2018年8月24日金曜日

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(9)

第2ラウンドは徳島市長へのリコール?


 今年の阿波踊りは終了したばかりである。阿波おどり振興協会は、秋に自主的に総踊りを行うと発表した。阿波踊りという一大観光ブランドを毀損した遠藤市長の立場は弱い。騒動により、7日時点のチケット販売率は昨年同時点を9ポイント下回っており、その経済的損失を私は前回記事で「観光客の直接的出費分だけでも約25億円の減収」と推定した。

「リコールという言葉も出始めました。追い落としまであとすこしでしょうか。見事なものです」

 Aさんは市長擁護派らしい。今回の成り行きに慨嘆している。たしかに、阿波おどり振興協会側から言えば、成り行きは市長側の敵失という事態で推移している。

遠藤市長は62歳、地元出身で青山学院大学を卒業後、四国放送に入社して以来、ずっと同社のアナウンサーだった。16年3月の徳島市長選にあたり四国放送を退社して出馬、初当選を果たしている。政治の世界に入り2年目の今年、お膝元の最大観光行事である阿波踊りで大騒動を引き起こしてしまった。

 市長は手に乗せてしまったこの“火の玉”をどう処理していくのか。総踊りの中止は、次の段階としていやおうなく徳島市の現体制を揺るがせていくかもしれない。メールの最後でAさんは、「誠実な光が、大きな黒い力で吹き消されそうになっているのを見るにしのびなく」と結んでいる。

 以上紹介したAさんのメールの内容は、当然ながらAさんの私見であり、その真偽は定かではないが、もし「政争」だとする見方が徳島市民の間に一定数存在するのだとすれば、今回の阿波踊り騒動が契機となり、より大きな議論を呼ぶかもしれない。

(この項 終わり)

大塚家具、久美子社長の辞任拒否で再建計画進まず…辞任が条件の支援元候補と交渉難航(5)

問題はTKPの場合に限らず、他の支援元候補として報じられた企業が一様に久美子社長の退陣を条件としたのに、久美子社長がそれを頑なに拒んで案件が前に進まない、と報じられていることだ。

 今回の決算での「継続企業の前提に関する注記」を持ち出すまでもなく、2015年の社長再着任以降の同社業績の急激な悪化は明らかで、現経営陣の経営責任はとても免れない。今の状態で久美子社長が退任してもよし、そうでなければ買収などで支援元になった企業やファンドが新社長を送り込む、あるいは外部から招聘する、このようなスキームを久美子社長が受け入れることが、社長をのぞくすべてのステークホルダーの望むところだろう。

 今年度も引き続き大幅な営業赤字が予想されている。優良企業だった大塚家具の現預金は10億円強まで減ってしまって、今期の赤字によりマイナスに転換する。これは、現在は無借金経営の同社が金融機関からの融資に頼る普通の会社に成り下がることにほかならない。大塚家具にとっても、久美子社長にとっても、残された時間はいよいよ少なくなった。

(この項 続く)

2018年8月23日木曜日

大塚家具、久美子社長の辞任拒否で再建計画進まず…辞任が条件の支援元候補と交渉難航(4)

――大塚家具はこれからどうしたらよいのでしょう? ニトリやイケアと競合するということは可能でしょうか?

山田 ニトリ、イケアと戦ってはいけません、勝つ見込みはありません。というのは、ニトリもイケアも自社でつくってそれを販売するという「製造小売」という業態です。一方、大塚家具は流通業で、「仕入れて売る」わけですから、ビジネス構造が違うわけです。

――久美子体制を続けていくとなると?

山田 独自路線で生き残るには、縮小均衡しかないでしょう。店舗数を減らす、あるいは大型店舗の床数を少なくするなどです。というのは、大塚家具で最大の出費項目は店舗の家賃だからです。

経営権に固執する久美子社長、しかし業績を見れば


 大塚家具は現在、複数社と支援を求めて交渉をしていると報じられているが、すでに提携関係があるティーケーピー(TKP)もその一社だ。TKPの主要事業は貸し会議室で、大塚家具の大型店舗の上層階を貸し会議室に転用するなどの協業が行われている。同社は大塚家具の株式の6%ほどをすでに保有していることから、支援元候補として取りざたされている。

 TKPの場合で私が危惧するのは、その規模感だ。同社の年商は200億円台で、大塚家具の今年度予想の半分程度である。小が大を飲むということはないではないが、貸し会議室化によりどれだけ業績が好転するのか、私は大きな確信を持てない。

 父である勝久氏が久美子社長のことを心配していて、「電話一本でもくれれば」としているそうだ。しかし、勝久氏のことを放逐した立場の久美子氏としては、一番お願いしたくないのが勝久氏だろう。それに匠大塚の側でも、企業としての大塚家具を救済するほどの企業ステージにはないはずだ。勝久氏の出番があるとすれば、大塚家具を救済した事業会社なりファンドから指名要請されて「雇われ経営者」として復帰する道筋しかありえないだろう。

(この項 続く)

2018年8月22日水曜日

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(8)

市観光協会は赤字を4億円以上累積させたとして、今年3月に徳島市が破産手続きの開始を徳島地方裁判所に申し立てている。

「その結果が、これです。まず協力を拒み、俺の協力なしにやれるもんならやってみなと挑発し、失敗させ、孤立させて」

 Aさんの指摘は、総踊り中止の決定は、遠藤市長が「既得権益者」の追い落としを図り、その動きに対する反発が総踊りの強硬自主開催のエネルギーとなっていると読むことができる。

「そんなことをすれば死闘になるのはわかっているので、過去の市長や多くの市議会議員たちはうまく手を組んできたのですが」

 実際に連日報道される事態に発展してしまったが、Aさんは「(既得権益者側は)論点を見事にすり替え、市民、マスコミをまんまとのせて、全包囲網で攻勢をかけています」と観察している。

(この項 続く)

大塚家具、久美子社長の辞任拒否で再建計画進まず…辞任が条件の支援元候補と交渉難航(3)

――「業績の悪化で経営の先行きに不透明感が高まっている」として投資家に注意を促したというのはどういう意味ですか?

山田 これはずいぶん重大な指摘でして。わかりやすく言うと、「場合によってはつぶれる恐れがある」ということなので、この会社の株を買おうとしている人は気をつけなさい、ということです。

――そんなに見かけないことですね。

山田 はい。会社側としては好んでこんな注記を付けたいとは思わないわけです。その会社を監査している監査法人が、「その注記を付けないと監査を終了できない」と強行に出た場合のみ付く注記です。

――その会社があとになって倒産した場合、なんの注記もなければ今度は監査法人が責任を問われてしまうからですね。

山田 そのとおりです。いわば、監査法人からその企業の存続についてイエロー・カードが出たわけです。

高級家具という企業イメージを毀損した久美子社長


――久美子社長体制になったのは2015年ですが、その年の業績は良かったわけですが。

山田 その年は、「感謝セール」を大々的にやった効果が出ました。しかし、大塚家具としてはセールなどやってはいけなかった、つまり禁じ手だったのです。

――というと?

