2017年5月31日水曜日

東芝と日本郵政の巨額損失を主導した戦犯、西室泰三氏の「突出した権力所有欲」(4)

権力への強い執着



 同記事で稲村氏は、2月に東芝が米原発子会社ウェスティングハウス関連で約7000億円もの巨額損失を計上した案件についても、西室氏の責任を追及している。

「いま西室氏の出身母体である東芝は巨額損失で危機的状況だが、その原因となった米原発会社ウェスチングハウス社の巨額買収に当事者としてかかわっていたのが、東芝相談役だった西室氏でした」

 日本郵政と東芝のこれら2大損失について西室氏一人がすべて責任を持っているかはともかく、それぞれの買収決定について深く関与していたことは間違いないだろう。

 西室氏は経営者として3つの大企業に関与してきた。東芝、東証、そして日本郵政である。その傍ら、公職としては経団連副会長、日米経済協議会会長、安倍政権が戦後70年談話をまとめた有職者懇談会の座長などを歴任してきた。そんな西室氏の経歴は、「肩書コレクター」、あるいは「名誉欲は人一倍強い」などとも評されてきた。

西室氏が経営してきた3社とのかかわりと、強い公職への意欲から私が感じるのは、同氏の「新しい権力の獲得への強い意欲」と「一度手にした権力への粘着質的なまでの強い執着」の2点である。

(この項 続く)

2017年5月30日火曜日

東芝と日本郵政の巨額損失を主導した戦犯、西室泰三氏の「突出した権力所有欲」(3)

赤字の主原因は、15年に6200億円で買収した豪物流子会社トール・ホールディングスにあった。ブランド価値を示す「のれん」を一括償却したことにより、約4000億円もの損失を計上したのである。それに対して稲村氏は同記事で、

「特に巨額損失の全責任を負うべき西室氏に対しては怒りを感じます」

と、糾弾している。トール社の買収は西室氏の主導で進められ、15年2月に発表された際には「電撃買収」と報じられた。

稲村氏は同記事で「西室氏の経営手腕には、ほかにも疑問に感じる部分がありました」として、生保アフラックのがん保険を全国の郵便局で独占的に販売できるようにしたことなどを挙げている。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という趣もあり、そもそも稲村氏の経営幹部としての在任期間は、トール買収発表以前ではあったものの、西室氏とかぶっていた。

稲村氏は「私は最初から反対だった」としているが、副会長という枢要な役員であり経営責任がある立場にあったのだから、「殿を諌めなかった家老連」という指摘も免れないかもしれない。

(この項 続く)

2017年5月29日月曜日

東芝と日本郵政の巨額損失を主導した戦犯、西室泰三氏の「突出した権力所有欲」(2)

稲村氏は、総務省時代から政策統括官として国営だった郵政事業を管轄し、日本郵政公社の常務理事に転出した人だ。一貫して郵政民営化に反対し、一時は大学に教授として転出し郵政事業から離れた。その後、民営化により株式会社日本郵便が発足した12年10月に同社副会長に就任した。14年3月には同社顧問を退任しているので、西室氏の社長時代(13年6月就任)と在任時期がかぶっている。

 郵政民営化の推進役として民間から政府により招聘された西室氏と、一貫して公営化の利点を主張している稲村氏とでは、基本的な立場が正反対なので、在任中も協調的に経営に当たっていたとは思われない。

 この記事が出たきっかけは、日本郵政が5月15日に17年3月期の連結最終損益が289億円の赤字(前期は4259億円の黒字)になったと発表したことだ。赤字は07年の郵政民営化以来初めてのことで、それが「郵政愛」の強い稲村氏の義憤につながったのだろう。

(この項 続く)

2017年5月28日日曜日

東芝と日本郵政の巨額損失を主導した戦犯、西室泰三氏の「突出した権力所有欲」(1)

