2014年10月27日月曜日

ユーシン社長公募 なぜ失敗? (6)



「報酬条件を上げたとしても、「自分の会社を辞めてここに来ようとするわけで、社内ではあまり優遇されていなかった人」を排除できるとは思えない。しかし2月16日に募集広告を出したところ、この2月20日のインタビュー時点で、40~50名の応募者がすでにいるとも田邊氏は明かしていた。

「業界不問、国籍不問と打ち出したら、他業界からや外国人の応募もあった。すでに4人内定していて、その中には外国人もいる。募集期間は3月3日まであるので、あと2人くらい足して、最終的には6人くらいになると思う」(同)

 それにしても、有力候補との一次面接のスケジュールさえ決まってないはずのタイミングである募集4日目にして「すでに4人内定」というのは、どういうことだろうか。

筆者は何度も「雇われ社長」として採用される側に立ち、外資本社、資本家、オーナー経営者などとの面談に臨んできた経験があるが、注意深く避けてきた相手が、「大言、迷言」そして「妄言」を繰り出す人がテーブルの向こう側に出てきた場合だった(筆者の一般的な体験であり、田邊氏に対する論評ではない)。

(この項 終わり)

2014年10月26日日曜日

ユーシン社長公募 なぜ失敗? (5)



一方、雇用主側からすると配慮、度量を示し切らなければ、一流の人材が懐に入ってくるわけがない。大経営者なら「惻隠の情」を持たなければならないし、示さなければならない。
 
この2回目の公募について、前出・東洋経済オンライン記事のインタビューで田邊氏は次のように語っていた。

「前回は条件設定がまずかった。一つは報酬。今回は社長就任時の報酬を『最低でも1億円』と打ち出した(前回は入社時年俸3500万円以上)。1億円というのは、普通のサラリーマンでは稼げない額。今の会社で優遇されている人間にも、十分魅力的だろう。履歴書や面接では、今の会社内でどのような課題に直面し、解決してきたかを重点的に見ている。今のところ、いい人が集まっていると思う」(同)
 

(この項 続く)

2014年10月25日土曜日

ユーシン社長公募 なぜ失敗? (4)




「今更何を」
というのが筆者の感想だが、その厳選採用されたY氏についてはこう述べている。

「Y君はウソをつかないし、人格的には本当にいい男だったが、商売には向いていなかった。立派な人間でも、経営に向かないことはある。(略)当時、『Y君のほかに社長候補はいない』と話していた。(2011年秋に)メキシコの新工場の建設担当として現地に行ってもらおうと考えていたが実現せず、結局、Y君はほかの会社へ行ってしまった。僕の中ではメキシコ行きがなくなった時点で、もう社長にするのは難しいという気持ちがあった」(同)

 筆者もかつて「雇われ社長」の経験を数多くしているため痛感するのだが、Y氏の立場からすれば、このような気まぐれな雇用主と遭遇してしまったのは不幸なこととしかいいようがない。自分のキャリアというのはそれぞれ一生に一回しかないのだ。「リスクを取る」のが自分だとしても、その席を追われてからもこんな具合に雇用主に論評されるのは堪えられないことだろう。

(この項 続く)



2014年10月23日木曜日

ユーシン社長公募 なぜ失敗? (3)




2度目の募集について、田邊氏は次のようにインタビューで語っている。
「再び社長公募に踏み切った理由は。うちの中に人材がいないからだ。ヘッドハンターにも頼んだが、なかなかいい人材を見つけられなかった。だったら、うちに来たいと手を挙げてくれる人がいいだろうとなった」(2月20日付東洋経済オンライン記事より)

●2度目の社長公募も中止、迷走する後継者選び


 10年7月に行われた1回目の社長公募は、上場会社がそんなことをしたのが前代未聞だということで随分話題になったが、それについて田邊氏は次のように振り返っている。
「一度目の公募は失敗だった。応募者は1,740人集まったが、みんな自分の会社を辞めてここに来ようとするわけで、社内ではあまり優遇されていなかった人なのではないかと思う。そういう人は、元来、好ましくない」(同)