山田 高級家具、それを扱う大塚家具自体が高級ブランドだったわけです。高級ブランドが安売りセールをしてはいけない。従来顧客は幻滅してしまいます。2016年からの売上急減は、2015年の反動と見ることができます。

(この項 続く)


2018年8月21日火曜日

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(7)

匿名のメール


 前回記事に対して直接感想をメールなどでもいくつかいただいた。そのなかで、私の切り口と異なる8月16日にいただいたメールが興味深いものだったので、ここで紹介したい。

そのメールの送り主は匿名(以下、「Aさん」とする)で、「徳島市の内実を伝え聞いているものとして、メールをさせていただかずにはおれませんでした」と、始まっていた。

 Aさんは、総踊りの中止について「簡潔に申して、これは『経済』の問題ではなく、汚い『政争』なんです」と主張している。そして、中止を実質的に決定した遠藤彰良市長は2016年3月に初当選しているが、「2年前に就任した今の市長は、長年、徳島市に巣くっていた『既得権益者(とだけ申しておきます)』と、手を組まなかった」(Aさんのメールより)という。

「既得権益者」が誰なのか具体的に明らかにされてはいないが、登場人物から役割を当てはめる「プレイヤーズ・セオリー」からは、阿波踊りを昨年まで主催していた徳島市の観光協会と、今回総踊りを強行自主開催した「阿波おどり振興協会」だと推察される。

 (この項 続く)

大塚家具、久美子社長の辞任拒否で再建計画進まず…辞任が条件の支援元候補と交渉難航(2)

倒産可能性のイエロー・カードが出た


 同番組での解説コメントは以下のとおり。

――3年前の経営権争いの結果、娘の久美子社長が勝利して、父の大塚勝久氏は幹部を引き連れて新会社を設立しました。結果として大塚家具に何をもたらしたでしょうか?

山田 大塚家具にとっては何もいいことはありませんでした。まず、親子喧嘩によるイメージダウンがとても大きなホディブローとして残りました。次に、匠大塚を創業した勝久氏を慕って、大塚家具から多くの幹部や社員が移籍しました。これにより、大塚家具側の経営力、組織力は間違いなくダウンしました。移籍した社員たちに付いていた固定客も、大塚家具から離れて行ったと思われます。

 それと直接的なことは、匠大塚は創業の翌年である2016年に埼玉県春日部市に匠大塚本店をオープンさせます。春日部は大塚家具の創業地で、大塚家具の大型旗艦店があったところです。この店に勝久氏は真っ向から競合をかけたわけです。

――どうなりましたか?

山田 この前、つまり2018年の5月のことですが、大塚家具は春日部店を閉鎖してしまいました。

(この項 続く)

2018年8月20日月曜日

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(6)

今回の混乱により、「阿波踊り」というブランドは毀損してしまった。入場チケット数が約10ポイント減ったという速報をもとに、昨年までの123万人来場者が12.3万人減少してしまったと試算してみよう。宿泊や飲食を含めて一人2万円の消費が徳島市で発生していたとしたら、その減少額は24億6000万円となる。

 破産申告された市観光協会の累積赤字額は4億円超だったが、この赤字は累積であり、単年度のものではない。また阿波踊りの実施以外の事業による赤字、あるいは不明朗出費も取り沙汰されている。

 遠藤市長は4億円超を節約しようとして約25億円を失った、という言い方もできようか。徳島市としては、運営方法の改善に取り組む一方、阿波踊りの目玉である総踊りの実施・強化に力を入れることこそが、観光による地域活性化の戦略にかなうだろう。

(この項 後半へ)

大塚家具、久美子社長の辞任拒否で再建計画進まず…辞任が条件の支援元候補と交渉難航(1)

大塚家具の大塚久美子社長(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
大塚家具が8月14日に2018年12月期上期決算(1-6月期)を発表した。この決算に注記事項として「当社には継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせる事象または状況が存在しております」と明記された。

 この「継続企業の前提に関する注記」を契機として、マスコミは一斉に大塚家具の経営問題を取り上げた。私も8月15日放送のテレビ番組『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日)に出演して解説したが、3年連続の赤字決算を受け、大塚久美子社長の経営責任は免れない。

倒産可能性のイエロー・カードが出た


同番組での解説コメントは以下のとおり。

(この項 続く)

2018年8月19日日曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(エピローグ)

この連載記事が注目され、世界的に権威のあるイギリスのエコノミスト誌に山田がインタビューされた。7月末に同誌東京支局長と。

その支局長が"Suits you"という1ページの記事をまとめた(同誌8月18日号)。

私の名前が引用されているところだけを掲げる。エコノミスト誌に名前が出たことは名誉なことだと思っている。

Bespoke services could attract more customers, especially men, who make up only around 30% of active users, reckons Osamu Yamada, an independent retail analyst.

(前述のサービス〔ゾゾスーツのこと〕はより多くの顧客を魅了でき得る。中でも〔ゾゾタウンの〕アクティブ・メンバー〔会員登録していて過去1年間に購買実績があった客〕の30%しか占めていない男性客を魅了するだろう、と小売アナリストの山田修は見ている。)

(この項 終わり)


阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(5)

経費削減を図るために中止すべきは、メインブランドである南内町ではなく、サブブランドのなかでももっともチケット販売率の市役所前である。

ビジネス戦略では「強きを伸ばし、弱いところには注力しない、あるいは撤収する」というのが鉄則だ。遠藤市長の施策は、スポーツにおける下手なコーチのそれを想起させる。

さらに取るべき施策だったのは、残すべきサブブランドである藍場浜と紺屋町の演舞場の強化、メインブランド化だった。具体的に提言すれば、夜10時からスタートする「総踊り」に出場する有名人気連には、7時あるいは8時からこの2演舞場のどちらかの出場を義務づけるというやり方だ。

南内町のチケット販売率が100%だったということは、それ以上の潜在顧客がいたということだ。藍場浜と紺屋町のサブブランド力を強めれば、総踊り会場のチケットを購入できなかった客の移行率が高まるはずだ。

 さらにいえば、メイン会場である南内町のチケットを少し値上げすることにより、メインブランドとしての一層の格付けと増収を図ることができるだろう。

(この項 続く)

2018年8月18日土曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(12)

海外展開をどうする
・Place (場所)


 最後に「Place」。流通経路のことを指すことが多いのだが、ここではあえて「地域」ととらえたい。前澤社長は7月3日、72カ国・地域でゾゾスーツを1年間で10万着無料配布したいと発表した。すばらしい志なのだが、配布した後のビジネスはどう展開するのだろうか。

 それぞれの国・地域の潜在顧客は興味を持ったはいいが、それをどのように購買行動に移すことができるのだろう。サイトの言語の問題もあるし、サイトだけを外国語表示にできたとしても、日本から発送するようなことでは現実的ではないだろう。そして、ファッション・ビジネスとしての規模を追うとしたら、やはり各国での地場展開が必要となるだろう。スタートトゥディは国際化への準備はできているのだろうか。

 また、ファッションは極めて文化的なもの、すなわち各国の特性の強いものだから、地場のファッション・トレンドをわかっている者が事業展開したほうがいい。このように考えると、ゾゾスーツを配る72カ国・地域での同時発進など、無謀だということになる。国や地域に優先順位をつけるか、パートナーを見つけることができるところを優先するか。ファッション・ビジネスであるZOZOTOWNをITビジネスとして見ると、SNS分野でアジアに強いLINEなどの先行企業の進出先を追っていく、という手もあるだろう。

 前澤氏は素晴らしいアントレプレナーだ。近年、プロ野球の買収意欲を示したことや、女優との交際のことなど、ビジネス以外でも話題の経営者だが、日本にもこのようなきらびやかで実績を示すスター経営者がいてもいい。ぜひ素晴らしい「次の一手」を指して、私たちをさらに“うっとり”とさせてほしい。

(この項 終わる予定だったが、もう1回 エピローグが)

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(4)

さて、事前には「総踊りの中止」と告知されていた今年の阿波踊り、肝心の有料入場者数はどう増減したのか。有料演舞場や「選抜阿波おどり」などの7日時点のチケット販売率は昨年同時点を9ポイント下回っているという。

つまり、遠藤市長が目指した、「総踊りの中止により、有名人気連の出場演舞場分散化を図り、総踊り会場以外の会場の売上を増加させる。その結果、売上の増収を図る」という目論見は外れたことになる。


