2019年9月26日木曜日

ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断(7)

ZOZO内の革新より、アライアンスとのフュージョンを



 偉大なリーダーが去ったZOZOが自律的に革新を続けることは難しい。それでは、今回の買収がビジネスとして成功を収める方策としては、ヤフーとZOZOという2社の相乗効果を求めることが、経営戦略的には正しい。

 互いに異なる会員ミックスを有している。これを相互に乗り入れさせるにはどうしたらいいか。互いの商品・サービスをどう互換していくか。ZOZOの会員数は約800万人とされているが、そのうち女性の購入者は500万人強いる。20代、30代女性の30%ほどを顧客化しているはずだ。つまり、特定のセグメントでのマーケット占有率がとても高い。

 一方、ヤフーは月間ログインID数が4000万人もいるという、日本有数のITプラットフォームだ。ネット通販事業はヤフーのビジネスのなかでは一部にすぎない。またZOZOよりもヤフーの会員の年代のほうが高く、男性割合も多いといわれている。

 これら2つの性格の異なる2大ITプラットフォームがアライアンスを組む。しかも協業の域を超えて、同じグループとして展開する。だとすれば、ZOZO単体の革新を追及することよりも、両社のフュージョン(融合)を追及していくことのほうがはるかに大きなビジネス上の成果を生み出す。

 21世紀最大の経営者のひとりとして私が評価する孫氏は、また大きな一手を打った。この一手は、ヤフーとZOZOの成長を再加速し、さらにはソフトバンクグループのより強力な一翼を構築するものと評価している。

(この項 終わり)

2019年9月25日水曜日

ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断(6)

前澤氏が数々の武勇伝といってよい実績を残してきたワイルドでジャングルファイター的な強烈な個性の創業オーナー経営者だとすると、澤田氏はその対極にある経営者スタイルだと理解することができる。澤田氏は自身でも、今回のトップ交代をきっかけにZOZOはチームワーク経営にシフトすると説明している。

 さて、上述のようにスタイルの異なる経営者の登場、そして新しい資本関係が生まれるZOZOの新経営に対して、危惧をいだく論評も見受けられる。冒頭に掲げた日経新聞の記事をその一例として私の見解を述べたい。同記事には、たとえば次のような論評があった。

「競争環境が厳しくなるなか、創業者が去った後も社員には革新性を発揮することが求められている」

 これは難しいことだと思う。というのは、革新的なことを思いつくには、大きな志、やりとげる腕力、そして実現するリーダーシップなどが必要だからだ。これらの優れた素質は多く創業経営者に見られ、会社員、あるいはチーム構成員側に見られることは少ない。

 ミュージシャン上がりというユニークな前歴で荒唐無稽ともいってよいアイデア、あるいは志に満ちた前澤氏だからこそ、現在のZOZOというビジネス・モデルを具現化できたわけだ。コンサル上がりでロジックに優れた経営者からは、破天荒となるべき「革新」が生まれにくいのが通常だ。調和を重んじるはずの「チーム経営」と破壊的な「革新」とは逆の方向を向いているからだ。

ZOZO内の革新より、アライアンスとのフュージョンを


(この項 続く)

2019年9月24日火曜日

ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断(5)

私は個人的には前澤氏のようなユニークな人物の大ファンだ。今回のTOBにより2500億円近くもの巨額のお金を手に入れるという話も大いに結構。何より起業に対する夢を若者や社会に与えてくれる。

 しかし経営者となると、求められる行動様式のひとつは「集中」であろう。ただし実績を残し成長を続けている間は何をやっても良い。「実績だけが命」が優先するからだ。前澤氏の場合、近年ZOZOの経営実績は凋落し、経営者としての「集中」が疑問視されるプライベート面に関する報道が相次いでいた。そんな状況だったので、前澤氏は今回賢明な進退を選択したと思える。

 さて、新社長である澤田宏太郎氏は早稲田大学理工学部を卒業して、NTTデータに入社し、NTTデータ経営研究所に転じたのちコンサルタント会社でコンサルタントをしていた。その時ZOZO(当時の社名はスタートトゥデイ)とかかわりを持ち、やがて入社したという経歴だ。澤田氏について前澤氏は、「数字をベースにロジカルに考える経営者」と評している。確かに経歴から見ても、創業者である前澤氏のスタイルとは大きく異なる、理系でありコンサル上がりの経営者だ。

