2018年10月31日水曜日

マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(1)

マツダHPより
ヨーロッパの環境規制強化を受け、日本の自動車メーカーは大部分がディーゼル車市場から相次いで撤退を決めた。

そんななか、「独り、わが道を行く」としているのがマツダだ。マツダは自社のディーゼル・エンジンの優位性に自信を示して、引き続きヨーロッパ市場で戦っていく意向だ。

しかし、マツダのこの「逆張り」戦略は、果たして「人の行く裏に道あり花の山」として結実するのだろうか。

 ヨーロッパのディーゼル車市場を「プロダクト・ライフ・サイクル・セオリー」で俯瞰すると、マツダの先行きの厳しさの構造が理解できる。


マツダ以外がヨーロッパから撤退したワケ


10月半ば、スズキが年内をメドにディーゼル車の欧州販売から撤退すると報じられた。それ以前から日本車各メーカーの同様の決定が五月雨式に伝えられていた。トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、SUBARU(スバル)はすでにヨーロッパでのディーゼル車の販売縮小に動いており、電気自動車(EV)など環境車に経営資源を集中するとしていたし、三菱自動車工業も英国やドイツなど主要国でディーゼル乗用車の販売を順次終える方針を発表していた。

(この項 続く)

2018年10月30日火曜日

トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(6)

次に、豊田社長がまさに今大苦闘している「社外勢力との協業、提携」に対して、孫社長は大きな助勢を与えることができるからだ。孫社長のことを私は近年「デジタル・インベスティング・モンスター」と尊称している。

古くはヤフー(米国)があり、上場前のアリババ(中国)、さらにはアーム(イギリス)と、大胆で先見性のある投資を行ってきた。「10兆円ファンド」と呼ばれるソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じての世界での投資活動も枚挙に暇がない。今回、豊田社長が「ドアを開ければ」と孫社長の先回りに舌を巻いたライドシェア各社への先行投資など、デジタル・インベスティング・モンスターにとってはほんの氷山の一角にすぎない。

 今回の新会社設立発表会での壇上対談でのやり取りを見聞きしていると、2人の大経営者は相性がよさそうに見える。孫社長が自社の社外取締役として迎えたファーストリテイリングの柳井正会長兼社長や日本電産の永守重信会長兼社長などと同じくらいに豊田社長と胸襟を開き合うことになれば、孫社長は豊田社長にとってはこれ以上ない大きな味方となるだろう。トヨタが望んでやまない社外のデジタル・ビジネス・ソサエティへの強力な紹介状がもらえるからだ。

 ビッグ・ビジネスも最後は人間が行う所業である。それには相性や好悪の要素も大きく入る。豊田社長が繰り返している「自動車産業100年に一度の危機」は正しい。このタイミングでの孫社長との遭遇は図らずも「トヨタ100年目の好機」をもたらすのだろうか。

(この項 終わり)

2018年10月29日月曜日

トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(5)

トヨタの真の果実は孫正義への接近


 しかし今回の新会社設立、そして2社の協業開始で一番大きな要素は、単にライドシェアという単一ビジネス分野のことではないと私は見ている。

 今後大きなビジネスの展開のなかでもっとも大きな因子となりうるのは、単純に豊田章男と孫正義という2大アントレプレナー(企業家)の遭遇であり、相互知見にほかならない。これは、特にトヨタにとって将来これ以上ない大きな布石となった可能性がある。

 私がそう指摘するにはいくつかの理由、状況がある。

 まず、豊田社長も孫社長も日本で並外れたアントレプレナー同士であることだ。孫社長はもちろんソフトバンクGの創業経営者でオーナーである。文字どおりの最高意思決定者だ。豊田社長はトヨタのオーナー経営者ではないけれど、創業家の3代目社長としてその求心力は近年とみに大きさを増してきている。

 2つの大きなビジネス・グループでサラリーマン社長でない、強い意思決定力を有している2人のトップ同士が直接胸襟を開き合う関係となり、実際にビジネスを開始した。これは、将来にわたり両グループの協業の千変万化な可能性を約束したに等しい。