日本郵政・西室泰三社長(ロイター/アフロ)
西室泰三氏は1935年生まれの82歳。東芝の社長、会長を歴任した後、2005年に東京証券取引所の取締役会長に、13年には日本郵政の社長に就任している。経団連の副会長も務めるなど、財界活動も活発に行った。16年2月には検査入院し、3月に日本郵政の社長職、東芝相談役を退任している。以来公の場に姿を見せることはなく、入院加療を続けていると見られる。

 経営者、財界人として華麗な経歴を重ねてきた西室氏だが、退職後に批判が噴出し毀誉褒貶半ばというより、多くの非難を集めるという状況となってきている。


日本郵便元副会長が実名告発



元日本郵便副会長の稲村公望氏が西室氏を批判した記事が話題となっている。「週刊現代」(講談社/5月27日号)記事『日本郵政の巨額損失は東芝から来た西室泰三元社長が悪い』で、「日本郵便元副会長稲村公望氏が実名で告発」という副題がついている。

(この項 続く)

2017年5月27日土曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(8)

実際にはプレイステーションが属する「ゲーム&ネットワークサービス」セグメントは、17年度予想では売上2兆円近くとされ、この巨大企業の立派な柱となっているのだ。そんな製品が現存しているのに、多くのソニーOBやファンはないものねだり、あるいは過去への郷愁を表出しがちなのである。

 前出ダイヤモンドの記事は「コングロマリットを目指すのではなく」と主張しているが、たとえば「金融」セグメントに目を留めてほしい。17年度予想では収入1兆円以上と大きな柱である。それに、営業利益が1700億円と予想されていて、これは対売り上げで15%にもなる。「半導体」以外の製造セグメント各部門では、対売上営業利益率はせいぜい10%だ。

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)が15年に金融事業から撤退すると発表し、株式市場はそれを好感し、ソニーもそれを見習うべきとの指摘もある。しかし、20世紀最大の経営者ジャック・ウェルチがレガシーとして残し、GEの金城湯池だった同事業から撤退したのは、ジェフリー・イメルト会長の大きな失政だと私は思っている。ソニーは粛々とタコ足経営(8事業体制)を進めていけばいい。

 平井社長の「第2次中期経営計画」は17年度に達成される見通しだ。いずれ「第3次」が発表されることだろう。この「凋落ストッパー」経営者が、果たして「中興の祖」とまで呼ばれるようになるか、多いに興味がある。

 蛇足だが平井社長の15年3月期の報酬は5億1300万円と公表されている。通常報酬(退職報酬などではない)としては日本人経営者で最高額だ。第2次、第3次中計を実践、達成していき、「報酬10億円日本人社長」の称号を手にしてもらいたい。

(この項 終わり)

2017年5月26日金曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(7)

複合企業のままで走れ



 前出ダイヤモンドの記事の執筆者はソニーのOBではないが、ソニー愛は深く、同記事で次のように見解も述べている。

「“ウォークマン”のように人々の心に驚きと興奮を与えるモノを、ソニーが創り出すことは可能だろう。今後のソニーの経営には、収益性を重視しつつ攻める姿勢が必要だ。それはコングロマリットを目指すのではなく、新しい技術を使って、人々をワクワクさせる、より良いモノを創るということだ」

 ソニー本などで多くのソニーOBが希求してきたことは、確かにそのようなことなのだろう。同記事ではまた、「新しい技術力を用いた製品のコンセプトをまとめ、それを先進的なデザインと組み合わせることが、ソニーの強さであり、最も強い部分=コアコンピタンスだった」ともしている。異論はなく、ただ私の立場は「そうだった」と強い過去形なだけだ。

「輝けるソニー」が大賀社長時代までだったとしたら、それは20年前の話であり、年商は現在の半分の時代だった。現在、仮にユニークで消費者を真に魅了するようなエレキ製品をソニーが世に送り出せたとしても、この8兆円企業にとってはシングルヒットにしかなり得ない。

(この項 続く)

2017年5月25日木曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(6)