 前澤氏が数々の武勇伝といってよい実績を残してきた、、

(この項 続く)

2019年9月23日月曜日

ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断(4)

前澤氏のもうひとつの大きな蹉跌は、18年に導入した「有料会員優遇制度」だった。ZOZOで有料会員となった顧客は、一定の割引が受けられるというものだったが、参加メーカー個々との価格ポリシーとの整合性を検討・相談することが十分でないままスタートしたので、いくつかのメーカーの離反、すなわちZOZOからの撤退を招いてしまった。

 これらの経営上の悪手もあり、ZOZOの株価はピークの4830円(18年7月)から、19年夏には2000円前後と半値にまで値を下げてしまっていたのである。

革新は偉大な個人から生まれ、組織やチームから生まれることは少ない



 このように、17年頃から経営上の革新的施策の打率が下がってきた時期に、前澤氏はプライベート面では話題を提供し続けてきた。高額な美術品の購入や、華麗な社交や交際、そして月旅行への準備などである。その背景として、前澤氏自ら「経営者としての革新の継続」への疲れ、あるいは限界を感じていたことがあったのではないか。企業としても経営者としても「成長曲線」は高原状態に陥る時期がある。そんな時期、経営者としては迷いが出るものだ。そこで常々尊敬する先輩経営者である孫氏に相談に行ったのだろう。

私は個人的には、、

(この項 続く)

2019年9月22日日曜日

ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断(3)

ZOZOという大成功したファッションECサイトを立ち上げた前澤氏だったが、2016年の「ツケ払い」(2カ月後の支払い)導入あたりを境に、世間を震撼させるようなユニークな革新的ビジネスはあまり見受けられなくなった。それどころか、打つ手の「当たり」が悪くなってきていた。

 まず、ZOZOに参画しているアパレルメーカーの商品だけでは不安になったのか、プライベートブランド(PB)の展開を模索し始めた。17年11月にそれが発表された時、私は「ZOZOに出店しているアパレルメーカーと競合する」と危惧した。

ところが、そんな危惧は杞憂に終わり、18年度のPBの年間売上高はわずか約30億円で、その赤字額は125億円だったという。つまりZOZOに参画しているアパレルメーカーにとって脅威ではなく、むしろ笑いものとなって終わった。

 そのPBを軌道に乗せるマーケティングツールとして鳴り物入りで発表、導入されたのがZOZOスーツだった。それを着ると自動的に全身採寸できるという独自のもので、ZOZOではPB、すなわちオーダースーツへの導入ギミックとして無料で配布していた。18年7月の段階で110万着以上を配布したとされている。同社によれば「今後1年間の間に600万から1000万着の配布を実現したい」とのことだった。その時点での年間購買者数が739万人だったことを考えれば、これはとても無謀な数字だった。

 ZOZOスーツは結局、無償配布の有効性を問う前に、その使い勝手や機能のために高い評価を得ることなく、消費者から大きな支持を得ることはできなかった。

 前澤氏のもうひとつの大きな蹉跌は、

(この項 続く)

2019年9月21日土曜日

ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断(2)


限界を見せていた前澤革新経営


ヤフーがZOZOに対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、前澤氏が保有株を売却すると発表したのが9月12日のことだった。発表会見にはサプライズで孫氏も登場し、大きな話題となった。前澤氏が孫氏にZOZOの将来を相談したことから、「瓢箪から駒」が出るようにヤフーがZOZOを引き受ける方向に舵が取られたという。

 2人とも創業オーナー経営者なので、決断がいつも早い。孫氏は10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドの第2号の設立や(5月に発表)、ZOZOへの4000億円投資などを即断できる、今や世界でも屈指の投資家の面目を躍如させたといえる。

 前澤氏はZOZOの株式の36.76%を持つ筆頭株主で、今回のTOBでその大半をヤフーに売却し、売却額は2500億円近くに上るといわれる。前澤氏はTOB発表日の9月12日付けでZOZOの社長を退任した。

 ZOZOという大成功したファッションECサイトを立ち上げた前澤氏だったが、

(この項 続く)

2019年9月20日金曜日

ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断(1)

ヤフー、ZOZOを買収へ 前澤社長は退任(写真:日刊現代/アフロ)
ヤフーがZOZOを電撃的に傘下に収めることになり、4000億円ともいわれる巨額な投資額と相俟って大きな話題となっている。9月15日付日本経済新聞記事『ZOZO、薄らぐ革新性』は、次のように分析している。

