2014年8月30日土曜日

ミラノの思い出 (5)

長生きをすると、見つけない光景を目に出来ることがある。

自分が保持している書類鞄の中に他人の手が手首まで入り、中にあった財布をつかんでまさに取り出しかけている様などは、しかし何人の人が一生の内に見ることができることだろうか。

「あーっつ!!」
私は叫んで、書類鞄を両手で抱え込んだ。左にいたジプシー女は慌てて手を引っ込めた。家人によればその女は首から長いスカーフをたらして、その端で書類鞄を覆って仕事にかかっていたという。

三人は、脱兎のごとく近くのドアからホームに逃げ出した。鞄を保全した私は、ほっとして追おうとまではしなかった。しかし念のために中を改めた私はもう一度叫んでしまった。
「パスポート、パスポートがぁっ!!」

「追いかけるのよ!」
家人が私に叫んだ、、、

(この項 続く)

2014年8月29日金曜日

ミラノの思い出 (4)

ミラノ駅で私たちが乗り込んだのは先頭車両だった。11号車だ。指定席だったのでそこを探し、荷物をあげて席に落ち着こうとしていた。

慌ただしく女性3人組がやって来て頭上の座席番号を指し、まだ通路に立っていた私にイタリア語でまくし立てて来た。そこは彼女たちの席だという。右側の女性が私に話しかけ、左側に立った方が彼女たちの切符を私に示した。

(ダブル・ブッキングか?)
そう思い、私は自分の鞄(書類鞄を持ち出してきていた)を開け、私たちの切符を出し、右側の女性に示した。女性はしかしまたイタリア語でまくし立てている。私は左手に切符を掲げ、右手でそこにある座席番号を指し示して、一生懸命見せようとしていた。右側の女性の顔に向かい、しっかり説明しようとしたわけである。

その時、、、下げていた鞄に何やら違和感を感じた。

(この項 続く)

2014年8月28日木曜日

ミラノの思い出 (3)

これはアル・パチーノだけど、
もっと怖かった
 
「座れ、座るんだっ!」
黒髪短髪、日焼けして精悍なイタリア人刑事が怒鳴った。
「座らないとお前を逮捕するぞ!」
イタリア語が分かるわけではないが、そう言ったのではないか。
(おいおい、こちらは被害者だぞ)
12時半頃から始まった取り調べは、英語を話す女警官を挟んで一時間近く続けられていた。刑事(オフィサー)はパソコンにイタリア語を打ち込みながら私を尋問し、調書としていた。

1時20分を過ぎて、
「私たちの午後のツァーの集合時間が近いので後5分にしてくれ」
と、申し出た。ピサの斜塔行きの日本語ツァーがフィレンツエ駅前から1時45分集合で出発する。
刑事は分かったという顔をしつつ、詳細な質問を続けていた。3回目に同じコトを告げて、私は席を立った。すると、思い切り怒鳴りつけられたのである。

「後5分で終わる」
と、きっぱり言うので腰を降ろした。慌ただしく調書が印刷され、読みもせずに私はサインした。イタリア語だったし。
刑事がドアに行き
「You can go!」
と偉そうに外を指した。慌てて立ち上がった私はドアを出る前に
「Thank you, officer」
と行って、アル・パシーノ刑事に手を出した。意外そうな顔はされたが、怒鳴り合った私たちはしっかり握手をした。

フィレンツエ駅でこんな目にあったのは、そもそもミラノ駅で、、、

(この項 続く)

2014年8月27日水曜日

ミラノの思い出 (2)

フィレンツエ駅も結構大きかった。私たちはミラノ、フィレンツエ、ローマと、鉄道で動く旅程にあった。大阪ー名古屋―東京と移ってくる途中の名古屋駅のようなモノだ。

駅の横に警察署の分署があり、それは日本の交番よりずっと大きかった。しっかり幾つかオフィスが中にあった。私が中に連行されると、家族は外に閉め出された。丁度昼時だったこともあるのか、
「オフィサー(上級刑事)を待て」
と言われ、取調室に待たされた。

