2014年9月29日月曜日

『結果を出すリーダーはみな非情である』(冨山 和彦) 書評208(4)


本書を読んで冨山氏は大したものだと思った。経営者が著した経営書、ビジネス書の類を私は近年多数読んで来たが、傑出しているお一人だ。

経営に対する造詣が、経営者に対する識見が、そして経営セオリーについての学識のレベルが高い。多くの経営者が、自社での成功体験を1つだけ振り返り、分析に智恵を振り絞っているのとは、アプローチが違う。

企業再生の責任者として当代随一の実事例を踏んできたこと、東大・弁護士・スタンフォードMBAという傑出した学歴が示す知的水準などが、この著者を優れた経営論者として涵養したのだろう。本書はとても参考になり、推薦できる良書である。

(この項 終わり)

2014年9月28日日曜日

『結果を出すリーダーはみな非情である』(冨山 和彦) 書評208(3)


冨山氏とは昔に縁があった。’94年だったか、氏がコーポレートディレクション社の幹部コンサルだった時代に、香港に一緒に出張に行った。

冨山氏はとある日本のメーカー側のコンサルで、私はその合弁先香港企業の日本法人社長という立場だった。スタンフォードのMBAを取って帰られていた。

’87年に出した私の処女著作、『アメリカンビジネススクール決算期』(新潮社)で刺激を受けて、海を渡った90年代初頭のMBAブーマーのお一人というお話しだった。

その後、私がフィリップス時代にも同社が出入りしていたが、私との直接の面識は、その王氏港建(WKK)社の時だけだった。氏もまだお若く、私の本社側の会長、社長とよく飲んでくれたことを覚えている。

冨山氏は、、、

(この項 続く)

2014年9月27日土曜日

『結果を出すリーダーはみな非情である』(冨山 和彦) 書評208(2)

著者は多くの経営者を退場させ、その後に抜擢あるいは送り込んだこれも多数の新経営者と「産みの苦しみ」を共にしてきている。だから、経営者の苦しみ、経営の現場を理解している。学者のセオリー的な、あるいは戦略ブティックにいるコンサルの上から目線だけのリーダー論ではない。

「社長と副社長の距離は、副社長とひら社員より遙かに遠い」
「その能力を発揮できるかどうかは、ストレス耐性に大きく左右される」
などの記述に、「この人は分かっている」と掌を叩いた。

「論理的な思考力、合理的な判断力」が重要だとする一方で、「情に背を向けてひたすら合理に走っても上手くいかない」とも喝破している。

本書の立ち位置は、30代の若手リーダー向けと言うことだが、ここかしこで現リーダー、つまり経営者への提言と示唆に富んでしまっている。いわば、筆が走ってしまっているのだろう。経営者や幹部にお薦めの一冊である。

冨山氏と私とは実は、、、

(この項 続く)

2014年9月26日金曜日

『結果を出すリーダーはみな非情である』(冨山 和彦) 書評208(1)

ダイヤモンド社、2012年刊。著者は産業再生機構でCOOを務めた後、(株)経営共創基盤を設立、代取CEO.

官民の両方の立場で取り扱ってきた再生企業の数では群を抜いている。その過程で多数の経営者を見てきた。繁栄してきた企業を駄目にした経営者、そして再生を委託して成功して貰った多くの優秀な経営者、というわけだ(実はそんな優秀なプロ経営者も私の所の経営者ブートキャンプに来てくれている)。

そんな「経営者への目利き」の冨山氏が書かれたリーダー論なので、まことに的を射ている。現場側の経営者として育った私も大いに賛同するところが多かった。

本書で示されている、氏の優れた指摘は例えば、、、

(この項 続く)

