6月の株主総会をもっての降板」などを告知された藤森氏が、「そんなことなら早々に」と唐突な発表会を経て新年からの瀬戸氏の着任という道を選んだと私は見る。

 

道半ばで去るプロ経営者


 会見で藤森氏は「コンフォタブル(快適)な状態になったら辞める。それがプロ経営者というもの。私はプロとしての信念とプライドで(退任を)決めた」と語ったが、それは真意ではないだろう。オーナーからの通告を受けた雇われ社長の心が折れてしまったのだ。こんな場合に心が折れるのも、プロ経営者の矜持として私には理解できる。「君に任せた、頼む、といっていたのにふざけるな!」と、藤森氏が思ったとしても驚かない。

(この項 続く)

2016年1月15日金曜日

「心が折れた」LLIXIL藤森社長、なぜ突然退任?(2)

創業家が影響力を行使

LIXILグループの取締役会では、藤森氏ではなく潮田洋一郎氏が議長となっている。今回の社長人事も指名委員会委員を兼ねる潮田氏の主導によってなされた。潮田氏はLIXILの前身のひとつ、トステムの創業家。シンガポールに居住しLIXILの経営に対しては非常勤だが、藤森氏とは週に1回はコンタクトを取っていたという。というより、影響力を行使していたのだろう。

 LIXILグループの株主としては、潮田氏は野村信託銀行を通じて3.03%の株式を保有する。この持分で企業オーナーとして経営に影響力を持てるのか疑問に思われるかもしれないが、実は日本の多くの上場企業では珍しいことではない。潮田氏の野村信託を通じての持分は主要株主として第2位だし、第1位は3.33%の別の信託銀行で、こちらのほうは特定の個人や法人の信託ではない一般的な投資としての株式所有とみえる。創業家という立ち位置と実質的な筆頭株主の立場に加え、取締役会議長というポストを握ることにより潮田氏は実質的なオーナーとして振る舞っているのだ。

 社長交代発表会見の翌日、潮田氏は次のように語ったと報じられている。

(この項 続く)

2016年1月14日木曜日

「心が折れた」LLIXIL藤森社長、なぜ突然退任?(1)

2015年12月21日に発表されたLIXILグループの藤森義明社長兼CEO(最高経営責任者、64歳)の退陣は唐突で異例なものだった。藤森氏が16年6月下旬の株主総会で代表権のない相談役に退き、後任には事業者向け工具通販大手MonotaRO(モノタロウ)を立ち上げ株式上場させた瀬戸欣哉氏(55歳)が就くという。

 その発表は藤森氏のみの出席で行われ、通常同席して紹介されるべき瀬戸氏は英ロンドン在住ということで姿を見せなかった。連結売上高1兆7000億円近い企業グループの新社長が、その就任発表の場に姿を見せないというのは極めて異例。そんな「経営者交代発表」など聞いたことがない。

今年1月1日から瀬戸氏は暫定COO(最高執行責任者)として着任したとされるが、交代会見に顔見せしなかったことは、上場大企業の経営責任者として説明責任に欠けるという指摘をしておかなければならない。

 しかし実情は、そんな批判は百も承知で社長交代の発表会見に瀬戸氏の出席が間に合わなかったほど、今回の人事が急転直下だったということなのだろう。

 

(この項 続く)

2016年1月13日水曜日

マグドナルド社の売却、私は昨春に提言していた(6)

日本マクドナルドHDの帰趨は


 前出記事で私は、「苦境に陥っているFC店法人が、投資ファンドと組んで日本マクドナルド社の買収にかかれ」とひとつの選択肢を示した。今回来日した本社側デレゲーション(役員陣)が接触を持ったのは、まさに投資ファンドや商社だという。

 加えて同記事では、日本マクドナルドHD株式53%(本社所有分)なら2000億円も提示すれば買収できるのでは、とも踏み込んでもいるが、今回は30%程を1000億円程度で売却ということだ。野望に燃える米本社の新CEOへ着任時に日本側から提案していれば飛びついていたのではないか。そして同記事の結びはこうだ。

