2010年10月20日水曜日

「コア・コンピタンス経営」G.ハメル&C.K.プラハード 書評(51)


日経ビジネス文庫。原著は1994年、訳書は1995年。原書も翻訳版もよく売れて日経ビジネス文庫に収載されて、今ではスタンダードとなっている。

個々の章での指摘や主張を聞くと、いかにももっともで、かつ壮大で否定しがたい。だからこれほどまでに読まれたのだろう。

しかし、冷静に考えてみよう。「未来に一番乗りする報酬は図り知れない」:ブルーオーシャンに連なる主張だ。「コアな強みにフォーカスして事業展開すべきだ」:事業資源に恵まれる企業に有効なPPM的な技法だ。

「10年後に業界はどう変わっているか、認識を持っているだろうか」と問いかけるが、そんな先のことを考えるのは有効なことだろうか。著者自身が「デジタル情報産業は動乱が永遠に続くだろう」と言っている。

92年に「戦略設計図を描くプロジェクトに2千人以上が参加し、延べ3万人時間を費やした」と著者が絶賛したEDS.”それをする前には”(評者)「2000年には悪くても250億ドルの売り上げを達成するのは確実」と言われていたのに、実際には2007年にようやく221億ドルを売り上げ、その翌年にはHPに買収されてしまった。”それをしたから”ではないのか。

本書の実情は、多くのまじめな経営者に「自社はそんなことはしていない、とてもできない」といういらざるコンプレックスを与えるだろう。さもなければ、企業規模や経営資源と言う「身の丈」に合わない壮大な仕掛けの策定に取り組ませて、会社の骨組みを揺るがせるような結果を引き起こす。

同族企業の後継者が北米へMBA留学に出され、このような考え方に「かぶれて」長年続いた優良企業を潰しているのではないか。

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