しかし、前述したソニーの17年度セグメント別業績予想に関する私の分析によれば家電製品はすでにソニーの本流ではない。そこをめざしても、売上8兆円ものこの巨大企業を導いていけるようなボリューム感のある製品を送り出すことは難しい。

 歴代社長を振り返ってみたとき、トランジスタラジオやウォークマンのような斬新かつ魅力的で、一世を風靡するような「家電」製品がソニーから出てくる時代は、大賀典雄社長時代(1982~95年在任)で終わった。そのあと、出井伸之社長(1995~2000年在任)以降は、ソニーの組織内からの社長昇格者となり、彼らのアントレプレナー(起業家)的素養は大きく減じてしまっている。平井現社長はアントレプレナーとしての強みではなく、マネジメント能力で勝負していると私は見ている。

 アントレプレナー型ではなく、能吏型の経営者に見える平井社長は、12年から14年までの「第1次中期経営計画」で大不調会社だったソニーの止血作業を行った後、ただちに15年に「第2次中期経営計画」を発表し、実践してきた。
 その最終年となる17年度に目標とした5000億円の営業利益を達成しようとしている。CEO在任5年間の通信簿としては、着実に成果を上げてきたと評価できるだろう。

(この項 続く)

2017年5月24日水曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(5)

平井社長は12年に「第1次中期経営計画」を発表、実施したのだが、それにより1万人もの社員削減、本社ビルの売却、パソコンなど複数の事業売却などを推し進めた。

 この時期、これらの痛みを伴う改革と相まって、平井経営への批判は高まった。ソニーという注目を集め続けている企業に対し、多くの解説本が世に問われ、「ソニー本」と呼ばれている。ソニー本の特徴のひとつは、ソニーOBの方が書いたものが多い、ということだ。

 それらの本の多くは、ソニーが昔持っていた輝かしい家電製品のリリースをなつかしみ、エレクトロクス分野(エレキ)での復権を促している。

 今回、16年3月期の決算発表を解説した記事にも、たとえば次のような記述がある。

「ソニーがかつて消費者に与えてきた、“モノ(製品)を手にする喜び”を高められているかどうかを考えると、その復活は道半ばと考えられる」(5月9日付ダイヤモンドオンライン記事『ソニー好決算で「逆ソニーショック」は起きるか』より)

しかし、、、

(この項 続く)

2017年5月23日火曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(4)

テレビに関しては、5月に入りソニーが有機ELテレビに10年ぶりに参入すると大きく喧伝されたが、実際には韓国LGエレクトロニクスなどからパネルを外部調達することによる展開で、自社による本格的な製造展開ではない。「ブラビア」の主製品である液晶テレビのパネルも、以前から外部調達なのである。
 そもそもソニーはテレビ製造販売から撤退するのではないかとの観測も、昨年まではささやかれていた。15年2月にテレビ事業が分社化された時、私は事業売却の準備の可能性があると指摘した。そんな事業部門が、会社の主流に返り咲くことは考えられない。


電気「製品」から離れていくことで利益が向上する構造



 ソニーは1997年度に最高益を記録して以来、業績凋落の傾向が続き、多くの批判を集めてきた。2011年度に4567億円という過去最大の赤字を計上した直後の12年に平井一夫社長がその舵取りを任され、現在に至っている。

(この項 続く)

2017年5月22日月曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(3)

総合電気メーカーではない、タコ足コングロマリット



 吉田氏は続けて「17年度セグメント別業績見通し」を発表した。ソニーが展開しているすべてのビジネスを8つのセグメント(事業部門)に分解して、それぞれの売上と営業利益の見通しを示したのである。総売上が8兆円、営業利益が5000億円となることは前述の通りだ。

 その発表によると、営業利益でもっとも金額が大きいのは「金融」と「ゲーム&ネットワークサービス」の2事業部門で、それぞれが1700億円。後者にはプレイステーションが属する。それに次ぐのが「半導体」の1200億円。これらの3事業で17年度営業利益総額合計の5000億円のうち4600億円となるという。