「『起こってしまうと、必然だったように見える』というのは、多くの経営現場で筆者が経験してきたことでもある」

 どこが優先交渉権を得て、日本マクドナルドHDの株主構成がどう変わるのか、つまり経営権がどこに落ち着くのか大変興味が持たれる。いずれにせよ、日本のオペレーションは現経営陣では袋小路に入ってしまったような状態である。外部の辣腕経営者の登場を待ちたい。外食産業からの人材でないほうがいい気がする。ちなみに故藤田田氏(創業者)も原田氏も、他業界出身の経営者だった。

(この項 終わり)

2016年1月12日火曜日

マグドナルド社の売却、私は昨春に提言していた(5)

イースターブルック氏の経営手腕は、市場から評価されている。何より、米国での第3四半期(7-9月期)の売り上げが、四半期ベースでは1年ぶりに上向いた。世界ベースでも同期間で対前年比4.0%の伸張を果たした。日本マクドナルドHDの株放出のニュースを受けたこともあり、米本社の株価は118.80ドル(12月23日終値)と年初来高値で今年を終えそうだ。

企業がターンアラウンド・フェーズにある時は、イースターブルック氏のように新経営者のほうがふさわしい。そして、何より危機感を持っていなければならない。その危機感によってこそ、思いついた大胆な戦略に断固として着手することができる。そして大胆な戦略とは、メリハリを利かせた選択ということにほかならない。

 日本マクドナルドHDの株式譲渡は1000億円規模のディールだといわれている。イースターブルック氏はこのキャッシュを前述4種市場のうち「高成長が期待できる市場」に投入しようとしていることは間違いない。市場の期待もそこにある。

(この項 続く)

2016年1月11日月曜日

マグドナルド社の売却、私は昨春に提言していた(4)

特に日本マクドナルドHDは原田泳幸前社長時代に店舗のFC化を進めてきた。私も昔とあるFCチェーンで本部側の幹部を務めたことがあるが、ザー(本部)とジー(FC)の利益は相反するのが現実だ。ザーにとって顧客であるジーに近い幹部職は、よいコミュニケーションを取れば取るほど、本部として戦略的な抜本策を取りにくくなることがある。

米国本社の新CEOは明快な戦略を描いた


 米国本社では、近年の業績悪化を受けて3月にスティーブ・イースターブルック氏がCEO(最高経営責任者)に就任した。米国企業のCEOというのは、株式市場から絶えざる圧力を受けるので業績改善への意欲が強い。同氏も着任すると、ただちに「戦略上の優先事項を白紙にする、差し迫った必要性がある」と危機感を示した。
 具体的には、世界で展開している市場を、地域ではなく市場としての成長特性で次の4つに分類し直した。

・米国(最大の市場)
・業績を牽引する市場(フランス、オーストラリア、イギリスなど)
・高成長が期待できる市場(中国、ロシア、韓国など)
・基礎的市場(日本、中東、中南米、インドなど)


 日本が属する「基礎的市場」とは「その他の市場」ということで、戦略的優先順位が低い。

(この項 続く)

新将命氏特別講義 経営者ブートキャンプ

経営者ブートキャンプは第12期が進行中で、1月9日(土)に第4講を行った(全7講で、3月に終了)。

この日は、冒頭にこの日の課題図書『ネスレの稼ぐ仕組み』(高岡浩三社長著、KADOKAWA』を二人の報告者が分担発表、その後討議。

第2セッションでは、ランチをはさんで私が「競争戦略セオリー」を講義。

第3セッションで、新特別講師をお招きし、「企業を伸ばすリーダーの条件」。一時間半の講義の後、質問を30分。このセッションはOBと第13期参加検討者にもオープンクラスとしたので、ぎっしりとした。

新講師は、その後もクラスに残ってくれて、第4セッションの小グループ発表(戦略策定過程で他参加者の意見を聞く)でコメントくださった。

帰り際に「いつもながらすばらしいプログラム、参加者たちだね」
とお褒めの言葉をいただいたが、お礼を申し上げなければならないはこちらである。オープンクラスでの外部参加者には長年の新ファンもいて、すっかり興奮していた。


