2010年11月27日土曜日

「逆境を乗り越える者」ソネンフェルド&ウォード書評57



ランダムハウス講談社、2007年。

この本が日本で訳出出版された意図が分からない。内容は、不本意な解雇をされたCEOが充電期間を経て、別の会社のCEOとして再起する話。実例も豊富だし、まあそれなりに読み物としてはというところだ。

しかしたとえば最後の章が「逆境を乗り越えて勝利をつかむ」として7つの教訓がまとめあげられている。これらの教訓が必要な経営者が日本にどれだけいるというのだろうか。具体的にだれか個人名を私は上げることができない。つまりとある名のある会社を追われて、後日全く違うこれも名のある会社の経営者として着任して成功したというパターンの人である。

個人名を思いつかないくらいだから、この本を必要とする潜在読者は日本には二ケタもいないのではないか。そんな特別なケースの経営者にはたとえば私のような者が個人的に助言してあげればすむことだ。

「読み物としては」と前述したのは、「人の不幸は蜜の味」みたいなケースが幾つも書かれているところだ。玩具のマテル社のCEOを2000年に解任されたジル・バラッドには総額5千万ドル近いパッケージが支払わされたそうだ。50億円という巨額である。それについて本書は
「株価の70%下落を招き、アメリカ史上でも最悪の買収をかじ取りした責任者としては信じられないほどのすばらしい餞別」
とのコメントを紹介している。

これらの興味深いケースの羅列は、しかし考えてみればアメリカCEOゴシップ誌という位置づけに収まるのではないか。つまり、登場紹介されているCEOを芸能人やセレブに、「解任事件」を「離婚スキャンダル」にそれぞれ置き換えると本書の構造が見える。もっともらしい解説や教訓の引き出しもゴシップ誌にはつきものというわけだ。

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