「創業から約20年たち薄らいできた革新性を、前沢氏が去った後も維持できるかが課題となる」

 しかし、私の見解では、ZOZO単体としてのダイナミックな革新性の復活、継続は難しい。今回の提携でより重要なことは、ヤフーとZOZOがアライアンスによってお互いの事業を補完し合い、新ビジネスモデルを創出することである。そこに革新性のタネがある。ヤフーの親会社、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は、例によって直観的にその戦略的可能性を見抜き、ZOZO創業者で前社長の前澤友作氏からの相談に身を乗り出したのだろう。

限界を見せていた前澤革新経営


(この項 続く)

2019年9月19日木曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(8)

次期社長は真のリーダーシップを



 西川氏の辞任を受けて、日産では指名委員会が後任の選定に入っているという。10月には決定する意向で、すでに100名程度のロング・リストから10名程度のショート・リストに絞り込み、候補者のなかには日産の関係者も含まれるという。どんな後継経営者が登場するのか見当もつかないし、大いに興味がある。当然ながら、ゴーン氏や西川氏を反面教師として選考していることだろう。

 トップ経営者としてのリーダーシップがある人なら、日本人に限る必要はない。ルノー側から来てもいいではないか。現にゴーン氏も当初は立派に再生経営者の責を果たし、カリスマ経営者として名声をほしいままにしていた。

 シャープが経営問題により台湾・鴻海精密工業(鴻海)に実質吸収され、戴正呉氏が会長兼社長として送り込まれてきたとき、いったいどうなることかと日本人は皆心配していたが、戴氏は劇的にシャープを再生させてしまった。

 日産は現在、不調に沈んでいる状況だ。こんな状況の会社をV字再生させるには、従来のやり方を繰り返す「経験再生の方策」をとりがちな日本人よりも、ゴーン氏や戴氏のように、しがらみのない新しい経営手法を導入できる外国人のほうがいいかもしれない。

 日産の指名委員会が素晴らしいプロ経営者を招聘することを大いに期待したい。

(この項 終わり)

2019年9月18日水曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(7)

西川氏が日産のCCO、CEOとなった後にも、実質的な最高トップとしてはゴーン氏が君臨していたわけで、西川氏が重用されたのはひとえにゴーン氏を補佐する幹部経営者、あるいは側近経営者としての要素だったと私は見ている。

 当然、トップとNo.2ではその責任もプレッシャーも大きく異なる。ゴーン氏が逮捕により日産の経営現場から退場してから、西川氏の経営実績として報道されたのは、日産の資本政策や取締役人事をめぐるルノーとの交渉だった印象が強い。

 側近経営者というタイプは、組織内での調整や組織内交渉に長じているのではないか。西川氏も自分に興味があること、つまりパワーポリティクス的なルノーとの交渉ごとに傾注するあまり、ビジネスの伸長や新技術の開発、社員のモチベーション向上などに力が入らなかったのではないか。1年間の業績と日産のステークホルダーの反応を見ると、トップの器としての西川氏の鼎の軽重が今回問われ、その放逐は致し方のないことだったのだろうと思ってしまう。

(この項 続く)

2019年9月17日火曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(6)

日産が7月、23年3月期までに日産グループ全従業員の1割に当たる1万2500人もの従業員を削減すると発表。その一方、「社長だけ不正に4700万円過分に報酬をもらっていた」ということだ。

 日産のステークホルダーである株主、社外取締役、社員すべてが“アンチ西川”となり、西川氏は四面楚歌に陥っていた。そんな西川氏に、経営者としての資質があったのだろうか。

 この疑問に答えるためには、「トップ経営者と側近経営者」という概念を持ち込むとよいだろう。西川氏はゴーン氏というカリスマ経営者の下で、志賀俊之氏(17年まで副会長)に続いて「日本人側近のNo.1」となった。ゴーン氏が日産に着任した1999年の翌年、欧州日産から帰国した時はまだ購買企画部の部長という任にあった。その後、ルノーとの協業を推進するポジションをこなしたことでゴーン氏の目に留まり、とんとん拍子で経営の階層を上り、13年にCCO、17年にCEOに就任した。

(この項 続く)

2019年9月16日月曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(5)

利益の推移はもっと悲惨だ。営業利益は16億円で、同98.5%減となった。前年同期に1091億円あった利益を、西川経営によってすべて失ってしまったということだ。当期利益も同94.5%減と悲惨なものだった。