2016年1月10日日曜日

マグドナルド社の売却、私は昨春に提言していた(3)

しかし、私はこの人事に対して前出記事で次のように指摘したが、果たしてその懸念は的中してしまったようだ。

「さてカサノバ社長はマーケティング畑、ラーソン会長と下平副社長は現場オペレーション畑という布陣だが、『現場に近すぎはしないか』という懸念も残る。(略)別の言い方をすれば、『今のやり方で袋小路に入ってしまっているのに、過去のスペシャリストばかり集まってしまった』と評することもできる」

カサノバ社長自身が大胆で抜本的な舵取りをしないことの補完的な役割として、下平氏やラーソン氏を招きいれたとしたら、戦略的には悪手な人事だった。なぜなら、同じ成功体験で育ってきたエグゼクティブは、同じ手法しか繰り出さないからだ。海に投げ出されたときに泳げない者同士がしがみついているようなものとなる。

 オペレーションの改善に力を発揮すると期待された下平副社長は、直前には有力FC法人の幹部として腕を振るっていた。しかし、企業がターンアラウンド(方針転換)を目指す場合、既存のネットワークやステークホルダーと強い関係があることは、逆の効果となってしまう。人間関係がまったくない、外部からのプロ経営者の招聘や、本部からの派遣経営者のほうが大鉈を振るえるものだ。

(この項 続く)

2016年1月9日土曜日

マグドナルド社の売却、私は昨春に提言していた(2)

会社は経営者の器以上に大きくならない


低迷期に入り苦闘している日本マクドナルドHDのチェーンを再生させるには、日本市場に土地勘のないサラ・カサノバ社長ではやはり荷が重すぎた。カサノバ氏は、1月に起きた異物混入問題の折も海外出張を理由に記者会見に出席しないなど、経営課題に対しての優先的な取り組みの意識に問題があるのではないだろうか。上場会社の女性社長中、ただひとり1億円以上の報酬年額を享受しているということのほうが脚光を浴びたのは皮肉なことだ。

 カサノバ社長を支えるべく、3月の株主総会でロバート・ラーソン氏と下平篤雄副社長(営業担当)が取締役に着任した。ラーソン氏は米国本社から送り込まれた。16歳から米マクドナルドの店舗に勤務していたという。下平氏も店舗からのたたき上げで、本部、有力フランチャイズチェーン(FC)の役員を歴任してきた。両氏ともマクドナルドの現場やオペレーションを知悉している。

(この項 続く)

2016年1月8日金曜日

マグドナルド社の売却、私は昨春に提言していた(1)

日本マクドナルドホールディングス(HD)の株式を売却する方針で、米国マクドナルド本社が動き始めた。米本社は日本マクドナルドHDの株式の約半分を保有しているが、最大で33%分を売却する方針で、すでに幹部が来日して商社や投資ファンドなど計5社程度に譲渡を打診したという。

「いよいよ始まったか」と、私には大きな驚きはない。というのは4月7日付本連載記事『危機マック、打開策はFCによるマック“逆”買収である 新経営陣では復活は厳しい』において、現経営陣では苦境は打開できないとの見地から、資本譲渡によるてこ入れを提言していたからだ。

「新経営陣でも復活は厳しい」と見立てたわけだが、果たして12月8日に発表された11月の既存店実績は、売上高で前年同月比2.5%減と3カ月連続での減少となり、客数では同2.3%減、客単価は同0.2%減という「三重苦」となった。全店売上高も同3.8%減となり、こちらも3カ月連続での前年実績割れとなった。こんな状況を見て米国本社もいよいよ見放したという展開だ。

(この項 続く)

2016年1月7日木曜日

地獄の歯科業界、大余剰で年収2百万も…激増の「整体」」「もみほぐし」、大チェーン出現(6)

「また09年からリラクゼーションセラピスト1級と2級という認定資格制度を設け、解剖生理学を中心とした知識と接客マナーなどをしっかり勉強してもらっています」
 ただし、対象は協会会員会社に所属するセラピストだけということだ。

 治療院系とリラクゼーション系のもうひとつの違いは、料金体系だろう。両者とも自由料金なため施設ごとに料金はさまざまだが、治療院系では多くが「1分100円」つまり1時間なら6000円というのが相場のように存在している。