「今さら何を」というのが

(この項 続く)
 

2014年10月22日水曜日

ユーシン社長公募 なぜ失敗? (2)



筆者は同年8月19日付ブログ記事http://yamadaosamu.blogspot.jp/2011/08/blog-post_19.htmlで、次のように書いていた。

「つまるところ、オーナー経営者である田邊氏が禅譲したくないのだ。(略)今回もY氏は結局は社長就任に至らないか、短期日でその職を追われることになるだろう。49才?まだ若いのにお気の毒なことに」

 今回、ユーシンの次期社長選びを取り上げたのには2つの理由がある。 1つ目の理由は、本連載タイトルを『和根洋栽:日本の会社に外資のトップ』としたこと。Y氏は“外”資出身ではないが“外”務省出身なので、ということだ。日系企業との組織文化の違いの幅が、外資系より上級官僚のほうがより大きいため、興味深い事例だと考えられたからだ。

 2つ目の理由は、同社は今年に入り、また社長公募を発表して話題を集めたからだ。2月16日に「社長候補求む!」という広告を全国紙に打ったが、この2度目の募集について、田邊氏は次のようにインタビューで語っている。

(この項 続く)


2014年10月20日月曜日

ユーシン社長公募 なぜ失敗? (1)


 



●注目を集めたユーシンの社長選び

 ブログ機能の一つに「最近の人気記事」をいくつか表示するというものがある。筆者のブログでは、ここ数年来必ず上位に表示されている「定番人気記事」が、『ユーシン 社長公募その後(2) 結局、、』という記事だ。2012年5月に掲載した記事なのに、いまだに読まれ続けている。それどころか、1500以上ある過去の全記事の中で累積アクセス数が1位、それも2位を2倍以上離しての断トツ人気である。


 ユーシン社は10~11年にかけ、上場会社として珍しく社長を公募した。1722人もの応募があり、外務官僚のY氏(当時49才)が採用され、社長代行として就任した。

ところが11年8月の臨時株主総会で同社は、社長昇格人事の先送りと田邊耕二現社長(同77才)の会長兼務を決定した。筆者は同年8月19日付ブログ記事http://yamadaosamu.blogspot.jp/2011/08/blog-post_19.html
で、次のように書いていた。

(この項 続く)

2014年10月18日土曜日

『日本電産 永守重信、世界一への方程式』(田村健司) 書評213(3)

M&Aした会社にまず求めるのは徹底したコスト削減だ。それが精神論ではなく、「売上げ1億円に対して販管費500万円まで」など具体的な数値目標が掲げられる。

「社員モラル」なら「出勤率98%以上」、「生産体制」なら「大型設備は月30日24時間稼働(1日メンテ)」など、優先順位の示しと数値目標が具体的だ。

財務ではキャッシュ・フローを重視するという。そう、財務指標をあれこれ挙げる会社があるが、私は経常利益とキャッシュフローだけを社長は良好に保っていればいいという立場だ。

これ以外にも、それこそ無数と言うほど実施してきた永守M&A経営の要諦がよく書き出されている書と言える。それに加えて永守社長の働きぶり!いや、とても敵わないが、模範目標と是非したい。学びが本当に多い経営者だ。現役経営者の皆さんには是非食いついて欲しい。

(この項 終わり)

2014年10月17日金曜日

『日本電産 永守重信、世界一への方程式』(田村健司) 書評213(2)

まず敵対的買収はしない、ということだ。1回だけTOB(公開買い付け)を仕掛けたところ相手企業が忌避防御をして成就しなかった、とある。それ以来、時間を掛けても友好的なM&Aに徹しているとのこと。

次に高づかみの買い物はしない、という原則を貫いていること。具体的にはEBITDAで10倍以上の会社は諦めるとしている。

三つ目は、相手方会社の経営陣の入れ替えやリストラは行わない、ということだ。永守氏自身が会長として取締役には連なる。買収先の人材や技術こそがターゲットだということだし、この方法により先方のモチベーションが保たれるという。

これらの原則を保持した上で、M&A直後の関与はとても徹底している。例えば、、、

(この項 続く)