 9月9日に日産は、「ゴーン被告によって不当に支出された金額は総額約350億円。これに対して賠償の訴訟を起こす」と、発表した。この数字を皮肉に読むと、次に解釈できる。

「ゴーン被告に350億円持っていかれても、彼がそのまま経営を続けていれば1000億円強という利益が19年度第1四半期にあったかもしれない」

 西川氏の経営によって日産が失った利益の規模は、これほどにも大きいのだ。「経営者は結果がすべて」という言葉が正しいとすれば、西川経営の通信簿は赤点だけが目立つ。

人員削減をして自分は……



 ゴーン氏が去り、西川氏が真に総帥権を持つようになってからのこの1年、日本を代表してきた名門企業に、大きな良いニュースは聞こえてこなかった。売上は2桁以上の減収で、車種別の売上順位は下がるばかりで、話題をさらった新車の発表も記憶にない。新技術の開発や新しい製造拠点の開設、新ビジネスモデルの話題もあっただろうか。

(この項 続く)

リクナビは許されない…学生の個人データを“売って”不利益を与えた罪は極めて重い(6)

2大就活サイトであるリクナビは、その存在自体が危機に追いやられた。厚労省が職安法違反で行政指導をした9月6日に先立ち、政府の個人情報保護委員会が8月26日にリクルートキャリアに対して是正勧告を出していた。同委員会が是正勧告を出した初のケースとして、リクルートグループには大きな負の“勲章”が付いた。世間からはリクルートキャリアだけの問題ではなく、リクルートグループの問題として理解されよう。

 実際、7月末には3700円を付けていたリクルートHDの株価は、9月6日には3,255円(終値)とほぼ15%下がった。行政指導を受けて、今後さらに下がると予測されている。

 今回の問題で私がもう一つ指摘しておきたいのは、親会社であるリクルートHDの「無対応」である。リクルートキャリアの小林大三社長は8月26日に謝罪会見を行ったが、リクルートHDの対応については寡聞にして聞くことがない。

 そもそもリクルートHDも内定辞退率の予測を購入していたというから、話にならない。問題の構造を顧客企業として把握していたはずの親会社は、それを放置して株価下落に見舞われ、株主に損害を与えたという側面があるのではないか。リクルートキャリアに対する監督責任について、リクルートHDの経営陣は説明責任を果たすべきだろう。

 今回の問題については、まず個人情報保護委員会が動き、厚労省が続いた。しかし、問題の構造やその広がりから、文部科学省や総務省も大きな関心を持ち関与することを期待したい。

(この項 終わり)

2019年9月15日日曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(4)

本事案が9月4日の監査委員会で報告されたことで、西川氏は「差額は返納する」としていた。しかし、9日の取締役会ではそれでは収まらず、ある社外取締役は西川氏に対して「ただちに辞任すべきだ」と迫ったと報じられている。

実績を示せなかったこと、経営者はそれに尽きる



 しかし、私に言わせれば、西川氏の最大の蹉跌は、日産の経営者としてなんら顕著な経営実績を挙げられなかったことだ。それどころか、西川時代に入ってからの経営状況は大きく後退し、企業価値は毀損されてしまっている。

 ゴーン氏が実質トップだった逮捕前の18年11月の日産の株価は、1020円前後だった。ところが、今月6日の終値は674円と、34%も下落している。企業価値(株式総資産額)としては、なんと約1兆4000億円も毀損している。日産の株主を中心としたステークホルダーとしては、これが西川経営の「1年間の決算」だとしたら憤激に絶えなかったのではないか。西川退陣の正式決定を受けて、9月10日の日産株価の終値は697円となり、市場はこれを歓迎した。

 日産の直近の19年度第1四半期(4~6月)決算をみてみると、売上高は2兆3724億円で対前年同期比12.7%減。トヨタは同3.8%増、ホンダが同0.7%減だった。日産の2桁減収というのは「一人負け」ということだ。

(この項 続く)

リクナビは許されない…学生の個人データを“売って”不利益を与えた罪は極めて重い(5)