 しかし、この頃街で見かけるリラクゼーション系の看板では「1時間2980円」という3000円の壁を破った表示も見られる。治療院系とのこんな価格差もリラクゼーションの快進撃の理由のひとつだろう。

 業界のトップ2は、株式会社ボディワークホールディングスと株式会社りらくである。共に約500内外のリラクゼーションスペースを全国に展開している。医療系の治療院では、ここまで多店舗化した例を聞かない。いってみれば、立派に企業化されてきた事例である。高齢化を背景に成長可能性のある興味のある産業なので、いずれ個別企業についても分析してみたい。

(この項 終わり)

2016年1月6日水曜日

地獄の歯科業界、大余剰で年収2百万も…激増の「整体」」「もみほぐし」、大チェーン出現(5)

・あん摩、マッサージ及び指圧:1万9271カ所
・鍼・灸を伴う:6万3127カ所
・柔道整復(「整体」を呼称しているケースもあり):4万5572カ所
・その他:2862カ所


 総数13万832カ所は、調査2年前の統計より4.0%増えている。高齢化を背景に「医療産業」というより「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)産業」あるいは「快楽産業」として成長している分野ともいえる。

リラクゼーション業界も、高齢化などの社会事情を背景に成長という恩恵を受けている業界といえる。歯科やコンビニの数にはまだ及ばないが、前述したコンビニの店舗数増大の割合より高い成長率だ。

 医療系のような国家資格が不要なことから、極端にいえば素人がその日から看板を出すことも可能だ。その意味で業界として怖いのは、施術中に事故が起こり社会問題化してしまうことだろう。協会としても「リラクゼーションは治療行為には絶対に足を踏み入れないよう、徹底的に会員企業へ指導・啓蒙している」という。そのために協会会員企業のセラピストや店長を対象に勉強会を定期的(毎月1回・年12回)に開き、そこには顧問医師や顧問弁護士までもが参加するという。

(この項 続く)

2016年1月5日火曜日

地獄の歯科業界、大余剰で年収2百万も…激増の「整体」」「もみほぐし」、大チェーン出現(4)

以前より「もみほぐし」や「整体」はあったが、産業として「その他サービス業」に分類されていた。13年10月総務省の日本標準産業分類に「リラクゼーション業(手技を用いる)」が新設された。矢野経済研究所の推定によれば、14年の産業規模は約1100億円だそうだ。

「協会の会員会社は現在約150社です。15年3月には会員会社が展開している店舗数は全国1950店でしたが、10月には2100店となりました」
 このように、店舗数だけから見ても年率10%を超える成長が続いている。また2100店舗で働くセラピストの数は約1万7000人いるそうだ。

「協会への入会率は20~30%ではないかと推計されているので、日本全体でリラクゼーションスペースの数は1万店を超えた可能性があります」

あん摩、マッサージも伸びている


 厚生労働省「平成26 年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によれば、治療院系の事業所の数は以下の通りである。

(この項 続く)

2016年1月4日月曜日

地獄の歯科業界、大余剰で年収2百万も…激増の「整体」」「もみほぐし」、大チェーン出現(3)

「リラクゼーションとは、心と身体の『休養』『緊張の緩和』を指します。医学的には、交感神経の興奮が抑えられ、副交感神経の働きが優位になっている状態です。空間演出や音楽で五感に安らぎを与え、心をリラックスさせ、身体へは手指などを使って心と身体が緊張から解放される時間を提供します」(日本リラクゼーション業協会、服部事務局長代理、以下同)

 リラクゼーション
サービスを提供する店舗を「リラクゼーションスペース」と呼称することで、「治療院(あん摩、マッサージ、指圧、鍼灸)」と区別している。治療院を開業するには、管轄する保健所に施術所開設届を提出する必要がある。また、あん摩、マッサージ、指圧の場合は「あん摩マッサージ指圧師」、鍼灸の場合は「鍼灸師」の国家資格が必要となる。

