2018年1月31日水曜日

ソフトバンク、「Pepper元開発リーダー」不使用要請は「言論の自由への抵抗」(2)

しかしながら、林氏が弊社又はソフトバンク株式会社に在籍中に、Pepperに関して、企画・コンセプト作りやハード又はソフトの技術開発等、いかなる点においても主導的役割を果たしたり、Pepperに関する特許を発明したという事実はございません。また、事実として、当社またはソフトバンク株式会社のロボット事業において『開発リーダー』という役職や役割が存在したことはありません」

「林氏にPepperの『父』『生みの親』『(元)開発者』『(元)開発責任者』『(元)開発リーダー』の呼称を用いるのは明らかな誤りであり」

「メディアの皆様におかれましては、今後林氏について報道される際は、『Pepperプロジェクトの(元)プロジェクトメンバー』など、Pepperの技術開発の責任者又は中心的存在であったかのような印象を与えない呼称を使用していただきますようお願い申し上げます」

(この項 続く)

2018年1月30日火曜日

ソフトバンク、「Pepper元開発リーダー」不使用要請は「言論の自由への抵抗」(1)


ソフトバンクのPepper(「Wikipedia」より/Tokumeigakarinoaoshima)


ソニーが犬型ロボットを再リリースして予約販売は即完売を繰り返すなど、“ロボットの時代”が到来した。

そんななか、人型ロボットの代表的商品であるPepperを発売しているソフトバンクが、その開発にかかわった林要氏(現GROOVE X社CEO)の呼称についてマスコミへ「異例の要請」を行い、話題となっている。

 マスコミがある人物をどのように評価するか、呼称するかということはマスコミ各社の認識の範疇ともいえ、表現の自由、言論の自由にかかわることだ。今回は「報道の自由」に対して「要請」を出したソフトバンク側の言い分を検証する。

林氏はPepperの「開発リーダー」だったのか、否か


 ことの発端は、1月23日にPepper開発元のソフトバンクロボティクス・冨澤文秀社長の名義で、不思議な通知文が報道各社に送られてきたことだった。

「報道関係各位
(略)元弊社社員であり、GROOVE X株式会社の代表取締役である林 要氏についての報道において、林氏をPepperの『父』『生みの親』『(元)開発者』『(元)開発責任者』『(元)開発リーダー』などと呼称することで、あたかも林氏が弊社在籍当時Pepperの技術開発の責任者又は中心的存在であったかのような印象を与える表現が散見されます。

(この項 続く)

2018年1月28日日曜日

帝国ホテルで経営相談会

先週、帝国ホテルで行った経営相談会は、1社1時間枠で何社もの社長さんの話をうかがい、その場で助言を行った。

その中で、特にユニークな会社、そして社長さんが居たので、来週別途個別インタビューさせてもらい、記事紹介をすることとした。

株式会社世界地図という。四国は松山の会社だ。2月には記事を挙げて紹介するので是非知ってほしい。

2018年1月23日火曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (12)

対談を終えて(山田の所感)


 世の中で「プロ経営者」というと、外部招聘されて大企業の経営を任されたり、大手外資系企業の社長上がりの経営者など、著名な方の顔がいくつも目に浮かぶ。私自身や私の先輩、新将命(あたらしまさみ)氏なども、いくつもの会社を任されたということでは、その走りみたいなものだった。しかし、私たちの時代ではまだ「プロ経営者」という言葉も使われておらず、複数の会社の経営の任に当たるのは例外的な存在だった。

 今世紀に入り、企業のM&A(合併・買収)が盛んになるのと軌を一にして、経営者層の流動性が一気に高まってきた。しかし、他の会社の、そして見知らぬ会社の経営を素手で引き受けられる、それこそ「プロ経営者」人材の供給はまだまだ足りない。

 そして、特に供給とのミスマッチが生じているのが、中堅中小規模の会社だろう。その意味で、木村屋総本店のケースは外部からの着任経営者が本当に草の根レベルまで浸透していくのか、好個な試金石と見ることができる。経営者として福永氏と同様なキャリア・パスを通過した私としては、福永氏の経営手腕と同社の再活性化の道筋をぜひ見守っていきたい。