強さを伸ばし、弱いところは撤退、縮小を


 今年の「総踊り中止」の決定が遠藤市長の意向だとすれば、市長のビジネス戦略的判断には疑問を持たざるを得ない。

 まず、昨年までの4演舞場のチケット売上分布に基づく総数増への目論見である。一番人気だった南内町を中止して他の3演舞場に来場者を流す、というのは文字通り机上の空論の愚策だったと指摘できる。

「阿波踊り」という「商品」にとって、メインブランドは「総踊り」ということになる。「総踊り」がメインブランドで、「顧客(=観光客)」はそのブランドを認識して購買行動を起こす。他の3演舞場はメインブランドから派生するサブブランドなので、メインブランドが消失するとサブブランドだけでは購買行動を起こすまでに機能しない、というのが阿波踊りのビジネス構造だ。

(この項 続く)

2018年8月17日金曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(11)

しかしゾゾスーツには画期的なテクノロジーが採用されている。これをさらにマーケティング的に活用しない手はない。オーダー・スーツの発注だけでなく、ZOZOTOWNで扱っているすべての商品に対する、顧客それぞれの綿密な体型計測ツールとして活用する道を探せるのではないか。

 つまり、一度自分の体型をゾゾスーツで計測しておけば、その後はZOZOTOWN内のどんな商品を選んでみても、自分の体型との乖離、たとえば「この商品は右腕部分が3cm余分に長い」といった表示をさせるなどの機能、あるいは複数のブランドや商品のなかから自分の体型に一番近いものを自動的に選別してくれるというような活用方法だ。

 もし700万人もの計測データが登録されることになったら、AI(人工知能)を駆使してZOZOTOWN独自のサイズ規格を提唱することもできよう。そして、それが新しい業界標準となり、恐ろしいまでの顧客囲い込みツールにまで発展する可能性を秘めている。

(この項 続く)

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(3)

4演舞場とも有料チケット制で、17年の阿波踊り最終日(8月15日)の第2部(午後8時30分~10時30分)の演舞場ごとのチケット販売率は、概ね次のようなものだった(市観光課のまとめによる)。

・南内町(総踊り会場):100%
・藍場浜:50%
・紺屋町:50%
・市役所前:30%

 南内町以外の3つの会場でも阿波踊りが披露されるのだが、第2部の午後10時には南内町に阿波おどり振興協会所属の連の約2000人が一堂に会するため、4会場の間で人気に大きな差が出ていたのである。

踊り手は反発、強行実施へ


 総踊りの中止というこの決定に、有名連が加盟する「阿波おどり振興協会」は「踊り手をないがしろにする」と反発し、演舞場外で独自に総踊りをする意向を示した。遠藤市長は「危険だ」などとして4度文書で中止を要請していた。8月13日の記者会見では、実施した場合に「ペナルティーも検討する」と述べるなど、異例の事態となっていた。

 そして有名連の踊り手約1500人が8月13日夜、実行委の決定に反して名物の「総踊り」を披露した。「阻止する」としていた実行委側も静観し、心配された混乱はなかった。

(この項 続く)

2018年8月16日木曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(10)

・Production (製造)


 マーケティングの4Pには入っていない5つ目のPの経営要素を見ておく。

まず、ゾゾスーツによるオーダー・スーツの受注方式は、ファッション業界では画期的だ。ビジネスモデルとしてデル・コンピュータの初期参入と同じである。つまり、ネットでオーダーを取ってから組み立てる(製造する)。個別生産であり、在庫を持つ必要がない。そのため、利益率は大きく伸張する、というモデルだ。そしてこの方式で大量受注を目指しているところに、従来のファッション・ビジネスにはないビジネスモデル・イノベーションがある。

 一方ファーストリティリングの柳井正会長兼社長は、何回かゾゾスーツのことを「あれはおもちゃだ」(2017年12月付日本経済新聞、18年7月付同紙より)としている。そして、「ZOZOTOWNは製造の経験がない」とも指摘していた。

 確かに、スタートトゥディは流通会社であり、自社の製造施設を持っていない。現状、オーダー・スーツの製造はすべて外部委託となっているはずだ。そうすると、受注量が増えていくにつれ、製造委託先を増強していかなければならない。柳井氏が長年かけて育て上げてきたSPA(製造小売)の世界に入っていかなければならない。しかも、すべて個別単品製造となる。これは前澤社長にとっての大きな挑戦となるだろう。

(この項 続く)

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(2)

このような状況で今年、総踊りの実施が取りやめとされたのには理由があった。阿波踊りを昨年まで主催していたのは、徳島市の観光協会だったが、その協会に対して破産手続きを開始するよう、徳島市が今年3月2日に徳島地方裁判所に申し立てたのだ。

観光協会は徳島市の観光振興をめざす公益社団法人で、市の補助金を大きな収入源としてきた、実質的に徳島市の外郭団体である。その市観光協会が、主な事業だった阿波踊りの実施などで累積4億円以上の赤字を出していたので、徳島市が同協会の破産を申し立てたのだ。

 阿波踊り実施のために、今年は市と徳島新聞社などでつくる実行委員会が組成され、主催者となった。この実行委員会は、総踊りが他の3演舞場のチケット販売を低迷させているとして、6月に中止を発表。有名連(踊りの出場グループ)を4演舞場に均等に配置すると決めたのである。この決定には、遠藤市長の意向が大きく働いていた。

(この項 続く)

テレビ朝日『ワイド!スクランブル』に出演

『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日)に8月15日(水)、久しぶりに出演。

午前11:15分から15分ほどのコーナーで橋本大二郎司会の隣に座り解説。

前日に大塚家具が今期の前半期(1-6月)の決算発表を行ったのだが、それに「企業存続への注記」が付いたことから、マスコミが一斉に取り上げたもの。

放送終了後、知り合いの方多くからメールをいただく。お盆休みで家でテレビを見ていた方が多かった模様。

コメント内容については追ってのブログで。

2018年8月15日水曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(9)

ゾゾスーツ、大きな可能性


 ゾゾスーツとは、それを着ると自動的に全身採寸できるというスタートトゥディ独自のもので、昨年発表され同社ではプライベート・ブランド、すなわちオーダースーツへの導入ギミックとして無料で配布している。現在までに110万着以上を配布したとしている。同社によれば

「今後1年間の間に600万から1000万着の配布を実現したい」(同社広報部)
とのことだ。

直近の年間購買者数が739万人だったことを考えれば、これはとても意欲的な数字だ。同社としてはこれを実現するために、

「無料なのだが発注を待つだけでなく、ほかの購入商品にどんどん同梱したり、外部とのコラボにより配りまくりたい」(同)

ともしている。

 7月31日発表資料では、ゾゾスーツ大量配布などに11.6億円を使用したとある。だとすれば、この画期的なゾゾスーツの1着当たりのコストはわずか1000円くらいとなる勘定だ。739万人の全ユーザーに送付したとして総制作コストは74億円くらい。18年3月期の年間営業利益が327億円の同社にとっては不可能ではない。アントレプレナーである前澤社長にはその覚悟があるのだろう。

 しかし、問題は700万着を送付したとして、どれだけの顧客がオーダー・スーツを作るのだろうか、ということだ。ビジネス・スーツの受注件数は7月30日現在、のべ2万2459セットだという(7月31日発表資料)。

これらがすべてゾゾスーツの計測から開拓された顧客だとして、配られたゾゾスーツは110万着に上っている。実オーダーに結びついた数字との乖離はとても大きい。

(この項 続く)

阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か(1)

2018年阿波おどり 独自に総踊りを
披露する「阿波おどり振興協会」
(写真:読売新聞/アフロ)


