M&Aにより業績を急激に拡大するのは、有効であり危険である。問題はRIZAPの内部にPMIに長けた経営資産があったか、機能したかである。
PMIとはポスト・マージャー・インテグレーションのことで、買収した後にその子会社を本体に一体化させる作業のことをいうが、別に一体化しなくともそれぞれの会社の業績を伸ばせればいい。要は安くM&Aをして、それを迅速に事業再生する経営力があったか、ということだ。
M&A巧者として知られているのは、日本電産の永守重信会長兼社長だ。永守氏のM&Aを見ていると、まずコア事業であるモーターの関連事業の会社を買い集め、それらの技術を束ね上げるという一貫した方針がある。
そして、M&Aの対象候補となった企業のEBITA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)の10倍までしか金を出さないという財務指標がある。
さらに、買収したら側近を送り込んで数年の間に日本電産流を徹底的に植えつけるという確立したPMI技法がある。つまり、「M&A勝利の方程式」があるのだ。
永守式M&Aに比べて今回の瀬戸社長の発表を見てみると、まるで反省発表会のように聞こえる。
(この項 続く)
2018年11月27日火曜日
2018年11月26日月曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(8)
それはさておき、本製品(替え芯)の、私のところでの不良発生率を確認しておく。
前述したように、私はこの1年余に3色合わせてY通販から19本購入し、2本が未使用である。つまり、17本を使ったことになる。
一方、ZEBRA社に不良返送したのは、1回目が3本、2回目が2本(誤って送ったP社のものはもちろん含まない)、そして3回目として返送依頼を受けたものが3本ある。
つまり、不良総数は3+2+3=8本だ。加えて、第1回目の前に数本の不良発生があったので、返送クレームにいたったのだ。その第0回の分は捨ててしまった。それを入れれば10本超が不良となった。
ZEBRA社の社長に問いたい、、、
(この項 続く)
前述したように、私はこの1年余に3色合わせてY通販から19本購入し、2本が未使用である。つまり、17本を使ったことになる。
一方、ZEBRA社に不良返送したのは、1回目が3本、2回目が2本(誤って送ったP社のものはもちろん含まない)、そして3回目として返送依頼を受けたものが3本ある。
つまり、不良総数は3+2+3=8本だ。加えて、第1回目の前に数本の不良発生があったので、返送クレームにいたったのだ。その第0回の分は捨ててしまった。それを入れれば10本超が不良となった。
ZEBRA社の社長に問いたい、、、
(この項 続く)
2018年11月25日日曜日
ライザップ、赤字転落で成長神話の終焉か…「実態は零細企業の寄せ集め」と失望広まる(3)
「結果にコミットする」RIZAPの大当たりで、M&A拡大路線へ
RIZAPの創業者は、現社長である瀬戸氏だ。瀬戸氏は24歳で健康食品の通信販売会社の創業(健康コーポレーション)から事業を始め、2010年、32歳のときにRIZAPボディメイクのビジネスをスタートさせた(グローバルメディカル研究所、現RIZAP)。
「結果にコミットする」という印象的なキャッチフレーズで成功を収めてきたボディメイクビジネスをコアとして、瀬戸社長は積極的にM&Aに乗り出し、コングロマリット(複合企業)化の道を驀進してきた。RIZAPの子会社の数は、16年3月期には23社だったが、18年9月末には85社になっている。2年半の間に62社をほぼM&Aで入手してきた。
今期の売上予想はグループで2300億円と下方修正されたので、1社当たりの年間売上は単純平均で27億円ということだ。業績の下方修正で冷や水を浴びせられた投資家が、冷静になってしまうと「なんだ、零細企業の寄せ集めか」というふうにも、とらえられかねない業容である。
(この項 続く)
2018年11月24日土曜日
ライザップ、赤字転落で成長神話の終焉か…「実態は零細企業の寄せ集め」と失望広まる(2)
下方修正の発表を受けた翌日15日(木)は売り気配一色となり、345円のストップ安で終わった。売りに出された株の多くが約定とならず、続く16日(金)も2日続きのストップ安である265円で引けている。
年初来高値が1099円(1月30日)だったので、11月26日の週明けにはその高値から80%も下げる場面も予想されている。
マーケットからこれだけの失望を買った要因は、直接的にはもちろん19年3月期業績予想の下方修正だ。具体的には、連結最終損益予想を従来の159億円の黒字から70億円の赤字に下方修正した。年間売上高予想も2500億円から2300億円へと下方修正した。
しかし、業績の下方修正をするのは、別に珍しいことではない。RIZAPの今回の発表に対して投資家がこれだけ反応したのは、同社の成長神話の終焉、少なくとも大きな踊り場が来たことを感じたからだろう。ちなみに最終損益が赤字になれば08年3月期以来、11年ぶりとなる。
(この項 続く)
年初来高値が1099円(1月30日)だったので、11月26日の週明けにはその高値から80%も下げる場面も予想されている。
マーケットからこれだけの失望を買った要因は、直接的にはもちろん19年3月期業績予想の下方修正だ。具体的には、連結最終損益予想を従来の159億円の黒字から70億円の赤字に下方修正した。年間売上高予想も2500億円から2300億円へと下方修正した。
しかし、業績の下方修正をするのは、別に珍しいことではない。RIZAPの今回の発表に対して投資家がこれだけ反応したのは、同社の成長神話の終焉、少なくとも大きな踊り場が来たことを感じたからだろう。ちなみに最終損益が赤字になれば08年3月期以来、11年ぶりとなる。
(この項 続く)
2018年11月23日金曜日
ライザップ、赤字転落で成長神話の終焉か…「実態は零細企業の寄せ集め」と失望広まる(1)
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ライザップ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
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快進撃を続けてきたRIZAPが、大きな曲がり角に来たのだろうか。今年招聘されたプロ経営者の松本晃氏は、瀬戸健社長とどのように同社を経営していくのだろう。
M&Aにより構築してきたRIZAPの「グループ経営」に問題が提起された。瀬戸社長の経営者としての踏ん張りどころが来た。RIZAPは再び成長軌道に戻れるのだろうか。
業績下方修正だけでない、成長神話の終焉への懸念
11月14日(水)の業績下方修正の発表を受けて、RIZAPの株価は大きく下げた。上場している札幌証券取引所の新興企業向け市場で13日(火)に497円(終値、以下同)を付けていた株価は、14日には早くも425円となり下げ始めていた。
(この項 続く)
2018年11月22日木曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(7)
ZEBRA社のT氏に
「実は、前回2回目に発送してから、私の手元にはまた2本不良が発生してしまって保存している」
と、告げた。
するとT氏は、
「それでは、それもお手数だが送ってほしい」
と言うではないか。
私は結構気を損ねて
「同じ問題で消費者に3回も迷惑をかけて、『また送れ』は無いだろう。こういう場合は貴社の方から菓子折りでも持って謝罪方々取りに来るような状況ではないのか」
と、抗議した。
T氏は
「申し訳ないが、それはできないので是非送り返してほしい」
の一点張りで終わった。
それはさておき、、
(この項 続く)
「実は、前回2回目に発送してから、私の手元にはまた2本不良が発生してしまって保存している」
と、告げた。
するとT氏は、
「それでは、それもお手数だが送ってほしい」
と言うではないか。
私は結構気を損ねて
「同じ問題で消費者に3回も迷惑をかけて、『また送れ』は無いだろう。こういう場合は貴社の方から菓子折りでも持って謝罪方々取りに来るような状況ではないのか」
と、抗議した。
T氏は
「申し訳ないが、それはできないので是非送り返してほしい」
の一点張りで終わった。
それはさておき、、
(この項 続く)
2018年11月21日水曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(6)
すると、電話に対応してくれたZEBRA社の消費者相談センターのT氏は、「本日対応書と代替品をお送りしました」と言うではないか。実際、翌日受領した。
しかし、T氏に
「私のところでは使い方に留意をするようになったにも拘らず、問題が再発している。この商品は何か製造上の欠陥があるのではないか」
と、見解を述べた。
「あるいは、購入先をYネット通販に切り替えてから問題が起きているように感じているので、Yネット通販向けの製造に関わるロット不良が起きたのではないか」
とも指摘した。
そして、
「実はまだ手元には」
と、、、
(この項 続く)
しかし、T氏に
「私のところでは使い方に留意をするようになったにも拘らず、問題が再発している。この商品は何か製造上の欠陥があるのではないか」
と、見解を述べた。
「あるいは、購入先をYネット通販に切り替えてから問題が起きているように感じているので、Yネット通販向けの製造に関わるロット不良が起きたのではないか」
とも指摘した。
そして、
「実はまだ手元には」
と、、、
(この項 続く)
2018年11月20日火曜日
なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営(7)
10年ごろからM&A手法を繰り出し始めた潮田氏は、サンウェーブ工業、新日軽をたて続けに買収し、11年4月1日に傘下の事業会社のトステム、INAX、サンウェーブ工業、新日軽、東洋エクステリアの5社を統合した事業会社LIXILグループを発足させた。
このようにいくつもの会社をグループ形成の持ち駒のようにしてきた潮田氏にとって、自らが招聘したプロ経営者もやはり経営上の持ち駒のように考えているのではないか。
さて、潮田氏が会長兼CEOとして復帰したので、同社の取締役たちは戦々恐々としているのではないか。実際、10月31日の記者会見では、潮田氏と退任する瀬戸氏と並んで、社長兼COOに就任した山梨氏が出席していたのだが、同氏が自らコメントを述べることは少なかった。隣にいる潮田氏に遠慮したものと受け止められる。
実質オーナーが直接経営に乗り出すとなると、これ以上の求心力は望めないだろう。しかし、藤森氏を実質解任した15年末には、潮田氏はシンガポールに居住していると報道されていたのだが、今回CEOに着任した後はどうするのだろうか。フルタイムで経営に当たるのだろうか。