 これらの利益構造をみると、ソニーを総合電機メーカーと呼ぶわけにはいかない、とますます思う。つまり従来型のコンシューマー(個人)向けハード機器による利益貢献など、この会社にはないに等しいのだ。

 具体的には、携帯電話(「モバイル・コミュニケーション」セグメント)の17年度予想利益はわずか50億円だし、代表的な家電製品であるテレビが含まれる「イメージング・プロダクツ&ソリューション」セグメントのそれは600億円だ。音響機器が属する「ホームエンタテインメント&サウンド」セグメントのそれも580億円にすぎない。

(この項 続く)

2017年5月21日日曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(2)

営業利益の大幅な伸張




 4月28日の決算発表会では、吉田憲一郎副社長兼CFO(最高財務責任者)が淡々と数字を発表していったのだが、それを聞く限りでは、実は17年3月期のソニー業績は減収減益だった。売上高7兆6000億円は対前年比6.2%減で、営業利益2887億円も対前年比1.9%減となった。

 一見すると後ろ向きの数字だが、16年期にはいくつかの特異的な業績要因がみられた。すなわち、映画分野の営業権の減損1121億円、カメラモジュールの長期性資産の減損239億円、熊本地震の影響による保険収入相殺後の物的損失等154億円、熊本地震に関連する機会損失343億円や、保有株式(エムスリー)の売却益372億円などで、これらを相殺すると実質的な営業利益は4300億円強にも押し上げられることになる。実質的には前年比で50%近くもの大幅伸張だった。

 16年期の実質的に好調な業績を受けて、吉田CFOは18年3月期業績見通しとして売上を8兆円とするとし、加えて「15年2月に発表いたしました、現行中期経営計画の目標である営業利益5000億円以上、ROE10%以上は達成可能と考えております」と述べ、自信を示した。

(この項 続く)

2017年5月20日土曜日

ソニー、倒産危機から完全復活…「魅了する家電製品」不在を嘆く人々の時代錯誤(1)

ソニー HP」より
ソニーは4月28日、2017年3月期決算を発表した。

株式市場はその発表を好感し、直近安値3422円(4月14日終値)から4081円(5月10日終値)へと、4週間で20%も値を上げた。5月10日の終値は52週高値、つまり直近1年間での最高値ともなった。

 競合各社と比べても、ソニーに対する株式市場での評価は高い。時価総額をみてみると、5月12日現在でのソニー株式の時価総額は5兆円を超え、5兆1113億円に達した。同日で業界2位というと三菱電機が3兆5000億円、“津賀改革”で業績を回復してきたパナソニックが3兆3000億円、選択と集中でV字回復を遂げた日立製作所がようやく3兆円を超えるくらいである。

 なぜ、ソニーへの市場評価がここまで高いのか、16年3月期決算から短期的な要因を、そして12年4月からCEO(最高経営責任者)として同社を率いてきた平井一夫社長が実践してきた経営の戦略から、中長期的な道程をみてみよう。

(この項 続く)

2017年5月16日火曜日

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(8)

三越伊勢丹



――今年3月に社長が交代した三越伊勢丹ホールディングスは、どのような手段で再建すればよいと考えていますか。

山田 小売業界で最も業績が優れている大手はイオングループですが、イオングループの収益構造を見ると、小売りよりもテナントの賃料で収益を上げています。イオンモールをつくってテナント料を得るという安定した収益構造になって、いわば小売業からデベロッパーに転換したわけです。

 同じように三越伊勢丹ホールディングスも事業構造を入れ替えて、デベロッパーやショッピングセンターへの転換を図るべきです。これができれば人件費など固定費を大幅に削減することも可能です。

――多くの社長人事を見て思うのは、社長に就任させる人材は育てるものではなく、見つけるものであることです。

山田 確かにそういう面はあると思いますが、それは日本のビジネススクールのあり方にも問題があります。アメリカと違って日本のビジネススクールはこれから経営者を目指す30歳前後の人たちを対象にしていますが、彼らが独立しても成功するかどうかはわかりません。この現状に対して、私が「リーダーズブートキャンプ」を主宰して取り組んでいるのは経営者の教育です。受講者には、一部上場企業の経営者や、受講を経てIPOを果たした経営者などもいます。