30分以上過ぎて、そのオフィサーの部屋に呼ばれた。英語を通訳するという女性警官が横に座った。オフィサーは、、、イタリア人でつまり黒髪、訓練しているのだろう、引き締まった体で、日焼けもしていて精悍な男だった。その分署で上席という貫禄を示していた。

その刑事が私に、、、

(この項 続く)

2014年8月26日火曜日

ミラノの思い出(1)

ミラノ中央駅は、異様に大きい。そして不要に他を圧している。睥睨していると言っていい。
それも道理、この駅はヨーロッパ大戦の勃発を感得していたムッソリーニが国威発揚を図って作らせたという。

イタリア中部に位置するミラノのこの駅からは、南に向かっての列車が出発する。ホームが横に20本も並び、色鮮やかなイタリア特急が入線している様は壮観だ。日本の鉄男君が見たら、泣いて喜びそうな光景だった。

私たちが朝の10時過ぎに乗り込んだ特急には、天井にディスプレイ画面が配置され、種々の情報や後ろに飛んでいく景色などを映し出していた。ちょうど飛行機に備えられているモノと同じだ。その画面がすぐに時速310km到達を告げた。こんなイタリア超特急を知っていたわけでも、ましてや特に指定してきたわけではなかった私たちは、その素晴らしい性能や外観に一驚してそして欣喜した。

特急電車は私たちを乗せて1時間ほど田園地帯を快調に駆け抜けて、やがてその日の目的地であるフィレンツエ駅に到着した。まだお昼になる前だった。ホームに降りた私は、、、駅員に拘束された。
「警察があなたを、、、」

(この項 続く)

2014年8月22日金曜日

孫正義と柳井正 (26) 後継者が育たないユニクロ=柳井正、人に恵まれ伸びしろで優るソフトバンク=孫正義


一方、孫氏は今年まだ56歳であり、時間に恵まれている大経営者といえます。ソフトバンクのグループ内には補佐してくれる人材が豊富ですし、外部には支持してくれる大経営者たちが、それこそ世界中にいます。

孫氏の強みは、何より特定の業界への執着がない、ということにもあります。事業を大胆に発展させていけるのならどんな業界、業態、そして地域にも出ていく強い性向があります。高校から大学までを米国で勉学に励み、語学力とネットワークを磨いてきました。外向的で情熱的な性格は人を魅了します。

 20世紀の日本で最大の名経営者といえば、パナソニック創業者の松下幸之助氏でした。孫氏は「21世紀の松下幸之助」になるのではないかと、私は期待しています。

(この項 終わりました)

2014年8月21日木曜日

孫正義と柳井正 (25) 後継者が育たないユニクロ=柳井正、人に恵まれ伸びしろで優るソフトバンク=孫正義


ソフトバンクのOB経営者は、SBIホールディングスの北尾吉孝社長などのように今でも孫氏と親交を保っている人が多いように見受けられます。

一方、ファストリの場合は、柳井氏に次ぐNo.2になるような、あるいはその候補たるべき人材が外に出た後、柳井氏と親交を続けているという話をあまり聞いたことはありません。

●伸びしろで勝るソフトバンク

日本が誇る創業型の2大名経営者というべき孫氏と柳井氏の今後はどうなるでしょう。大きな要素は、やはり年齢でしょう。
 65歳となった柳井氏は以前から「65歳引退」を公言していましたが、続投することにしましたし、つい最近では
「僕は一生引退できないのではないかと思う」
とまで語り、自身が引き続き経営を主導して事業拡大を目指す意向も表明しています(3月28日付共同通信社インタビュー記事より)。

 ファストリについては、前述したように柳井氏は「孤高の名経営者」という立場です。逆に言えば、この「最高のCEO」に陰りが出た時、同グループの快進撃は止まるような構造になっています。そして、人間に老いは必ず来ます。以前は、「世襲は絶対やらない」と柳井氏は公言していましたが、共同通信記事では「グループ執行役員を務める長男一海氏と次男康治氏の将来の処遇に関して『会長や副会長みたいなことをしてもらったらと考えている』と説明した」と報じられています。正直、驚きの感想を持たざるを得ません。

