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アスリート・ファーストの流れは止められない
これからの時代、各競技団体の責任者は所属アスリートの扱いにこれまでにない注意が必要となる。声を上げ始めたスポーツ選手は、これからは問題があると認識したら告発するようなことをあまり厭わなくなるからだ。
私がすぐに想像できるのが、世界大会や五輪への派遣選手の選考過程である。討議・協議方式の選考は忌避されていくだろう。それは、いくら「過去の実績」、あるいは「国際大会での実績」などを考慮したとしても、結局は「主観の問題だ」という余地が残るからだ。選に漏れた選手がスポーツ仲裁裁判所に提訴したり、その延長線上として民事の損害賠償や名誉毀損を提訴することが予想される。
そんな時代になると、国際大会の派遣選手を決めるには、アメリカの多くの競技が実施しているように、特定の選考大会を決めて、泣いても笑っても一発勝負ということになっていく。私はそれが悪いことだとは思わない。アスリートに最善の練習機会(指導者の選択も含む)を与えた上で透明性を確保した競技こそが、スポーツの本来の姿であり、スポーツの偉大さを高めていく。時代は今年動き始めた。
(この項 終わり)
日本のアマチュア・スポーツ界では長く、長幼の功というか、先輩・後輩関係による上位下達的で封建的な組織や人間関係が醸成されてきた。体育会的な組織のなかで育ってくると、先輩やコーチ、監督にはやみくもに服従してしまうようになる。その延長線上で、協会などの組織が決定、運営していることについては、それを不合理、不適正と感じても従ってしまう。
13年に女子柔道強化選手が監督の暴力を告発するという事件が起こった。このときは全日本柔道連盟のトップが総辞任する大問題となったが、告発したのは15名の匿名選手だった。当時は声を上げるにしても一人では難しく、さらに複数人で勇気を出して告発しても最後まで匿名だった。
この事件を振り返ってみると、今年はアスリートが顔を出してはっきり不合理を糾弾し始めた、画期的な年として記憶されることになるだろう。
今年のこの動きの引き金となった事件がある。それは昨年秋に勃発した「貴乃花騒動」である。暴力事件の被害者は弟子の貴ノ岩だったが、それを表沙汰にして大騒動にしたのが貴乃花親方だった。当初マスコミとコミュニケーションを取らなかったこともあって、むしろ批判、非難を浴びた親方だったが、断固として刑事事件に持ち込み、加害者の元横綱日馬富士を廃業にまで追い詰めた。現役トップの横綱、そして所属する組織である日本相撲協会を相手にして毅然として戦ったのである。
貴乃花親方のこの時の行動が、今年に入って他の競技団体で不当な状態に直面した選手や関係者へ、大きな勇気と示唆を与えたものと私は見ている。
(この項 続く)
声を上げ始めた選手たち
宮川選手が行った反論会見は立派なものだった。弁護士に付き添われてはいても、その助言を途中で受けることもなく前を見て自分の言葉で話した。18歳の一選手という立場の女性がそれを行ったということで、大きな説得力を生み出した。
今年に入ってスポーツ界では不祥事がいくつも起こっている。しかし、その発端、展開には共通点がある。
・女子レスリングのパワハラ事件
五輪4連覇の伊調馨選手が、日本レスリング協会の栄和人強化本部長からパワハラを受けていたという告発状が出され、栄氏は辞任(告発状を出したのは本人ではなく関係者)。
・日大アメフト部の反則タックル事件
当事者である加害選手が会見を開いて経緯を説明
・水球女子日本代表が合宿を中断
水球男子日本代表の大本洋嗣監督が同チームを批判したことが発端
・日本ボクシング連盟の山根明会長辞任
連盟の組織員が反発。300人以上が会長批判に連名して会長を辞任に追い込んだ
今回の体操協会のパワハラ問題を入れれば、今年だけで5つも同じ構造の事件がスポーツ界を揺るがした。「同じ構造」とは何か。それは「造反有理」(謀反にこそ正しい道理がある)ということだ。
(この項 続く)
速見コーチの早々の復帰の道筋をつくるべき
第三者委員会が立ち上がると報じられた翌日、8月31日に今度は当事者である速見コーチが動きを見せた。無期限の登録抹消という厳しい処分を受け取った速見コーチは、指導者としての地位保全を求める仮処分を東京地裁に求めていた。
ところが、その仮処分の申し立てを取り下げ、処分を受け入れると発表したのである。
宮川選手に対する暴力行為があったのは事実であるとし、「全面的に反省し、一刻も早く正々堂々と指導復帰を果たすことが選手ファーストだという結論に至った」と、書面で発表している。すると、宮川選手に対する指導、ひいては宮川選手の東京五輪への挑戦、出場はどうなるのだろうか。