「リクナビDMPフォロー」というサービスは、「通信の秘密」を侵害することで利得を得た、という構造だと理解すべきで、罪が重い。

親会社の監督責任は


多くの大学の就職課が、学生の個人データを不当に利用・販売されたと憤慨していると報じられている。

「関西学院大学キャリアセンターは『現在の状況を受けて調査している段階だが、少なくとも今年は学生に(リクナビを)紹介する予定がない』と回答した。中央大学キャリアセンターは『今後も一切紹介しない』と厳しい判断を下す。同センターの池田浩二副部長は、『信頼関係がなくなった。学生を守る立場として、たとえ1件でも問題があれば、学生、父母に安心してもらえないので紹介はできない』と憤る」(9月1日付ZAKZAK記事より)

(この項 続く)

2019年9月14日土曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(3)

これは、グレゴリー・ケリー前代表取締役が6月発売の月刊誌「文藝春秋」(文藝春秋)で告発していた。ケリー氏はゴーン氏とともに逮捕・起訴された人物である。ケリー氏としては自らを告発した西川氏に対して“You,too”という恨み節の暴露をぶつけたわけである。検察は西川氏を「嫌疑不十分」として不起訴としたが、都内在住の男性がその決定に対して検察審査会に不服の申立を行うなど、西川氏に対する批判も根強かった。

西川氏はそもそもゴーン氏が逮捕される直前までは「日本人としては随一の側近」という立場にあった。その「もっとも近かった側近」の「No.2経営者」がゴーン被告の日産や社会に対する不法行為を知らなかったはずはない、同罪ではないかという指摘もあった。逆に「知らなかった」とすれば自身がCEOとしてゴーン氏に対する監督不行き届き、つまりガバナンス上の責任が問われる立場だった。

 ケリー氏が指摘していた西川氏の報酬不正問題とは、ストック・アプリシエーション権(SAR)に関するもの。西川社長は13年5月にSARに基づいた報酬を受け取る期日(権利行使日)を設定し、報酬を受け取る権利を行使した。その後、日産の株価が上昇した。西川氏は行使日を1週間ほど後ろにずらして権利を再行使し、当初定められたよりも約4700万円多くの報酬を受け取っていたのだ。業績連動型の報酬制度であるSARでは、一定の期間中に株価が事前に決められた水準を上回ると、差額部分が現金で支払われる。

(この項 続く)

リクナビは許されない…学生の個人データを“売って”不利益を与えた罪は極めて重い(4)

「通信の秘密」の侵害行為だ



 新聞などの報道では指摘されていないが、今回の問題はリクルートキャリアの不当所得としての経済的、ビジネス的な問題に加えて、「個人の通信の秘密」を侵害する大きな要素、すなわち社会的な問題という要素があると私は見ている。大げさではなく、憲法21条が定める「通信の秘密は、これを侵してはならない」という条項を侵犯する可能性がある愚挙だ。

 憲法が定める「通信の秘密」は、通信の秘密を保障・保護するもので、その対象は当初は信書などを想定していたが、社会の変化に伴って拡大してきた。

「手紙や葉書や封書だけではなく、電波・電報・電話・電子メール・インスタントメッセージなどの秘密を含む、広い意味に理解されている。」(佐藤幸治『現代法律学講座(5)憲法第3版』青林書院、1995年、576頁)

 IT時代において、私たちが「通信」する相手は、人よりもグーグルなどのネットサービスのほうが多くなっているのではないか。たとえば、中国で「天安門事件」や「香港動乱」などとネットで検索した場合、閲覧に制限がかかったり、中国政府によって検索した人になんらかの不利益がおよぶ懸念もある。よって「何を検索するか」「何をネットで見るか」という情報は、憲法上の「通信の秘密」の対象として保護されるべきだと私は考える。


(この項 続く)

2019年9月13日金曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(2)

前会長だったゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕されたのが2018年11月。西川氏はすでに17年4月から代表取締役社長兼CEOに就いていたが、実質的な立場としてはCOO(最高執行責任者)であり、ゴーン氏が真の経営トップとして君臨していた。

 ゴーン氏の突然の逮捕劇で西川氏が急遽、経営トップの立場に立たされたわけだが、「思いがけず」という表現は当たらない。というのは、ゴーン氏を告発、放逐するのに大きな役割を果たしていたからである。

 ところが、西川氏のCEOとしての立場はわずか2年半で終息することになった。今回、西川氏を退任に追い込んだのが、9月4日の監査委員会で報告されたゴーン氏らの問題に関する内部報告書とされる。西川氏自身も自らの報酬を不適切な手法でかさ上げした問題が指摘された。