(この項 続く)

2014年8月20日水曜日

孫正義と柳井正 (24) 後継者が育たないユニクロ=柳井正、人に恵まれ伸びしろで優るソフトバンク=孫正義


柳井氏は結局、自分で熟慮して断行する、そういう自律型の経営者なのではないでしょうか。柳井氏の場合、その能力と性向が強いので、少なくとも経営上の意思決定においては他人の意見を聞く必要がない、と見ることができます。

 他者を必要としない経営者の場合、周りを固めるべき補佐的な経営幹部を必要としません。ですから、残念ながら後継者となる経営幹部が育ちもしません。自律的な経営幹部などは不要なのです。トップがすべて判断し、号令を下すからです。

「柳井さんは自分が経営者として優秀すぎるために、人を信じられない、人に任せられない、そして人を育てられないのではないでしょうか。02年に後任社長に据えた玉塚元一さん(今年5月、ローソン代表取締役に就任)を3年後に解任したのがその象徴です」
 これは「週刊ポスト」(4月11日号/小学館)に私が寄せたコメントですが、実を言うと玉塚さんが去った後の07年の頃、「玉塚さんの後に、特に同社の海外事業と海外M&Aを統括してくれないか」と、私はファストリに誘われました。旧知のヘッドハンターからの依頼だったのですが、柳井氏のようなタイプの創業経営者とはうまくやっていけないだろうと判断して、お会いしに行くことは断りました。

(この項 続く)

2014年8月19日火曜日

孫正義と柳井正 (23) 後継者が育たないユニクロ=柳井正、人に恵まれ伸びしろで優るソフトバンク=孫正義


ユニクロなどを展開するファーストリテイリングCEOの柳井正氏は、社外役員としてソフトバンクの役員会に出席した時の印象を次のように述べています。

「ソフトバンクの役員会は活発ですよ。外から見ていると、ソフトバンクという会社は孫さんがひとりで全部決裁しているような印象がある。だが、実際の役員会はみんなが議論して、物事を決めている。ソフトバンクの役員会に出ていると、孫さんは人の意見に耳を傾ける経営者だと感じます」(『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』<レイ・クロックほか/プレジデント社>より)

●人が居着かないファストリ

柳井氏のこの発言は興味深い。というのは、柳井氏がそう感じるのは、「ファストリの役員会はそうではないのだろう」という推察につながるからです。孫氏がソフトバンクの社外取締役として柳井氏を招いているのに、柳井氏は孫氏に自社の社外取締役を依頼していません。

柳井氏は
「(日本電産社長の)永守(重信)さんと孫さんだけ。この二人だけが、僕が日本で尊敬する経営者だ」(「週刊東洋経済」<12年11月24日号/東洋経済新報社>より)
とまで言っているのに、その孫氏の助言を自社に対しては正式のものとしては依頼していないのです。


(この項 続く)

2014年8月18日月曜日

孫正義と柳井正 (22) 後継者が育たないユニクロ=柳井正、人に恵まれ伸びしろで優るソフトバンク=孫正義

大車輪で業容拡大を続けているソフトバンクは、世間では孫氏のワンマン会社のように受け止められることが多い。しかし実態としては、孫氏の周りにはそうそうたる一騎当千の幹部たちが集結しているようです。青野さんのほかにも宮川潤一氏、宮内謙氏、笠井和彦氏など、それぞれで大事業を率いていけるような経営者たちが孫氏を支えています。
 また米カリフォルニア大学バークレー校卒ということもあり、孫氏は海外の経営者にも知己が多い。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が来日すると真っ先に訪問するのが孫氏ですし、ソフトバンクの社外取締役にもアリババCEOのユン・マー氏がいます。創業者スティーブ・ジョブズ亡き後にアップルCEOとなったティム・クック氏とも良好な関係を深めています。孫氏自身も海外における軸足づくりが重要と考えているようで、2013年には米シリコン・バレーに100億円を超えるといわれる、目を剥くような大豪邸を購入しました。