2014年10月16日木曜日

『日本電産 永守重信、世界一への方程式』(田村健司) 書評213(1)

日経BP社、2013年刊。永守社長と柳井社長のトークショーに出かけたので、永守本を何冊か取り寄せた。柳井本の方は正直結構読んだので、今日は永守本をとりあげる。

著者は日経BP誌の記者で長年日本電産と永守社長を取材し続けてきたという。こういう経営本は、経営者本人より、取材者やドキュメント作家が書いた方が客観的でかつ経緯を詳らかに出来ることがある。本作は、成功した方の例だ。

日本で創業社長にして「兆円単位」の事業を育てたのは、他にも例を挙げることが出来る。しかし、M&Aという手法を早くから駆使して、しかも数十社にのぼる外部の会社を統合してここまで成長させた経営者としては永守社長しかいない。その経営技法は大いに注目に値するし、only oneと言える経営者であり事業家だ。

何十件というM&Aを経て永守社長が練り上げたその技法とは本書によれば、例えば次のようなものが有る。

(この項 続く)

2014年10月14日火曜日

経営2大スター、夢の競演(4)

時間の使い方
「朝一番を大切に」(永守) とても早起きらしい(山田)
「6時出社、3時退社、会議は15分。ハードシンキングで行く」(柳井)

社員の活用法
「喜んで仕事をして貰うことを考える」(永守)

後継者
「自分のスタイルでは失敗する。チームでの経営に移行。DNAを維持、そしてベクトルに合ったヒト。結果、中で育ったヒト。結果を出せるヒト」(柳井) えっ、分かっているの?(山田)
「創業者は引退できない。任命はする。迷惑は掛けない。息子にはさせない」(柳井)  どうなるか?(山田)
「息子は在社していない。人材は世界から。集団指導経営体制に。5-10兆円規模を目指す。創業者は会長としてオーナー責任を果たす」(永守)

興味深い対談会だった。永守氏を初めて見たし。
21世紀の松下幸之助は、しかしやはり孫正義かな。


(この項 終わり)

2014年10月13日月曜日

経営2大スター、夢の競演(3)

M&A
「赤字会社は安く買える。開発力と人材を買う。再建はしなければならない。日本の経営者で欧米人を使えるヒトはとても少ない」(永守)
「50社以上を買って、大失敗はない。『条件』を決めている。少し当社と合わなくても変える」(永守)
「相当失敗した。失敗から学んだ」(柳井)

苦しいときは?
「ホラを吹いて、楽観的に振る舞う。危機感があっても、将来の夢しか語らない」(永守)
「カネがないときが苦しかった。成長したいのに、資金が無かったときだ。誇大妄想狂になり、それを語れ」(柳井)

叱り方
「叱り方には10種類有るが、重要なのはアフターケア。付き合いが身時間部下ほど、アフターケアを手厚く。関心を持って上げること」(永守)
「逃げ道を作る。”こうすればよくなる”仲間なんだ。人格は大切に」(柳井) 柳井社長が叱り上手という印象は持っていなかったが?(これは山田のひとりごと)

(この項 続く)

2014年10月12日日曜日

経営2大スター、夢の競演(2)

孫正義氏を囲んでトライアングルが形成されている3社長は互敬の念が強く感じられる。

「永守社長のファンです。考え方、熱心さ、信頼できます」(柳井)
「上場するまでは、執務時間もハードワークだった。とにかく『気概と執念』、頭だけでは駄目」(永守)
「長期に繁栄している会社は全て規律正しく、一生懸命だ」(柳井)

「年商ゼロから10億円の時代が一番厳しかった。1兆円から10兆円は楽だろう」(永守)
「成長、それも収益を伴った成長だ。5兆円を目指す」(柳井)

人材
「シャープ社長だった片山を招聘した。自分は減点主義ではヒトを見ない」(永守)
「経営は実行、勉強ではない。頭のいい人は先が見えてしまう。分析してしまうんだ」(柳井)

(この項 続く)

経営2大スター、夢の競演(1)