(この項 続く)

リクナビは許されない…学生の個人データを“売って”不利益を与えた罪は極めて重い(3)

「リクナビDMPフォロー」では、AIを使って学生の内定辞退率を予測して、その個人データを38の顧客企業に販売していた。販売額は発表されていないが、年間の利用額は1社あたり数百万円に上ると見られている。リクルートキャリアとしては、本来の就活サイトとしての運営益に加えて、データ加工だけで「美味しい追加ビジネス」を事業化したつもりだったのだろう。

 問題は、販売した個人データのうち、8000人あまりの学生からデータの再提供に対する同意が得られていなかった点だ。現代のネット社会で、就活学生がリクナビやマイナビなどの就活サイトを使わないで他の学生と競合していくことはできない。大手就活サイトはその意味で、就活学生に対して優越的な地位にある。

 優越的な地位のある者が、それを利用して不当な利得を得る(個人データを第三者に販売するなど)ことは、まず独占禁止法の精神にもとることである。さらにその利得を、源泉となった資源(個人データ)を供出した個人に配分、還元していないという点で、極めて反社会的だ。

「通信の秘密」の侵害行為だ


(この項 続く)

2019年9月12日木曜日

日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減(1)

(写真:つのだよしお/アフロ)
日産自動車の西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)の突然の辞任は、本人の本意ではなかった。詰め腹を切らされたかたちに至った直接の原因は、自らの報酬のかさ上げ問題だったが、西川氏への社内外からの批判は根強かった。

 西川氏の挫折は、何よりカリスマだったカルロス・ゴーン前会長を放逐した後に、自らが十分な経営実績を残せなかったことにある。思わぬかたちで経営トップのバトンを受け取ってしまった側近型経営者は、過渡期に放り込まれた大企業の舵取りを取れなかった。では、その後任にどんな人材が登場するのか。日産の悩みと苦悩はまだ続くだろう。

とどめを刺したのが報酬かさ上げ問題


日産は9月9日に記者会見を開き、西川社長の退任を発表した。9月16日付での辞任という形式になるが、9日の同社取締役会が西川氏にそれを要請した。実質的には日産経営陣の総意による更迭である。

(この項 続く)

リクナビは許されない…学生の個人データを“売って”不利益を与えた罪は極めて重い(2)

リクナビの個人データの商業的利用は「優越的な地位の濫用」


厚生労働省が行政指導した対象は、リクルートキャリアが昨年から企業向けに販売を開始した「リクナビDMPフォロー」(8月4日付で廃止)と呼ばれるサービス。リクナビは「マイナビ」と並ぶ大手の就活サイトだ。今年の利用者は前者が82万人、後者が90万人などと推測されており、ほとんどの就活生が登録、活用する。

 登録に際しては「規約への同意」が求められ、多くの学生がその内容もよく検討せず、同意しているとみられる。登録した学生は、リクナビを通じて多くの企業情報を得たり、自らをエントリーしたりする。すでに企業から採用内定を得た学生が、もし活発にリクナビで企業情報を収集していれば、その学生にはまだ求職意欲があり、ひいては内定辞退につながることが予想される。採用を判断する企業としては、内定辞退の可能性が高い学生を採用決定することに躊躇するのは当然だ。データを購入した顧客企業は口を揃えて「合否の判断には使わなかった」としているが、信じる者はいないだろう。

(この項 続く)

2019年9月11日水曜日

リクナビは許されない…学生の個人データを“売って”不利益を与えた罪は極めて重い(1)

「リクナビ HP」より
 内定辞退率の予測を顧客企業に販売していた就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田区)に対して、厚生労働省は9月6日、行政指導を行った。

 指導は職業安定法に基づくものだが、この問題は職安法の範疇を超えて、IT新時代に突入した日本社会が孕む深刻な問題の現れだと私は考える。個人の通信の自由を脅かす可能性がある企業行動があったとみている。また、リクルートキャリアの親会社であり東証一部上場企業であるリクルートHDの責任も大きい。

リクナビの個人データの商業的利用は「優越的な地位の濫用」


(この項 続く)

2019年9月10日火曜日

ある日「民事訴訟の最終通告書」が我が家に…特殊詐欺寸前で被害を回避できた顛末(6)