(この項 続く)

2014年8月17日日曜日

孫正義と柳井正 (21) 後継者が育たないユニクロ=柳井正、人に恵まれ伸びしろで優るソフトバンク=孫正義

孫氏と柳井氏を対比するシリーズは、2014年4月18日から開始している。下記が第1回記事。
 http://yamadaosamu.blogspot.jp/2014/04/blog-post_28.html

ソフトバンク・グループ全体の人事組織を統括している青野史寛(ふみひろ)執行役員に昨年、筆者が運営する「経営者ブートキャンプ」で特別講師として講演を行っていただきましたが、その時の話がとても面白かったので紹介します。

「当時、社員総勢2000人だったソフトバンクが、新卒を3000人採用することになり、私が外部コンサルとして総指揮を執ることになりました」
 その時、青野氏はコンサルタント会社の役員を務めていました。
「プロジェクトの途中で、ソフトバンクの孫正義社長と話す機会がありました。2時間近く熱く語られ、最後に『オレのこの夢に乗れー!』と叫ばれたのです。私は思わず『乗った-!』と叫んでしまいました。後先のことは考えなかった、考えられませんでした」

(この項 続く)

2014年8月16日土曜日

旭硝子 石村和彦社長 美談の終焉(2)

「カンブリア宮殿」の中で同社の液晶TV用ガラスの手柄として
「現在同社グループ全体の利益の90%以上をたたき出している」
と、されたのだ。

これに私は首をかしげ、クラスで
「それ以外の製品を止めたら、凄いことになるはずだけどね」
と話した。

売上げが1兆4千億円規模の同グループである。液晶TV用ガラスだけの売上げが幾らあるか知らないが(それを知る必要もない、戦略とは構造的な状況を認知すればよいのだ)、そんな構造は強めるのか、弱めるべきなのか。

「カンブリア宮殿」で社長が過去の成功譚を麗々と述べてすぐ、同社は今年の業績を下方修正するという体たらくを示した。
旭硝子、業績を下方修正
主な要因が自慢した「液晶TV用ガラスの価格下落」という。

一方で他の事業を何とかてこ入れしなければとも感づいたらしく、7月23日に突如として(6年8ヶ月ぶりに)建築用ガラスの値上げを発表した。3大メーカーの残り、日本板硝子とセントラル硝子が直ちに追随したという所に、あるきな臭さを私は感じるが、それはここでは述べない。

旭硝子よ、どこに行く、どこに漂っていくのか。

(この項 終わり)

旭硝子 石村和彦社長 美談の終焉

「カンブリア宮殿」(テレビ東京)に石村社長が登場したのが今年の7月10日のことだった。

液晶TV用ガラスの製造装置を数千億円だかかけて設置したが、歩留まりが出ず、何と5年間もかけて軌道に乗せた、という話しが村上龍によって紹介された。この間技術責任者として石村氏(社長就任は後の話し)が対応した、という。

「5年も、、、」
私は驚き、その話を7月の経営者ブートキャンプで披露した。ただし、もう一つのポイントを付け加えた。
「この会社が液晶用ガラス以外の全ての製造販売を取りやめられたら」
と、指摘したのである。

というのは、、、

(この項 続く)

2014年8月14日木曜日

『「色あせない成功」を求めて』ハワード・スティーブンソン他 書評207(3)

「経営者の真の成功」には4つの必須要素があるとされた。経営者が自らの「成功」を顧みるとき、次の4つの視点から考える、すなわちカレイドスコープ(万華鏡)的な視点が必要だ、というのだ。

1)幸福感:人生から喜びと満足感を得ること。
2)達成感:何かの業績で他に抜きんでること。
3)存在意義:身近な人にとって意味のある存在であること。
4)育成:自分の価値観や業績によって、だれかの未来の成功を助けること。

スティーブンスン教授が論じたこのような視点は、他の経営書で見ることが少なかった。それだけにハラに染み入る内容ではないか。HBSを通過していく、大成功が約束された未来のCEOたち、そんな連中がこの教授を慕う気分が理解できた気がする。