(この項 終わり)

2018年1月22日月曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復(11)

福永氏が考える「プロ経営者像」


――福永副社長が木村屋総本店に入る前のご経歴を教えてください。

福永 大学を出て新卒で日本生命に入社し、14年間勤務しました。その後、製造業の会社を活性化する仕事をしたいとの思いから、コンサルティング会社に5年間勤務し、事業会社では経験できなかった多くのことを学びました。

――その後、経営職に就かれたのですか。

福永 日本航空の再生を手がけたことで知られる企業再生支援機構に移り、再生支援に乗り出した事業会社に派遣される機会を得ました。

――どんな会社だったのですか。

福永 中堅の印刷会社で2年間構造改革担当役員として指揮を執らせてもらいました。この印刷会社が無事にイグジットした際に、木村屋総本店の構造改革の話をいただき、経営共創基盤からの派遣経営者として13年の4月に着任しました。

――2社の再建を手がけて、どんな感想を持たれていますか。

福永 「中小企業だから」「少子高齢化だから」「大手スーパーが強いから」などと考えて諦めている経営者がいるとすれば、考え方や行動の仕方を変えると、まだやれる部分があるな、というのが私の思いです。

――福永さんはいわゆる「プロ経営者」ですが、「プロ経営者」とはどんな経営者だとお考えですか。

福永 いろいろな要素があります。ターンアラウンド(方向転換)できるのは、その会社の既得権や過去の習慣を壊せる人です。それから、軸がブレないということです。カリスマ性などよりも、変革フェーズではトップの軸がぶれないことは極めて重要なことです。

 論理的に、戦略的に意思決定できる、ということも重要です。それもスピーディに。そして事業特性に応じた利益創出のパターンを見つけて仕組み化できることが必要でしょう。キャラクター的には猪突猛進で突き進む勇ましい人ではなく、行動、言動に根拠がある人、ということでしょう

(この項 続く)

2018年1月21日日曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (10)

強みを押し出し、日本一の袋パンメーカーに


――木村屋総本店の副社長に着任されて、4年が経ちました。不調のどん底にあったスーパー・コンビニ向け事業を軌道に戻し、これから次のステージに入っていく段階ですが、今後について副社長はどんな経営方針をお考えなのでしょうか。

福永 経営戦略の王道として、「自社の強み、こだわりに徹する」ということがあると思います。インストアベーカリーでは実現できない中量生産で、従来の袋パンの常識を超える「ひと手間かかった美味しい袋パン」を提供することです。製品開発でも大手が実現できないこだわりのあるもの、カスタマイズした袋パンを出していきたい。量産のパンには不可欠な乳化剤やイーストフード、ショートニングやマーガリンなどを不使用とした「ブリオッシュ風クリームパン」を新製品として昨年春に発売しました。素朴な美味しい袋パンということで評価をいただき、今では不使用シリーズが11ラインナップにまで成長してきました。

――社員の意識改革は十分なレベルに達しましたか。

福永 事象に対する認識を変えることと、その結果、仕事のやり方が変わるという、認識と行動の両方が変わることを期待しています。しかし、慣れ親しんだ認識と行動の両方を同時に短時間で変えることは難しい。まずは、理解、認識は完全でなくても、新しい手順や基準を設定して『とにかくそれに沿って仕事をやってくれ』と繰り返しています。理解や認識は後から追いついてきてくれるのを期待しているわけです。数値結果が変わることを体感したことで、認識を変える社員が少しずつですが現れています。

――企業再生で、実は企業文化を変革することが一番難しい。

福永 その通りです。私も繰り返し強く働きかけてきましたが、まだまだ不十分です。これからも継続して働きかけていくつもりです。「社員のやる気が大事だ」などモチベーション向上を優先する経営者も多いですが、実は決まった基準と手順をしっかりやってもらうこと、そしてその重要性を繰り返しコミュニケーションしていくことを先行しないと、社員や会社は変わってくれません。

――変化、変革フェーズではトップからの強い働きかけがなければ、それは実現できません。

福永 部長以上の幹部社員には、毎朝「副社長メッセージ」と題したメールを発信しています。間もなく1,000回を迎えますが、認識と行動の両方の変化が起こるまで継続していくつもりです。

――今後目指していくところは?