 経営者の必須要件は、リーダーシップ、戦略策定力、マネジメント力の3つです。社長になるような人はリーダーシップを身に付けていますし、マネジメント力はルーティンワークが対象なので、これも修得しています。経営者が伸びるには戦略策定力を強化することで、MBA流を叩き込むことが有効です。

――いろいろとリアルなお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。

(この項 終わり)

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(7)

じつは、3月24日の大塚家具の株主総会に出て今後の店舗展開について質問したら、久美子社長はスクラップ・アンド・ビルドによって、いくつかのジャンルの店を計60店舗出店する計画だと回答してきました。

 一方で、久美子社長の業況説明では、固定経費で一番足を引っ張っているのは家賃だというのです。これだけでも戦略的に辻褄が合いません。もし私が経営会議に出席すれば「それはおかしいでしょう。売り上げが伴わなかったらどうするのか?」と質問しますが、答えられない経営者はバツ印です。大塚家具の場合、店舗数をカッシーナの倍の8店舗ぐらいに減らして、富裕層にターゲットを絞れば利益が出るようになると思います。

――その戦略を実施するには、久美子社長の存在がネックになりませんか。

山田 そうです。久美子社長には、経営者の資質がないのではないでしょうか。一昨年に勝久氏を放逐して全権を握り、初めてフリーハンドで経営に当たった最初の通期決算である2016年12月期に、売上高が前期比20%減の463億円、営業利益は前期に4億円でしたが、マイナス46億円に転落させてしまいました。社長としてダメでしょう。

――今後の大塚家具はどうなりそうでしょうか。

山田 ファンドの傘下に入って、ファンドがプロ経営者を送り込んで再建するか、あるいは経営悪化がさらに進行して転落していくか。どちらかになるのではないでしょうか。

(この項 続く)

2017年5月15日月曜日

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(6)

――外部からの経営者の招聘に対して、若い社員は期待することがあっても、幹部になると抵抗したがるのでしょうね。

山田 プロ経営者から見れば、この道数十年の人たちがやってきて、これだけひどい状況になってしまったんじゃないの? と。つまり、これまでのやり方が間違っていたのだから、別のやり方を探しましょうよと。これがプロ経営者の見方です。

――ところで、プロ経営者にとって最も大変な仕事はなんでしょうか。

山田 企業文化を変えることです。これは大変な仕事です。成功した例に稲盛和夫氏が日本航空の企業文化を変えたことが挙げられますが、稲盛氏はプロ経営者として禁じ手を使いました。それは社長在任中に無報酬だったことです。無報酬で懸命に働きかければ、社員はついてきます。しかし、仕事として経営を引き受けるのですから、普通は無報酬で働くわけはいきません。

――やはり無報酬は禁じ手ですか。

山田 それは禁じ手ですよ(笑)。



大塚家具



――本書では、大塚家具にかなりのページを割いて取り上げています。山田さんが大塚家具の再建を依頼されたら、どんな手を打ちますか。

山田 大塚家具は価格のポジショニングを間違えて失敗しました。元会長の大塚勝久氏の時代には高価格帯で手厚い接客という整合性がありましたが、大塚久美子氏が社長になって中価格帯に切り替えて接客も担当制を廃止したら、富裕層に逃げられ、中間層も取り込めませんでした。課題は、価格のポジショニングとターゲット層をどう設定するかです。
 中価格帯と低価格帯に移行すると、ニトリとイケアが待ち構えていますが、ニトリとイケアは製造小売業なので、流通小売りだけの大塚家具は構造的に勝負できません。そう考えると勝久氏の路線は悪くなかったのです。ところが店舗数が多すぎました。反面教師はカッシーナです。富裕層を対象にして日本に4店舗しか設けていません。大塚家具の店舗数は17店舗ですが、縮小均衡を図るべきです。店舗数を減らせば売り上げも減りますが、固定費を削減できて黒字に転換できる道が開けます。