上記4点のうち、私はどうだろう。3)は自分で採点するモノではない。実業を引退して、コンサルあるいは著述業に転身してきて今痛切に自覚しているのは4)の分野だ。恩師故水谷栄二先生が示してくれた道をどれだけ自分も歩いていてけるのだろうか。

(この項 終わり)

2014年8月12日火曜日

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【主催】株式会社 経営者JP
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『「色あせない成功」を求めて』ハワード・スティーブンソン他 書評207(2)

「カレイドスコープ」とは、「万華鏡」のことだ。本論文の要旨は、
「経営者の幸福ーつまり『本当の成功』ーは複眼視されるべきだ」
というものである。

つまり、経営論文としては珍しく、「経営:ビジネス」の成功ではなく、「経営者:個人」の幸福を論じている。そしてこのような視点を有することにこそ、スティーブンソンがビジネススクール教授として稀有に慕われている点なのだろう。

この論文は、学術論文としてはお手軽なモノだ。というのは、HBSが主宰するAMPに集まる「世界で成功しているエグゼクティブ」100名足らずを聞き取り調査したことをベースにしている。調査研究のため、どこに足を運んだというわけでもない。ちなみにHBSのAMPについてはこの拙ブログでも紹介していて、その記事である。
ハーバードAMP

スティーブンソン教授が指摘した「経営者の真の成功」とは、しかし結構な説得力と何よりユニークな視点を持っている。それは、、、

(この項 続く)

2014年8月11日月曜日

『「色あせない成功」を求めて』ハワード・スティーブンソン他 書評207(1)

今月は、8月2日からHBSのハワード・スティーブンソン教授の文献を取り上げて来た。

これは「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー」誌の2004年7月号に収載されたモノ。Laura Nash(HBSシニア・フェロー)との共著Tools for Creating Success in Tour Work and Life(John Wiley & Sons社)を要約したとされている。本論文の原題は
Success That Lasts

ここまで何点か彼の文献を取り上げてきたが、これもまた単著ではない。しかし、この文献を取り寄せて通読し、ようやくスティーブンソン教授の魅力が私には理解できてきた。

本論文には
「カレイドスコープ思考で見つめ直す」
という副題が付いているのだが、それは、、、

(この項 続く)

2014年8月9日土曜日

J1鳥栖の尹監督解任 おかしい!

サッカーJ1リーグで1位を走っていたサガン鳥栖が突然8日、尹晶煥(ユンジョンファン)監督(41)との契約を7日付で解除したと発表した。事実上の解任。
関連ニュース

報道によると、クラブ側永井強化部長が
「試合後の選手への気配り、控え選手への気遣いなどの面でクラブの理想とは一致せず、6日に解任を伝えた」
と説明したという。さらに永井部長は
「苦しい時期が来た時、チームワークを強固にするという部分では尹監督ではないと判断した」
と話したそうだ。

おかしいと思う。このクラブ(会社)は組織の「目的と手段」を取り違えている。

組織(この場合は戦うスポーツ・チーム)の目標とは勝つことであり、優勝することだ。選手のモチベーションを上げるとは、目標に対する手段である。ましてや、控えの選手のモチベーションを上げろ、というのは現場の経営者(監督)に対する矛盾する要求となる。安定して強力なレギュラー陣が組織されれば、控えが試合に出るチャンスは少なくなる。しかし、それで勝てればいいのだ。出られない選手のモチベーションなどに配慮している余裕など無い。経営と同じで、限られた経営資源を有効活用する。それは優先順位を付けて対処していくことに他ならない。

サガン鳥栖は現在をピークとして、今後ダッチロールしていくことになる。例によって予言しておく。

2014年8月8日金曜日

『ハーバード・ビジネススクール「これから」を生きるための授業 』エリック シノウェイ他 書評206

三笠書房、2013年刊。帯に、
「ハワード先生から働く私たちへ、『人生の教科書』」
とある。
「ハーバードでもっとも影響力のある名物教授!!」
とも。

書評205で取り上げた本に続いて、けったいな書物だ。内容ではなく、まずその体裁である。ハワード・スティーブンスンはアカデミックな単著が見受けられない、と前に書いた。ところが、お弟子さん(本書の著者二人)が同教授の教えを、本人に代わって叙述するという、このような書物が出ている。