2014年9月25日木曜日

東証1部上場 社長が 戦略セミナーに

私が不定期に行う「経営戦略セミナー」には、経営者や幹部の方が来てくれる。

外資の社長も時々いらっしゃる。一番多いのは、普通の日系の創業社長、つまりベンチャー経営者、それから同族会社で2代目以降となっているオーナー社長だ。

大会社からは幹部クラス、子会社の社長といった方が多かった。先週、初めて東証一部上場企業の代取社長の方がいらっしゃった。セミナーの最後に個別に10分間ほど話させて貰ったが、経営者の悩みというのは企業規模の大小に関わらずいろいろ有るものだ。

実は今現在もとある上場企業で、そこの代取社長の方に「出張経営者ブートキャンプ」を実施している。個別にお話しさせて貰うことで、しっかり相談に乗らせて貰っているつもりだ。後3回で終了する予定だ。月に1回で進行してきた。

2014年9月21日日曜日

経営者はどう勉強? (4)

これだけのプログラムを少人数で行うため、卒業生の満足度はとても高い。参加者は、創業社長、大手企業の幹部、外資系の経営者や幹部、経営コンサルタントなど多彩で、全国から受講者が集まる。そのため、「経営者が経営者を教える、経営者の梁山泊」という様相を呈しているが、経営者の「学び」には、セオリーと実践講義を融合したプログラムが必要だと考えている。

2014年10月18日(土)~
経営者JP主催
第10期、迫力の開講!第10期記念特別企画も予定!
経営者のための「実践・経営者ブートキャンプ」講座・第10期
主任講師:山田修氏(MBA経営 代表取締役)




「経営者ブートキャンプ第10期」の説明会も含んだ特別セミナーも開講するので、興味のある方には十分に説明する。
2014年9月26日(金)16:00~18:00(受付:15:40~)、19:00~21:00(受付:18:40~)
経営者JP主催
“戦略3部作”刊行記念特別講座
「戦略と実行、そして成功」黄金のセオリー!
講師:山田修


(この項 終わり)

2014年9月20日土曜日

社長はどう勉強 (3)

●セオリーと実践講義を融合したプログラム


 ちなみに筆者は5年前から、そんな経営者の「学び」に関する悩みを解決するため「経営者ブートキャンプ」というプログラムを主宰している。

 10月から第10期を迎える本プログラムの最大の特徴は、月1回(土曜日全日)で半年間という期間に、「戦略カードとシナリオ・ライティング」により実際に自社(自部門)の3年戦略を立案。途中に2回のグループ発表でお互いインプットをし合う。最終発表した戦略はそのまま自社に持ち帰って実践してもらう。この方法により、業績の大きな伸張を果たした卒業生がたくさん出ている。

 戦略策定のほかに、筆者が「成長戦略」「組織戦略」「極め打ち戦略」などを講義するのに加えて、新氏を含む著名経営者を各期数人招き、特別講義を行う。さらに受講者は半年間の間に5冊ほどのしっかりした経営書を読み、クラスで発表・討議する。加えて、招聘する特別講師の著書を講義前に事前配布する。

(この項 続く)

社長はどう勉強? (2)


困難な経営者の「学び」問題、どう解決?大学院、セミナー、独学…理論と実践の融合に難


まず当然ながら時間の制約だ。社長や本部長などのポストは直接業績責任を背負っている激務なので、まとまった時間を取れない。社会人経営大学院が近年雨後の筍のように開講されているが、こうした人が2年間も通い詰められるわけがない。また筆者自身は社会人経営大学院に通いもし、教える側も経験しているが、経営者が行く場所ではなく将来経営者になりたい若手管理職、典型的な例としては「もうすぐ課長になりそう」な人などが学ぶ場であり、経営幹部クラス向けではない。

 では、経営書を読んで独学するというのはどうか? 世には万巻の経営書、ビジネス書が出ている。筆者でさえ20冊以上、新氏に至っては50冊近くの著書を持つ。そして、それぞれの本が独自の経営論を唱え、互いに異なる主張を掲げる。どれを選び、どれを実践すればよいのか。大学で経営学部出身ではない大半の経営者には皆目見当が付かない。

