こちらはまだ経営者にもなっていない段階、あちらは年長で大出版社の看板編集というお立場だった。親しくなったころ、N女史に打ち明けられた。
「大作家と言われている人なんかもお世話させていただいているけれど、預かった原稿には私が手を入れているのよ」。
つまり、Nさんが先生の文章を直すというのである。
「筋書きや構成はもちろん先生で無ければできないので、それぞれの文章のところは目を配るのね」
Nさんが「赤」を入れてしまうという。
昨年末に「松本清張生誕100年」などという長時間のTV番組があった。
「松本清張をほとんど専属として担当していた編集者」
として懐古談を語っていたNさんを見て一驚した。
そして今週『松本清張傑作短編コレクション』(文春文庫)を読んでいる。
文章だけのことを言えば、清張のそれは確かに生硬である。文と文がぶつぶつと切れ、流麗に流れない。漢語の使用度などもあり、重厚ではある。しかし、その構成や着想の素晴らしさほどの文章では確かに無い。
(へえー、Nさんの出番は確かにあったんだ)
と改めて思った。
落語の落ちのような話で申し訳ないが、このNさんに私の処女作が
「山田さんの原稿はあまり直さないでいいわね」
と言ってもらって出版してもらった。やはり自慢のことだ。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