しかも訳者がライフネット生命保険社長の岩瀬大輔氏。同社の出口治明会長は経営者ブートキャンプで何度も特別講師をお願いしている。岩瀬氏は出口さんがかねがね自慢の共同創業経営者で、若手俊英の経営者だ。HBS留学時にスティーブンスン教授の薫陶を受けたので、本書の翻訳をなさったらしい。

自分はまともな本(学術書という意味だが)を書かないのに、かくも周囲からは持て囃されるスティーブンスンという人は、一体どういう人なのだろうか。

(この項 書評207へ続く)

2014年8月7日木曜日

中野サンプラザで講演 「こうすれば部下は育ち、チームが成長する」

変革著しい中野のランドマークで経営セミナー。2時間。
「こうすれば部下は育ち、チームが成長する」
百数十名の経営者及び経営幹部が参加。

「みんな等しく育てるな」
「通信簿で言う”5”を取る社員は誰だ?」
「企業は組織だ、組織の三要素とは、ヒト、ジョブ・スペック、組み合わせ」
「モチベーションを高める3つとは?」
「カリスマとコミュニケーション力」
「最後は覚悟と責任」
など。

質問も活発に出た。帰りのエレベーターで
「自分のカリスマは、、」
などと、参加者の方たち同士が大きな声で話し合っていた。お役に立てたようで。

2014年8月6日水曜日

『スチーブンソン教授に経営を学ぶ』ハワード スチーブンソン、ジェフリー クルックシャンク 書評205(3)

途中にこうある。
「これまでに学んだことは何だろう。(略)予測が重要で難しいと言うことだ」
178ページ、つまり本書のほぼ半分を使って言ったことがそれだ。
「予測が重要で難しい」?
素晴らしく新しいセオリーで、革新的な経営論だと感心、、

本書のこれ以降、つまり後半はその難しい予測を少しでも高めるべくいろいろな情報や思考を駆使しなければならない、としている。古今東西の歴史や社会学、最近のテクノロジーや心理学まで「人が知っていそうもない」つまりトリビア的な知見を披歴しながら「予測可能性を高めよう」と呼びかけている。しかし、具体的に「こうすれば予測可能性が高まる」という整理された形(セオリー)で提示しているわけではない。

430ページを費やしている本書を要約すると、こうだ。
「予測をすることは大切だけど難しい、だからみんな頑張れ」
スティーブンスン先生と接していない読者は、励まされているというより馬鹿にされた気がしないか。

しかし、この先生は実際に接する生徒を本当に魅了しているらしく、それは次の文献でも知ることができる。

(この項 書評206に続く)


2014年8月5日火曜日

『スチーブンソン教授に経営を学ぶ』ハワード スチーブンソン、ジェフリー クルックシャンク 書評205(2)

430ページ程からなる本書には、巻末に70ページにもわたる原注があり、参考文献リストに代えられている。

体裁からいうと学術書なのだが、スチーブンスン氏がHBS教授に就任した3年目に「誰か若年経営者に語りかける」というような、学者が本格処女著作を上梓するには珍しい筆致を選択している。

だから実は誰でも書けるエッセーみたいなモノだ。そしてエッセーとしても恐ろしく空虚な書物で、というのは、、、

(この項 続く)


2014年8月4日月曜日

『スチーブンソン教授に経営を学ぶ』ハワード スチーブンソン、ジェフリー クルックシャンク 書評205(1)

200年刊、日経BP社。

変な名前の書名と思わないか。私が自著に「山田修に学ぶ」とでもしたら、違和感を感じるだろう。(共著ではあるが)著者の主張のテーマがタイトルに掲げられていない。

だからこれは、、
変な本なのだ。

原書名はDo Lunch or Be Lunch(食うか食われるか)という。そんな厳しいビジネス社会で、経営者は、特に企業家はどう勝ち残っていくか、という内容の本である。