 経営セミナーはどうか。成功した経営者がその事例を話すケースが多いが、内容としては面白い一方、汎用性や理論的整理に欠けていることが多い。つまり、その経営者の独自の体験や方法による成功例のため、他社への応用基準が明確にされないことが多いのだ。

 他社事例やケース・スタディーに学ぶというのも同じような限界を抱えている。経営学的には「ベスト・プラクティス」と呼ばれるが、どんな他社事例を選び、どう情報収集すればいいのかという点が難しい。技術論だけは理解したが、それをどう実地応用するのかという段階で途方に暮れてしまうこともある。

(この項 続く)

2014年9月19日金曜日

社長はどう勉強? (1)


困難な経営者の「学び」問題、どう解決?大学院、セミナー、独学…理論と実践の融合に難

 
「会社の業績は社長で決まる、その割合は少なく見積もっても90パーセント以上だ!」
 こう断言するのは新将命(あたらし・まさみ)氏だ。新氏は09年に出版されロングセラーとなっている『経営の教科書』(ダイヤモンド社)の著者であり、経営の神様みたいな存在として知られている。そして筆者が30年来親しく兄事している自分のロール・モデルでもある方だ。

いくつもの外資系企業で社長を務められた新氏のこの指摘は正しく、経営者や幹部を任された責任はとても大きい。創業経営者はそのことを本能的に察知しており、業務に全身全霊を打ち込んでいる人が多い。もちろん従業員社長として就任した人も、組織の中で選抜されてきた最優秀者なので、他人からいわれるまでもなく自己陶冶に努めているだろう。

●社長はどう勉強


 ところが意欲に富んだ経営者・幹部が「経営者としてのスキルや知識」を体系的に身につけようとすると、多くの障害が立ちふさがってしまう。

(この項 続く)

2014年9月18日木曜日

経営者ブートキャンプ 優秀発表者が3名!(4)

第9期の参加者に、例によって終了アンケートに答えて貰った。
・山田先生含め、一流の講師陣にわかりやすく説明いただき良い経験ができた

・自分の無知を知れた。参加者のアドバイス・意見がとても助かる

・事業戦略、課題が明確になった

・講師の話が実践的で大変良かった

・同じような規模の会社の目線を共有できたことは財産

・山田先生のコンサルテーションがうけられたこと、ネットワークができたこと

・自分の不足していた点、やりたいこと、やるべきことが明確になった

・違う業界の経営者の考え、悩み、戦略が身近に学べたこと

・講師の先生のみならず受講生の話も参考になった

・改めて現状の課題、問題が見えた

・経営者との相互啓発

・山田先生から直接お話し(講義)をうかがえたこと、たくさんの仲間ができたこと

(この項 終わり)

2014年9月17日水曜日

経営者ブートキャンプ 優秀発表者が3名!(3)

どんな発表が支持されたかというと、、、

A)大手会社の事業部長が、売上げ伸張のための具体的な商品開発体制とマーケティング取り組みを発表。

B)数十名規模のコンサルティング会社社長が、次の成長のための組織、人材戦略、自らの役割などを策定。

C)著名食品会社が再生されることとなった。待ったなしの状態で、No.2にあたる役員が売上げ増のための施策を具体的に策定。

第9期の参加者に、例によって終了アンケートに答えて貰ったのだが、、、

(この項 続く)

2014年9月16日火曜日

経営者ブートキャンプ 優秀発表者が3名!(2)


経営者ブートキャンプの発表大会では、聞いている全員が「コメント・シート」を書き込む。これは無記名だ。そして、コメント部分は切り取られて発表者にそれぞれ渡される。発表者は指名コメンテーター以外のクラスからもこうやって、感想や助言を入手できる。

「コメント・シート」の下部には、5点法による採点部分があり、発表大会が終わると直ちに事務局によって回収、集計され平均点が算出される。つまり、参加者同士の相互評点により優秀発表賞が決まるのだ。私は採点には加わらない。個別に指導してきたから、中立を守る。
 