私にとっての「ヒーロー経営者」であるお二人が対談をするという豪華セミナーがあり、駆けつけた。特に永守社長が公開の講演などに登壇する機会をあまり見かけないので、貴重に感じた。

柳井社長はよくマスコミに露出するので、話し方にもその主張にも親和感を持った。私自身、ユニクロ本、柳井本はずいぶんカバーしたし、自著でユニクロ・ケースは結構取り上げてきた。だから柳井氏のお話しの様子には既視感まで感じた。天才経営者であることは間違いない。

永守社長は年長である(80才近い)し、社長歴が20年以上と長いので、大物感たっぷりだった。

このお二人の共通点というのが、ソフトバンク社の社外取締役だという。永守氏は今年就任した。あの孫氏が、永守氏が第1回目に登場した役員会で
「さすがの質問だ」
と感心したという。

この二人がセミナーのステージ上でどんなことを話したかというと、、、

(この項 続く)

2014年10月11日土曜日

『リーダーになる』(ウォレン・ベニス ) 書評212(3)


著者は教授なので学者な訳だ。だから本書は学術書、少なくともその手法を踏んでいることが期待される。

本書によれば、著者は「アメリカを代表する優秀な男女」である28名(具体名と略歴が掲げられている)をインタビューして、「リーダーに必要な要素」などを抽出した、としている。そして、例えば「リーダー基本要素5つ」なるものを掲げている。

しかし、「インタビュー」での共通設問や、その設計などは示されていない。それがなければ、著者はそれぞれの著名人とただお茶を飲んで来ただけではないのか。

そして、28名から例えば「リーダーにとって重要な要素」というのは100でも200でも出て来たに違いない。対象ときちんとインタビューできたとしたら、必ずそうなる。とすると、それら100-200有った項目から、著者はどうやって「5つの重要」を抽出したのか。4つでも、6つでも、あるいは捨てた項目から私なら別の項目を拾ったのではないか。また別の人なら別の項目を、、、

著者の方法論をこのように分析してみると、結局インタビューなど無いままに勝手なエッセーを書いても同様な主張となり得る。著者の価値観を排除した学問としてのしっかりした研究方法論が無ければ、研究者の主観でデータをどうにでも操作できるのだ。

経営学が社会学だということで、このようなアプローチが横行している。

同じ著者のさらに旧著『本物のリーダーとは何か』ウォレン・ベニス 書評96 について拙ブログで以前に書評を書いている。
http://yamadaosamu.blogspot.jp/2011/10/blog-post_23.html

(この項 終わり)

2014年10月10日金曜日

『リーダーになる』(ウォレン・ベニス ) 書評212(2)

ドラッカーとトム・ピータース。この大立て者二人の推薦文はしかし、本書の内容を褒めていない。

「ベニスのもっとも重要な著作。」ピーター・ドラッカー。「他はよっぽど非道いのか」とドラッカーに尋ねたい。
「これ以上に重様なテーマはない。」トム・ピータース。それで、、、本書の出来はどうなの?お茶を濁したな。

第1章のほぼ冒頭で著者はこう始めている。
「あらゆるものが変化している」
この陳腐な出だしは、それだけで私の読書欲を大いにそいだ。
「この本がオリジナルな見識を多く有しているはずがない」
と心ある読者なら理解し、幻滅する。

しかし本書の問題は、調査方法と結論の「建て付け」で、それは大いに問題となるのであるが、、、

(この項 続く)

2014年10月9日木曜日

『リーダーになる』(ウォレン・ベニス ) 書評212(1)

原書が1989年、増補改訂版が2003年。翻訳版は海と月社、2008年刊。私の手元に届いたバージョンは、2013年第9刷り、ということで結構人気がある本らしい。

著者は南カリフォルニア大の教授で、同校のリーダーシップ・インスティテュートの創立者。初版序文の書き出しは、
「この数十年間、私はほとんどの時間をリーダーシップの研究に捧げてきた」
という啖呵で始まっている。

こういう啖呵に私は著者の虚勢を読んでしまう。

本の帯がまた凄い。ドラッカーが
「ベニスのもっとも重要な著作。」
としているし、トム・ピーターズは
「本書に書かれていること以上に重要なテーマはない。」
としている。