いずれにせよ、LIXILグループは新しく潮田体制で動き出す。潮田氏は「再びM&A手法も繰り出したい」と発表会見で語っている。同社のダイナミックな成長に期待したい。
(この項 終わり)
このようにいくつもの会社をグループ形成の持ち駒のようにしてきた潮田氏にとって、自らが招聘したプロ経営者もやはり経営上の持ち駒のように考えているのではないか。
さて、潮田氏が会長兼CEOとして復帰したので、同社の取締役たちは戦々恐々としているのではないか。実際、10月31日の記者会見では、潮田氏と退任する瀬戸氏と並んで、社長兼COOに就任した山梨氏が出席していたのだが、同氏が自らコメントを述べることは少なかった。隣にいる潮田氏に遠慮したものと受け止められる。
実質オーナーが直接経営に乗り出すとなると、これ以上の求心力は望めないだろう。しかし、藤森氏を実質解任した15年末には、潮田氏はシンガポールに居住していると報道されていたのだが、今回CEOに着任した後はどうするのだろうか。フルタイムで経営に当たるのだろうか。
いずれにせよ、LIXILグループは新しく潮田体制で動き出す。潮田氏は「再びM&A手法も繰り出したい」と発表会見で語っている。同社のダイナミックな成長に期待したい。
(この項 終わり)
2018年11月19日月曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(5)
前回に記したように、この1年間で当該ZEBRAボールペンの換え芯を19本購入してきた。
一方、私が「不良認定」(インクのボタ落ち、線のかすれ、あるいは書けない)したものはどれだけあったか。
まず、今年の夏前にZEBRAの消費者相談センターに「この頃使えないものが出てきて困っている」と電話をかけた。
一応の謝罪を受け、返送用の封書が送られてきたので3本送り返した。
10月に入り、今度はメールで同様の状態が続いている、とした。前回のやり方で私の使い方に問題がある(筆圧が強い)可能性の指摘を受けたので、「それには注意してきたのに再発した」と書き込んだ。
再び「不良を送ってほしい」とのことだったので、3本送った。その後、そのうちの1本はP社製のものだったといって返送された。机の中に紛れていたらしい。
11月に入り、「不良品を送ったのに受領の確認葉書さえもらっていない、どうしたか」と抗議の電話をかけた。
そうすると、、
(この項 続く)
一方、私が「不良認定」(インクのボタ落ち、線のかすれ、あるいは書けない)したものはどれだけあったか。
まず、今年の夏前にZEBRAの消費者相談センターに「この頃使えないものが出てきて困っている」と電話をかけた。
一応の謝罪を受け、返送用の封書が送られてきたので3本送り返した。
10月に入り、今度はメールで同様の状態が続いている、とした。前回のやり方で私の使い方に問題がある(筆圧が強い)可能性の指摘を受けたので、「それには注意してきたのに再発した」と書き込んだ。
再び「不良を送ってほしい」とのことだったので、3本送った。その後、そのうちの1本はP社製のものだったといって返送された。机の中に紛れていたらしい。
11月に入り、「不良品を送ったのに受領の確認葉書さえもらっていない、どうしたか」と抗議の電話をかけた。
そうすると、、
(この項 続く)
2018年11月18日日曜日
なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営(6)
潮田氏もこの程度の保有株式数でLIXILグループでキング・メーカーとして君臨できているのは、他にも理由がある。同氏は、同社で取締役会議長と指名委員会の委員長職を握っていたのだ。
藤森氏も瀬戸氏も、潮田氏が実質招聘したのだが、創業家である潮田氏が委員長として指名委員会で提案したのだから、他の誰も異議を唱えることなど難しかっただろう。潮田氏は今回自らがCEOに復帰したので、指名委員会を退任した。
今回瀬戸氏を実質解任する前には、おそらく潮田氏は他の外部のプロ経営者を招聘しようと働きかけたのではないか。しかし、2人も招聘して解任という経緯を目のあたりにしたら、誰も受ける経営者などいなかっただろう。それで仕方なく自らがCEOに復帰することになったのではないかと、私は推測している。
プロ経営者側から見れば、横暴ともいえるガバナンスを発揮した潮田新CEOだが、経営者としての実績は実は十分にある。
潮田氏は前回、06年から11年までCEOとしてLIXILグループの経営に当たってきた。前述のとおり同社の源流はトーヨーサッシで、潮田氏が着任したときは社名がトステムであり、もうひとつ住生活グループという会社も率いていた。
(この項 続く)
藤森氏も瀬戸氏も、潮田氏が実質招聘したのだが、創業家である潮田氏が委員長として指名委員会で提案したのだから、他の誰も異議を唱えることなど難しかっただろう。潮田氏は今回自らがCEOに復帰したので、指名委員会を退任した。
今回瀬戸氏を実質解任する前には、おそらく潮田氏は他の外部のプロ経営者を招聘しようと働きかけたのではないか。しかし、2人も招聘して解任という経緯を目のあたりにしたら、誰も受ける経営者などいなかっただろう。それで仕方なく自らがCEOに復帰することになったのではないかと、私は推測している。
潮田新CEOはLIXILをどこへ導く
プロ経営者側から見れば、横暴ともいえるガバナンスを発揮した潮田新CEOだが、経営者としての実績は実は十分にある。
潮田氏は前回、06年から11年までCEOとしてLIXILグループの経営に当たってきた。前述のとおり同社の源流はトーヨーサッシで、潮田氏が着任したときは社名がトステムであり、もうひとつ住生活グループという会社も率いていた。
(この項 続く)
2018年11月17日土曜日
なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営(5)
創業家の潮田氏がCEOに復帰した理由
創業家が直接経営に乗り出さずに外部からプロ経営者を招聘して、その後に更迭した例として記憶に新しいのが、ベネッセホールディングスだ。日本マクドナルドですばらしい実績を残した原田泳幸氏を招聘した。しかし、2年後には実質解任された。
ベネッセの創業家は福武家だが、同家が直接あるいは信託銀行を経由して実質保有している株式は、同社の23.14%に上る(18年3月期同社有価証券報告書から筆者調べ)。大経営者といわれた鈴木敏文氏をセブン&アイ・ホールディングス会長職から解き、詰め腹を切らせた伊藤家の実質保有株は、同社の10%を超え、実質的に筆頭株主である。
出光家、福武家、伊藤家と比べ、LIXILグループでの潮田家の保有株式比率は小さい。しかし会社を上場しても、創業者あるいは創業家が強い意思決定権を保持しているケースは、実は枚挙に暇がない。たとえその保有株式数が少数だったとしてもだ。
たとえば、トヨタ自動車の豊田章男社長は創業者の豊田喜一郎氏を祖父に持つ御曹司とはいえ、豊田社長の持ち株比率は0.1%で、豊田家全体でも1%程度である。創業家といってもオーナーではない。それにもかかわらず豊田社長は実質オーナー社長のように受け取られている。つまり、上場企業となっても創業家は実質オーナーとしての威光を保つことが多いのだ。それらの会社は実質的にファミリー・ビジネスであるといえる。
(この項 続く)
2018年11月16日金曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(4)
購入していたのがネット通販なので、購入本数の履歴が残っている。昨年の夏から換え芯だけで13本、ボールペン本体2本(芯が各3本)、合計19本の芯を購入してきた。机の中には予備として未使用が3本あるので、1年余の間に16本を使ってきたことになる。
これから詳細を記述するが、およそ半数が消費者としての私の立場からは使えなかった。
名のあるメーカーの、消費者向け商品としては聞いたことも無い高率な問題発生だ。市場に出回った商品の1%もクレームがつけば一般的にメーカーとしての死活問題となるが、本品に関して言えば、およそ多すぎる。単価が安い商品なので、声を上げていない消費者が圧倒的なのだろうが、私は2度にわたって、ゼブラ社に現品を送り、注意を促してきた。
その対応について電話もかけた。その顛末を記す。
(この項 続く)
これから詳細を記述するが、およそ半数が消費者としての私の立場からは使えなかった。
名のあるメーカーの、消費者向け商品としては聞いたことも無い高率な問題発生だ。市場に出回った商品の1%もクレームがつけば一般的にメーカーとしての死活問題となるが、本品に関して言えば、およそ多すぎる。単価が安い商品なので、声を上げていない消費者が圧倒的なのだろうが、私は2度にわたって、ゼブラ社に現品を送り、注意を促してきた。
その対応について電話もかけた。その顛末を記す。
(この項 続く)
2018年11月15日木曜日
なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営(4)
前任者だった藤森氏も日本GEの会長兼社長を経て、外部から招聘されたプロ経営者だった。そんな藤森氏でさえ実質解任されて自分にバトンが渡されたわけだ。自らの業績が上がらなければ、あるいは下がるようなことがあれば、当然自分にも同様な途が示されることは覚悟して就任したはずだ。
私はよく言うのだが、プロ経営者とプロ野球の監督は似ている。そのチームの戦績が振るわなければ、外部から新しい監督が招かれることがある。そして、多くの場合、数シーズンでまた次の監督にバトンタッチする。いってみれば、このような流動性が出てきたからこそ、プロ経営者も経営者市場に登場してくるわけだ。
さて、2人のプロ経営者の更迭を主導した潮田氏は、LIXILグループ内でどれくらいの「資本力」を擁しているのだろうか。
同氏はLIXILグループの前身であるトーヨーサッシを創業した潮田健次郎氏の長男で創業家の直系である。その持ち株数を見てみると、18年3月末現在で直接個人持ち株と、信託財産としての実質持ち株を合わせて、LIXILグループ発行済み株式の2.995%を保有している(18年3月期同社有価証券報告書より)。
上場会社における創業家持分としては、それほど大きいほうではない。例えば、出光興産が昭和シェル石油との合併を最近まで踏み切れなかったのは、創業家の出光家がほぼ3分の1を有していたからである。
(この項 続く)
私はよく言うのだが、プロ経営者とプロ野球の監督は似ている。そのチームの戦績が振るわなければ、外部から新しい監督が招かれることがある。そして、多くの場合、数シーズンでまた次の監督にバトンタッチする。いってみれば、このような流動性が出てきたからこそ、プロ経営者も経営者市場に登場してくるわけだ。
さて、2人のプロ経営者の更迭を主導した潮田氏は、LIXILグループ内でどれくらいの「資本力」を擁しているのだろうか。
