2018年7月12日木曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (7)

「自社でできることは他社でもできないことはない」というのが苦い真実である。そして、キャッチアップされる時間もずいぶん短いことを覚悟しなければならない。複数の競合者が参入してくるということは、その新しい市場域が既存の有効市場域に拡大隣接することで結局、有効市場域が拡大されるだけのことなのだ。そこではまたレッド・オーシャンの競争が繰り広げられる。私がブルー・オーシャン戦略のことを「青い鳥幻想を広げた最悪のセオリー」(拙著)と紹介した所以である。

 著者の扇動に乗ってブルー・オーシャン的なビジネス、つまり新規事業域を開拓する企業家たちに報酬がないわけではない。それは先行者利得であり、その領域(セグメント)が急成長するなら、その果実をライオンズ・シェアとして手にすることが可能だ。

 しかし、その一方で新事業や、ましてや事業域そのものを新しく開拓しようとすると、通常はとてつもない企業努力や僥倖によらなければ、果実を得るに至らないだろう。それらを貫徹するだけの経営資源と覚悟はその経営者にあるのか、ということになる。

 パナソニックは旧松下電器の時代、「マネシタ電器」と揶揄されていた。しかし、その経営者だった松下幸之助翁は「経営の神様」として今に崇められている。経営者がすがる神様は、幸之助翁、あるいはW・チャン・キムのどちらなのだろうか。

(この項 終わり)

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