お盆休みの白眉を飾る国民的なイベントといえば、四国・徳島市の阿波踊りであろう。今年の阿波踊りはしかし、そのメインイベントである「総踊り」の実施が取りやめの決定の後、強行実施されるなど混乱した。

 総踊り取りやめの決定は遠藤彰良市長によってなされたものだが、実質的な運営を担ってきた阿波おどり振興協会はこの決定に反発し、8月13日の夜に自主的な実施として総踊りを強行した。

 観光資源の活用という観点からは、その目玉である総踊りを取りやめようとした市長の判断には大きな疑問が残る。昨年、今年の有料観覧チケットの売上を比較すると、それは明らかとなる。


4会場で行われる阿波踊り、目玉は総踊り会場


今年の阿波踊りは8月12日から15日まで開催されている。この真夏の一大イベントを見に来る人の数は2016年、17年ともに123万人と、四国では年間最大の観光イベントとなっている。

(この項 続く)

2018年8月14日火曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(8)

・Product(商品)


 女性ものファッションの品揃え強化では傾注するような施策はないだろう。なぜなら、多くのブランドがZOZOTOWNへ出店を希望してくると予想されるからである。

 昨年から同社が取り組み始めたプライベート・ブランド、男性用ビジネススーツなどの施策は、この分野の対応策として正しい。あるいは、ZOZOTOWNではない、別サイトとしてまったく別のカテゴリーのサービス群であるモール型サイトを立ち上げるのも、経営資源の即使用ということで戦略的には選択肢としてある。

 また、まだ方向を打ち出しただけだが、「広告」は大きな収入源となる可能性がある。すなわち、730万人ユーザーと、ファッションに関心のある消費者が覗きに来るサイトとして、広告媒体価値はとても高い。利益としては大きな柱になりうる。

・Price(値付け)


 出店者の商品の価格にはプラットフォーム・サイトとしては立ち入れない。ZOZOTOWNとして手を付けられるのは出店手数料のほうだ。しかし、これを下げても、あるいは上げても出店希望者の増減には影響は少ないと見る。成長ではなく、利益対策的な分野となる。

・Promotion(販売促進策)


 ZOZOTOWNはサイトとして先行しているだけでなく、画面の見せ方や、コーディネーションによる提案、付け払いの導入など、創意に富む術策に長けている。この分野で引き続き消費者を引きつけるプログラムを展開していくのではないか。ゾゾスーツはそれらの術策のなかでも、特筆されるべきもので大いに注目している。

(この項 続く)

2018年8月13日月曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(7)

さらに最重要顧客層である、「既存アクティブ会員(会員登録から1年以上経過して、過去1年に購買があったユーザー)」の年間購入は右肩上がりできていたが、購入点数、購入金額とも18年3月期第2四半期でピークを迎え、今回の19年3月期第1四半期はピークに比べ購入金額で7.3%減っている。

 購入顧客の伸びと購入金額は共に減り始めている、少なくとも短期的には。しかし、その前の段階があまりに急成長だったので、これが短期的な成長調整なのか、あるいはPLCの成熟期、すなわち横ばい期に入ったのか。

さらなる成長への次なる一手はなんだ


 四半期ベースで2期(6カ月)の減速状態を同社では「巡航運転速度」と表現していた。この状況を脱してさらなる成長の高みに上っていくためには、同社にはどのような戦略があり得るのだろうか。

 マーケティングの4Pで考えてみると方向性が見えてくるかもしれない。

(この項 続く)

2018年8月12日日曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(6)

さらにそう思わせるいくつかの指標がある。

 ひとつは「年間購入者数」の推移だ。18年6月末現在でのそれは739万人にも達しているが、この後どこまで伸び続けるのか。19年3月期第1四半期末のその人数は、1年前に比べると10%の伸びだ。今の時代に二桁成長は大したものとみることもできるが、同数値の過去の成長は年率3割、4割、5割という印象が強い。「700万人も顧客がいる」とも表現できるが、「顧客が700万にもなってしまった」とみることもできる。

 739万人のうち女性の購入者は500万人強いる。ZOZOTOWNのロイヤル・カスタマー(主要顧客)である20~30代の女性顧客数を400万人ほどと推定しよう。同世代の女性の人口総数は1345.6万人である(2017年12月時点、総務省統計)。ZOZOTOWNはこのセグメントの30%ほどを顧客化したと見ることができるだろう。

(この項 続く)

2018年8月10日金曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(5)

 ゾゾタウンを運営するスタートトゥディ社のさらなる成長余地はどこにあるのか、「マーケティングの4P」セオリーから分析してみたい。


成熟期に入ったのか、短期的調整なのか



さて、ファッションECサイトとしてガリバーとなったZOZOTOWNをプロダクト・ライフサイクル(PLC)曲線で考えてみたい。
 前澤友作社長がスタートトゥデイを法人化したのが1998年。2007年に東証マザースに上場するまでを「導入期」だとすると、それ以降が「成長期」に入ったと見ることができる。問題は、成長が停滞してくる、あるいは減速が顕著となる「成熟期」にZOZOTOWNがいつ入るのか、あるいはすでに入ったのかということだろう。ここではPLCの対象として個々の商品ではなく、大きなサービス単位としてのZOZOTOWNを眺めてみたい。

 主要KPIである「商品取扱高」をみると、ZOZOTOWNの成長が加速していたのは16年3月期から18年3月のことだったように見える。この3期の年間成長率はそれぞれ24%、33%、28%と顕著なものだった。それが18年3月期第4四半期で対前年同期比で15%、19年3月期第1四半期では18%となった。ZOZOTOWNという従来型分野での成長は鈍化し始めたのかもしれない。



(この項 続く)

2018年8月7日火曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(4)

ZOZOTOWNに次ぐモール型ファッション専門ECサイトを見渡しても、規模的には他に大きく差をつけている。「ショップリスト」のブランド数は約500、「ファッションウォーカー」は約300、「RUNWAYchanmel」は約20弱にとどまる。また金額的には「マルイウェブチャネル」がZOZOTOWNに次ぐ2位だが、その取扱高は230億円(18年3月期)とZOZOTOWNの10分の1にも及ばない。

強みは絶対の品揃えと自社在庫


 ある20代の女性ユーザーはいう。

「ZOZOTOWNを見に行く大きな理由は、とにかく何でも有ることかな」
「ほかのサイトだと、ブランドごとにカートが変わることがあり煩わしい」

「カートが変わる」とは、そのたびに購入決済をしなければならないことを意味する。そのため商品が各アパレル・メーカーなどからバラバラに郵送されてくる。一方、ZOZOTOWNは自社で巨大な物流倉庫を有し、そこに各出店社は在庫を預けるため、「ブランドの自社サイト上で在庫がないものでも、ゾゾに行くと大抵あるのよね」(前述女性ユーザー)という状況になっているのだ。そして、出店社側としては「ゾゾに在庫を置きさえすれば、飛ぶように売れる」という状況にもなり得る。

 ファッションのネット通販にはモール型だけでなく、アパレル各社が自社で運営するサイトもある。この分野で国内最高の売上高を誇るのは「ユニクロ公式オンラインストア」だが、その売上高は420億円(2016年)であり、ユニクロ全体でのEC販売比率は5.3%にすぎない。2位以下はアダストリア、TSIホールディングス、千趣会、ベイクルーズが並ぶが、いずれも200億円台でZOZOTOWNの背中ははるかに遠い(以上のデータは17年10月5日付日本ネット経済新聞より)。

次回以降は、ZOZOTOWNの成長余力をマーケティングの4Pの領域で分析してみる。

(この項 続く)

2018年8月6日月曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(3)