今期は、2位が同着2名出た。初めてのことだった。結果、3名に賞を出す事にした。しかし、3人の中で順位は付けない、発表しない。3人とも「最優秀発表」となった。

どんな発表が支持されたかというと、、、

(この項 続く)

2014年9月15日月曜日

経営者ブートキャンプ 優秀発表者が3名!(1)

経営者ブートキャンプの第9期も大詰めを迎え、9月13日(土)に戦略発表大会を行った。

自社三年経営戦略の発表にこぎ着けた参加者は10名。朝9:30から夕刻まで1日がかりで大会を行う。

一人の枠は40分。発表は25分限定。発表の前にコメンテーターを2名指名しておく。クラス全員(発表しない人も)が「コメント・シート」を書き込むのだが、指名コメンテーターの二人に発言して貰う。その後時間が余れば挙手により誰でも、というやり方だ。私も総括的なアドバイスを述べることがある。

いつも2名出す優秀発表賞が今期は3名出た。というのは、、、

(この項 続く)

2014年9月14日日曜日

”お殿様統治”ベネッセ、米国流原田新社長どうする?(6)

ベネッセは14年3月期のグループ年商は4663億円、社員数は約2万人の大企業。「大企業だけど總一郎氏が実質オーナー」という構図ですが、珍しいのはこれだけの大企業のオーナーである同氏は、実は日本を離れニュージーランドに在住しているという点です。「君臨すれども統治せず」という「お殿様型ガバナンス」だとしたら、それはそれで見識のあるスタイルともいえます。

 本連載の前回記事で、原田氏のベネッセ社長兼会長就任について書きました。ベネッセ再建の成否は、原田氏をスカウトしたベネッセの創業2代目で実質オーナーである福武氏がどこまで経営から身を引き、どこまで原田氏に任せられるのかにかかっています。

 原田氏の着任日6月21日を機に、福武氏はベネッセの会長から最高顧問に退きました。また原田氏としては、企業ガバナンスや意思決定風土が大きく異なる日系オーナー会社のトップに就任して、オーナーとの関係をどう築いていくのか。原田氏の手腕、そしてそれ以上に福武氏の度量が、けだし見ものです。
 

(この項 終わり)

2014年9月13日土曜日

”お殿様統治”ベネッセ、米国流原田新社長どうする?(5)


●君臨すれども統治せず

 ベネッセホールディングスの話に戻すと、同社の前身である福武書店は、最高顧問となった福武總一郎氏の父親、福武哲彦氏により1955年に創業され、哲彦氏の急死により86年に總一郎氏が社長に就任しました。


總一郎氏は95年、社名をベネッセに変更し、大阪証券取引所、広島証券取引所を経て2000年に東証1部にベネッセを上場させました。

(この項 続く)

2014年9月12日金曜日

”お殿様統治”ベネッセ、米国流原田新社長どうする?(4)

ところが同室で執務を開始するや否や、私たち二人はとても居心地の悪い状態であることに気が付きました。T社長は新卒入社からの御曹司で自分の考えはすべて神の声として通る。特に社長本人が主張することもなく、逆にオーナー社長の意向をくみ取って、「言われる前の阿吽の呼吸」で行動するのがよい幹部とされていたのです。T社長に表だって意見を具申するような幹部や部下はいませんでした。

 一方、筆者は前述したとおり米国系企業の環境でのし上がってきた経営者であり外資生活が長く、自分の考えを述べ立て、意思決定のオプションを明示します。つまり、T社の社風の真逆にいたのではないでしょうか。

 筆者は結局、T社本社に席を移して2週間で放り出されました。自分の業績とか経営手腕の結果でないことはその就任期間の短さが示しているので、自らの瑕疵だとは思っていません。日米の企業文化というか経営者文化というのを思い知らされた出来事でした。

(この項 続く)

2014年9月11日木曜日

”お殿様統治”ベネッセ、米国流原田新社長どうする?(3)