しかし、一般論で言うと、今回のようなハガキによる騙し通達が来ても、無視してこちらから連絡しない限り問題はないという。犯人はなんらかの方法で手に入れた名簿をもとに大量のハガキを送っているので、返信しない限りそれ以上の行動を起こすことはないという。当家の場合、反応して連絡してしまったため、この後いくつかの架空請求や騙しのハガキなどが届くことになってしまうそうだ。

オレオレ詐欺の手口が複雑巧妙化



 特殊詐欺のなかで最初に有名になったのが「オレオレ詐欺」だった。今回当家を襲ったのは、特殊詐欺8分類のなかで「その他の特殊詐欺」に分類される、比較的新手の詐欺だ。裁判所を名乗る偽ハガキを大量にばらまき、問い合わせなどでかかってきた電話に対して、「訴訟通知センター」職員なるものが対応し、ほかに弁護士役などが登場して、狼狽した被害者から金を振り込ませるのが手口である。いろいろと情報を調べてみると、こうした詐欺には次のような特徴があるようだ。

・犯人にとっても通報されるリスクが大きいため、実際に犯人が家に押しかけてくる可能性は低い。

・基本的な対策は「無視」。しつこく連絡が来る場合は警察に通報する。

・同居している家族がいる場合は、家族にも事情を説明して、怪しい請求には一人で対応しないように注意しておく。

・本物の裁判所からの書状であれば、書留で送られてくる。ハガキによる通知は偽のものである。

「オレオレ詐欺」の通称で知られる「振り込め詐欺」、今回拙宅を襲った「その他の特殊詐欺」などを含む「特殊詐欺」は、全体としては1万6496件(2018年)と前年から微減している。しかし同年の被害額はまだ364億円もあったという(警察庁の統計による)。

 当家のケースが読者の参考となり、他山の石としていただきたい。

(この項 終わり)

2019年9月9日月曜日

ある日「民事訴訟の最終通告書」が我が家に…特殊詐欺寸前で被害を回避できた顛末(5)

すっかりしょげてしまった妻に「何も被害がなくてよかった。よく僕に連絡してくれたね」と言って、なぐさめた。相談して、固定電話を留守番電話専用にすることにした。かかってくると自動的に留守録になり、受話器では話せないような設定にした。発信には携帯電話だけを使うこととした。1階と2階の内線電話の使用もやめ、携帯電話同士で話すことにした。住所と妻の姓名がどこで漏洩したのかはわからない。

身に覚えがなければ、無視か警察に相談



 当家に到着したハガキの文面側は本記事冒頭の写真とほとんど同じものだった。先方の電話番号はその都度変わるらしく、当家に来たものに記載された電話番号は、警察にまだ把握されていない新しいものだったそうだ。

 それにしても、当家の住所や妻の名前などをどうやって把握したのだろう。それによって狼狽した妻が偽ハガキに記載された電話番号に電話してしまったことが失態だったと警察から教えてもらった。

「身に覚えのない訴訟内容に関するはがきを受け取った場合は、はがきに記載されている電話番号には絶対に電話せず、お近くの警察や消費生活センター等にご相談してください」(警察庁 ウェブサイト「特殊詐欺手口」より)

 なんらかの理由で漏洩してしまった当家の個人情報によって、このような異様なハガキが到来した。しかも消印がないことから、犯人の手先が直接当家に投函したことが疑われる。妻は電話してしまったことによるショックから、犯人の影に対してすっかりおびえてしまった。

(この項 続く)

2019年9月8日日曜日

ある日「民事訴訟の最終通告書」が我が家に…特殊詐欺寸前で被害を回避できた顛末(4)

犯人は電話番号を転々と変える

 

折り返し所轄署から電話が来た。状況を一通り繰り返すと、詐欺ハガキに書いてあった「訴訟通知センター」の電話番号と、S弁護士の電話番号を尋ねられた。「ちょっと調べさせてください」と言われ、5分くらいでまた電話が来た。

「その番号は、警察で把握していない新しい電話番号なので、ハガキの現物と奥さんの電話メモを証拠として提出してもらえないか」

 すぐ来る、というので待っていると、20分ほどで2人の警察官がやってきた。「教えてもらった『訴訟通知センター』に電話したら、犯人が出ました」と、婦人警官が言う。それでどうなったかまでは聞かなかった。

