●侵された表現の自由
さて、SPEをソニーが買収して25年目で初めて起きたソニー本社社長から現場へ出たこの指示について、次のように評価できるだろう。
・映画産業と製造業の本質的な違いを平井氏は理解していない。
・巨大産業であるソニー本社社長が口を出すような話ではない。
映画産業は娯楽産業だが、その根底には表現の自由がある。表現の自由は、報道の自由と言論の自由に連なる重大な社会的要件だ。例えば、マスコミ産業が金書記を論評しようとして北朝鮮政府から抗議されたとしよう。そこで筆勢を収めてしまうようなことがあれば、それはそのマスコミにとって自殺行為だろう。
形がある製品のデザインに対してトップが口を出すようなことと混同してはならない。SPEにとって核となっているビジネス価値を平井氏は理解することなく、自己規制により貶めてしまった。それもトップの指示によって、である。過去25年間、前任社長も含めてなされることのなかった「表現行為への関与」という愚行が行われた。大きな戦略的判断ミスである。
またこの映画の最終シーンを3つ用意させ、その1つを直接承認したということについて、「グループ年商数兆円の日本を代表するグローバル企業のトップがすることか」とも疑問を抱かざるを得ない。
現在、電機メーカの中でソニーは残念ながら負け組とされている。平井氏が就任して以来業績は下降を続け、発表される業績予想はそのたびに下方修正を繰り返し、平井氏の社長退任観測まで取り沙汰される事態となっているが、露呈した『The Interview』をめぐる平井氏の動きは、社長としての判断力の欠如を表しているといえよう。
(この項 終わり)
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