(この項 続く)

2018年10月28日日曜日

トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(4)

今回の提携で大きな利を得るのはトヨタ側だというのが私の見方である。

 というのは、この提携でトヨタ側が求めたものは、「ライドシェアのトップグループ」の知見だった、という見方があるのだ(10月5日付BUSINESS INSIDER JAPAN記事『トヨタ×ソフトバンク提携には「必然」しかない』<西田宗千佳>)。

 ソフトバンクGはウーバー(北米・欧州)、DiDi(中国)、グラブ(東南アジア)、Ora(インド)といった、ライドシェア大手の筆頭株主になっている。

「『4社で全世界のライドシェアの乗車回数の90%を占めている』と孫社長が語るほど、影響力は大きい。そして何より重要なのは、巨大なシェアを背景に『配車』『運転』に関する情報が集まり続けている、ということだ」(前出BUSINESS INSIDER記事より)

一方、豊田社長は今年の初めにトヨタを単なるモノとしての自動車製造業者から、人の移動にフォーカスした「モビリティ・カンパニー」にすると宣言した。そしてこの方向性の実現のために、外部の非製造業者との資本あるいは業務提携に力を入れてきた。
 ライドシェアの分野では17年に東南アジア8カ国で配車サービス(ライドシェア)を展開するグラブ(Grab Holdings Inc.)と提携を始めると、18年6月にはグラブに対して10億ドルを出資。その2カ月後には米ウーバーに5億ドルを投入した。

 ところがトヨタが勇んで出資したこの2社の筆頭株主はソフトバンクGだったのである。今回の新会社設立発表会の壇上で豊田社長が「ドアを開けると、そこには孫さんがすでに座っていた」と慨嘆とも賛嘆したともいえる状態だったのだ。

 今回発表された新会社モネ テクノロジーズの株式持分は、ソフトバンクGが50.25%、トヨタが49.75%とされた。あの大トヨタがわずかとはいえマイノリティ株主となったことも驚きとされたが、ライドシェア分野でのソフトバンクGの先行を考えれば順当なところとも考えられる。

(この項 続く)

2018年10月27日土曜日

トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(3)

さらに「まだ発表していない諸々の施策」についてまで言及しておいた。
「状況の認識と矢継ぎ早の対応策の繰り出しという点で、私は豊田社長を優れた経営者だと認める。問題は、豊田社長が繰り出している、そしてまだ発表していないであろう諸々の施策が間に合うか、ということだ。変革するにはトヨタというのはあまりに大きな組織に見えるからだ。豊田社長の挑戦に注目し、応援している。」

 今回の2巨頭による発表などという大きな「隠し玉」がこんなにすぐに出てくるとまでは、私にも予想できなかったわけだ。


トヨタ側に大きなメリット、ソフトバンクGとのアライアンス


 今回の発表で意外だったのは、この提携が両巨頭のどちらかのトップダウンで始まったのではなく、両社の若手グループの事前協議で詰められて、豊田社長の孫社長訪問に至ったという経緯である。

「イノベーションのジレンマ・セオリー」では、先行巨大企業(この場合にはトヨタ)の内部には伝統的な価値観(バリュー・ネットワーク)がはびこってしまい、変革への大きな抵抗を形成するとされている。しかし、トヨタのなかでは少なくとも豊田社長のブレーン・レベルくらいまでは、この弊害に陥っていなかったらしい。これも豊田社長が近年繰り返して言ってきた「勝つか負けるかではない、生きるか死ぬかだ」というまでの危機感が伝播した成果なのだろう。

(この項 つづく)

2018年10月26日金曜日

トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(2)

両巨頭出席の発表会


発表会では両グループの副社長がプレゼンを行ったが、その後、豊田社長と孫社長自身も登壇し、いってみればトークショーのようなかたちで今回の提携の経緯を語り、和やかな対談を繰り広げた。
 日本で時価総額1位のトヨタと3位のソフトバンクG(10月22日現在)という2大会社の突然の提携発表も大きな驚きだったが、両社の2巨頭が壇上で親しくエールを交わしているような光景を予想した向きは少なかっただろう。