同氏はLIXILグループの前身であるトーヨーサッシを創業した潮田健次郎氏の長男で創業家の直系である。その持ち株数を見てみると、18年3月末現在で直接個人持ち株と、信託財産としての実質持ち株を合わせて、LIXILグループ発行済み株式の2.995%を保有している(18年3月期同社有価証券報告書より)。
上場会社における創業家持分としては、それほど大きいほうではない。例えば、出光興産が昭和シェル石油との合併を最近まで踏み切れなかったのは、創業家の出光家がほぼ3分の1を有していたからである。
(この項 続く)
2018年11月14日水曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(3)
昨年の夏から、ネット通販Yからの購入に切り替えた後から、ボールペンの芯からインクがボタオチし、ボールペンの先部を汚く覆ってしまうようになった。私が愛用しているモデルは先端部が透明となっているのだが、そこが中からどす黒く変色してしまうのだ。
それに何より、滑らかに書けていたものが、線描がかすれてしまい、早い話し、使用に耐えなくなった。もちろん、問題が起きた換え芯は最後までインクを使い切ることは適わない。
換え芯1本の値段は廉価なので、そのたびに買い換えて済ましていたが、問題はその発生率の高さだった。
(この項 続く)
それに何より、滑らかに書けていたものが、線描がかすれてしまい、早い話し、使用に耐えなくなった。もちろん、問題が起きた換え芯は最後までインクを使い切ることは適わない。
換え芯1本の値段は廉価なので、そのたびに買い換えて済ましていたが、問題はその発生率の高さだった。
(この項 続く)
2018年11月13日火曜日
なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営(3)
思い起こせば、瀬戸氏の前任だった、藤森氏の社長交代劇もドライというか、苛烈だった印象がある。藤森氏は、ドイツの水回り設備会社のグローエを買収するなど、海外戦略を加速させた。しかし、15年にグローエの中国子会社が不正会計を行っていたことが発覚し、660億円の損失が発生すると、その年の暮れには藤森氏の社長退任、瀬戸氏の就任が発表された。
藤森氏は辞めるつもりはさらさらなかったと見られていた。その年が明けて、社長交代の発表会見に後任社長が出席しなかった(瀬戸氏はイギリスに滞在していた)という異例の事態は、直前に更迭が決まったことを物語っている。当時から取締役会議長で指名委員会委員長の潮田氏が断を下した。
瀬戸氏は退任会見で淡々としていた。
「これからのLIXILをどうしていくかの方向性が違ってきた。潮田氏が違う方向を考えているのであれば、対峙するよりもそれをやってもらうことが一番だなと判断した」
瀬戸氏はまた、「ポジションを譲るのもプロ経営者」と話して、恬淡としたところを示した。3年ほど前に招聘され、今回は短期間の業績暗転で交代を要請された。そんな経緯なのに強い遺憾の念を持っていないように見えるのは、瀬戸氏にプロ経営者としての覚悟と矜持があるからだろう。
(この項 続く)
藤森氏は辞めるつもりはさらさらなかったと見られていた。その年が明けて、社長交代の発表会見に後任社長が出席しなかった(瀬戸氏はイギリスに滞在していた)という異例の事態は、直前に更迭が決まったことを物語っている。当時から取締役会議長で指名委員会委員長の潮田氏が断を下した。
上場会社でオーナー?
瀬戸氏は退任会見で淡々としていた。
「これからのLIXILをどうしていくかの方向性が違ってきた。潮田氏が違う方向を考えているのであれば、対峙するよりもそれをやってもらうことが一番だなと判断した」
瀬戸氏はまた、「ポジションを譲るのもプロ経営者」と話して、恬淡としたところを示した。3年ほど前に招聘され、今回は短期間の業績暗転で交代を要請された。そんな経緯なのに強い遺憾の念を持っていないように見えるのは、瀬戸氏にプロ経営者としての覚悟と矜持があるからだろう。
(この項 続く)
2018年11月12日月曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(2)
ゼブラのボールペンサラサ3は、細字で水溶性のインクを使っている。そのため、書き味が滑らかで、私は数年来愛用している。
物書きという状況なので、筆記具を多用するので、常時5本ほど、このボールペンを使ってきた。机周り、かばんの中、車の中、テニスバックの中にも、という状況だ。
2017年の夏までは文房具屋さんで換え芯を求めていた。問題は無く、快適に使用していた。
問題が起こるようになったのは、8月からネット通販のYからの購入に切り替えてからだ。
(この項 続く)
物書きという状況なので、筆記具を多用するので、常時5本ほど、このボールペンを使ってきた。机周り、かばんの中、車の中、テニスバックの中にも、という状況だ。
2017年の夏までは文房具屋さんで換え芯を求めていた。問題は無く、快適に使用していた。
問題が起こるようになったのは、8月からネット通販のYからの購入に切り替えてからだ。
(この項 続く)
2018年11月11日日曜日
なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営(2)
業績が下降すると退任を迫られる、それが雇われ社長の辛さ
瀬戸氏の退任発表の前触れとなったのが、10月22日にLIXILグループが発表した今期業績の下方修正だ。2019年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比97%減の15億円に、事業利益が前期比40%減の450億円(従来予想は850億円)となると修正した。また、今期4-9月の上期決算では86億円の純損失が発生した
。
10月31日の社長交代会見で潮田氏は「決算が原因ではまったくない」と話したが、そんなことはないだろう。
業績の下方修正を受けて、10月22日には2062円を付けていたLIXILグループの株価は翌日1737円へと16%も下落した。ちなみに、10月31日の会見により株価は同日の1780円から11月1日は1530円と一段下げとなった。この社長交代が市場ではネガティブ要因としてとらえられた。
瀬戸氏が社長に就任した16年6月15日の前日の株価は1810円。就任後、今年1月の高値(3255円)までに80%上昇したのだが、10月23日には1737円へと下落してしまった。瀬戸氏の社長就任時の株価を下回ってしまったことから、現在でも大株主である潮田氏がそこで見切ったものと私は見ている。
(この項 続く)
2018年11月10日土曜日
なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営(1)
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リクシル本店(「Wikipedia」より/Rs1421) |
潮田氏は創業家出身で、同社内で大きな意思決定権を行使している。同社では瀬戸氏の前任だった藤森義明氏に続いて、「プロ経営者」が短期での実質更迭となった。
創業家が資本の保持だけでなく経営にも大きく関与している場合、招聘されたプロ経営者は機能しにくい場合がある。退任する瀬戸社長の本音はどんなものだろうか。
また、直接経営に乗り出すことになった潮田氏だが、この機会に同社はオーナー経営型を続けたほうがよいのではないか。
業績が下降すると退任を迫られる、それが雇われ社長の辛さ
(この項 続く)
2018年11月9日金曜日
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2019年1月22日(水)
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yamadao@eva.hi-ho.ne.jp2018年11月8日木曜日
ゼブラのボールペンサラサ3に問題が(1)
ゼブラ社のサラサ3シリーズというボールペンをここ数年来愛用してきた。
私は物書きなので、筆記具のヘビーユーザーである。
ところがこのボールペンの換え芯に連続して問題が起き、大いに不満に思っている。メーカーの対応も含めて、当方ー消費者側ーの利益を損なっている案件だと思った。
個人的に起きている問題なので本ブログに投稿するが、年商220億円を誇る筆記具の大手メーカーの商品に起きている品質問題としても提起したい。
本記事では私は一消費者としての立場だが、他の多くのユーザーも同じ問題を抱えているのではないかと思料する。私のところで起きている問題は他の消費者でも起きていると考える。その意味で、本件は公共性があり、多数のユーザー及び見込み客の利害に関係する公益性のある案件と考えた。
「たかがボールペンの芯」に起きた問題とは。
(本項 続く)
私は物書きなので、筆記具のヘビーユーザーである。
ところがこのボールペンの換え芯に連続して問題が起き、大いに不満に思っている。メーカーの対応も含めて、当方ー消費者側ーの利益を損なっている案件だと思った。
個人的に起きている問題なので本ブログに投稿するが、年商220億円を誇る筆記具の大手メーカーの商品に起きている品質問題としても提起したい。
本記事では私は一消費者としての立場だが、他の多くのユーザーも同じ問題を抱えているのではないかと思料する。私のところで起きている問題は他の消費者でも起きていると考える。その意味で、本件は公共性があり、多数のユーザー及び見込み客の利害に関係する公益性のある案件と考えた。
「たかがボールペンの芯」に起きた問題とは。
(本項 続く)
2018年11月7日水曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(8)
つまり単一商品の技術力より、大きなマーケット構造のほうがビジネスの勝敗を帰結させるものなのだ。
私は若いときにマツダのロータリー・エンジン車に乗っていたことがある。当時としてはすばらしいエンジン性能に惚れ惚れしたものだ。マツダの当時の経営陣も陶酔していたのだろう。
ロータリー車はしかし燃費の悪さでマスとしてのユーザーを持続させることはかなわず、やがてこのエンジンの開発と製造を続けているのは世界でマツダ1社となってしまった。そして、マツダはとんでもない経営危機に陥ってしまったのである。
あまり昔の話なので、今のマツダの経営陣や技術陣はその記憶が薄れてしまっているのかもしれない。しかし、おもしろいことに強い共同体験は企業組織にも取り込まれて残るものだ。
ここでは、「技術信奉によって大きなビジネス戦略選択上の失敗を犯す」というDNAがそれだろう。
マツダは早くヨーロッパのディーゼルから撤退したほうがいい。
(この項 終わり)
私は若いときにマツダのロータリー・エンジン車に乗っていたことがある。当時としてはすばらしいエンジン性能に惚れ惚れしたものだ。マツダの当時の経営陣も陶酔していたのだろう。
ロータリー車はしかし燃費の悪さでマスとしてのユーザーを持続させることはかなわず、やがてこのエンジンの開発と製造を続けているのは世界でマツダ1社となってしまった。そして、マツダはとんでもない経営危機に陥ってしまったのである。