●かけ離れた日米企業の意思決定プロセス  実は筆者には、外資系から日系オーナー企業に移って、うまくいかなかった経験があります。37歳の時に外資系の社長を引き受けて、英国、香港、オランダを本社とする各社の日本法人を歴任し、最後に5年間、前出のフォーチュン500企業の日本法人社長を務めました。その後、日系大手投資ファンドから要請を受けて、年商50億円規模の日系メーカーK社に派遣経営者として乗り込みました。

 K社では半年の準備期間を経て着任したところ、初年度からいきなり好決算を出しました。するとそのファンドは、さっそくK社をエクジット(再売却)しにかかりました。そしてK社を買収したのは、明治時代創業のとある老舗メーカーT社で、当時の当主社長は4~5代目でした。


 T社がK社を買収する条件の一つに私の留任というのが入り、報酬条件的にも折り合ったので留任に応じました。そしてそれをもって、投資ファンドからは離れ、いわばT社グループの雇われ社長となり、T社の当主社長の依頼で、筆者の新オフィスはその社長と同室となりました。つまり、机を並べたのです。

(この項 続く)


2014年9月10日水曜日

”お殿様統治”ベネッセ、米国流原田新社長どうする?(2)


つまり企業の中で、何をやる、どうやるかが意思決定なわけですが、その際に自論がどうして良いのか、他者より優れているのか、議論をして相手を説得する、あるいは相手を攻め抜いた論が採用されるのが「フェア」ということになります。勝ちを収めた論、あるいは人物が採用されて重用されていくのです。

 この米国流意思決定はわかりやすく、ロジカルだと表現することもできます。そしてそんな企業文化は、業界が変わっても基本的には変わりません。ですから、創業者のスティーブ・ジョブズが帰任して辣腕を振るい始めていたアップルから離れて、今度はマクドナルドを預かった原田氏としては、同じ米国系の大企業なので実はそれほど違和感がなかったのではないでしょうか。

 (この項 続く)

2014年9月9日火曜日

”お殿様統治”ベネッセ、米国流原田新社長どうする?(1)

 その原田氏ですが、マクドナルドの2012~13年のスランプを勘案したとしても、アップル社長を退職後、外食というまったく異なる業界の外資系企業の日本法人トップとして、顕著な業績回復を果たしたことは紛れもない事実です。

 原田氏が経営力を見事に発揮できた要因を考えてみると、両社は業界、業態こそ異なるが、ともに世界的外資、米国系のグローバル企業という共通点にあると思います。筆者もかつてフォーチュン500企業(米誌「フォーチュン」が毎年優れた企業として選出する500社)に選ばれた米系企業の日本法人社長を5年間ほど務めていたので、それがよくわかります。企業文化的な面で共通している点があるのです。

 というのは外資、特に米国系の企業では、意思決定のプロセスが比較的理解しやすい。米国は多民族が短期間に大量移民して形成された国なので、みんながうまくやっていくために「フェアにいこう」「フェアにやれ」という社会的な大原則、大規範が醸成されています。そこで、企業でも、オーナー企業でなければ、その意思決定は「ディベート(議論)」で決せられることになりました。
 

(この項 続く)

2014年9月8日月曜日

ベネッセ流出事件、原田経営に追い風? (4)


●マクドナルドの営業利益を10倍に

 そんな原田氏のマクドナルドへの転身は04年のことでした。IT業界からファーストフード業界へ、「from Digital to Stomach」という大転身でした。両社はまったく異なる業態・業種ということで世間的にはその転身を危惧する見方も多かったのですが、原田氏はマクドナルドの業績を大きく伸張させてしまいました。

 原田氏の就任までマクドナルドの既存店売り上げは7年連続でマイナスでしたが、着任から8年連続の増収を達成し、11年度の営業利益は281億円に達したのです。その額は、原田氏着任直前の03年度の約10倍にも上りました。
 既存店売り上げが増収を続けた裏側には、70%あった直営店比率をこの期間に30%にまで下げるという戦略的な着手と実践がありました。そしていずれにせよ、改革に対して強力なリーダーシップを発揮したことは間違いありません。原田氏自身が「自分は雇われ社長としては世界でも有数」(「月刊BOSS」<経営塾/2014年5月号>より)と自負を公言しています。