(この項 続く)

2017年5月14日日曜日

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(5)

――抵抗勢力には、どのように対処したのですか。

山田 こんな出来事がありました。2人の副社長と管理本部長の3人が抵抗勢力だった米国系の会社では、3人に辞めてもらいました。副社長の1人が次は自分が社長になれると思っていたのですが、米国の本社はその副社長では力不足と判断して、外部から私を送り込んだのです。すると、この3人が私を着任させまいとして、本社に「山田じゃダメだ」と連絡したりしました。ところが、就業規則に厳密に照らし合わせて叩けば、たいていの経営幹部は何かしら違反を犯しているもので、現にその3人が重大な違反を犯している動かぬ証拠が見つかりました。

――金銭に関する違反ですか。

山田 そうです。そこで本社に「抵抗されているので着任できない。どうするのか?」と報告しました。本社は「就業規則違反のエビデンスもあるし、山田をサポートするから3人を解雇してくれ」と回答してきたので、解雇しました。3人が地位保全の仮処分を裁判所に申請したところ、労働裁判では会社側の敗訴が多いのに、証拠があったので会社側が勝訴したのです。

 抵抗勢力への対処法は、こうした毅然とした方法もあれば、今までよりも処遇を良くするから安心してくださいと笑顔で対処する方法もあります。要するにアメとムチの使い分けです。

(この項 続く)

2017年5月12日金曜日

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(4)

――すると、A評価の幹部の案を採用し、C評価の幹部の案は却下するのですか。

山田 A評価の幹部が担いできたプロジェクトや商品・技術とか、推奨している技術なら良いのではないかと判断しました。フィリップスライティング(現日本フィリップス)の社長に就任したときには、150億円から半減していた年商を就任3年後に3倍に増大させましたが、これはと思う幹部が推奨してきた商品が6つあったので、6つ全部を拡販してみようじゃないかと判断して、戦略商品群と位置付けました。

すると6つのうち、自動車用ヘッドランプとポータブルプロジェクターの2つがものすごく走り出したので、2つを強化したら大ヒットして、年商3倍増に対して半分ぐらいに寄与しました。戦略上で大事なことは、状況はいつも動いているので、固定的でなく走りながら柔軟に考えることで、これは戦略セオリーとしても正しいのです。

 私の場合、社長に就任した6社とも部下を連れていかず、1人で入社しました。その会社従来の土俵で、方法と組み合わせを変えることが戦略です。


抵抗勢力の扱い方



――他の業界から来た社長には、抵抗勢力も出てくると思います。どんな業界でも、他の業界で実績を上げた人に対して「うちの業界を知らない」とか「この業界は甘くない」とか、そういう見方をする人は極めて多いですね。

山田 そうです。社長に着任したときに、部下から面と向かって、そう言われることは珍しくありません。私も何社かで経験しました。部長会で着任の挨拶をしたときに「社長、何々についてはご存じですか?」と抵抗勢力が業界知識を試してきたのです。私は「いえ、知りません。皆さんのほうが詳しいですよね」と。
 相手は、その道数十年ですから、今から私が勉強しても対抗できません。専門知識で勝負するのではなく、専門知識は部下に任せて、それを判断するのが社長の仕事です。多くの場合、選択と集中が有効でした。

(この項 続く)

2017年5月11日木曜日

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(3)

――Aという業界では実績を上げても、Bという業界では通用しなかったでは、プロ経営者とは呼べないわけですね。


山田 それからプロ経営者には重要な要素があります。それは資本家との関係で、プロ経営者は雇われ経営者なのです。藤森氏が退任したのは、LIXILグループの前身であるトステム創業家出身でLIXILグループ取締役会議長の潮田洋一郎氏の主導による人事です。
 
