ふと見ると、駐輪場の精算機のところに電話があるではないか。銀行のATMなどにあるパターンだ。受話器をあげると、果たして自動的に繋がった。
「はい、xx社の駐車場コールセンターです」
駐車場?xx社?市が委託している管理会社なのか?事情を話し、
「管理人にも声をかけているのだけど、、、」
と、抗議もした。すると
「?? そちらは無人駐輪場ですけれど?」
と、とまどったような応対が帰ってきた。電話のやり取りは、黙座している管理人のすぐ近くで成されていたので、耳に入っている筈だ。彼はひたすら、手にした文庫本に目を落としている。
私の自転車は、コールセンターから電気信号が発信されたことによって解錠された。私はオペレーターに礼を述べ、しかし再び
「ここにいる管理人は一体何なの?!」
と抗議して家路についた。
翌日コールセンターからフォローとなる電話を貰い、幾つかのことが分かった。
まず、その駐輪場は市の施設ではなく、そのコイン・パーキング大手の会社が運営する商業施設だということだ。そして確かに
「管理人は置いていません」。
「管理人は置いていません」。
この事件以降この駐輪場を利用すると、親切だった管理人たちの姿が見えなくなった。彼らが座っていた折りたたみ椅子も無くなっていた。
私はどうも居心地のいい避難場所の一つを、地区のホームレスの人たちから奪ってしまった悪人となってしまったようだ。
(この項 終わり)
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