 そんな原田氏が、今度は一転して創業2代目福武總一郎氏が大株主に名を連ねる、実質的なオーナー企業であるベネッセのトップに転身しました。原田氏のスカウトを果たした福武氏は、会長職から最高顧問へ退きましたが、次回は、原田氏がベネッセ再建を進めていく上で想定される懸念点を考察します。

(この項 続く)

2014年9月7日日曜日

ベネッセ流出事件、原田経営に追い風? (3)


●アップル社長として辣腕

 実は今年の年初、筆者が主宰する「経営者ブートキャンプ」で特別講義の依頼を原田氏にしていました。昨年8月に原田氏は日本マクドナルドHD傘下の事業会社、日本マクドナルド社長を退任していたため、時間的に余裕ができたのではないかと拝察したからです。その後、原田氏はベネッセに招聘されることが発表され、当面「99%のエネルギーはベネッセに費やす」と公言。その依頼は無期延期となってしまいました。

 原田氏はいうまでもなく、アップルコンピュータ社長から日本マクドナルドの社長へ華麗な転身を遂げ、「from Mac to Mac」といわれた名経営者です。アップルにはマーケティング部長として入社し(1990年)、97年に社長に就任しています。

 原田氏がアップル社長時代に辣腕を振るったのは、数百社に上っていた取引先を数社の代理店に集約させたこと、そしてiPodとiPadの拡販に成功したことが挙げられます。両方の施策とも、原田氏がマーケティング畑の経験により着目して実践したものです。筆者もマーケティング畑出身の経営者だったのでよく理解できるのですが、限られた人数の社員で多数の顧客(アカウント)と直接取引しようとすると無理が出るものです。

(この項 続く)

2014年9月6日土曜日

ベネッセ流出事件、原田経営に追い風? (2)


●原田社長の下で強まる結束


そう考えられる理由としては、まずベネッセにとって未曾有の大危機が到来したわけですから、新社長の下での結束へのベクトルが大いに強まります。軍事紛争を抱えた時、その国の大統領への信認度が大きく高まるのと同じです。今回の事件がなければどれだけの時間とエネルギーを要したかわからないほどの求心力が、原田氏に集結したはずです。

 次に、事故の責任を取って2人の経営幹部が辞表を出しました。原田氏自身は本事件が起こった後の就任ということで無傷で済むでしょう。逆に言えば、自分以外の幹部はすべて責任追及できる事態となり、幹部の出処進退について全権を把握したわけです。そしてそれをいつ行使しても誰にもとがめられず、反論されない、こんなに強い立場の経営者は通常、創業オーナー社長しかいません。
 原田氏は思うように組織の再編成に大なたを振るえる、むしろ改革を断行することを求められる事態となったわけです。筆者自身、いくつもの会社に新社長として就任してきましたが、外部から登用された経営者が現在原田氏の置かれているような立場を確保するためには、とてつもないエネルギーを要しました。図らずも原田氏は、そのような立場に「立たされた」のです。

 さらに、今年度から来年度にかけてベネッセの業績が悪化したとしても、今回の事故の影響度が必ず加味されます。業績責任の追及が減免されるような新社長というのは、通常ではあまり存在しません。
 今回の事件をきっかけとしてベネッセが倒産するような事態は想定できないでしょう。とすれば事態が収束した暁には、原田氏は危機を乗り切った経営者としてベネッセ内で盤石の基盤を築くことができます。

(この項 続く)

2014年9月5日金曜日

ベネッセ流出事件、原田経営に追い風? (1)

