2017年7月5日水曜日

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい (7)

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい

野村不動産HDの買収を断念、トール社買収でも失敗、根強い「お役所体質」


2017年3月期の決算発表をする日本郵政の長門正貢社長(左)と市倉昇専務=5月15日

自社での大型M&Aは諦め、巨大ファンドに参画を

 西室氏は、日本郵政の前にも東芝で社長としてウェスティングハウスの買収を決定し、この2つの案件による損害計上は1兆円を超えた。こんな経営者も稀有である。私は同氏を「平成の大残念経営者」と呼んでいる。
 東芝の不正経理への同氏自身の関与が取りざたされていた16年2月に突如検査入院し、日本郵政社長などの公職を辞し、以来公の場に出てくることは無い。
 株主代表訴訟などの意欲を大きく削ぐような入院のタイミングではある。
 さて、トール社、野村不動産HDという祭りが終わり、日本郵政の次の一手はどんなものがあるのか。
 グループでの総資産が295兆円もあるというとんでもない財務規模の巨大企業が日本郵政だ。大型M&A数千億円という規模でも実は、こんなグループの財務状況に大きな影響を与えられるような案件は希少だし、それをモノにできる機会は当然少なくなる。またモノにしたとしても、とんでもなくM&Aが下手なお役所体質の企業グループだ。
 私のお勧めは、もう自らで大規模な事業会社を外から取り込むのは諦めて、「餅は餅屋」で、専門の投資ファンドに投資することだ。
 たとえば孫正義氏が10兆円規模で組成しはじめた「ビジョンファンド」に、日本郵政単体で10兆円を出資させてもらい、その運用はファンドに一任するなどだ。295兆円という気の遠くなるような額の資産をみずからで、ちまちま運用してもその母数に意味のある成長と利益は、つまり企業価値の増大はなかなか望めないだろう。

 しかし、公社体質の強い日本郵政グループの経営者諸氏が、果たしてそのような経営合理性の視点と思い切ったアクションを実践することはできるのだろうか。注目して見守りたい。
(この項 終わり)

2017年7月4日火曜日

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい (6)

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい

野村不動産HDの買収を断念、トール社買収でも失敗、根強い「お役所体質」


2017年3月期の決算発表をする日本郵政の長門正貢社長(左)と市倉昇専務=5月15日

またM&A名人として知られる日本電産の永守重信社長は、「EBITDA10倍以上の会社は買わない」と明言している。EBITDAとは、買収先の経常利益と減価償却額の合計で、10倍とは10年をかけると投資キャッシュは元を取れるということだ。買収してからその企業の経営効率を上げたり、当社とシナジー(統合補完)効果により業績を加速させることにより、その10年を短縮するところに買収側経営者の腕の見せどころがある。
 ちなみに、トール社買収時のEBITDA倍率は9.2だったので、西室氏がPMI(統合後経営管理)をしっかり差配していれば、今回のような巨額損失の計上には至らなかったかもしれない。
 実際、日本郵便がトール社に役員を派遣したのは、17年2月に至ってからのことである。前述した17年3月期ののれん代損失計上が確定してからの、アリバイつくりのような役員派遣に私には見える。
 実力以上のM&Aをしてしまい、その後も何もしなかった、という点で西室前社長はその責任を糾弾されるだろう。

(この項 続く)

2017年7月3日月曜日

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい (5)

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい

野村不動産HDの買収を断念、トール社買収でも失敗、根強い「お役所体質」


2017年3月期の決算発表をする日本郵政の長門正貢社長(左)と市倉昇専務=5月15日

買収したトール社を、西室氏は持ち株会社である日本郵政ではなく、子会社であり事業会社である日本郵便の下につけた。
 しかし、考えても見てほしい。日本郵便というのは日本全国津々浦々に郵便局を開設して、日本国内の「郵便」事業を営々として担ってきた。トール社を買収したその時点ではまだ民営化されていない公社であり公的企業だったのだ。国際ビジネスとはもっとも遠かった地平にいた企業が日本郵便だっただろう。
 そもそも日本郵便グループは、公社という体質を強く保持していて、なかなか他の民間会社とさえ合わせられない。10年に日本通運の「ペリカン便」を統合したときも、規模拡大を果たせなかったばかりか、1000億円規模の赤字を出すに至っていた。
 そんな「純ドメ(ドメスティック)」の極にある会社に欧米文化であるオーストラリアの巨大会社を経営できる人材やノウハウが有る、とでも西室氏は判断したのだろうか。
 日本側に海外子会社の経営ノウハウがあり、しっかりガバナンスを効かせればうまくやっているところはいくらでもある。同じ公社上がりでもJT(日本たばこ産業)は、海外M&Aの優等生だ。その下地には長年国際的な原料調達や製造展開のノウハウの蓄積がある。

(この項 続く)

2017年7月2日日曜日

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい (4)

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい

野村不動産HDの買収を断念、トール社買収でも失敗、根強い「お役所体質」


2017年3月期の決算発表をする日本郵政の長門正貢社長(左)と市倉昇専務=5月15日


西室泰三前社長の負の遺産、トール社買収

 オーストラリアの物流会社トール社の買収を決断したのは、日本郵政前社長西室泰三氏である。西室氏は郵政民営化に当たり、13年に初代社長として政府により迎えられた。15年に日本郵政グループ3社を同時上場させる陣頭指揮を執り、実現させたのだが、この巨大グループをさらに成長すべく画策したのが大型M&Aである。
 トール社の買収は西室社長(当時)の独断的な決定だった。6,200億円という買収額も、プレミアムが乗せられすぎている、つまり高値つかみだ、という批判が強かった。

トール社買収失敗は、買収後の経営の見通しの無さに要因

 私はしかし、トール社買収の失敗は、買収時点での資産評価よりも、買収後の経営の見通しの無さにあったと見ている。トール社買収について西室氏は当時「国際物流戦略の展開」としていたが、本当にそんな見込みがあってのことだったのか。

(この項 続く)

2017年7月1日土曜日

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい (3)

日本郵政は大型M&Aから手を引いたほうがいい

野村不動産HDの買収を断念、トール社買収でも失敗、根強い「お役所体質」


2017年3月期の決算発表をする日本郵政の長門正貢社長(左)と市倉昇専務=5月15日

日本郵政が赤字に沈んだ最大の原因は、郵便事業を担当、展開している子会社、日本郵便が3,848億円の当期損失を計上したからだ。そしてその原因は、15年に日本郵政が買収して日本郵便の子会社とした、オーストラリアの物流会社トール社ののれん代を全額減損処理して4,161億円の損失を計上したことにある。
 のれん代とは企業をM&Aした時、相手側の純資産額と買収価格の差額として計上されるものである。15年に6,000億円強を投資して買収したトール社には、4,000億円強も余分に払った。その時点ではその差額は回収できるとしたのだが、17年3月期になって、それを諦めたので損失計上した、ということだ。
 日本郵政はそのリカバリー・ショットとして野村不動産HDのM&Aを目指した。ところがトール社という大型投資案件の失敗に懲りた内部や大株主である政府の慎重派が、野村不動産HDの株価伸長によって不安の声を大きくしたので、今回のディールは流れてしまった、という成り行きだ。
 つまり、一連の騒動はトール社に始まり、トール社で終わったということだ。

(この項 続く)