「リラクゼーションは、前述の通り心と身体の緊張を緩和させることが目的で、国家資格が必要なあん摩・マッサージ・指圧に代表される治療行為とはまったく異なるサービス価値を提供し、治療行為は一切行いません。また、施術に痛みを伴わないのがリラクゼーションの特徴です」


(この項 続く)

2016年1月3日日曜日

地獄の歯科業界、大余剰で年収2百万も…激増の「整体」」「もみほぐし」、大チェーン出現(2)

厚労省「賃金構造基本統計調査」によると、14年の歯科医の平均年収は734万円であるが、若年歯科医の大幅な供給により、4分の1の歯科医は年収200万円に満たないとみられている。国家資格取得に至るまでの高額な教育費を勘案すると、「歯科医ワーキング・プア」とまで揶揄される事態が現出している。

 このような状況から、今後、街の歯科の数は、「今日ひとつ開院すると、明日は別のところが閉院する」ほどに、現在をもって飽和状態で推移していくのではないか。

 つまるところ競争原理が働き始めるのは間違いなく、もう昔のように“おいしい”職業ではなくなってしまったのだ。

リラクゼーションは成長産業?


 さて、街中で目につくようになった3つ目の看板は、「もみほぐし」や「整体」などの看板だ。これらの呼称を掲げる店舗は、「リラクゼーション」と総称されている。

(この項 続く)

2016年1月2日土曜日

地獄の歯科業界、大余剰で年収2百万も…激増の「整体」」「もみほぐし」、大チェーン出現(1)

駅前通りを歩いて、以前に比べて目につく店看板が3つある。
 ひとつ目は、もちろんコンビニエンスストアだ。2つ目は歯科である。「デンタル・クリニック」などと掲げている歯科は、比較的近年開業された場合が多い。
 ある歯科医は、「コンビニより多いといわれているんですよ」と自嘲的に言う。

 厚生労働省、医療施設動態調査によると、今年1月末時点で日本全国にある歯科診療所の数は6万8799カ所だという。一方、日本フランチャイズチェーン協会の11月度「JFAコンビニエンスストア統計調査月報」によると、日本全国にコンビニは5万3309店ある。つまり、実際に歯科のほうがコンビニより多い。
 これは、歯科医の供給数の増大から来た必然的な結果だ。日本全国の大学にある歯学部の年次定員合計は約3000人だ。医学部定員の総計が約9000人であることからも、単独医科としての歯学部からの卒業生は突出しているといえる。現在、全国の歯科医は11万人余りも存在するといわれている。

 昔は「目医者よりも歯医者、なぜなら目は2つだけ」などといわれていたが、見方を変えれば「口はひとつだけで人口は減っている」という社会情勢だ。

 上記調査で、コンビニの店舗数は前年同月より3.1%増と上向きだが、歯科診療所の数は2013年に約6万8000軒に達してから、ほぼ横ばいとなっている。歯科医の数が増えて小規模クリニックの開業が相次いでいる中、競争が激甚となり東京都内では1日1軒のペースで閉院に至っているのだ。


(この項 続く)

2016年1月1日金曜日

新年、今年もよろしくお願いします!

新しい年が明けました。おかげさまで元気に馬齢を重ねています。

皆様のおかげで、このブログも毎年300本以上書いてきました。旧年12月は拙PCがダウンしてシステムを総入れ替えしたりして、ペースもダウンしましたが。

正直、地方への出張指導なども増え、ブートキャンプをはじめとする研修プログラムの準備や教材作成などで追われています。合間に、経営書やビジネス書に目を通す。

ビジネスジャーナルへの記事出稿も12月は少なく過ぎてしまいました。

2016年、私のミッションは、経営者の皆さんへの支援、指導だと自覚しています。経営者という特殊な立場にある皆さんを、経験者である私でなければできないような形で、悩みを減らしてあげたり、経営課題の解決をお手伝いしたい。

それから、皆さん同士のアライアンスを奨励して事業の一段の発展の契機としてあげたい。そのために教え子経営者同士の紹介も積極的に行って生きたい。

ともあれしかし、畢竟はマイペースで健康で2016年を楽しみたい。どうぞ皆さんよろしくお願いします。

2016年 元旦