今年に入り、大手日本企業の経営トップに外資系企業で実績を残してきた経営者が就任するケースが目立ってきています。記憶に新しいのが、元アップルコンピュータ(現アップルジャパン)社長や日本マクドナルドホールディングス(HD)会長(現職)を歴任し、6月にベネッセホールディングス会長兼社長へ就任した原田泳幸氏の例です。

 原田氏はベネッセに着任した直後の7月、会員の個人情報大量流出事件発覚という経営危機に直面。若手経営者なら買ってでもするべき「修羅場くぐり」が原田氏に襲いかかりました。
 しかし筆者は、この事件をきっかけとして原田氏はベネッセで強固なリーダーシップを確立すると見ています。転任経営者としてはむしろ「災い転じて好機と成す」を果たすのではないでしょうか。

(この項 続く)

2014年9月4日木曜日

経営者ブートキャンプ 池本克之氏 特別講師登壇(2)

池本克之氏はご存じ、ドクターシーラボ社とネットプライス社の2社を上場させた辣腕経営者だった。

「若手辣腕経営者」と紹介したら「若手ではありません」と訂正されてしまった。100キロマラソンに毎年出走して、左の写真の通りの風貌なので、ついそう申し上げてしまった。

池本特別講師には、「アライアンス・マーケティング」をテーマに1時間半話していただいた。休み時間の後に、戦略策定小グループ発表で、50分ずつ2名の発表に対するコメンテーターとなってもらった。割り当てた発表者のお一人はEコマース、もうお一人は何と化粧品の原料販売とOEM製造の社長だった。

池本さんにバシバシ突っ込まれてもいたが、「あっ!」とうなるような示唆も貰っていた。経営者ブートキャンプの真骨頂のような時間を共有した。

(この項 終わり)                              

2014年9月3日水曜日

経営者ブートキャンプ 池本克之氏 特別講師登壇(1)

経営者ブートキャンプ第9期も大詰め。第6講を8月30日(土)に開講。

午前中は、『経営戦略全史』( 三谷宏治、ディスカヴァー・レボリューションズ)を仕上げた。
「ナレッジ・マネジメント」と「経営資源論(バーニー)」を、それぞれ一人の参加者から発表して貰って、討議。今日のトピックは結構手強い章を割り振ったと思ったが、皆さん楽しそうに発言していた。

今期は、『魂の経営』(古森 重隆、東洋経済新報社)を冒頭で報告討議して貰い、同書のブック・ライターである上坂徹氏を特別講師として迎えるという、おもしろい勉強を前半にした。「特定の経営者本+セオリー本」という組み合わせが、ブートキャンプの課題図書選択で典型の1つとなってきている。もちろん、毎期異なる図書を取り上げて勉強してきた。

午後の、特別講師は、池本克之氏だ。池本さんはご存じ、、、

(この項 続く)                              

2014年9月1日月曜日

ミラノの思い出 (6)

「パスポートぉっ!!」
猛ダッシュして私もホームに駆け下りた。先頭車両からで、ホームの出口は最後尾車両の方にしかない。

半分(それでも100メートルはあった)を走りきったら、何と女三人が警官に補足されているではないか!制服、私服の警官数名に取り囲まれている。

頻発する常習掏りを警戒巡邏していた彼らの目の前にジプシーの女三人組が逃げ出してきた、それも走り出そうとしていた特急から。職務質問に留めない方がおかしい。

「パスポート、オフィサー、マイ・パスポート、、」
おめく私に、女三人は知らないと言う。怒りながらも念のために鞄を探ってみると、、、有った、、、隠しポケットに。

(ええーっ、、!よかった、、)
どっと脱力して去ろうとした私を刑事が呼び止めた。
「あなたが調書を作ってくれれば、この女たちを逮捕起訴できる、、」
特急は走り出そうとしていた。私もまた走った。刑事が追いかけてきた。実際、腕に手を掛けられた。
「フィレンツエでなら、、フィレンツエでなら」
言質を残し、私は家人が乗っていた先頭車両に飛び乗った。その時、特急が動き出した。

(この項 終わり)