 警官は「これがハガキですね」とハガキを見ると、当家の正しい住所と妻の姓名がきちんとワープロ印字されている。

「おや、消印がありませんね」

 見ると確かにそうだ。ぞっとした。犯人が当家の郵便受けに直に投函しに来たらしい。こういう詐欺ハガキは郵便局も気がつけば扱わなくなるなどということがあるのだろうか。

「私、どうしよう、家の電話番号なんか喋ってしまったわ」

 事情を把握した妻が、恐ろしそうに言った。婦人警官が「間違ってもお金を振り込んだりしないでください。また連絡など来たらすぐに警察に知らせてください」と、帰っていった。

(この項 続く)

2019年9月7日土曜日

ある日「民事訴訟の最終通告書」が我が家に…特殊詐欺寸前で被害を回避できた顛末(3)

「弁護をS先生にお願いするとなると、弁護委託金が10万円で、取り下げ申請書を書いてくれたり、訴訟の情報開示の手続きをしてくれます。それから先方と和解の交渉をしてくれます」

との説明があったという。

私が「それが詐欺なんだよ!」と言うと、「えーっ」と狐につままれたような顔をされた。納得しない妻を差し置いて、私は110番に通報した。

 警察からはまず、「それは詐欺ですから、電話などせずに放っておいてください」とアドバイスがあった。

「いや、妻が電話してしまったのですが……」

「それでは、所轄署からすぐに山田さんに電話させますので詳細を話してください。警察が現金を預かったり、通帳やカード、暗証番号を要求することはありませんので、念のため」

 妻がこちらの電話番号を告げてしまっているので、さらなる詐欺手口が襲い掛かるかもしれない、というのだ。

犯人は電話番号を転々と変える


(この項 続く)

2019年9月6日金曜日

ある日「民事訴訟の最終通告書」が我が家に…特殊詐欺寸前で被害を回避できた顛末(2)

その日付は翌々日のことだった。「わかった、わかった、すぐ帰るよ」と私は言い、不安がる妻なので、そうすることにした。

 帰宅して、迎えに飛び出してきた妻に言った。

「そのハガキはどうせ嘘だから、無視して何もしなければいいんだ」

 すると妻は、

「そんなことはないわ、電話したらちゃんと出たし、弁護士さんも紹介してくれたわ」

「えっ、電話したの?」

「これがハガキよ」

 見せられたハガキの文面は、本文冒頭の「これが詐欺のハガキです!」の写真とほとんど同じものだった。文面だけでなく、レイアウトも同じだった。

「これは、テレビなんかでときどきやっている詐欺ハガキだよ」と私が諭すと、妻は「でも電話したらちゃんと出たわ」と繰り返す。「ええ、さっきした電話のメモがこれよ」とメモを見せられた。妻が電話したら、担当者と称する男から

「あなたが消費した金額について未納・滞納の民事裁判が起こされています。その内容についての情報開示と取り下げについては、弁護士を通してもらわなければなりません」

との説明があったという。知り合いの弁護士がいないというと、「それでは国選弁護士を紹介します。無料相談できます」として、S先生なる実名をあげられ、その先生の電話番号(東京都内の固定電話番号)を知らされたという。

(この項 続く)

2019年9月5日木曜日

ある日「民事訴訟の最終通告書」が我が家に…特殊詐欺寸前で被害を回避できた顛末(1)

私の外出中に届いた一通のハガキに騙されて、家族がそこに電話してしまった。「弁護士を紹介する」などともっともらしい弄言を繰り出す詐欺師は、「とりあえず着手金が10万円で済む」などと家人を誘導しようとした。携帯電話で報告・相談を受けた私は緊急帰宅し、110番した。今回はその顛末と、跋扈している特殊詐欺の現状とそれへの対処を記したい。

「どうしよう、帰ってきてちょうだい」


近隣でのんびり用を済ませていた私の携帯電話が鳴った。妻からだった。混乱して、焦燥していて、気の毒に取り乱している。「私がどこからか訴訟を起こされていて、それを止めるにはすぐに手続きしなければならないって通知が来たの」「どうすればいいか、すぐ帰ってきて」と続いた。

「何が来たの? 電話口内容証明みたいなもの?」

「ハガキで、民事訴訟の最終通告書って書いてある」

 拙宅の住所、妻の個人名が明記されて配達されてきたものだという。私も一瞬考えたが、妻が訴訟を起こされるような状況は一切思い当たらない。

「それは怪しいよ」

「でも『訴訟通知センター』からきているし、訴訟を取り下げられるのは●月●日までって……」

(この項 続く)