 プロ経営者は高額な報酬のほかにストックオプションを与えられているので、株価を上げれば億単位の収入を手にできますが、株価を上げられなければ資本家から冷徹に退場を促されます。資本家とはドライな関係です。


戦略セオリー



――山田さんがプロ経営者として持たれている、構造的分析と戦略的立案に関する独自のフレームワークについて教えてください。

山田 私には社長に就任した業界の知識も、会社の知識も、技術の専門知識もありませんが、経営のセオリーを知っています。そこで、まず幹部から平社員まで面談を行ってから、幹部一人ひとりに宿題を出しました。これから売上の上がる分野、商品、技術について理由も併せて、2~3週間後に私と1対1でプレゼンテーションしてもらうのです。プレゼンを受けても、私には知識がないので、内容を理解できません。何を判断するのか。それは人物です。

 立論に整合性が取れていて私がスーッと理解できるプレゼンをした人の評価はA、私が「ちょっと待ってくれ」と所々質問をはさんでギクシャクしてしまう人はB、私の質問に対して埒も明かない答えをした人はCと評価しました。Cの人は「今までこのようにやってきた」「この業界のやり方はこうだ」などと抗弁してくるものです。私は業界の素人ですが、プロ経営者には判断力があります。プレゼンを受けて幹部を判断しました。

(この項 続く)

2017年5月10日水曜日

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(2)

――残りの1割は、どのような社長なのですか。


山田 1割もいませんが、プロ経営者です。たとえば、元LIXILグループ社長の藤森義明氏、資生堂社長の魚谷雅彦氏、カルビー会長の松本晃氏。それから私は必ずしもプロ経営者だとは思っていませんが、ローソン会長の玉塚元一氏(5月末で退任)も、世間ではプロ経営者として扱われています。要するに他の業種に移っても、それまで培ってきた本人が築いてきた実績の再現性を期待され、実際にうまく経営できる人で、外資系出身が多いですね。

 どの業界に行っても状況分析ができて、こういう手段を打てばよいと判断できて、実績を上げるのがプロ経営者です。口はばったいのですが、私も外資系4社と日系2社で社長を務め、すべて異なる業種でした。私が社長を務めていた時代にプロ経営者という言葉はなく、私は「企業再生経営者」と呼ばれていました。

(この項 続く)


2017年5月9日火曜日

大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因:対談(1)



構成=小野貴史

ここ数年、東芝やシャープなど日本を代表する企業の経営危機が立て続けに起こるなか、「プロ経営者」の存在が注目を浴びることが多くなった。そこで今回は、プロ経営者としてこれまで数多くの企業再建に携わり、4月に『残念な経営者 誇れる経営者』(ぱる出版)を上梓した山田修氏に、企業再生に必要な条件や具体的手法について話を聞いた。

――山田さんは本書で「9割の日本の社長は経営戦略を勘違いしている」と指摘されています。

山田修氏(以下、山田) 戦略的な思考とは、構造的に物事を見られるかどうかで、日本の経営者にはこれが欠けていることが多いのです。日本の経営者は創業社長、サラリーマン社長、プロ経営者に分けられますが、創業社長とサラリーマン社長が90%以上を占めています。

 創業社長は情熱とエネルギーをもって遮二無二働き、直感勝負をします。構造的分析や戦略的立案などのアプローチではなく、エネルギーのままに突っ走って、成功と失敗に分かれてしまいます。戦略なき経営でも成功して、会社が成り立っている場合もあるのです。

 一方、サラリーマン社長は出世の報酬として社長という職位に就くので、従来の経営を踏襲し、ほかのことはやらないのが基本的なパターンです。社長に指名してくれた先輩を裏切れないことも踏襲の理由で、しかも多くの場合、先輩は会長や顧問、相談役などに就いて影響力を発揮しています。従って戦略的な決断ができにくい環境にあるわけです。こうした意味で、「9割の日本の社長は経営戦略を勘違いしている」といえます。

(この項 続く)