文藝春秋社、2014年12月刊。脱稿したのが11月ということで、出版が急がれたことが分かる。また、それは本書に限ってはテーマからして時宜を得た措置だった。一読、「これは大宅壮一ノンフィクション賞」だろうと思ったら、4月7日に受賞したばかりだった。
著者は、毎日新聞の科学部門の記者。本問題を追いかけて、スクープを連発したことから執筆依頼を受けたと。脱稿まで急かされた事情をみじんも感じさせない、緻密な記述だ。
物理学専攻修士という出自を持つ理系高学歴ならでの、専門性の高い科学事件となったSTAP細胞事件に対する深い理解がまずある。次に同じく理系的な論理的で、事実や起こった事象を客観的に叙述していく構成姿勢が有る。
その二つの資質に加えて、事態を明晰につむぎ直す分かりやすい文章力がある。これらにより、本書は大宅賞にふさわしい充実を見せた。文系である筆者でも内容を理解しながらページを辿れた。
(この項 続く)
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