2012年7月4日水曜日

「ネルソン・マンデラ私自身との対話」 書評142(3)

マンデラの発信した書誌を読んでいくと、まずこの人が非常な知識人だと言うことに気づく。ローマ、ギリシャなどのヨーロッパで先行した文明についての該博な教養があり、シェイクスピアなどの古典を広く引用している。刑務所に27年間という隔絶した環境で、これらの知識を書簡の中で自在に示すことは、通常人には至難のことだろう。また自身、弁護士でもある。

文章家としても優れている。感情的な表出を、理知的に説明できる人だ。その結果、読む人への浸透力や影響力が大きく、言論活動を通じて、刑務所の刑務官や受刑者の尊敬を広く集め、外に於いては南アの民衆の支持を強く得るに至ったというのが、私の感想だ。

次に王族出身という出自からの、揺るぐことのない誇り-自身と民族に対する誇りーだ。そして変わらぬ意思の強さ。本書はまた、革命家本人による記録であり、手段として暴力や軍事をもいとわなかった先鋭的な革命家の記録でもある。それらを断行した強い決意と主張は、世に稀な読み物として本書に高い位置を占めさせている。圧倒的な読み物だ。

(この項 終わり)

0 件のコメント:

コメントを投稿