戦略的に見ると、同社の今回の決定は非常に見事だといえる。開始当初は赤字となるが、その総額はスタンド20カ所の設備投資に比べれば取るに足らないだろう。水素ガスの製造・供給コストはエクスペリエンス・カーブ(累積製造量によるコスト低減)により時間がたつにつれて急激に下落し、数年を経ずして事業は黒字化するだろう。
さらに同社にとって有利なのは、競合相手となるはずの石油元売り大手が水素ステーションに参入できない点だ。傘下に無数のガソリンスタンドを抱え、それらの多くが加盟店として独立した法人であり、それらの反発が必至だからだ。そもそも石油元売り大手の主力事業は石油の精製であり、水素ガスの普及は、その主力事業の脅威となりかねない。つまり、典型的な「イノベーションのジレンマ」である。水素ガスという「破壊的技術」に対して、自動車エネルギーで先行する石油元売り大手は動けないのだ。
今後10年、電気自動車や水素自動車が普及していくといわれる中、自動車エネルギー市場ではどのような動向が予想されるのか、次稿で考察してみたい。
(この項 終わり)
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