スタートトゥデイの19年3月期第1四半期の商品取扱高は704億円強だったが、そのうち97%に当たる683億円もがZOZOTOWN事業で占められている。

その他の事業としてはプライベート・ブランド事業(自社開発によるファッション製品)やBtoB事業、広告事業などが報告されているが、それらを合わせても全体の3%に満たない規模だ。今のところ同社はZOZOTOWN運営がメインの会社であり、社名もこの10月1日に「ZOZO」に変更する。

 前述のとおりネット通販のビジネスモデルとしてZOZOTOWNは楽天と同様に多数のブランドが出店するプラットフォームであり、「モール型EC」ということになる。出店会社は1139店、それらが出店しているブランド数は6820にも及んでいる。

そしてZOZOTOWNの強みは、これら多数のブランドが出店する無数ともいえる商品を、ブランド横断的、出店社横断的に選択できることだ。モール型ファッション専門ECとして先行した強みもあり、そのブランド集約力は圧倒的なものになった。実店舗型衣料販売としてファーストリテイリングに次ぐしまむらは、ネット販売を開始するにあたり、自社サイトではなく18年7月からZOZOTOWNに出店したほどである。

(この項 続く)

2018年8月5日日曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(2)

同社の主要事業であるZOZOTOWNは、楽天と同じ出店モール型のネット通販サイトなので、同サイトで売り上げた出店社の売上合計が同社の商品取扱高となる。同社は商品取扱高から10%以上とされる手数料を徴収し、その手数料収入が同社の売上高となる。

 実は今四半期の直前(18年3月期第4四半期)は商品取扱高が前年同期比14.9%増となっており、一般的には“二桁成長”ともてはやされるところだが、16年3月期は33%、17年3月期は28%とその額を伸ばしてきた同社としては、一服感を免れない。前四半期の業績について同社は「巡航運転の時期」という説明をしていたが、今四半期は利益額ベースでのマイナス成長となった。本当に短期的な「巡航運転、そして巡航成長」なのか、「成長の踊り場」なのか、それとも「成長のピーク」がやってきているのだろうか。

ZOZOTOWNはファッションECとしてガリバー


 ZOZOTOWNでの年間購入者は739万人(7月31日同社発表資料、以下同じ)にも達しているが、男女比をみると女性が68%と圧倒的に多い。アクティブ会員(過去1年に購入した登録がある会員)の平均年齢は33歳だが、20~30代でZOZOTOWNを知らない人は少ない。

(この項 続く)

2018年8月4日土曜日

ゾゾタウン運営会社、利益大幅減で株価急落…成長のピーク到来か(1)

ZOZOTOWN HPより





















ファッションECサイトの最大手「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を展開するスタートトゥデイが7月31日、2019年3月期第1四半期(4-6月)決算発表を行い、株式市場では株価の急落という評価を受けた。同日の終値4485円に対して、翌8月1日の始値は4150円と実に7.5%もの株価下落から始まってしまった。

 時代を席巻してきたZOZOTOWNが成長の踊り場を迎えているのか、さらなる成長の一手をどこに求めようとしているのか。今回の発表や直近の前澤友作社長の発言から分析してみよう。

営業利益が大幅減

市場が嫌気を示した最大の原因は、第1四半期の営業利益(連結ベース、以下同様)58億円強が、前年同期比で26.4%減というマイナス成長で終わったことだろう。この営業利益額は「商品取扱高」704億円に対して8.3%という水準で、企業としては悪くない数字だが、前年、前々年と12%台で走ってきた同社だけに失望感が広がった。

(この項 続く)

2018年8月3日金曜日

エコノミスト誌から取材される

The Economist誌はイギリス発刊の世界的経済誌。1843年創刊という伝統を誇りヨーロッパでは、アメリカのウォールストリートジャーナルのような権威と評価を有する。

発行部数は約160万部(2009年)。その約半分を北米が占める。
主に国際政治経済を中心に扱い、科学技術書評芸術も毎号取り上げる。社会的地位の高い層をターゲットにしており、その中に官僚や大企業で経営に携わる人なども含まれる。発刊の歴史と、鋭い分析からなる記事が情勢に与える影響が大きく、世界でもっとも重要な政治経済紙の一つと見なされている。(ウイキペディアより)

東京支局長からとあるトピックでコメントを求められ、1時間ほどインタビューに応じた。イギリス英語は聞き取りやすい。

表紙の写真は私ではない。

2018年7月22日日曜日

帝国ホテルで経営相談会












帝国ホテルで半年恒例の経営相談会を行った。無料ということもあってか、九州は小倉からの社長さんなども来場。
2018年7月18日(水) 満員
       19日(木)
満員
       20日(金)

個別の事例、内容について明かすことはできないが、いずれもユニークな、100人社長が居れば100以上の悩み、そして動員できる戦略は無限だ。問題はそのどれを選択すれば成功の蓋然性が高いのか、それをセオリカルに実践するのが経営戦略の要諦だ。

1時間という短時間だったが、皆さんにそれぞれ何らかのヒントを差し上げられたことと思う。


2018年7月12日木曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (7)

「自社でできることは他社でもできないことはない」というのが苦い真実である。そして、キャッチアップされる時間もずいぶん短いことを覚悟しなければならない。複数の競合者が参入してくるということは、その新しい市場域が既存の有効市場域に拡大隣接することで結局、有効市場域が拡大されるだけのことなのだ。そこではまたレッド・オーシャンの競争が繰り広げられる。私がブルー・オーシャン戦略のことを「青い鳥幻想を広げた最悪のセオリー」(拙著)と紹介した所以である。

 著者の扇動に乗ってブルー・オーシャン的なビジネス、つまり新規事業域を開拓する企業家たちに報酬がないわけではない。それは先行者利得であり、その領域(セグメント)が急成長するなら、その果実をライオンズ・シェアとして手にすることが可能だ。

 しかし、その一方で新事業や、ましてや事業域そのものを新しく開拓しようとすると、通常はとてつもない企業努力や僥倖によらなければ、果実を得るに至らないだろう。それらを貫徹するだけの経営資源と覚悟はその経営者にあるのか、ということになる。

 パナソニックは旧松下電器の時代、「マネシタ電器」と揶揄されていた。しかし、その経営者だった松下幸之助翁は「経営の神様」として今に崇められている。経営者がすがる神様は、幸之助翁、あるいはW・チャン・キムのどちらなのだろうか。

(この項 終わり)

2018年7月11日水曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (6)

さて、有効市場域を図で考えると、著者の夢想するブルー・オーシャンセグメントはその外側のどこかに位置することになる。しかし、従来の市場域の外に新セグメントをプロットできたとしても、やがて時間の経過とともに競合者が参入してくることは、著者の掲げた企業事例を見渡しても明らかなことなのだ。そしてこれらの現象は、「イノベーター」、「リーダー」「フォロワー」という従来のマーケティング用語による概念で説明できることだ。

 新著ではブルー・オーシャン事例の一つとしてバイアグラの開発が挙げられている。しかし、バイアグラはED薬領域(当時では新事業領域)の形成を目指して経営戦略的に開発されたのではない。ファイザー社が血圧降下剤を開発しているときに偶然発見されたもので、戦略的な動きとはほど遠い話だった。

 また、ED薬の新領域でファイザー社がブルー・オーシャン的に独創できたかというと、数年を待たずして同様な薬がいくつも競合から開発、発売されている。薬の新領域は開発したが、そのなかは相も変わらずレッド・オーシャンの様相を呈しているではないか。

(この項 続く)

2018年7月10日火曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (5)

一作目での「ブルー・オーシャン事例」のその後の惨憺たる有様に、著者は新著で口をぬぐっている。新著で紹介されている事例としては、イラクの国立ユース管弦楽団やマレーシア政府の新刑務所政策など、非営利団体の事例の割合が多くなっている。あとになって、企業業績のその後を詮索されないという、経験則が働いたのだろう。


