2010年11月4日木曜日

「孫子」岩波文庫 書評(53)




主だった経営誌が月刊誌だったころ、定番企画として繰り返されたのが「戦国武将」と「孫子」など内外古典の戦略・戦術だった。経営は競争なので、その最たるものである戦争に学ぼうというわけだ。

確かに「経営戦略」という言葉使いに見られるように、戦争用語は経営状況の説明にたくさん借用されている。私自身も「戦略論」を語っているわけだ。

しかし、「孫子」のような「本当の戦争」のやり方論と「企業」の戦い方では決定的に違うことがある。
その第1は、相手をせん滅できないこと。
その第2は、戦う相手が戦争ほど鮮明で特定できていないことがあり、多くの場合は「競合者」という名前の多数者であること。

「彼を知りて己を知れば百戦して危うからず」
有名なこの警句だけを考えてみよう。この警句は論理的に成り立つ。しかし、それでは自分のビジネスで「彼」というのは誰か。「彼」は何人いるのか。たぶんたくさんいるのだろう。たくさんいる「彼」のことをどれだけ知れば「危うからず」となるのか。「彼」が来年、あるいは三年後にどのような手を打ってくるか、知ることはできるのか。

それらの違いを心して読むと、「戦争管理論」としての章や部分は、現代の経営に通じるところが無くもない。

1 件のコメント:

  1. 「彼を知りて己を知れば百戦して危うからず」
    孫子ほどの人物ですから、これが不可能なことは、先刻承知だったと思います。
    これが理想だけれど、現実にはそれができない・・・というインプロケーションがあったと思います。
    そうでなければ、戦法をあれこれ論じず、ただ、情報を集めて分析しれば勝つといい、その必要とハウツーを論じるにとどまったでしょう。今日の一部の学者、コンサルタントのように・・・

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