福永 日本一の袋パンメーカーになることです。山崎製パンさんやパスコさんの規模になれるとは思っていません。「中量生産」によって、ひと手間かかった美味しい袋パンを提供し、しかも狙った生産性を確保できる特徴のあるパンメーカーになることです。「木村屋の袋パンは美味しいね」「バリエーションも豊富で選ぶ楽しさもあるね」とお客様に認められ、厳しいマーケット環境下であっても、強みとこだわりを消費者に届けている袋パンメーカーを目指していきます。「中量生産」の袋パンメーカーで、こだわりと生産性の両方を同時実現する袋パンメーカーとして日本一にチャレンジします。

(この項 続く)

2018年1月20日土曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (9)

――キムラヤスタンダードとはどんなことですか。

福永 「品質作りこみスタンダード」「開発・販売スタンダード」そして「行動スタンダード」という3つの認識・行動をモノサシとする考え方です。「品質作りこみスタンダード」としては、食品業界でNo.1の品質作りこみを実行する。「開発・販売スタンダード」では、当社の強みにこだわった開発・販売を実行する。そして「行動スタンダード」においては、私が正しいと考えるビジネス上の5つの価値観にしたがって行動することを求めています。


――副社長が目指す、実現したいことを言語化し、社員に具体的に明示したわけですね。
福永 そして、それら3つのスタンダードの上位概念として、「キムラヤカテゴリーを創造する!」「『おいしいパン』を提供し続け、正しい利益を得る!」という方向性を示しています。仕組みや基準・手順に沿って考え行動することが、「ロボット人間をつくる」「没個性を求める」のではなく、「木村屋の強み、こだわりを発揮する」「利益を得て継続性のある事業にする」ということを認識して、唯一無二の中量生産の袋パンメーカーになりたいとの思いがあります。

――私の経験からも、古い行動規範や価値観に染まった古手社員ほど動かしにくい。何より彼らはどう変わればいいか、自分ではわからない。副社長がそれらの文言を通じて、求める新しい基準、価値を示したのはとてもよかったと思います。

(この項 続く)

2018年1月19日金曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (8)

――再生経営者としては、そうでなければいけません。

福永 実は、あんぱんに対する思い入れだけでなく、袋パンの製造における職人技神話にもメスを入れました。パンをつくるには、その日その時の気温、湿度、使う水の温度などの微妙な違いを個人で判断しながらつくらなければいけない、と社内では言い伝えられていました。私はそれらを基準・手順の見える化と数値化をして、基準・手順に沿って作業するように改めました。定められた基準と手順による製造プロセスへ転換させたのです。

――私も経営者のときにやりましたが、そういう変革は古手社員にとても評判が悪い。やる前は信じてもらえない。
福永 そうなんです。製造粗利や主要なKPIなどの数値結果が劇的に向上しています。基準・手順に沿った標準化された作業を導入した結果、製造ロスは半分に低減し、製造粗利は5%以上改善しています。加えて、従来の半数の営業担当者で、以前と同規模の売上を維持することもできています。

――大成果ですね。外部から来た経営者のほうが、こういう場面では強いです。

福永 基準・手順に基づく製造が、実は強み・こだわりを強化するために必要なことだという理解度を上げるために、日本酒の獺祭(だっさい)の製造方法や無印良品の店舗運営をモデル事例として、幹部社員と共有してきました。

 獺祭の醸造元、旭酒造さんも職人技に頼らず、誰でも同じ仕上がりに仕込めるように醸造法を基準・手順として進化させたと聞きました。無印良品さんは、顧客サービスや陳列について基準・手順などのルールを決めて、いわばスーパー店長は不要だという状況をつくり上げてきました。当社もパンづくりにおいて、いつ、誰が担当でも美味しく仕上がるような状態を目指しています。