仕立てはよいので、その内容に大いに期待が持たれる。しかも著者と言えば、ということだし。しかし、内容の余りの乏しさに訳者も日経BP社も困って変わったタイトルにしたのだろう。
「あのHBSで伝説となっている教授の話を聞け!」
というのが日本タイトルのメッセージかと思う。

つまり、羊頭狗肉(中身の犬肉を羊の頭:タイトルでごまかす)という仕掛けだ。私がこんなことを言うのは、、、

(この項 続く)


ハワード・スティーブンスン アントレプレナーシップのグル(2)

ところが、ハワード・スティーブンスンの文献を見つけるのに一苦労した。翻訳文献が少ないので、英語のオリジナル文献も見てみたが、単著のブック(学術書)が少ない。

HBSでケースを200も書いたといっても、あれは言ってみれば簡単なモノ、しかも自分の見方を表さないものだから、学者の業績とは言わないだろう。その他の論文や記事レベルの文献も、圧倒的に共著が多い。もしかしたら共著者のお弟子さんの方が、と思ってしまう。

HBSで25年以上教授を務めていて、アントレプレナーシップ(企業家論)のグルとしての扱いを受けている。日本で言えば、私の恩師だった清成忠男先生(元法政大学総長)のような位置にあるヒトだろう。

スティーブンスンの業績を追ってみて私が得た印象は、
「このヒトは学者ではなく、教育者なのだな」
ということだ。

そのスティーブンスンが著した数少ない厚さのある著作が『スチーブンソン教授に経営を学ぶ』(日経BP社)なのだけど、、、


(この項 書評205として続く)

2014年8月3日日曜日

ハワード・スティーブンスン アントレプレナーシップのグル(1)

ハワード・スティーブンスンはHBSで長年(25年以上)教授を務めている。専攻はアントレプレナーシップ(企業家論)だ。HBSで教材となり世界のビジネス・スクールで採用されるケース・スタディを200以上書いているそうだ。

彼の教授在任期間中、HBSでのアントレプレナーシップ関連の教員の数は5名から30名に増えているそうだ。在任期間の長さに加えて、長老格のようなステータスから、「アントレプレナーシップのグル(教祖)」という表現を当てられることが多いそうだ。

(アントレプレナーと言えば、シリコンバレーを擁する西海岸がメッカだったのでは?)
などという私の認識はどうも、、、

経営者ブートキャンプのクラスで、スティーブンスンを報告して貰うので、私も彼の書物を当たってみた。ところが、、、

(この項 続く)

新将命氏 経営者ブートキャンプに出講

経営者ブートキャンプの9期全7講も、8/2(土)に第5講となった。

午前中は『経営戦略全史』(三谷宏治、ディスカヴァー・レボリューションズ) の続きをクラス講読。今日は、「ベスト・プラクティス」と「アントレプレナーシップ」の項を二人に報告して貰い、討議した。「アントレプレナーシップ」のグル、ハワード・スティーブンスンについては、本ブログで項を改めて書くことにする。

午後は私が「極め打ち戦略」の続きを1時間。新将命(あたらしまさみ)特別講師の講義が1時間半。
その後小グループに分かれての、戦略策定途中経過の発表と討議を二部屋で二駒ずつ行う。片方には新将命講師もコメンテーターに入って貰う、という構成。あの新将命氏から親しく50分ずつ自社事例についてコメントして貰った社長が二人出た。

2014年8月1日金曜日

「人材は抜擢して育てる」 講演

千葉市で開かれた経営セミナーで講演会。2時間。
「強い組織づくり 人材は抜擢して育てる」

某団体の年次経営勉強会。県下110名の社長さんが集まってくれた。

「みんな等しく育てるな」
「通信簿で言う”5”を取る社員は誰だ?」
「企業は組織だ、組織の三要素とは、ヒト、ジョブ・スペック、組み合わせ」
「モチベーションを高める3つとは?」
「カリスマとコミュニケーション力」
「最後は覚悟と責任」
など。

ビシっとした手応え。くいいるように聞いてくれた。