 トヨタが置かれている状況について、私は本連載前回記事で次のように指摘したばかりだった。

「トヨタが置かれている立場は、絵に描いたような『イノベーションのジレンマ』の事例だと言える。そして、そこでの戦略的なポジションとしては大いなる危機にあると言える。」(『豊田章男トヨタ社長は極めて優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行』より)

そして、豊田社長の状況認識と組織対応を次のように支持した。

「豊田社長は、自社が置かれている危機をよく理解している。それを社内に対してもよく発信しているが、既存組織の対応では間に合わないという構造もよく理解しているようだ。そして、対応策として既存組織(それは子会社群も含む)の再構成を行っているし、外部の経営資源の活用にも手を伸ばしている。」

(この項 続く)

2018年10月25日木曜日

トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(1)

トヨタ自動車とソフトバンクグループ、戦略的提携をすることで合意
10月4日に発表されたトヨタ自動車とソフトバンクグループ(G)の戦略提携と、新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」の設立発表は多くの人々を驚かせた。

 このアライアンスはトヨタのほうから持ちかけたものだという。「自動車産業にとっての100年に一度の危機」ということを豊田章男トヨタ社長は今年に入ってから繰り返しているが、この危機感が大トヨタをしてソフトバンクG、いや孫正義ソフトバンクG会長兼社長ににじり寄らせたと見ることができる。

 そして、提携から得られる果実もトヨタ側のほうが大きいと見ることができる。豊田社長は大きな一手を指した。それは大きな可能性を持つ妙手といえる。

両巨頭出席の発表会

(この項 続く)


2018年10月21日日曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(8)

動きはある。

 トヨタはこの1年ほどの間に、立て続けにEV(電気自動車)を含む電動車の長期計画やアマゾンやウーバー、アップルなどIT業界の巨人との連携などを相次いで発表した。

18年3月には、トヨタコミュニケーションシステム、トヨタケーラム、トヨタデジタルクルーズのIT子会社3社を統合し、19年1月に新会社トヨタシステムズを設立することを発表している。同じ3月にはデンソー、アイシン精機と共同による自動運転の新会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスド・デベロップメント(TRI-AD)」を都内に設立することを発表した。

 これらの動きは、従来の組織体系のままでは「イノベーションのジレンマ」状態に対応しない、できないということを理解した上での経営資源の再構成と見ることができる。

 豊田社長は、自社が置かれている危機をよく理解している。それを社内に対してもよく発信しているが、既存組織の対応では間に合わないという構造もよく理解しているようだ。そして、対応策として既存組織(それは子会社群も含む)の再構成を行っているし、外部の経営資源の活用にも手を伸ばしている。

 状況の認識と矢継ぎ早の対応策の繰り出しという点で、私は豊田社長を優れた経営者だと認める。問題は、豊田社長が繰り出している、そしてまだ発表していないであろう諸々の施策が間に合うか、ということだ。変革するにはトヨタというのはあまりに大きな組織に見えるからだ。豊田社長の挑戦に注目し、応援している。

(この項 終わり)

2018年10月20日土曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(7)

外部の活用だけがトヨタの生きる道


 トヨタが置かれている立場は、絵に描いたような「イノベーションのジレンマ」の事例だと言える。そして、そこでの戦略的なポジションとしては大いなる危機にあると言える。

 豊田社長は、この構造とそれがもたらしている危機を十分に理解しているようだ。そして、対応策も理論的に理解してすでに行動をとり始めているように見える。

「イノベーションのジレンマ・セオリー」では、既存の大企業側は内部組織、つまり既存組織と成員をもってしては、その危機に対応できない。というのは従来型の価値体系が刷り込まれているので、みずから「破壊的技術」(CASE+A)側に降りていきにくいからだ。