福永 社内ではまだ抵抗は少し残っていますが、私は一日に30万個前後ものパンを製造する「袋パンの中量生産」においては「職人技はいらない」と呼びかけています。その代わりに、「キムラヤスタンダード」をつくって、それを遵守してもらうようにしています。基準・手順に沿うことが、美味しい袋パンにつながっていることを理解してもらうためです。

(この項 続く)

2018年1月18日木曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (7)

職人神話にメスを入れることから始まった木村屋総本店袋パン事業改革


――木村屋総本店は著名なあんぱんで勝負すればいいのではないでしょうか。

福永暢彦氏(以下、福永) スーパー・コンビニ向け事業においては、あんぱんは5%ほどの売上比率しかありません。袋パンでも「あんぱんのキムラヤ」という知名度はあっても、袋パンのマーケットで求められているのは、あんぱんだけではありません。我々は、あんぱんだけでない「強みとこだわりが詰まった袋パン」で成長していかなければなりません。伝統の美味しい袋パンのあんぱんの認知度を上げていくためにも。

だから、方向性を明確にしていくために、スーパー・コンビニ向け事業ではあえて「あんぱんのキムラヤとの決別」という言い方をしてきました。決して「あんぱんのキムラヤ」を否定しているのではありません。袋パン分野での当社の認知度はまだとても低く、ポテンシャルは極めて大きいと感じています。

――「あんぱんのキムラヤとの決別」というのは、古くからいる社員にとっては抵抗のある方向付けだったのではないでしょうか。

福永 そのとおりです。でも私の着任前は、古いやり方、考え方に皆がとらわれていたからこそ、本来持っている伝統や強みが生かし切れていなかった。皆の考え方を変えていけば、袋パンのあんぱんの製造を続けてきたからこその強みを生かしていけると考えています。



(この項 続く)

2018年1月17日水曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (6)

インストアベーカリーと大手パンメーカーの間で、独自のポジションを確立して成長していく


――日本の袋パンメーカーのなかで、木村屋総本店はどんな位置取りになっているのですか。

福永 まず、年商が1兆円を超えるガリバーのような存在が山崎製パングループです。続いてフジパングループ、パスコグループが2000億円以上の年商規模です。

――2位からいきなり桁違い、年商規模が下がっているわけですね。

福永 はい。そして年商200億円を超える規模の袋パンメーカーが数社あり、木村屋総本店のスーパー・コンビニ向け事業の年商はもう少し規模の小さいところに位置しています。

――いわゆる街のパン屋さんはそれこそたくさんありますね。

福永 店内でパンを焼いている業態は「インストアベーカリー」と呼ばれています。これらは製造した焼きたてパンを直接消費者に販売しているわけです。我々のスーパー・コンビニ向け事業は、大手パンメーカーほどに機械化されていませんし、インストアベーカリーのように手づくり度が高いわけでもない、という中間的なポジショニングです。

――中間的なポジショニングのメリットとデメリットはなんですか?

福永 当社も含めて、中間に位置するパンメーカーの悩みは、なんといっても大手との競合にさらされていることです。大手の強みには実は物流網もあり、パンメーカーにとっての物流費の割合の高さからは、とても効率の面で勝負になりません。

 また、大手と同じようなパンの製造に走ってしまうと、大手が製造する効率のよさにこれもかないません。中堅メーカーは特色あるパンを開発し続けないと生き残ることが難しい業界です。製造において大手よりも一手間と時間を余分にかけたつくり方をすることで、大手と差別化したカスタマイズ度合の高い、そしておいしい袋パンをつくれることが当社の強みです。我々はこの中間的なポジショニングを「中量生産」と定義して、木村屋総本店の袋パンの開発・製造の強みとしていきたいと取組んでおります。

(この項 続く)

2018年1月16日火曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (5)

――パンの種類は減らしただけなのですか。

福永 いいえ、減らしたアイテムと増やしたアイテムがあります。増やした、というのは当然新製品の開発になりますが、以前のように漠然と商品を出すのではなく、「強み・こだわり」が詰まった「利益が出るパンの開発」というテーマで取組んできています。「利益が出るパンの開発」とは、決して原材料費を抑制することではなく、原材料の廃棄抑制、生産性の向上、定番化することでの計画生産度合の向上など、製造・販売の起点としての重責を果たせる製品開発にチャレンジしています。

 オペレーションの改善という点では、計画生産と開発の方向性の具体化、この2点が大きな改革だったと思います。生産量のふり幅を少なくするというのは結構難易度の高いチャレンジだったと思います。

――そのほかには?