私見を言えば、速見コーチへの処分は10月末で終了させるのがよい。つまり、塚原夫妻側からの宮川選手へのパワハラや朝日生命への引き抜き問題についての第三者委員会の判断を待って速やかに、ということだ。具志堅氏も会見で「18歳の少女が嘘をつくとは思わない」と語ったが、私も宮川選手の会見を見て、宮川選手の勇気と気概に打たれた。
暴力事件自体は両名とも認めているし、それは責められるべきだ。しかし、罪に対して罰というものはバランスが取れていなければならない。登録抹消を3カ月で終了するのが適当な展開となってきたと思うのは私だけではあるまい。
(この項 続く)
常識人の対応、具志堅幸司副会長
この事件では、体操ファンにはたまらないメダリストたちが続々登場する。光男氏は五輪3大会で金メダルを獲得しており、「ムーンサルト」の創始者だ。千恵子氏もメキシコ五輪に出場して入賞している。
光男氏が千恵子氏をかばうかのような発言をしてしまったのが8月29日。翌30日に協会は対策会議を開き(塚原夫妻は欠席)、具志堅幸司副会長(ロサンゼルス五輪金メダリスト)が記者会見した。
具志堅氏は、宮川選手に対する協会側からのパワハラという問題について第三者委員会を早々に立ち上げるとして、「できるだけ関係のない人に(調査を)お願いしたい」と話し、その結論も「10月中に」とはっきりしたゴールを示した。さらに「大変お騒がせしたことにお詫びを申し上げたい。パワハラがあったとすれば大変な問題。調査委員会の結果を待って、報告したい」と語った。
大きな告発を行った若干18歳の宮川選手に配慮をしつつ、事実関係は第三者委員会の調査を待つ、としたのである。協会のこの方針は納得のいくものであり、具志堅氏の会見での記者団との対応も真摯なものだったので、協会に対する信頼感を醸成した。
(この項 続く)
宮原会見に対して二転した協会
宮川選手が行った会見の内容を以下に要約してみる。
・速見コーチから強い叱責指導などはあったが、数年前の出来事で自分はそれをパワハラ指導とは感じなかった。
・今回の処分は、宮川選手を、自ら指導する朝日生命体操クラブに引き抜こうとした千恵子氏の策謀と感じる。
・千恵子氏から「五輪に出られなくなるわよ」と言われたことを、パワハラだと感じた。
宮川選手のこの会見に対し、千恵子氏の夫で協会副会長の塚原光男氏は同日中にNHKの取材に対し、「やましいことはなく、発言のなかには名誉棄損に関わることもある」と述べ、反論する姿勢を示した。また弾劾された本人である千恵子氏も日刊スポーツの取材に対し「悪いことはしていないし、宮川が勝手に言っていること」と語った。
この協会の対応は、世間の常識からいえばまったく受け入れられないものだ。光男氏は千恵子氏の配偶者である。妻が弾劾されているのだから、直接の利害共有者という立場だ。協会には副会長が4人いるのだから、妻の行動が問題となった段階で、事件の取り扱いからはきっぱりと手を引くべきだった。副会長である光男氏が発言したことで、「協会のなかで夫妻が結託している」という印象を醸し出してしまった。
(この項 続く)
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塚原千恵子氏(写真:日刊スポーツ/アフロ)
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体操女子のリオデジャネイロ五輪(2016年)代表の宮川紗江選手(18)に対し暴力やパワーハラスメントを行ったとして、速見佑斗コーチ(34)が日本体操協会から「登録抹消(無期限)」の処分を受けたのが8月8日のこと(本人への通知は8月13日)。事態はそれから急展開してきた。
宮川選手が8月29日に反論会見を開き、逆に協会側、特に塚原千恵子女子強化本部長(70)によるパワハラを告発したのだ。協会は、第三者委員会を立ち上げ早急に調査するとしているが、速見コーチの指導がなければ競技生活を続けられないと訴えている宮川選手はどうなるのか。
アスリート側が、所属する協会側に対して勇気を出して声を上げる傾向が強まっている。それはスポーツ界における選手の選抜・選考や強化の方針にまで影響を与えていくと私は見ている。
スポーツ界に“造反有理”の風が吹き始めた。
(この項 続く)
以前から依頼されていた大手企業で1日研修を実施。業績好調で今年の年商が1兆円の大台に乗ったという話を役員の方からうかがう。
対象は私としては初めてと言っていい、一般職。営業職にある人が36名ほど集まっていた。
聞くと、今年の前半に当社の部長を対象にインハウスで「戦略立案」研修を行い、その際拙著と戦略カードで展開した、と。その評価がとても高かったので、次の社内研修機会には「家元にきてもらおう」ということになったとか。
実施してみると、さすが優良企業で若手社員の方も活発で理解も早く、1日で大きな成果をあげた、というのは3年戦略の雛形というのを各自が作れたのである。また私が直接教えた、ということで皆さんのキャリア開発の自覚、意欲についてもよい影響を与えられたのではないかと自負している。