 トヨタの世界約36万人の従業員のほとんどは、現在の車をもっと売ることに汲々としていると推察される。危機を心配しているのは社長だけ、という構図だ。このような状況でトヨタが取る方策としては、外部資源を使うことになる。子会社として担当部門を本体と切り離すことにより外部化したり、外部会社のM&Aなどだ。また、専門企業と提携することも有効となる。とにかく自社だけでは大きな変革に対応できない。

 動きはある。

(この項 続く

2018年10月19日金曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(6)

トヨタでいうと、18年の1月に発足した「TPS本部」が従来型の組織価値体系を引きずっている例として挙げられる。

「自動運転や電動化など新技術の台頭で自動車業界が転換期にあるなか、トヨタ自動車は継続的な業務改善で競争力を高める『トヨタ生産方式』(TPS)を強化する。創業以来同社の成長の原動力となってきたTPSを統括する部署を新設して生産部門以外の営業や技術開発などを含めて全社的に展開し、競争力の底上げを図る」(2月5日付ブルームバーグ記事『100年に一度の転換期、トヨタはカイゼン強化』より)

 TPS本部は200名弱のメンバーを集めて新発足したという。しかし、カイゼンで得られるものは、財務的には年間せいぜい数パーセントの成果でしかない。しかも従来型の技術やオペレーションの充実、改善に焦点を当ててしまう。内燃自動車の開発、製造、販売にいくらてこ入れしても「CASE+A」の襲来には何も意味をなさない。

 従来の価値体系に縛られる既存の組織の成員は、「まず足元をみよう」とか「自分たちが持っているものをもっとよくしよう」とか「基本に戻ろう」などと言いがちだ。そして、外部で起こっている「破壊的技術」あるいは「まったく新しいビジネスモデル」に敗れ去っていくのが定例だ。

外部の活用だけがトヨタの生きる道


(この項 続く)

2018年10月18日木曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(5)

100年に一度の変化に象は対応できるか


 トヨタの豊田章男社長は、昨年来「自動車産業は100年に1度の変革に遭遇している」、あるいは「勝つか負けるかではない、生きるか死ぬかだ」と危機感をあらわにしている。

 100年に1度の変革とは「CASE+A」といわれる。「CASE」は、独ダイムラーのディーター・ツェッチェ社長が2016年10月のパリ・モーターショーで言及したもので、

(1)コネクテッド(インターネットで常時車外とつながる)
(2)オートノマス=自動運転
(3)シェアリング
(4)エレクトリック=電動化

を意味している。さらにこれらの4要素にはAI(人工知能)も欠かせない技術要素なので、「CASE+A」が新しい潮流として押し寄せてきている。

「CASE+A」に対する豊田社長の危機感は正しい。というのは、「イノベーションのジレンマ・セオリー」からいうと、画期的な新技術の出現フェーズでは、それを採用できなくて滅んでいくのは既存の大企業だからだ。

 従来型の内燃型エンジンの自動車販売において世界最大規模のトヨタは、このセオリーでは滅ぼされていくほうに分類される。写真フィルムで世界最大のメーカーだったコダックは、デジタルカメラの到来に対応できず、あっという間に倒産してしまった。

 繁栄している会社ほど、その成功に酔い、さらにそのままのスタイルでのビジネスの伸張を追い求める。そして、やられてしまう。従来型の成功を追い求めてしまうことを、「その組織内に固有の『価値体系(バリュー・ネットワーク)』が形成された」と説明される。

(この項 続く)

2018年10月17日水曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(4)


カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し


 トヨタにとって、今回の系列販売の見直しが大きな戦略なのかというと、実はそうではない。マンツーマンとゾーンがバスケットボールにおいてひとつの戦術であると同様、販売戦術の見直しという程度の位置づけだ。

 トヨタは全世界で年間1000万台以上の新車を販売する巨大企業だが、国内での販売台数は前述したように150万台強だ。トヨタにとって日本は最重要市場ではない。大きな戦略を展開するための個別(つまり相対的に小さい)対応策が戦術というわけだ。それでは、系列販売という戦術の転換を選んだトヨタにとって、その戦術の奥にある大きな戦略とはなんなのだろうか。

