2010年7月18日日曜日

「ランチェスター思考II 直観的問題解決のフレームワーク」福田秀人 書評(40)



福田秀人著。東洋経済新報社、7月16日刊。

経営書の中で、今年最大の収穫の書であろう。「ランチェスター思考II」をメイン・タイトルとしているのは、前著からの流れから。本書の中心と白眉は、「アメリカ陸軍の指揮官マニュアル」を本格的に紹介し、それを経営現場での意思決定に引きつけて論じていることだ。

経営学の分野で、これだけの新しい概念や経営技法がまとまって提出されたことは近年記憶にない。それも世界屈指の組織が長年かけて膨大な努力により磨き上げ、洗練させた、いわば「経営学の外部で徹底的に体系化された方法論」が咀嚼され、提示された。その咀嚼と適応は、経営学の教授であり同時に自衛隊幹部学校での指導にも当たっている、この著者でなければ可能とならない作業だっただろう。

本書により、「本当の軍事」側から「経営」側に提示された新概念、あるいは現概念の訂正を迫っている点が幾つもある。少数を例示するだけで次の如くである。
1.「意思決定」には、許された時間枠により、直観的決定と分析的決定が選択される。
2.「決定は間違って当たり前」という前提。
3.情報はすべて誤っている可能性があるが、責任は意思決定者に残る。
4.広的ネットワークは、質が伴わなければ混乱するだけ。
5.部下の忍耐力を見極め、能力に合った任務を与えよ。
6.意思決定には三つのレベル、「戦術」「作戦」「戦略」レベルが存する。「作戦」レベルの概念は今までの経営学では無かった。
7.「集団的浅慮」概念の明確化と、それが起こり得る状況。
など。

これらの捉え方や対応を、アメリカ陸軍は、「指揮官マニュアル」として長い年月と組織をあげての英知を傾けて整備してきた。文字通り「生きるか死ぬか」の結果に繋がる、世界最大規模で最も進んでいると思われ軍事組織が作り上げたマニュアルである。刮目して読むべき書だ。

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