あまり昔の話なので、今のマツダの経営陣や技術陣はその記憶が薄れてしまっているのかもしれない。しかし、おもしろいことに強い共同体験は企業組織にも取り込まれて残るものだ。
ここでは、「技術信奉によって大きなビジネス戦略選択上の失敗を犯す」というDNAがそれだろう。
マツダは早くヨーロッパのディーゼルから撤退したほうがいい。
(この項 終わり)
2018年11月6日火曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(7)
PLCセオリーと連動してプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)セオリーを援用すると、マツダの戦略的劣勢はさらに明らかになる。
PPMの4象限の中で、「ヨーロッパにおけるマツダのディーゼル展開」を当てはめてみると、「マーケット・シェア」の軸で極低、「マーケットの成長」軸では高低どころかマイナスということになる。
この2軸での組み合わせはPPMセオリーでは「Dog(負け犬)」と呼ばれる。そしてこの象限に入った商品や技術に与えられる戦略は「撤退」なのだ。
マツダのディーゼル・エンジンの技術「SKYACTIV-D」は競争優位を持っているという。そして次世代のディーゼルでも優位性を持てそうだともいわれている。マツダのディーゼル技術は、製造の上では確かにコスト優位を実現しているかもしれないが、シェア1%の商品が「衰退期」フェーズでそのシェアを伸ばしていくには、巨額の市場開発費がかかる。マツダがそのコストに挑戦しきれるとは思えない。
(この項 続く)
PPMの4象限の中で、「ヨーロッパにおけるマツダのディーゼル展開」を当てはめてみると、「マーケット・シェア」の軸で極低、「マーケットの成長」軸では高低どころかマイナスということになる。
この2軸での組み合わせはPPMセオリーでは「Dog(負け犬)」と呼ばれる。そしてこの象限に入った商品や技術に与えられる戦略は「撤退」なのだ。
マツダのディーゼル・エンジンの技術「SKYACTIV-D」は競争優位を持っているという。そして次世代のディーゼルでも優位性を持てそうだともいわれている。マツダのディーゼル技術は、製造の上では確かにコスト優位を実現しているかもしれないが、シェア1%の商品が「衰退期」フェーズでそのシェアを伸ばしていくには、巨額の市場開発費がかかる。マツダがそのコストに挑戦しきれるとは思えない。
(この項 続く)
2018年11月5日月曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(6)
ロータリー・エンジンの二の舞になる前に
PLCで衰退期に入ったそのカテゴリー領域で残存者利益を享受できるには、一定のプレゼンスがあるプレイヤーとなる必要がある。簡単にいえば、マーケット・シェアの高い商品が、露出が高いので選ばれるのだ。具体的には、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーというドイツの三大企業がディーゼル車の環境対応に力を入れている。つまり、安易に撤退はしない、という意思を見せているのだ。
アメリカの自動車メーカーはもともとディーゼル車を選好していない。商品としてのディーゼル車モデルそのものが少ない。日本の自動車メーカーは、マツダを除いてこの市場から撤退を決めている。ヨーロッパのディーゼル市場で残って勝負しようとしているのは、ドイツの三大メーカーと日本からはマツダだけとなる。そして、そのマツダのシェアは1%強しかない。
PLCセオリーで、ごく小さいマーケット・シェアのプレイヤーに希望があるのは、「成長期」である。マーケット全体が急速に成長すれば、「フォロワー」としての弱小シェア商品もつられて伸びていくことは多い。しかし、繰り返すがこのマーケットは急激に「衰退期」に突入しているのだ。
(この項 続く)
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(6)
「成熟期」は言ってみれば高位安定期、つまりビジネス・ボリュームのプラトー(高原)状態を指すが、ヨーロッパのディーゼル車セグメントは全体としてそれを過ぎて「衰退期」に入ったことは間違いない。1年間に4%強も落ちている売上カーブを見れば、それは明らかだ。
「衰退期」に入っている商品カテゴリーで利益を上げる戦略は「残存者戦略」となる。衰退していくマーケットから次々と競合他社が撤退していくと、「残り福」となったプレイヤーは残存者利益を享受できるというものだ。商品や技術の開発サイクルから考えても、大きな開発投資などが必要なのは「導入期」か「成長期」にあるとされる。
ましてや「SKYACTIV-D」は技術的・コスト的競争優位を達成したとマツダは誇っている。もう「濡れ手に粟」のような状態さえ考えているのではないか。
だが、それは間違っている。
(この項 続く)
「衰退期」に入っている商品カテゴリーで利益を上げる戦略は「残存者戦略」となる。衰退していくマーケットから次々と競合他社が撤退していくと、「残り福」となったプレイヤーは残存者利益を享受できるというものだ。商品や技術の開発サイクルから考えても、大きな開発投資などが必要なのは「導入期」か「成長期」にあるとされる。
ましてや「SKYACTIV-D」は技術的・コスト的競争優位を達成したとマツダは誇っている。もう「濡れ手に粟」のような状態さえ考えているのではないか。
だが、それは間違っている。
(この項 続く)
2018年11月4日日曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(5)
しかしマツダのこの自信は、転換点を迎えてしまっているヨーロッパ市場でこれから通じるのだろうか。
ヨーロッパでマツダがどれだけのビジネス・プレゼンスがあるのか見てみる。
マツダはヨーロッパで合計26万9000台を販売した(17年3月期、同社発表数値)。このうち約3割がディーゼル車だというから(同社広報)、8万台強がそれに当たる。ちなみに日本国内でのディーゼル販売比率は約4割だそうだ。
前述したように、18年上半期のEC+EFTA30カ国でのディーゼル車の販売数は349万台であり、年換算すれば約700万台となる。つまりヨーロッパにおけるマツダのディーゼル車のシェアは約1.2%程度という勘定になる。
ここで、商品がプロダクト・ライフ・サイクル(PLC)のある特定の局面ではどのように利益を上げる可能性があるかを考えてみよう。PLCセオリーでは、特定の商品や商品カテゴリーは4つのライフ・サイクルをたどると説明されている。「導入期」「成長期」「成熟期」、そして「衰退期」だ。
(この項 続く)
ヨーロッパでマツダがどれだけのビジネス・プレゼンスがあるのか見てみる。
マツダはヨーロッパで合計26万9000台を販売した(17年3月期、同社発表数値)。このうち約3割がディーゼル車だというから(同社広報)、8万台強がそれに当たる。ちなみに日本国内でのディーゼル販売比率は約4割だそうだ。
前述したように、18年上半期のEC+EFTA30カ国でのディーゼル車の販売数は349万台であり、年換算すれば約700万台となる。つまりヨーロッパにおけるマツダのディーゼル車のシェアは約1.2%程度という勘定になる。
ここで、商品がプロダクト・ライフ・サイクル(PLC)のある特定の局面ではどのように利益を上げる可能性があるかを考えてみよう。PLCセオリーでは、特定の商品や商品カテゴリーは4つのライフ・サイクルをたどると説明されている。「導入期」「成長期」「成熟期」、そして「衰退期」だ。
(この項 続く)
2018年11月3日土曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(4)
通じるかマツダ、自社技術への自信
前述したマツダの藤原副社長が示した自社のディーゼル技術への自信と、ヨーロッパ市場からの撤退を表明していないことについて、マツダの広報部に方針を確認した。
まず「マツダはヨーロッパ市場からもディーゼルからも撤退する方針はない」(マツダ広報部)とした上で、その理由を次のように説明した。
「マツダのディーゼル技術を『SKYACTIV-D』と呼んでいます。このエンジンでは燃料である軽油のエンジン内での圧縮比率を効率化することにより、他社のディーゼル・エンジンよりNOxの排出量を少なくすることに成功しています。他社のエンジンでは多くの場合、排出されたNOxを後処理するための装置を付加しているのですが、『SKYACTIV-D』はそれが不要なのです」(同)
つまり、環境的にもコスト的にも競争優位を持っているとの認識である。そして「世界での販売台数を2023年度に200万台にするのがとりあえずの目標です」(同)とした。200万台の内訳、つまりヨーロッパだけ、あるいはエンジン種別での目標台数は示していない。ちなみに17年3月期のマツダの世界販売数は162万台だった。
(この項 続く)
2018年11月2日金曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(3)
自動車が排出する環境汚染物質は、CO2(二酸化炭素)とNOxがある。ガソリン車に比べてディーゼル・エンジンはCO2の排出量が少ないこと、燃費が良いことから特にヨーロッパ市場で受け入れられてきた。
ところが2015年に独フォルクスワーゲンによるディーゼル・エンジンの排出不正問題が発覚して以降、環境規制の厳格化も相まって、世界のディーゼル市場は大きなダウン・トレンドに突入してしまった。
問題の出所となった北米市場ではディーゼル車のマーケット・シェアはもともと大きくなかったのだが、大きな痛手を被ったのが、ガソリン車よりもディーゼル車のほうが売れていたヨーロッパ市場だった。
ピークの11年には西欧18カ国でディーゼル車のシェアは56%を占めたが、直近18年上半期では域内でのディーゼル車の販売総数349万台(対前年同期比4.2%マイナス)に比べ、ガソリン車は365万台(対前年同期比9.9%増)となった(欧州自動車工業会発表、ただしEUとEFTA<欧州自由貿易連合>全30カ国の合計)。域内でガソリン車の売上がディーゼル車を上回ったのは、09年以来8年ぶりだそうだ。
今年前半のヨーロッパでのガソリン車の増え方は前年比9.9%増という、ほぼ2桁である。このパラダイム・シフトとも呼べる変化は、マーケットの大転換点と見ることができる。
(この項 続く)
ところが2015年に独フォルクスワーゲンによるディーゼル・エンジンの排出不正問題が発覚して以降、環境規制の厳格化も相まって、世界のディーゼル市場は大きなダウン・トレンドに突入してしまった。
問題の出所となった北米市場ではディーゼル車のマーケット・シェアはもともと大きくなかったのだが、大きな痛手を被ったのが、ガソリン車よりもディーゼル車のほうが売れていたヨーロッパ市場だった。