でもしかし、この大立て者二人の推薦文は、、、

(この項 続く)

2014年10月8日水曜日

マクドナルド営業赤字 41年ぶり 原田泳幸氏の強運 

日本マクドナルドホールディングス
が2014年の業績見通しを下方修正、発表した(10月7日)。

鶏肉問題が発生した7月以降、既存店ベースの売上げは前年同月を20%前後も下回り、年間では昨対-15%減、営業損益は41年ぶりの赤字となる94億円を見込んでいる、としている。

今日はマックの話ではなく、原田泳幸氏のことだ。原田氏は6月にベネッセホールディングス会長兼社長へ転出就任していた。私は丁度本ブログで9月5日から10回にわたり原田氏のことを取り上げたばかりだった。今日の記事は、その連載の第11回目というか、フォローとして読んで貰ってくれても良い。
http://yamadaosamu.blogspot.jp/2014/09/blog-post_5.html

「世界一のプロ経営者」を自称する氏がベネッセ会長に就任して早々に直面した顧客情報流出事件を私は同連載で「原田氏にとっての強運」と解説した。

マグドナルドでの経営者晩年で、その業績の停滞によって原田氏への評価が揺らいだ。しかし今回の業績見直し発表では、原田氏が去った後の同社の業績は今年どうなってしまったのか、ということである。何しろ「41年ぶりの」と呼ばれる業績悪化だ。

もちろん中国でのチキンの取り扱いというインシデントがあった。しかしそれに対する対応も新経営陣の責任となる。公認のサラ・カサノバ社長が事態をうまく仕切っているようには見えない。

共に大会社で新経営者として迎えられた。そして就任早々、大きな経営問題に直面した。それをどう裁き、どう乗り越えていくのか、行けないのか。二人のCEO経営者としての力量が如実に現れるであろうこれからの半年間ほど、興味を持って見守っていきたい。

2014年10月7日火曜日

『事業承継「不安・トラブル」納得する解決法! 』後藤孝典 書評211

かんき出版、新刊。著者は事業承継ADRセンター理事長。事業承継に関わる案件(トラブルなど)を、当事者同士の間で仲介する機関だという。本書は、同センターが扱った事例から代表的なケースを随分詳細に掲げ、仲裁までの経緯と一般的な教訓を述べている。

読前は、「どこかの独立系のコンサル会社が、、」と思っていたら、私も知らないユニークな機関らしい。つまり、民間ではあるが法務省所管のスキームによる運営、理事長である著者はちゃんとした弁護士、仲裁には申立人と被申立人が存在し、合意は法的拘束力を持つ、などのことだ。

裁判にまではなじまない、そして匿名性を重んじたい同族間での承継問題の解決に適していることもあるのだろう。承継法務や特別株式のことなどについても、専門家集団ならではの仲裁事例や情報が示されている。勉強になった。事例が実事例で有るからでもあろうが、説明が詳細に過ぎ、半分でよい。300ページの本だが、200ページの方が読みやすくて良かったと思える。

2014年10月6日月曜日

『ビジネスモデル全史』三谷宏治 書評210

ディスカヴァー・レボリューションズ、新刊。

大変感心した。著者は、昨年『経営戦略全史』(ディスカヴァー・レボリューションズ)を刊行したばかりである。年を続けての大著となった。著者のインプット量、その博識は大変なものが有る。

前著を含め、著者は経営文献を広く網羅していて、わかりやすく解説している。
前著が現代に至るまでの、既に知られるようになった経営戦略セオリーをカバーしたのに比し、本書は過去のビジネスモデルに加えて、ネット系の最先端ビジネスモデルをも網羅している。この点で特に私などにとっても新見が多く、学ぶところが大きい。とても結構な本だ。

HBS元教授のクレイトン・クリステンセン教授も本書では、めでたくマイケル・ポーター教授の「同僚」となっているし。

LIXIL、伝統的日本企業に欧米流経営導入、藤森義明社長を賞す(6)