単なる有効市場域の拡大


 
新著で著者は、ブルー・オーシャンで形成される新市場域をマイケル・ポーターの「生産性フロンティア」から大きく離れたものであると図示している。この説明は、「既存市場領域(従来の有効市場域)と離れてブルー・オーシャン市場域は発生するので、既存競争者はそこに到達するのに恐ろしく時間がかかる」と理解することができ、著者はその乖離を「ブルー・オーシャン・シフト」と呼んでいる(新著13ページ)。

 しかし、たとえば一作目で重要事例としてあげられた「イエローテイル・ワイン」が、その主張への大きな反証となっているのは皮肉なことだ。同ワインはオーストラリアのカセラワインズ社により今世紀初頭に北米で発売し、安価ワインのセグメントで大成功を収めていた。ところが、一作目が世に出た2005年には市場の景色はすでに一変していた。「イエローテイル」とはワラビーの尾のことなのだが、その成功を追って「カンガルー・ワイン」やら「コアラ・ワイン」などが続々と市場参入して、「イエローティル」の独走などといった状態ではなくなっていた。さらに南米の安価ワインの参入を経て、カセラワインズ社の利益は2008年には対前年比50%減、09年にはさらにそれから70%減、12年には赤字、13年には倒産危機と報じられた。「10年間無敵のブルー・オーシャン企業」として紹介された同社は、「業績つるべ落とし企業」だった。

(この項 続く)

2018年7月9日月曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (4)

少ない企業事例


 数年前、私は自分が教えるクラスで参加者の社長さんたちに、一作目の企業事例の「その後」を手分けして検証してもらった。一作目で紹介された「ブルー・オーシャン成功例」とされた約30社の「10年後」はそれこそ惨憺たる有様だった。

 唯一、「うまくいっているのではないですか」と報告されたのが、格安理髪店の先駆けとなったQBハウスだった。同社は日本のみならず、海外にも進出して好調な成長を続けていた。「例外もあるんだ」と私は思ったのだが、QBハウスが著者の定義によるブルー・オーシャン企業事例だとすると、やはり違っていたのである。

 ブルー・オーシャンについて著者はいくつかの定義を提言していた。「差別化と低コストを同時に実現する」、あるいは「10数年間競合が出現しない青海原を進むことができる」などである。

 QBハウスは確かにその後も成功していたが、その後を追って格安理髪店は続出した。業界の相場を1500円くらいに下げてしまったという感がある。つまり、競合は追いかけてきたが、QBハウスは独自のサービスやビジネス・モデルなどで成長を続けたということだ。ブルー・オーシャン的に「荒野を独り行く」という状態では、とてもなかった。

(この項 続く)

2018年7月8日日曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (3)

言ってみれば、著者はブルー・オーシャン戦略を走らせる具体的な手順について大きく説明を刷新した。にもかかわらず、新著ではその変更についての説明や、方法論が変遷した理由、少なくとも表現や説明が変遷した理由や経過を明らかにしていない。これはまともな学術書としては大きく誠意に欠けるものだと考える。
 著者が一作目で主張したことの一つに、「ブルー・オーシャン戦略の時効」ともいうべきものがあった。

「ブルー・オーシャン戦略は多くの場合、10年から15年ものあいだ大きな挑戦を受けずに持ちこたえる」(243ページ)

 そして、そんな企業事例として一作目では約30社の企業事例を掲げていた。

 新著の不誠実な点は、一作目で著者が掲げたそれらの企業の「その後」についてレビューしていないことだ。唯一、シルク・ド・ソレイユを現在に至る成功例として触れているが、同社は2013年に至り社員400名、全体の1割をレイオフしている。一作目から8年目に大ピンチに陥った。一作目で紹介された代表的な企業事例のその後の凋落について私は『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(パル出版/2013年刊/以下、拙著)で概観した。

 新著では、一作目でのそのような企業事例の「その後」について綺麗に口をぬぐって触れていない。

(この項 続く)

2018年7月7日土曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226(2)

市場創造の方法論を示すとしているが


結論からいえば、批判を覆すほどの反論はなされていなかった。新著は端的にいえば、新しい市場領域を開拓するための指南書である。その方法論として、著者は次の「5つのステップ」を提言している。
1.準備にとりかかる。
2.現状を知る。
3.目的地を思い描く。
4.目的地への道筋を見つける。
5.戦略を絞り込み、実行に移す。

 これらのステップを進行させるための戦略ツールとして、「PMSマップ」や「戦略キャンパス」の活用を提言しているのは、13年前の一作目と同じだ。一作目ではしかし、上記に該当する方法論として次の「4つのステップ」を提言していた。

1.目を覚ます。
2.自分の目で現実を知る。
3.ビジュアル・ストラテジーの見本市を開く。
4.新戦略をビジュアル化する。

 一作目から新著ではステップが一つ増えているが、それは構わない。13年間の研究の成果と受け止めることができる。しかし、両者の個別項目の表現の違いや、それぞれの個別項目が示した具体的な方法論は大きく異なっている。

(この項 続く)

2018年7月6日金曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (1)

『ブルー・オーシャン・シフト』(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ/ダイヤモンド社)(以下、新著)が4月に刊行され話題となり、早くも増刷されている。両著者によるブルー・オーシャン本は本書で3部作となったわけだ。

 シリーズ第一作目の作品といえる『ブルー・オーシャン戦略』(ランダムハウス講談社/2005年刊/以下、一作目)は、戦略本としてベストセラーとなり、2007年の段階で17刷りを達成していた。血みどろの戦いが繰り広げられている「レッド・オーシャン」(通常市場)から抜け出し、競争のない「ブルー・オーシャン」(未開拓市場)の創出を目指そうという一作目の主張は、そんなことができない絶対多数の経営者たちの大きな関心を呼んだ。

 今回の新著はブルー・オーシャンに到達する道程(ブルー・オーシャン・シフト)と称する5つのステップを提言している。しかし、そもそもブルー・オーシャンそのものが短期的にしか出現・持続しない市場領域である一方、それを創出することにはとてつもない企業努力と運が必要という点で、私は以前から「経営者にユートピア幻想を振りまく最悪のセオリー」であると批判してきた。

 果たして新著は、この批判に反論し得たのだろうか。

(この項 続く)

2018年7月2日月曜日

「経営の魔術師」松本晃がRIZAPへ (3)

「経営者も人の子なので、人間関係が非常に大事になる。自分を引っ張ってくれた人のために、意気に感じて頑張る。そういう存在の人が亡くなったのは、辞める大きな動機になる。」

「経営者仲間が松尾さんの葬式に出席したが、松本さんは非常にショックを受けたようすだったといっていた」(前出山田氏)

(略)
松本氏にとってRIZAPへの転身はチャレンジである。
「松本さんの歩んできた”トラックレコード”はどこの会社でも素晴らしい。ところが、今まではみんな単一事業だった。

松本さんのチャレンジというのは、今度はコングロマリット、複合事業体だ。グループ傘下の企業にはそれぞれ社長がいる。松本さんが実際に手を下すわけではないが、(それぞれの)社長が立てた戦略について判断力を発揮して助言する立場になる。そこが、松本さんの新しいチャレンジになると思う」(前出 山田氏)

以下、略

松本晃氏の決断と、新しいポジションでの活躍を祈る。

(この項 終わり)

2018年7月1日日曜日

「経営の魔術師」松本晃がRIZAPへ (2)

(略)
しかし、雇われ社長には必ず引き際がやってくる。それにどう対応するかが難しいといわれる。
(略)
20年以上にわたり外資などで社長を歴任、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評されたビジネス評論家の山田修MBA経営代表取締役が語る。