ピークの11年には西欧18カ国でディーゼル車のシェアは56%を占めたが、直近18年上半期では域内でのディーゼル車の販売総数349万台(対前年同期比4.2%マイナス)に比べ、ガソリン車は365万台(対前年同期比9.9%増)となった(欧州自動車工業会発表、ただしEUとEFTA<欧州自由貿易連合>全30カ国の合計)。域内でガソリン車の売上がディーゼル車を上回ったのは、09年以来8年ぶりだそうだ。
今年前半のヨーロッパでのガソリン車の増え方は前年比9.9%増という、ほぼ2桁である。このパラダイム・シフトとも呼べる変化は、マーケットの大転換点と見ることができる。
(この項 続く)
2018年11月1日木曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(2)
日本車7社のうち、最後のマツダの方針に注目が集まっていたが、マツダの選択は意外なことに、「ヨーロッパのディーゼル車市場でまだまだがんばる」というものだった。
スズキの撤退が報じられた少し前の10月2日、マツダは「技術説明会2018」を開催した。その席上で今後のディーゼルの展望について、マツダの藤原清志副社長(研究開発部門も統括)は次のように述べた。
「ディーゼルは今後も諦めずに開発していくつもりで、まだまだ将来的に可能性があると思っています」
このコメントは、ヨーロッパ市場だけを意識したものではなかった。
「その理由は2つあって、1つは燃料が低価格の軽油であること。もう1つはトルク(エンジンのねじり力)が大きいので、(車体が重い)SUVのクルマなどに適しているからです。NOx(窒素酸化物)をさらに減らしていくという課題はありますが、ハイブリッドの電動化をプラスすることで、さらにディーゼルの良さを追求できると考えます」(同)
(この項 続く)
スズキの撤退が報じられた少し前の10月2日、マツダは「技術説明会2018」を開催した。その席上で今後のディーゼルの展望について、マツダの藤原清志副社長(研究開発部門も統括)は次のように述べた。
「ディーゼルは今後も諦めずに開発していくつもりで、まだまだ将来的に可能性があると思っています」
このコメントは、ヨーロッパ市場だけを意識したものではなかった。
「その理由は2つあって、1つは燃料が低価格の軽油であること。もう1つはトルク(エンジンのねじり力)が大きいので、(車体が重い)SUVのクルマなどに適しているからです。NOx(窒素酸化物)をさらに減らしていくという課題はありますが、ハイブリッドの電動化をプラスすることで、さらにディーゼルの良さを追求できると考えます」(同)
(この項 続く)
2018年10月31日水曜日
マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞(1)
![]() |
マツダHPより |
そんななか、「独り、わが道を行く」としているのがマツダだ。マツダは自社のディーゼル・エンジンの優位性に自信を示して、引き続きヨーロッパ市場で戦っていく意向だ。
しかし、マツダのこの「逆張り」戦略は、果たして「人の行く裏に道あり花の山」として結実するのだろうか。
ヨーロッパのディーゼル車市場を「プロダクト・ライフ・サイクル・セオリー」で俯瞰すると、マツダの先行きの厳しさの構造が理解できる。
マツダ以外がヨーロッパから撤退したワケ
10月半ば、スズキが年内をメドにディーゼル車の欧州販売から撤退すると報じられた。それ以前から日本車各メーカーの同様の決定が五月雨式に伝えられていた。トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、SUBARU(スバル)はすでにヨーロッパでのディーゼル車の販売縮小に動いており、電気自動車(EV)など環境車に経営資源を集中するとしていたし、三菱自動車工業も英国やドイツなど主要国でディーゼル乗用車の販売を順次終える方針を発表していた。
(この項 続く)
2018年10月30日火曜日
トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(6)
次に、豊田社長がまさに今大苦闘している「社外勢力との協業、提携」に対して、孫社長は大きな助勢を与えることができるからだ。孫社長のことを私は近年「デジタル・インベスティング・モンスター」と尊称している。
古くはヤフー(米国)があり、上場前のアリババ(中国)、さらにはアーム(イギリス)と、大胆で先見性のある投資を行ってきた。「10兆円ファンド」と呼ばれるソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じての世界での投資活動も枚挙に暇がない。今回、豊田社長が「ドアを開ければ」と孫社長の先回りに舌を巻いたライドシェア各社への先行投資など、デジタル・インベスティング・モンスターにとってはほんの氷山の一角にすぎない。
今回の新会社設立発表会での壇上対談でのやり取りを見聞きしていると、2人の大経営者は相性がよさそうに見える。孫社長が自社の社外取締役として迎えたファーストリテイリングの柳井正会長兼社長や日本電産の永守重信会長兼社長などと同じくらいに豊田社長と胸襟を開き合うことになれば、孫社長は豊田社長にとってはこれ以上ない大きな味方となるだろう。トヨタが望んでやまない社外のデジタル・ビジネス・ソサエティへの強力な紹介状がもらえるからだ。
ビッグ・ビジネスも最後は人間が行う所業である。それには相性や好悪の要素も大きく入る。豊田社長が繰り返している「自動車産業100年に一度の危機」は正しい。このタイミングでの孫社長との遭遇は図らずも「トヨタ100年目の好機」をもたらすのだろうか。
(この項 終わり)
古くはヤフー(米国)があり、上場前のアリババ(中国)、さらにはアーム(イギリス)と、大胆で先見性のある投資を行ってきた。「10兆円ファンド」と呼ばれるソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じての世界での投資活動も枚挙に暇がない。今回、豊田社長が「ドアを開ければ」と孫社長の先回りに舌を巻いたライドシェア各社への先行投資など、デジタル・インベスティング・モンスターにとってはほんの氷山の一角にすぎない。
今回の新会社設立発表会での壇上対談でのやり取りを見聞きしていると、2人の大経営者は相性がよさそうに見える。孫社長が自社の社外取締役として迎えたファーストリテイリングの柳井正会長兼社長や日本電産の永守重信会長兼社長などと同じくらいに豊田社長と胸襟を開き合うことになれば、孫社長は豊田社長にとってはこれ以上ない大きな味方となるだろう。トヨタが望んでやまない社外のデジタル・ビジネス・ソサエティへの強力な紹介状がもらえるからだ。
ビッグ・ビジネスも最後は人間が行う所業である。それには相性や好悪の要素も大きく入る。豊田社長が繰り返している「自動車産業100年に一度の危機」は正しい。このタイミングでの孫社長との遭遇は図らずも「トヨタ100年目の好機」をもたらすのだろうか。
(この項 終わり)
2018年10月29日月曜日
トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(5)
トヨタの真の果実は孫正義への接近
しかし今回の新会社設立、そして2社の協業開始で一番大きな要素は、単にライドシェアという単一ビジネス分野のことではないと私は見ている。
今後大きなビジネスの展開のなかでもっとも大きな因子となりうるのは、単純に豊田章男と孫正義という2大アントレプレナー(企業家)の遭遇であり、相互知見にほかならない。これは、特にトヨタにとって将来これ以上ない大きな布石となった可能性がある。
私がそう指摘するにはいくつかの理由、状況がある。
まず、豊田社長も孫社長も日本で並外れたアントレプレナー同士であることだ。孫社長はもちろんソフトバンクGの創業経営者でオーナーである。文字どおりの最高意思決定者だ。豊田社長はトヨタのオーナー経営者ではないけれど、創業家の3代目社長としてその求心力は近年とみに大きさを増してきている。
2つの大きなビジネス・グループでサラリーマン社長でない、強い意思決定力を有している2人のトップ同士が直接胸襟を開き合う関係となり、実際にビジネスを開始した。これは、将来にわたり両グループの協業の千変万化な可能性を約束したに等しい。
(この項 続く)
2018年10月28日日曜日
トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(4)
今回の提携で大きな利を得るのはトヨタ側だというのが私の見方である。
というのは、この提携でトヨタ側が求めたものは、「ライドシェアのトップグループ」の知見だった、という見方があるのだ(10月5日付BUSINESS INSIDER JAPAN記事『トヨタ×ソフトバンク提携には「必然」しかない』<西田宗千佳>)。
ソフトバンクGはウーバー(北米・欧州)、DiDi(中国)、グラブ(東南アジア)、Ora(インド)といった、ライドシェア大手の筆頭株主になっている。
「『4社で全世界のライドシェアの乗車回数の90%を占めている』と孫社長が語るほど、影響力は大きい。そして何より重要なのは、巨大なシェアを背景に『配車』『運転』に関する情報が集まり続けている、ということだ」(前出BUSINESS INSIDER記事より)
一方、豊田社長は今年の初めにトヨタを単なるモノとしての自動車製造業者から、人の移動にフォーカスした「モビリティ・カンパニー」にすると宣言した。そしてこの方向性の実現のために、外部の非製造業者との資本あるいは業務提携に力を入れてきた。
ライドシェアの分野では17年に東南アジア8カ国で配車サービス(ライドシェア)を展開するグラブ(Grab Holdings Inc.)と提携を始めると、18年6月にはグラブに対して10億ドルを出資。その2カ月後には米ウーバーに5億ドルを投入した。
ところがトヨタが勇んで出資したこの2社の筆頭株主はソフトバンクGだったのである。今回の新会社設立発表会の壇上で豊田社長が「ドアを開けると、そこには孫さんがすでに座っていた」と慨嘆とも賛嘆したともいえる状態だったのだ。
今回発表された新会社モネ テクノロジーズの株式持分は、ソフトバンクGが50.25%、トヨタが49.75%とされた。あの大トヨタがわずかとはいえマイノリティ株主となったことも驚きとされたが、ライドシェア分野でのソフトバンクGの先行を考えれば順当なところとも考えられる。
(この項 続く)
というのは、この提携でトヨタ側が求めたものは、「ライドシェアのトップグループ」の知見だった、という見方があるのだ(10月5日付BUSINESS INSIDER JAPAN記事『トヨタ×ソフトバンク提携には「必然」しかない』<西田宗千佳>)。
ソフトバンクGはウーバー(北米・欧州)、DiDi(中国)、グラブ(東南アジア)、Ora(インド)といった、ライドシェア大手の筆頭株主になっている。