●欧米的な企業文化を伝統的な日本企業へ持ち込み

 

 一方、藤森氏は果断に欧米的な企業文化をLIXILグループという伝統的な日本の大企業に持ち込んだ。同氏が振り返る。

「全体として大規模のコスト削減を行い、収益性を高めるには別なやり方をする必要があると考えた。そこで各事業会社の社長をすべて部長にし、一つの会社にした。」(13年1月18日付経営情報サイト「GLOBIS.JP」より)

 これは組織改革でもあるが、藤森氏のヘゲモニー確立セレモニーともいえる。これが通れば、その後は旧来の重役たちは藤森氏に楯突くことはできない。こうしてリーダーシップを確立してから、同氏は次々と矢を放った。

「LIXILには強いブランド、強い商品があり、様々な分野で業界のNo.1、No.2のシェアを握っている。しかし残念ながら、いずれもあくまで日本国内の話だ。ジャック(・ウェルチ)は常々『世界でNo.1、No.2でなければ、クローズするか売るかだ』と言っていた。そうしたマインドを企業カルチャーとして埋め込む必要があった。ちなみにこれはいきなり断行したわけではなく、3年ぐらいをかけ、まずは執行役員の半数程度を“外様”にするところからやった。野村證券やファナック、三洋電機など異分野の人材を入れ、そのトドメとして組織形態を変え、一気に会社のカルチャーを変え、コスト構造もきれいにし、世界に打って出よう、ということで船出した」(同)

 周到にして果断、このように藤森氏は伝統的な大企業を大変革して、LIXILにグローバル化の道程を歩み始めさせているのだ。このままLIXILグループを3兆円、5兆円規模の企業に育て上げれば、孫正義氏や柳井正氏などと並ぶ「平成の大経営者」の道を上り詰めていくかもしれない。創業家が存在する日本の伝統的なメーカーで、外資出身の経営者が辣腕を振るっているのは痛快だ。藤森氏の経営を刮目してみていきたい。
 


(この項 終わり)

2014年10月5日日曜日

LIXIL、伝統的日本企業に欧米流経営導入、藤森義明社長を賞す(5)

しかし、藤森氏はGEで20世紀最大の経営者と称賛高いジャック・ウェルチ元会長からの評価と薫陶を受けて育ってきた経営者だ。01年には米GE上級副社長に就任している藤森氏は、ウェルチとの体験を次のように語っている。

「十数年にわたってウェルチに鍛え上げられました。これは本当に強烈な体験でしたね。若い頃にウェルチから刺激を受けたことが、私の基本的な考え方を形成していると思います。」(11年12月14日付人事情報サイト「jin-jour」記事より)

「外資族経営者」が伝統的な日本企業に招聘されると、企業文化アレルギーを引き起こすケースが多い。異質なものが組織のトップに就くのだから当然だ。その組織アレルギーにより、筆者の場合は早々に排除されてしまったわけだ。

 一方、藤森氏は
 

(この項 続く)

2014年10月4日土曜日

LIXIL、伝統的日本企業に欧米流経営導入、藤森義明社長を賞す(4)

●日本の大メーカーを振り回す、ウェルチの秘蔵っ子


日商岩井(現・双日)から米カーネギーメロン大学に留学して経営修士号(MBA)を取得したのが1981年なので、筆者のそれより2年早い。帰国して96年にGEへ転職。2005年には日本GE会長に就任するが、25年間をGEで過ごした、いわゆる「外資族」といってよい。

日本企業から外資系のトップへ転身という点では、前回連載で取り上げたベネッセホールディングス会長兼社長の原田泳幸氏と同様なキャリア・パスを歩いてきた。原田氏はアップルコンピュータ(現アップルジャパン)代表から日本マクドナルド社長へ転籍したタイミングから、稀代の個性派経営者といわれる米アップル創業者のスティーブ・ジョブズとの接触はそんなに深くないように見受けられる。

 しかし、藤森社長の場合は、、、

(この項 続く)

2014年10月3日金曜日

LIXIL、伝統的日本企業に欧米流経営導入、藤森義明社長を賞す(3)