「私のときもそうだったが、大体、3年も経営をしていると、全部、カードを切ってしまう。その後の数年は自分がやってきた施策が効いて、数年は順調に伸びていく。
プロ経営者としてはせいぜい5年くらいのタイムスパンが一般的な限度だと思う。それをどう切り抜けていくかが、プロ経営者たちの悩みだ。松本さんもそこはよく分かっているはずだ。」

(略)
雇われ社長としては長居は無用だ。(松本氏にとって)そのタイミングが(カルビーの)業績の一時的な停滞と、本人を引っ張ってくれたオーナー家の松尾雅彦氏が今年2月、なくなったことだ。

(この項 続く)

2018年6月30日土曜日

「経営の魔術師」松本晃がRIZAPへ (1)

プロ経営者の一人である松本晃氏がカルビーを電撃退任したのが3月末のことだった。

私は実は2月の段階で次のように松本氏のカルビーからの離任を煽った。

「私も経験したことだが、外から乗り込んだプロ経営者も数年すると、改革のカードを切り終わってしまって、手詰まりになることがある。松本会長が活躍するステージを変えることも有用なこととなるのではないか。新天地でさらなるトラック・レコードを積み上げるのはどうだろう。」

拙記事が松本氏の背中を押したとも伝えられたが、離任した同氏を招請したいとリクエストが殺到する中、6月24日付けでRIZAPグループの代表取締役最高執行責任者(COO)に就任した。

松本氏の今回の去就を巡って様々なメディアが論評している。「権威や権力と戦うオピニオン誌」を称している月間「テーミス」の7月号が、本ブログ記事と同じタイトルで2ページの解説記事を発表した。

同記事の半分ほどのスペースで私の見解を述べたので、それを収載する。

(この記事 続く)


2018年6月2日土曜日

頑なに内田前監督を擁護する日大経営陣は機能麻痺…巨大学校法人として終わっている(5)

田中英壽理事長の懐刀


 マンモス大学である日大には労働組合も複数あるが、非常勤講師の組合である日大ユニオンは、5月16日付「Net IB News」記事で次のように語っている。

「日本大学の理事会は体育会に牛耳られています。相撲部出身の田中理事長もそうですが、アメフト部関係者も権力を持っている」

 また田中理事長は、内田前監督の「親分」だとする日大関係者もいる。5月6日の試合中に事件が起き、社会的な大問題となっても内田氏がアメフト部監督を辞任したのが19日、そして日大理事職の座に居続けるのは、田中理事長との強い関係、信任があるからだと推察される。

 今回のような組織全体に重大な影響を与える事件・事案が企業に起きた場合、通常はどのような動きが取られるだろうか。7000人もの社員がいる大企業なら、田中理事長は社長、内田前理事長は専務取締役などに置き換えて事態を想定できる。

 専務が直接統括している事業活動で重大な失態を犯してしまった。それを咎められるのは取締役会ではなく、上司である社長、あるいは会長くらいしかいない。日大の場合、創業家が理事会に参画していないようなので、専務を叱責できるのは社長のみ、という構図だ。

 社業のすべてに最終責任を持つ社長なら、専務の責任を追及するだけでなく、事態の経緯や会社の対応、専務の責任の取らせ方などについて世間に発表、発信しなければならない。それが大企業にふさわしいガバナンスというものだ。

 日大の場合はどうだろうか。

(この項 終わり)

2018年6月1日金曜日

頑なに内田前監督を擁護する日大経営陣は機能麻痺…巨大学校法人として終わっている(4)

日本大学で権勢を振るう内田前監督


 日大広報部が、宮川選手側の指摘にあえて目をつぶるような、納得感が感じられない擁護コメントを出したのには、どんな事情があるのか。

 内田前監督は、実は単なる体育会の一監督ではなく、このマンモス大学の理事、それも常務理事なのだ。日大には34名の理事がいるが、常務理事は5名だけだ。そのなかでも、内田氏は人事担当でもある。人事権を握っているので、田中英壽理事長に次ぐ日大経営部門のNo.2だといわれている。

 大学や学校法人には、理事長と総長(あるいは学長)という職位が並存していて紛らわしいが、総長・学長は教授からの互選などで選ばれ、教育と研究部門のトップであり、学校・学園の経営に当たるのが理事長をトップとする理事会である。一般企業でいえば、理事会は取締役会、常務理事は役職取締役(専務や常務、副社長)、理事長が社長に該当する責任分担だと理解できる。

 日大は日本最大の学校法人で、教職員数は7000人を超えている。この大組織の人事権を握っている常務理事というのは、職員の生殺与奪の力を有しているといっても過言ではない。日本大学の広報部が今回の事件に関連して内田氏擁護的なコメントを連発したのは、流行の「忖度」として十分に理解できることなのだ。広報部がそんな忖度を自覚し、「広報機能が麻痺している」と報じられるほど、やる気がないのかもしれない。

(この項 続く)

2018年5月31日木曜日

頑なに内田前監督を擁護する日大経営陣は機能麻痺…巨大学校法人として終わっている(3)

宮川選手の記者会見における「陳述書」で時系列的に「誰が何を言ったか」を追っていけば、「故意の暴力の強制」は明々白々といえよう。事前にその指示は井上コーチを通じて行われ、宮川選手がその趣旨を内田監督に確認して「決意」を表明している。試合の前には上級生OBからも念を押され、試合後には監督やコーチから叱責されることもない。指示を実行した組織の「鉄砲玉」に対する態度だ。

問題が大きくなり、宮川選手が父親とともに内田監督、井上コーチに「真実を明らかにさせてほしい」と申し入れたときも、監督は「しばらく待ってほしい」とした。つまり、指示があったという事実を否定していない。
 これらの事実の指摘、列挙を聞いた上で、日大広報部はなぜ上述のようなコメントを出せるのか。広報部も含めて日大という組織には、組織運営について、あるいは社会的なモラルの保持において大きな欠陥があると思わざるを得ない。

 この問題で内田元監督擁護のようなコメントを出し続けている日大広報部も、担当者個人ベースでは「無理筋」の見解を出さざるを得ないことに矛盾を感じているかもしれない。というのは、関学大の被害者選手側が21日、大阪府警に被害届を提出したとき、次のような報道があった。

「千代田区にある日大本部には多くの報道陣が詰めかけ、日大側のコメントを求めたが、なぜか守衛の男性が対応。『取り次げません。「記者会見はありません」と伝えてくれと言われてます。(広報対応は)「物理的に無理」とのことです』と、広報機能が麻痺していることを伺わせた」(21日付デイリースポーツ)

(この項 続く)


2018年5月30日水曜日

頑なに内田前監督を擁護する日大経営陣は機能麻痺…巨大学校法人として終わっている(2)

宮川選手と日本大学、どちらが信じられるのか


まず、その日大のコメント全文は以下の通り。
「アメリカンフットボール部・宮川選手の会見について

2018年5月22日

本日、本学アメリカンフットボール部の宮川泰介選手が、関西学院大学フットボール部との定期戦でルール違反のタックルをし、相手選手にけがを負わせた件につきまして、心境を吐露する会見を行いました。厳しい状況にありながら、あえて会見を行われた気持ちを察するに、心痛む思いです。本学といたしまして、大変申し訳なく思います。

会見全体において、監督が違反プレーを指示したという発言はありませんでしたが、コーチから『1プレー目で(相手の)QBをつぶせ』という言葉があったということは事実です。ただ、これは本学フットボール部においてゲーム前によく使う言葉で、『最初のプレーから思い切って当たれ』という意味です。誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います。

また、宮川選手が会見で話されたとおり、本人と監督は話す機会がほとんどない状況でありました。宮川選手と監督・コーチとのコミュニケーションが不足していたことにつきまして、反省いたしております。