「『4社で全世界のライドシェアの乗車回数の90%を占めている』と孫社長が語るほど、影響力は大きい。そして何より重要なのは、巨大なシェアを背景に『配車』『運転』に関する情報が集まり続けている、ということだ」(前出BUSINESS INSIDER記事より)
一方、豊田社長は今年の初めにトヨタを単なるモノとしての自動車製造業者から、人の移動にフォーカスした「モビリティ・カンパニー」にすると宣言した。そしてこの方向性の実現のために、外部の非製造業者との資本あるいは業務提携に力を入れてきた。
ライドシェアの分野では17年に東南アジア8カ国で配車サービス(ライドシェア)を展開するグラブ(Grab Holdings Inc.)と提携を始めると、18年6月にはグラブに対して10億ドルを出資。その2カ月後には米ウーバーに5億ドルを投入した。
ところがトヨタが勇んで出資したこの2社の筆頭株主はソフトバンクGだったのである。今回の新会社設立発表会の壇上で豊田社長が「ドアを開けると、そこには孫さんがすでに座っていた」と慨嘆とも賛嘆したともいえる状態だったのだ。
今回発表された新会社モネ テクノロジーズの株式持分は、ソフトバンクGが50.25%、トヨタが49.75%とされた。あの大トヨタがわずかとはいえマイノリティ株主となったことも驚きとされたが、ライドシェア分野でのソフトバンクGの先行を考えれば順当なところとも考えられる。
(この項 続く)
2018年10月27日土曜日
トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(3)
さらに「まだ発表していない諸々の施策」についてまで言及しておいた。
「状況の認識と矢継ぎ早の対応策の繰り出しという点で、私は豊田社長を優れた経営者だと認める。問題は、豊田社長が繰り出している、そしてまだ発表していないであろう諸々の施策が間に合うか、ということだ。変革するにはトヨタというのはあまりに大きな組織に見えるからだ。豊田社長の挑戦に注目し、応援している。」
今回の2巨頭による発表などという大きな「隠し玉」がこんなにすぐに出てくるとまでは、私にも予想できなかったわけだ。
今回の発表で意外だったのは、この提携が両巨頭のどちらかのトップダウンで始まったのではなく、両社の若手グループの事前協議で詰められて、豊田社長の孫社長訪問に至ったという経緯である。
「イノベーションのジレンマ・セオリー」では、先行巨大企業(この場合にはトヨタ)の内部には伝統的な価値観(バリュー・ネットワーク)がはびこってしまい、変革への大きな抵抗を形成するとされている。しかし、トヨタのなかでは少なくとも豊田社長のブレーン・レベルくらいまでは、この弊害に陥っていなかったらしい。これも豊田社長が近年繰り返して言ってきた「勝つか負けるかではない、生きるか死ぬかだ」というまでの危機感が伝播した成果なのだろう。
(この項 つづく)
「状況の認識と矢継ぎ早の対応策の繰り出しという点で、私は豊田社長を優れた経営者だと認める。問題は、豊田社長が繰り出している、そしてまだ発表していないであろう諸々の施策が間に合うか、ということだ。変革するにはトヨタというのはあまりに大きな組織に見えるからだ。豊田社長の挑戦に注目し、応援している。」
今回の2巨頭による発表などという大きな「隠し玉」がこんなにすぐに出てくるとまでは、私にも予想できなかったわけだ。
トヨタ側に大きなメリット、ソフトバンクGとのアライアンス
今回の発表で意外だったのは、この提携が両巨頭のどちらかのトップダウンで始まったのではなく、両社の若手グループの事前協議で詰められて、豊田社長の孫社長訪問に至ったという経緯である。
「イノベーションのジレンマ・セオリー」では、先行巨大企業(この場合にはトヨタ)の内部には伝統的な価値観(バリュー・ネットワーク)がはびこってしまい、変革への大きな抵抗を形成するとされている。しかし、トヨタのなかでは少なくとも豊田社長のブレーン・レベルくらいまでは、この弊害に陥っていなかったらしい。これも豊田社長が近年繰り返して言ってきた「勝つか負けるかではない、生きるか死ぬかだ」というまでの危機感が伝播した成果なのだろう。
(この項 つづく)
2018年10月26日金曜日
トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(2)
両巨頭出席の発表会
発表会では両グループの副社長がプレゼンを行ったが、その後、豊田社長と孫社長自身も登壇し、いってみればトークショーのようなかたちで今回の提携の経緯を語り、和やかな対談を繰り広げた。
日本で時価総額1位のトヨタと3位のソフトバンクG(10月22日現在)という2大会社の突然の提携発表も大きな驚きだったが、両社の2巨頭が壇上で親しくエールを交わしているような光景を予想した向きは少なかっただろう。
トヨタが置かれている状況について、私は本連載前回記事で次のように指摘したばかりだった。
「トヨタが置かれている立場は、絵に描いたような『イノベーションのジレンマ』の事例だと言える。そして、そこでの戦略的なポジションとしては大いなる危機にあると言える。」(『豊田章男トヨタ社長は極めて優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行』より)
そして、豊田社長の状況認識と組織対応を次のように支持した。
「豊田社長は、自社が置かれている危機をよく理解している。それを社内に対してもよく発信しているが、既存組織の対応では間に合わないという構造もよく理解しているようだ。そして、対応策として既存組織(それは子会社群も含む)の再構成を行っているし、外部の経営資源の活用にも手を伸ばしている。」
(この項 続く)
2018年10月25日木曜日
トヨタとソフトバンク、協業関係に…豊田章男氏と孫正義氏が交わした「約束」(1)
トヨタ自動車とソフトバンクグループ、戦略的提携をすることで合意
|
このアライアンスはトヨタのほうから持ちかけたものだという。「自動車産業にとっての100年に一度の危機」ということを豊田章男トヨタ社長は今年に入ってから繰り返しているが、この危機感が大トヨタをしてソフトバンクG、いや孫正義ソフトバンクG会長兼社長ににじり寄らせたと見ることができる。
そして、提携から得られる果実もトヨタ側のほうが大きいと見ることができる。豊田社長は大きな一手を指した。それは大きな可能性を持つ妙手といえる。
両巨頭出席の発表会
(この項 続く)
2018年10月21日日曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(8)
動きはある。
トヨタはこの1年ほどの間に、立て続けにEV(電気自動車)を含む電動車の長期計画やアマゾンやウーバー、アップルなどIT業界の巨人との連携などを相次いで発表した。
18年3月には、トヨタコミュニケーションシステム、トヨタケーラム、トヨタデジタルクルーズのIT子会社3社を統合し、19年1月に新会社トヨタシステムズを設立することを発表している。同じ3月にはデンソー、アイシン精機と共同による自動運転の新会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスド・デベロップメント(TRI-AD)」を都内に設立することを発表した。
これらの動きは、従来の組織体系のままでは「イノベーションのジレンマ」状態に対応しない、できないということを理解した上での経営資源の再構成と見ることができる。
豊田社長は、自社が置かれている危機をよく理解している。それを社内に対してもよく発信しているが、既存組織の対応では間に合わないという構造もよく理解しているようだ。そして、対応策として既存組織(それは子会社群も含む)の再構成を行っているし、外部の経営資源の活用にも手を伸ばしている。
状況の認識と矢継ぎ早の対応策の繰り出しという点で、私は豊田社長を優れた経営者だと認める。問題は、豊田社長が繰り出している、そしてまだ発表していないであろう諸々の施策が間に合うか、ということだ。変革するにはトヨタというのはあまりに大きな組織に見えるからだ。豊田社長の挑戦に注目し、応援している。
(この項 終わり)
トヨタはこの1年ほどの間に、立て続けにEV(電気自動車)を含む電動車の長期計画やアマゾンやウーバー、アップルなどIT業界の巨人との連携などを相次いで発表した。
18年3月には、トヨタコミュニケーションシステム、トヨタケーラム、トヨタデジタルクルーズのIT子会社3社を統合し、19年1月に新会社トヨタシステムズを設立することを発表している。同じ3月にはデンソー、アイシン精機と共同による自動運転の新会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスド・デベロップメント(TRI-AD)」を都内に設立することを発表した。
これらの動きは、従来の組織体系のままでは「イノベーションのジレンマ」状態に対応しない、できないということを理解した上での経営資源の再構成と見ることができる。
豊田社長は、自社が置かれている危機をよく理解している。それを社内に対してもよく発信しているが、既存組織の対応では間に合わないという構造もよく理解しているようだ。そして、対応策として既存組織(それは子会社群も含む)の再構成を行っているし、外部の経営資源の活用にも手を伸ばしている。
状況の認識と矢継ぎ早の対応策の繰り出しという点で、私は豊田社長を優れた経営者だと認める。問題は、豊田社長が繰り出している、そしてまだ発表していないであろう諸々の施策が間に合うか、ということだ。変革するにはトヨタというのはあまりに大きな組織に見えるからだ。豊田社長の挑戦に注目し、応援している。
(この項 終わり)
2018年10月20日土曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(7)
外部の活用だけがトヨタの生きる道
トヨタが置かれている立場は、絵に描いたような「イノベーションのジレンマ」の事例だと言える。そして、そこでの戦略的なポジションとしては大いなる危機にあると言える。
豊田社長は、この構造とそれがもたらしている危機を十分に理解しているようだ。そして、対応策も理論的に理解してすでに行動をとり始めているように見える。
「イノベーションのジレンマ・セオリー」では、既存の大企業側は内部組織、つまり既存組織と成員をもってしては、その危機に対応できない。というのは従来型の価値体系が刷り込まれているので、みずから「破壊的技術」(CASE+A)側に降りていきにくいからだ。
トヨタの世界約36万人の従業員のほとんどは、現在の車をもっと売ることに汲々としていると推察される。危機を心配しているのは社長だけ、という構図だ。このような状況でトヨタが取る方策としては、外部資源を使うことになる。子会社として担当部門を本体と切り離すことにより外部化したり、外部会社のM&Aなどだ。また、専門企業と提携することも有効となる。とにかく自社だけでは大きな変革に対応できない。
動きはある。