同社の14年度の売上高予測は1兆7600億円であるが、海外売上高6500億円を目指している(同社中期経営計画よる)。

12年度の海外売上高実績は2620億円なので、2年の間に2.5倍となる速度だ。実は14年度の海外売上高予測には、米国のトップ衛生陶器会社であるアメリカン・スタンダードなどいくつかの大型M&Aによる分として3250億円を見込んでいる。成長の時間を大胆に購入しているのだ。

15年度には3兆円を目指しているグループ売上高のうち、1兆円を海外事業が占めると中計は掲げている。同社の場合、成長はまさに海外で加速するのだ。

 このようにグローバルで大胆な戦略が展開されるようになったのは、藤森義明氏が11年に社長兼CEOに就任してからのことである。

(この項 続く)

2014年10月2日木曜日

『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』出口治明 書評209

KADOKAWA、新刊。著者はライフネット生命社共同創業者、現会長。

出口さんには経営者ブートキャンプに何度も特別講師としてお願いしている。お話を伺うたびに、圧倒的な読書量に支えられた大教養人だと畏れを感じていた。

本書で出口さんはその莫大な読書歴から収斂させてきた「読書」の積み上げの仕方、楽しみ方、活かし方を語っている。

終わりの方で、子供の時からの読書歴を披露されているが、それに匹敵するような成長期読書体験としては、あの立花隆以外に私は知らない。

同年代ということもあり、出口さんの読書歴は高校当たりまで結構私のそれとかぶっていて、懐かしかった。しかし、大学以降となると、、。 経営者の中でも指折りの読書家による本書は、多くの含蓄と示唆に富んでいる。

(「ビジネス書が余り役に立たないことを実証した本の一冊としては『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(ぱる出版、山田修著)も、おもしろい本です」《p140》として以下、簡単に拙著を紹介して貰った。出口さんが他に紹介なさった多くの本のレベルと比べると忸怩たるモノもあるが、私の人生での自慢の1つとなった。)

LIXIL、伝統的日本企業に欧米流経営導入、藤森義明社長を賞す(2)

日本メーカーが生産・販売する洗浄便座の特性を整理すると、次のようになる。

(1)一つの商品が、多くのマーケットにまったく出回っていない。つまりそのマーケットでは新製品である。もしくは存在しているのに販売されていないので「未製品」というべきか。

 (2)商品に対する限定されたモニタリングでは、素晴らしい評判である。

 (3)価格帯が参入障壁とは思われない。少なくとも欧米では抵抗感のない商品として迎えられるだろう。ただし、都市による水道事情がある程度の障壁となる可能性もある。

 (4)マーケット規模は無限であり、普及しているのは日本だけ。 

こんな状況で、日本を訪れる観光客が十年一日のごとく「こんなものは母国では体験したことがない」と言い続けているのは、TOTO、INAX、そしてパナソニックなど、大手洗浄便座メーカー各社の罪悪ともいえるほどの怠慢だと感じてきた。

ところが、INAXを傘下に収めるLIXILグループが近年、海外進出を加速させている。

(この項 続く)

2014年10月1日水曜日

LIXIL、伝統的日本企業に欧米流経営導入、藤森義明社長を賞す(1)

●洗浄便座メーカーの怠慢


  前回連載で触れたように、外資系企業の経営経験が長かった筆者は、思わぬ経緯で日系企業トップに就くやいなや戦い始める前に放逐されてしまったわけだが、日米の企業文化の差をモノともせず輝かしい実績を上げているのが、藤森義明LIXIL社長だ。


 日本を初めて訪れた旅行者からよく聞かれる感想が、「日本のトイレは~」というものだ。「あんな素晴らしい体験はなかった」と、例外なく激賞する。

以前ではこのような感想を聞かされて、日本人の清潔へのこだわりに誇りを感じていた。しかし、十年来同じ感想を繰り返し聞くたびに、次第に不快に思うようになってきていた。それは、「この業界のリーディング・メーカーは、一体何をしているのだろう」ということだ。日本メーカーが生産・販売する洗浄便座の特性を整理すると、、、

(この項 続く)