 ひとつは、すでに始まっているカー・シェアへの本格的取り組みの布石と見ることができる。カー・シェア市場はすでに立ち上がっていて、最大手のパーク24で7月の会員数が103万人と1年で22%増えた。

 トヨタは19年春にカー・シェアに参入するという。そのときは当然ながら日本全国4系列で既存の5000店がサービス拠点となり、トヨタの全車種をカー・シェアの対象にすることができる。また、現4系列を展開しているフランチャイジー・ディーラー約280社は、各地域での優良法人が多いので、カー・シェアの展開に当たっては地場でのハブ拠点として機能することが期待できよう。

(この項 続く)

2018年10月16日火曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(3)

ところがマーケットは全体として縮小傾向にある。国内の新車販売台数は1990年に778万台だったが、2017年には523万4000台と3割以上減った。人口減に加え、若年層の車離れが言われて久しい。言ってみれば、先行きは厳しい。

 そんななか、多数の車種を提供することはメーカー側としてのトヨタにとって大きな負担となってきた。今回の決定では、現在の約60モデルから売れ筋に絞った全30モデルほどにする、となった。

今回の変更は、バスケットボールでいうマンツーマン・ディフェンスとゾーン・ディフェンスに照らすと理解しやすい。従来のやり方だと、それぞれの系列が異なる顧客層(セグメント)を追い求めてきた。つまり、特定のターゲット・プレイヤーに密着するマンツーマン・ディフェンスの守り方であり、ここでは売り方だ。

 それに比べて今回の決定では、各系列は全車種を販売することになる。各ディーラーは自分の周辺地域に入って来たプレイヤー(潜在顧客)を収入レベルなどでセグメント分けすることなく、すべて攻めることになる。バスケットのゾーン・ディフェンスの考え方ですっきりと理解できる。

 トヨタの人気車種であるSUV「ハリアー」や高級ミニバン「アルファード」「ヴェルファイア」は、今は1つの系列でしか売っていないが、全系列の全店での販売になればすべての見込み客に対して売り込むことができる。これが新しいゾーン・ディフェンスということだ。


カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し


(この項 続く)

2018年10月15日月曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(2)


カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し


トヨタが現在展開している系列販売では、高級車中心のトヨタ店と中級車のトヨペット店、大衆車のカローラ店、若年層を対象にしたネッツ店の4つが同じ地域内で並列して営業展開している。

 日本の他の自動車メーカーでは、このような系列販売をしているところはない。トヨタが4つもの系列を走らせてこられたのは、何よりそのマーケット・シェアにある。

4系列合計で年間150万台以上という新車販売台数は、国内マーケットシェアが31.2%で、10年前に比べて1.6ポイント増えていて、足元では磐石のトップ・シェアを誇っている。

4系列での販売店はトヨタの直営店は少なく、9割以上が地場資本による独立経営によるフランチャイズ型のディーラー展開だ。その数、約280社、店舗の数は5000店以上といわれる。

 これだけ充実した販売網をつくり上げてきたトヨタだが、逆に言えば、これだけの数のフランチャイジーを「食わせて」いかなければならない。4つの販売系列に特徴を持たせることにより、販売力を発揮させるには、それぞれに異なった車種を持たせることが有効だったわけだ。

(この項 続く)

2018年10月14日日曜日

トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(1)

トヨタ自動車・豊田章男社長(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
トヨタ自動車が国内販売体制を抜本的に見直すと報じられた。

4つの販売系列でそれぞれ「カローラ」などの専売車を設けて顧客層をすみ分けていたが、それをやめて全車種をすべての系列の国内合計約5000店で売る方針を固めた。販売車種も約60モデルから売れ筋に絞り、半分に減らす。

 これは大きな動きに見えるが、実はメガ企業であるトヨタにとっては戦術レベルの転換でしかない。国内販売でゾーン・ディフエンス戦術を展開することになった大きな背景には、「CASE+A」への戦略的な対応がある。

 100年に1度という自動車産業の大転換時代に、トヨタは対応していけるのだろうか。

カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し


(この項 続く)