(この項 続く)
2018年10月19日金曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(6)
トヨタでいうと、18年の1月に発足した「TPS本部」が従来型の組織価値体系を引きずっている例として挙げられる。
「自動運転や電動化など新技術の台頭で自動車業界が転換期にあるなか、トヨタ自動車は継続的な業務改善で競争力を高める『トヨタ生産方式』(TPS)を強化する。創業以来同社の成長の原動力となってきたTPSを統括する部署を新設して生産部門以外の営業や技術開発などを含めて全社的に展開し、競争力の底上げを図る」(2月5日付ブルームバーグ記事『100年に一度の転換期、トヨタはカイゼン強化』より)
TPS本部は200名弱のメンバーを集めて新発足したという。しかし、カイゼンで得られるものは、財務的には年間せいぜい数パーセントの成果でしかない。しかも従来型の技術やオペレーションの充実、改善に焦点を当ててしまう。内燃自動車の開発、製造、販売にいくらてこ入れしても「CASE+A」の襲来には何も意味をなさない。
従来の価値体系に縛られる既存の組織の成員は、「まず足元をみよう」とか「自分たちが持っているものをもっとよくしよう」とか「基本に戻ろう」などと言いがちだ。そして、外部で起こっている「破壊的技術」あるいは「まったく新しいビジネスモデル」に敗れ去っていくのが定例だ。
(この項 続く)
「自動運転や電動化など新技術の台頭で自動車業界が転換期にあるなか、トヨタ自動車は継続的な業務改善で競争力を高める『トヨタ生産方式』(TPS)を強化する。創業以来同社の成長の原動力となってきたTPSを統括する部署を新設して生産部門以外の営業や技術開発などを含めて全社的に展開し、競争力の底上げを図る」(2月5日付ブルームバーグ記事『100年に一度の転換期、トヨタはカイゼン強化』より)
TPS本部は200名弱のメンバーを集めて新発足したという。しかし、カイゼンで得られるものは、財務的には年間せいぜい数パーセントの成果でしかない。しかも従来型の技術やオペレーションの充実、改善に焦点を当ててしまう。内燃自動車の開発、製造、販売にいくらてこ入れしても「CASE+A」の襲来には何も意味をなさない。
従来の価値体系に縛られる既存の組織の成員は、「まず足元をみよう」とか「自分たちが持っているものをもっとよくしよう」とか「基本に戻ろう」などと言いがちだ。そして、外部で起こっている「破壊的技術」あるいは「まったく新しいビジネスモデル」に敗れ去っていくのが定例だ。
外部の活用だけがトヨタの生きる道
(この項 続く)
2018年10月18日木曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(5)
100年に一度の変化に象は対応できるか
トヨタの豊田章男社長は、昨年来「自動車産業は100年に1度の変革に遭遇している」、あるいは「勝つか負けるかではない、生きるか死ぬかだ」と危機感をあらわにしている。
100年に1度の変革とは「CASE+A」といわれる。「CASE」は、独ダイムラーのディーター・ツェッチェ社長が2016年10月のパリ・モーターショーで言及したもので、
(1)コネクテッド(インターネットで常時車外とつながる)
(2)オートノマス=自動運転
(3)シェアリング
(4)エレクトリック=電動化
を意味している。さらにこれらの4要素にはAI(人工知能)も欠かせない技術要素なので、「CASE+A」が新しい潮流として押し寄せてきている。
「CASE+A」に対する豊田社長の危機感は正しい。というのは、「イノベーションのジレンマ・セオリー」からいうと、画期的な新技術の出現フェーズでは、それを採用できなくて滅んでいくのは既存の大企業だからだ。
従来型の内燃型エンジンの自動車販売において世界最大規模のトヨタは、このセオリーでは滅ぼされていくほうに分類される。写真フィルムで世界最大のメーカーだったコダックは、デジタルカメラの到来に対応できず、あっという間に倒産してしまった。
繁栄している会社ほど、その成功に酔い、さらにそのままのスタイルでのビジネスの伸張を追い求める。そして、やられてしまう。従来型の成功を追い求めてしまうことを、「その組織内に固有の『価値体系(バリュー・ネットワーク)』が形成された」と説明される。
(この項 続く)
2018年10月17日水曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(4)
カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し
トヨタにとって、今回の系列販売の見直しが大きな戦略なのかというと、実はそうではない。マンツーマンとゾーンがバスケットボールにおいてひとつの戦術であると同様、販売戦術の見直しという程度の位置づけだ。
トヨタは全世界で年間1000万台以上の新車を販売する巨大企業だが、国内での販売台数は前述したように150万台強だ。トヨタにとって日本は最重要市場ではない。大きな戦略を展開するための個別(つまり相対的に小さい)対応策が戦術というわけだ。それでは、系列販売という戦術の転換を選んだトヨタにとって、その戦術の奥にある大きな戦略とはなんなのだろうか。
ひとつは、すでに始まっているカー・シェアへの本格的取り組みの布石と見ることができる。カー・シェア市場はすでに立ち上がっていて、最大手のパーク24で7月の会員数が103万人と1年で22%増えた。
トヨタは19年春にカー・シェアに参入するという。そのときは当然ながら日本全国4系列で既存の5000店がサービス拠点となり、トヨタの全車種をカー・シェアの対象にすることができる。また、現4系列を展開しているフランチャイジー・ディーラー約280社は、各地域での優良法人が多いので、カー・シェアの展開に当たっては地場でのハブ拠点として機能することが期待できよう。
(この項 続く)
2018年10月16日火曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(3)
ところがマーケットは全体として縮小傾向にある。国内の新車販売台数は1990年に778万台だったが、2017年には523万4000台と3割以上減った。人口減に加え、若年層の車離れが言われて久しい。言ってみれば、先行きは厳しい。
そんななか、多数の車種を提供することはメーカー側としてのトヨタにとって大きな負担となってきた。今回の決定では、現在の約60モデルから売れ筋に絞った全30モデルほどにする、となった。
今回の変更は、バスケットボールでいうマンツーマン・ディフェンスとゾーン・ディフェンスに照らすと理解しやすい。従来のやり方だと、それぞれの系列が異なる顧客層(セグメント)を追い求めてきた。つまり、特定のターゲット・プレイヤーに密着するマンツーマン・ディフェンスの守り方であり、ここでは売り方だ。
それに比べて今回の決定では、各系列は全車種を販売することになる。各ディーラーは自分の周辺地域に入って来たプレイヤー(潜在顧客)を収入レベルなどでセグメント分けすることなく、すべて攻めることになる。バスケットのゾーン・ディフェンスの考え方ですっきりと理解できる。
トヨタの人気車種であるSUV「ハリアー」や高級ミニバン「アルファード」「ヴェルファイア」は、今は1つの系列でしか売っていないが、全系列の全店での販売になればすべての見込み客に対して売り込むことができる。これが新しいゾーン・ディフェンスということだ。
(この項 続く)
そんななか、多数の車種を提供することはメーカー側としてのトヨタにとって大きな負担となってきた。今回の決定では、現在の約60モデルから売れ筋に絞った全30モデルほどにする、となった。
今回の変更は、バスケットボールでいうマンツーマン・ディフェンスとゾーン・ディフェンスに照らすと理解しやすい。従来のやり方だと、それぞれの系列が異なる顧客層(セグメント)を追い求めてきた。つまり、特定のターゲット・プレイヤーに密着するマンツーマン・ディフェンスの守り方であり、ここでは売り方だ。
それに比べて今回の決定では、各系列は全車種を販売することになる。各ディーラーは自分の周辺地域に入って来たプレイヤー(潜在顧客)を収入レベルなどでセグメント分けすることなく、すべて攻めることになる。バスケットのゾーン・ディフェンスの考え方ですっきりと理解できる。
トヨタの人気車種であるSUV「ハリアー」や高級ミニバン「アルファード」「ヴェルファイア」は、今は1つの系列でしか売っていないが、全系列の全店での販売になればすべての見込み客に対して売り込むことができる。これが新しいゾーン・ディフェンスということだ。
カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し
(この項 続く)
2018年10月15日月曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(2)
カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し
トヨタが現在展開している系列販売では、高級車中心のトヨタ店と中級車のトヨペット店、大衆車のカローラ店、若年層を対象にしたネッツ店の4つが同じ地域内で並列して営業展開している。
日本の他の自動車メーカーでは、このような系列販売をしているところはない。トヨタが4つもの系列を走らせてこられたのは、何よりそのマーケット・シェアにある。
4系列合計で年間150万台以上という新車販売台数は、国内マーケットシェアが31.2%で、10年前に比べて1.6ポイント増えていて、足元では磐石のトップ・シェアを誇っている。
4系列での販売店はトヨタの直営店は少なく、9割以上が地場資本による独立経営によるフランチャイズ型のディーラー展開だ。その数、約280社、店舗の数は5000店以上といわれる。
これだけ充実した販売網をつくり上げてきたトヨタだが、逆に言えば、これだけの数のフランチャイジーを「食わせて」いかなければならない。4つの販売系列に特徴を持たせることにより、販売力を発揮させるには、それぞれに異なった車種を持たせることが有効だったわけだ。
(この項 続く)
2018年10月14日日曜日
トヨタ社長は優れた経営者…巨大組織の「100年に1度」の再構築を断行(1)
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トヨタ自動車・豊田章男社長(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ) |
4つの販売系列でそれぞれ「カローラ」などの専売車を設けて顧客層をすみ分けていたが、それをやめて全車種をすべての系列の国内合計約5000店で売る方針を固めた。販売車種も約60モデルから売れ筋に絞り、半分に減らす。