日本大学広報部」

 これはあまりに内田前監督サイドを擁護しようとする強弁であり、日大の広報部が本当にこんなことを信じて書いたのか、大いに疑問である。

(この項 続く)

2018年5月29日火曜日

頑なに内田前監督を擁護する日大経営陣は機能麻痺…巨大学校法人として終わっている(1)

関西学院大学の選手に、悪質なタックルを仕掛けて負傷させた問題で、緊急会見を開いた日本大学の内田正人前監督と井上奨コーチ(日刊現代/アフロ)
5月6日の日本大学対関西学院大学のアメリカンフットボール定期戦で、プレーと関係のないところで関学大のQB(クォーターバック)にタックルを行った日大の宮川泰介選手が22日、謝罪会見を行った。宮川選手は悪質なタックルをした理由について、内田正人前監督と井上奨コーチから「1プレー目で相手のQBを潰せ」「潰したら(試合に)使ってやる」などと指示を受けていたことを公表した。

 これを受けて、同日夜に日大広報部がコメントを発表した。しかし、その内容は内田前監督や井上コーチを擁護しようとする組織防衛的なもので、何も新しい情報や見解のない、空しいものとしかいいようがない。

(この項 続く)

2018年5月27日日曜日

若き有望アメフト選手を加害者に仕立てた「日大の異常な経営体質」…逃げ回る田中理事長(4)

また、日大アメフット部や内田監督らへの思いを尋ねる質問については、「僕は今日ここに来たのは謝罪をするため、真実を話すために来たので、今後のチームのことなどは僕の口からいうべきではないと思います」と回答。さらに自身の今後について聞かれると「もちろん、アメフットを続けていくという権利はないと思っていますし、この先、アメフトをやるつもりもありません」と競技復帰を明確に否定した。TOKIOの山口達也メンバーが先の謝罪会見で「席があれば、またTOKIOとしてやっていけたらなあって」と未練がましいことを口走ってしまい、他のメンバーからさえバッシングされたのとは大きな違いだった。

宮川選手の会見を受け、関学大や被害者側はその反省する態度を好意的に受け止めているようだ。
「日大選手(宮川君)の行為そのものは許されることではないが、勇気を出して真実を語ってくれたことには敬意を表したい。立派な態度だった」(関学大アメフト部の鳥内秀晃監督)

「今回の会見を見て刑事告訴も検討せざるをえない状況だ。24日の日大からの回答を待って、家族、本人、関学アメリカンフットボール部とも相談して結論を出したい。日大選手(宮川君)は自分のしてしまったことを償い、再生していただきたい。勇気をもって真実を話してくれたことに感謝する」(被害選手の父、奥野康俊氏)

 刑事事件として立件されれば、宮川選手は加害者として傷害罪に問われ、有罪となる可能性もある。そうなれば20歳の将来ある若者の経歴に、大きな汚点となってしまう。選手としても学生日本代表に選ばれるほどのこの有望選手は、すでに退部の意思を表明している。

 記者会見では好青年という印象を世間に与えた宮川選手を、そこまで追い詰めた内田監督と井上コーチの責任は、どうなるのだろうか。

(この項 終わり)

2018年5月26日土曜日

若き有望アメフト選手を加害者に仕立てた「日大の異常な経営体質」…逃げ回る田中理事長(3)

将来をつぶされた加害選手も被害者だ


 企業や有名人の不適切行動に関する謝罪会見は多く、最近ではTOKIOの山口達也メンバーのわいせつ行為をめぐる謝罪会見が記憶に新しい。そうした会見のたびに危機管理専門家やコンサルタントが実施方法やメッセージの出し方などについて、批判的な指摘を行っている。今回の宮川選手の謝罪会見は、ここ数年でもっとも成功した例だ。

 成功した1つ目の要因は、会見の趣旨について「謝罪をしたい」そして「真実を明らかにしたい」とはっきりさせ、それを何度も繰り返したことだ。2つ目は、方法論として「陳述書」という書面をあらかじめ用意して、これを読み上げるというかたちをとったことだ。それは、問題が起きた試合の前の段階から、日付入りの時系列で起きた事実と自らの感想が書かれており、登場人物の個人名も記され、十分に説得力があり、人々が経緯をよく理解できた。

 3つ目の理由として、宮川選手が「そもそもの指示があったにしろ、やってしまったのは私です。人のせいにするのではなく、やってしまった事実がある以上、私が反省することだと思います」「自分で判断できなかった、自分の弱さだと思う」などと明言して、他の誰も非難しようとしなかったことだ。記者からの質問で、内田監督や井上奨コーチへの感想を何度も求められた。それは、監督らへの非難コメントを誘導するようなものでもあったが、宮川選手は監督、コーチ、あるいはアメフト部を非難することなく、「監督とコーチ陣からのプレッシャーがあっても、自分で正常な判断をすべきだった」などというコメントに終始した。

(この項 続く)

2018年5月25日金曜日

若き有望アメフト選手を加害者に仕立てた「日大の異常な経営体質」…逃げ回る田中理事長(2)

陳述書によれば、5月11日に宮川選手と両親が内田監督と面会し、監督による反則指示の公表を求めたが拒否されたという。退部も決意していて思い悩んだ宮川選手の父親が弁護士に代理人を依頼したのが、15日だったという(代理人の冒頭説明)。18日には、選手と家族だけで被害者である関学大選手への謝罪訪問を実施していることから、代理人を選任したことで、宮川選手が“日大の呪縛”から逃れ始めたように私は理解した。

 日大は事実関係の確認作業などを進めて24日をメドに改めて関学大に回答するとしていたが、代理人は「監督、コーチから事実を聞きたいというお話は、今までただの一度もありません」と話し、部としての事情聞き取りの予定がないことから、急遽22日の会見をセットしたと説明した。

 記者会見の段取り、準備も周到なものだった。会場を提供した日本記者クラブは、通例では会見に臨むのは当事者本人のみで、弁護士などの同席を認めていないが、「本人が20歳を超えたばかりの未成年に近い青年なので」(代理人)例外として認められたという。記者からの質問に適宜割って入るなど、宮川選手にとっては心強い存在だったであろう。何しろ、20歳の青年が突然100名を超える報道陣と多数のテレビカメラの前に立たされたのだ。大きな試練であり、勇気がなければできることではない。

(この項 続く)

2018年5月24日木曜日

若き有望アメフト選手を加害者に仕立てた「日大の異常な経営体質」…逃げ回る田中理事長(1)

関学との試合で悪質な反則行為を行ったことに関し、記者会見をする日本大学宮川泰介選手(日刊現代/アフロ)










関西学院大学とのアメリカンフットボール定期戦で相手側のクォーターバック選手に対して故意の反則タックルを仕掛けた日本大学の選手が22日、謝罪会見を開いた。本人の反省、謝罪は真摯で誠意あるものとして世間に受け取られたが、他の加害関係者、ひいては組織としての日本大学の対応は稚拙で、いたずらに時間を要している。結果、誠意ある対応がないと関学大側から指摘されている。

 本件で反則行為の指示を出したとされる内田正人前監督の責任はもちろん重いが、その監督責任者で組織上の上司である田中英壽理事長は、まったく表に出てこない。日大の経営ガバナンスはどうなっているのか。

タイミングのよい記者会見

問題の反則行為を行ったのは、日大3年生の宮川泰介選手。その前日に実施が決定したという会見は、冒頭の代理人弁護士からの経過説明を含め、1時間という長時間にわたった。宮川選手は詳細な「陳述書」を用意して、日付ごとに時系列で出来事を報告し、自身の時々の感懐を明かした。
 陳述書によれば、、、

(この項 続く)