これは大きな動きに見えるが、実はメガ企業であるトヨタにとっては戦術レベルの転換でしかない。国内販売でゾーン・ディフエンス戦術を展開することになった大きな背景には、「CASE+A」への戦略的な対応がある。
100年に1度という自動車産業の大転換時代に、トヨタは対応していけるのだろうか。
カー・シェアへの布石か、系列販売の見直し
(この項 続く)
2018年9月8日土曜日
【宮川紗江パワハラ告発】五輪出場選手を協会が「密室」で選ぶ方法は廃止すべきだ(7)
アスリート・ファーストの流れは止められない
これからの時代、各競技団体の責任者は所属アスリートの扱いにこれまでにない注意が必要となる。声を上げ始めたスポーツ選手は、これからは問題があると認識したら告発するようなことをあまり厭わなくなるからだ。
私がすぐに想像できるのが、世界大会や五輪への派遣選手の選考過程である。討議・協議方式の選考は忌避されていくだろう。それは、いくら「過去の実績」、あるいは「国際大会での実績」などを考慮したとしても、結局は「主観の問題だ」という余地が残るからだ。選に漏れた選手がスポーツ仲裁裁判所に提訴したり、その延長線上として民事の損害賠償や名誉毀損を提訴することが予想される。
そんな時代になると、国際大会の派遣選手を決めるには、アメリカの多くの競技が実施しているように、特定の選考大会を決めて、泣いても笑っても一発勝負ということになっていく。私はそれが悪いことだとは思わない。アスリートに最善の練習機会(指導者の選択も含む)を与えた上で透明性を確保した競技こそが、スポーツの本来の姿であり、スポーツの偉大さを高めていく。時代は今年動き始めた。
(この項 終わり)
2018年9月7日金曜日
【宮川紗江パワハラ告発】五輪出場選手を協会が「密室」で選ぶ方法は廃止すべきだ(6)
日本のアマチュア・スポーツ界では長く、長幼の功というか、先輩・後輩関係による上位下達的で封建的な組織や人間関係が醸成されてきた。体育会的な組織のなかで育ってくると、先輩やコーチ、監督にはやみくもに服従してしまうようになる。その延長線上で、協会などの組織が決定、運営していることについては、それを不合理、不適正と感じても従ってしまう。
13年に女子柔道強化選手が監督の暴力を告発するという事件が起こった。このときは全日本柔道連盟のトップが総辞任する大問題となったが、告発したのは15名の匿名選手だった。当時は声を上げるにしても一人では難しく、さらに複数人で勇気を出して告発しても最後まで匿名だった。
この事件を振り返ってみると、今年はアスリートが顔を出してはっきり不合理を糾弾し始めた、画期的な年として記憶されることになるだろう。
今年のこの動きの引き金となった事件がある。それは昨年秋に勃発した「貴乃花騒動」である。暴力事件の被害者は弟子の貴ノ岩だったが、それを表沙汰にして大騒動にしたのが貴乃花親方だった。当初マスコミとコミュニケーションを取らなかったこともあって、むしろ批判、非難を浴びた親方だったが、断固として刑事事件に持ち込み、加害者の元横綱日馬富士を廃業にまで追い詰めた。現役トップの横綱、そして所属する組織である日本相撲協会を相手にして毅然として戦ったのである。
貴乃花親方のこの時の行動が、今年に入って他の競技団体で不当な状態に直面した選手や関係者へ、大きな勇気と示唆を与えたものと私は見ている。
(この項 続く)
13年に女子柔道強化選手が監督の暴力を告発するという事件が起こった。このときは全日本柔道連盟のトップが総辞任する大問題となったが、告発したのは15名の匿名選手だった。当時は声を上げるにしても一人では難しく、さらに複数人で勇気を出して告発しても最後まで匿名だった。
この事件を振り返ってみると、今年はアスリートが顔を出してはっきり不合理を糾弾し始めた、画期的な年として記憶されることになるだろう。
今年のこの動きの引き金となった事件がある。それは昨年秋に勃発した「貴乃花騒動」である。暴力事件の被害者は弟子の貴ノ岩だったが、それを表沙汰にして大騒動にしたのが貴乃花親方だった。当初マスコミとコミュニケーションを取らなかったこともあって、むしろ批判、非難を浴びた親方だったが、断固として刑事事件に持ち込み、加害者の元横綱日馬富士を廃業にまで追い詰めた。現役トップの横綱、そして所属する組織である日本相撲協会を相手にして毅然として戦ったのである。
貴乃花親方のこの時の行動が、今年に入って他の競技団体で不当な状態に直面した選手や関係者へ、大きな勇気と示唆を与えたものと私は見ている。
(この項 続く)
2018年9月6日木曜日
【宮川紗江パワハラ告発】五輪出場選手を協会が「密室」で選ぶ方法は廃止すべきだ(5)
声を上げ始めた選手たち
宮川選手が行った反論会見は立派なものだった。弁護士に付き添われてはいても、その助言を途中で受けることもなく前を見て自分の言葉で話した。18歳の一選手という立場の女性がそれを行ったということで、大きな説得力を生み出した。
今年に入ってスポーツ界では不祥事がいくつも起こっている。しかし、その発端、展開には共通点がある。
・女子レスリングのパワハラ事件
五輪4連覇の伊調馨選手が、日本レスリング協会の栄和人強化本部長からパワハラを受けていたという告発状が出され、栄氏は辞任(告発状を出したのは本人ではなく関係者)。
・日大アメフト部の反則タックル事件
当事者である加害選手が会見を開いて経緯を説明
・水球女子日本代表が合宿を中断
水球男子日本代表の大本洋嗣監督が同チームを批判したことが発端
・日本ボクシング連盟の山根明会長辞任
連盟の組織員が反発。300人以上が会長批判に連名して会長を辞任に追い込んだ
今回の体操協会のパワハラ問題を入れれば、今年だけで5つも同じ構造の事件がスポーツ界を揺るがした。「同じ構造」とは何か。それは「造反有理」(謀反にこそ正しい道理がある)ということだ。
(この項 続く)
2018年9月5日水曜日
【宮川紗江パワハラ告発】五輪出場選手を協会が「密室」で選ぶ方法は廃止すべきだ(4)
速見コーチの早々の復帰の道筋をつくるべき
第三者委員会が立ち上がると報じられた翌日、8月31日に今度は当事者である速見コーチが動きを見せた。無期限の登録抹消という厳しい処分を受け取った速見コーチは、指導者としての地位保全を求める仮処分を東京地裁に求めていた。
ところが、その仮処分の申し立てを取り下げ、処分を受け入れると発表したのである。
宮川選手に対する暴力行為があったのは事実であるとし、「全面的に反省し、一刻も早く正々堂々と指導復帰を果たすことが選手ファーストだという結論に至った」と、書面で発表している。すると、宮川選手に対する指導、ひいては宮川選手の東京五輪への挑戦、出場はどうなるのだろうか。
私見を言えば、速見コーチへの処分は10月末で終了させるのがよい。つまり、塚原夫妻側からの宮川選手へのパワハラや朝日生命への引き抜き問題についての第三者委員会の判断を待って速やかに、ということだ。具志堅氏も会見で「18歳の少女が嘘をつくとは思わない」と語ったが、私も宮川選手の会見を見て、宮川選手の勇気と気概に打たれた。
暴力事件自体は両名とも認めているし、それは責められるべきだ。しかし、罪に対して罰というものはバランスが取れていなければならない。登録抹消を3カ月で終了するのが適当な展開となってきたと思うのは私だけではあるまい。
(この項 続く)
2018年9月4日火曜日
【宮川紗江パワハラ告発】五輪出場選手を協会が「密室」で選ぶ方法は廃止すべきだ(3)
常識人の対応、具志堅幸司副会長
この事件では、体操ファンにはたまらないメダリストたちが続々登場する。光男氏は五輪3大会で金メダルを獲得しており、「ムーンサルト」の創始者だ。千恵子氏もメキシコ五輪に出場して入賞している。
光男氏が千恵子氏をかばうかのような発言をしてしまったのが8月29日。翌30日に協会は対策会議を開き(塚原夫妻は欠席)、具志堅幸司副会長(ロサンゼルス五輪金メダリスト)が記者会見した。
具志堅氏は、宮川選手に対する協会側からのパワハラという問題について第三者委員会を早々に立ち上げるとして、「できるだけ関係のない人に(調査を)お願いしたい」と話し、その結論も「10月中に」とはっきりしたゴールを示した。さらに「大変お騒がせしたことにお詫びを申し上げたい。パワハラがあったとすれば大変な問題。調査委員会の結果を待って、報告したい」と語った。
大きな告発を行った若干18歳の宮川選手に配慮をしつつ、事実関係は第三者委員会の調査を待つ、としたのである。協会のこの方針は納得のいくものであり、具志堅氏の会見での記者団との対応も真摯なものだったので、協会に対する信頼感を醸成した。
(この項 続く)
2018年9月3日月曜日
【宮川紗江パワハラ告発】五輪出場選手を協会が「密室」で選ぶ方法は廃止すべきだ(2)
宮原会見に対して二転した協会
宮川選手が行った会見の内容を以下に要約してみる。
・速見コーチから強い叱責指導などはあったが、数年前の出来事で自分はそれをパワハラ指導とは感じなかった。
・今回の処分は、宮川選手を、自ら指導する朝日生命体操クラブに引き抜こうとした千恵子氏の策謀と感じる。
・千恵子氏から「五輪に出られなくなるわよ」と言われたことを、パワハラだと感じた。
宮川選手のこの会見に対し、千恵子氏の夫で協会副会長の塚原光男氏は同日中にNHKの取材に対し、「やましいことはなく、発言のなかには名誉棄損に関わることもある」と述べ、反論する姿勢を示した。また弾劾された本人である千恵子氏も日刊スポーツの取材に対し「悪いことはしていないし、宮川が勝手に言っていること」と語った。
この協会の対応は、世間の常識からいえばまったく受け入れられないものだ。光男氏は千恵子氏の配偶者である。妻が弾劾されているのだから、直接の利害共有者という立場だ。協会には副会長が4人いるのだから、妻の行動が問題となった段階で、事件の取り扱いからはきっぱりと手を引くべきだった。副会長である光男氏が発言したことで、「協会のなかで夫妻が結託している」という印象を醸し出してしまった。
(この項 続く)
2018年9月2日日曜日
【宮川紗江パワハラ告発】五輪出場選手を協会が「密室」で選ぶ方法は廃止すべきだ(1)
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塚原千恵子氏(写真:日刊スポーツ/アフロ)
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宮川選手が8月29日に反論会見を開き、逆に協会側、特に塚原千恵子女子強化本部長(70)によるパワハラを告発したのだ。協会は、第三者委員会を立ち上げ早急に調査するとしているが、速見コーチの指導がなければ競技生活を続けられないと訴えている宮川選手はどうなるのか。
アスリート側が、所属する協会側に対して勇気を出して声を上げる傾向が強まっている。それはスポーツ界における選手の選抜・選考や強化の方針にまで影響を与えていくと私は見ている。
スポーツ界に“造反有理”の風が吹き始めた。
(この項 続く)
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