福永 計画生産の度合が低いことなどから、残業も多く発生していましたが、全体として大きく改善してきました。また、以前はゼロであった女性管理職が4名、毎日重責を果たしてくれています。

(この項 続く)

2018年1月15日月曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (4)

――どんな分野ですか?
福永 薄利多売の日配ビジネスであるスーパー・コンビニ向け事業は、計画生産がとても難しいビジネスです。しかし難しい条件、つまり与件のなかでも自分たちの行動を変えることで、100点は難しいが可能な限りの計画生産にチャレンジしてきました。

――具体的には?

福永 大手チェーンでの特売セールでは造個数が大幅に増えます。日常の受注とのふり幅が大きくなるほど、実は製造コストが大きくなり損失が膨らみます。私の着任初期にとあるスーパーさんのチラシに載せれば売上が何百万円になる、という受注を社員が取ってきたときにお断りさせたこともあります。そのやり方は旧来の社員たちにはなじめないところもあったようです。「利益につながる売上」という意識を持ってもらうことに腐心しました。

――私も再生経営者として見知らぬ会社に着任した時に、いつも社員の意識を変えることに苦労しました。

福永 各チェーンからの袋パンの注文は最終的には前日までに来るのですが、それにしても過去のトレンドを見たり、それぞれのスーパーさんとしっかりお話ししていれば、どの程度の受注が来るのかはある程度わかるでしょう、と言ってきました。あとは、その見込みに対して人員を配置したり、生産計画を立てたりしてもらうわけです。「100点は無理だけど計画生産にチャレンジしよう」と旗を振ってきました。

 当社の取引先の大口はスーパーとコンビニです。スーパーさんのチラシに当社の袋パンが載ると、多くの注文が入ります。嬉しいことなのですが、それが予測できていなければ、生産対応できない。セールスチャンス・ロスとなったり「利益なき繁忙」として生産しなければなりません。

 具体的に見ていくと、お取引先であるスーパーさんの販売パターンが見えてきます。販売パターンがわかったことで当方も対応の仕方が見えてきました。個別のスーパーの状況だけでなくスーパー・コンビニ向け事業全体として予測して、計画生産につなげる仕組みが徐々にではありますが出来上がってきました。

(この項 続く)

2018年1月14日日曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (3)

――メーカーとしての特徴を出しにくい構造ですね。
福永 そんななかでなんとか当社の強み・こだわりを打ち出したい、と苦闘してきました。

既成概念を破って改善してきた


――福永さんが就任してからの業績はどのように変化、改善してきたのですか。

福永 袋パン業界のマーケットや事業構造からして、今までのやり方を変えなければ利益を出すことはできないと、強く感じました。一方で、これまでの長い歴史の中で培われたすでにある強みや、大手メーカーにない特徴にトコトンこだわれば、これはいけると感じました。

――どんな分野で改善を図ったのですか。

福永 取扱いアイテムを約4割削減し、お取引いただく小売チェーンも半分近くにまで絞り込みました。その結果、日配の物流コースを2割ほど削減することにもつながっています。これらの絞り込みは、計画生産に近づける上でも、生産性や物流効率を改善する上でも、大きなインパクトがありました。

――いろいろ絞ったわけですね。

福永 いわゆる「選択と集中」を行いました。お取引いただくチェーンは当社にとって顧客ですが、当社が一定の販売ボリュームと利益を確保できないところを中心に絞り込みました。アイテムを絞り込むにあたっても、利益率は大きな要素です。加えて、当社の新たな強み・こだわりにマッチしないアイテムも絞り込みました。

――ABC分析による絞り込みはよく叫ばれるところですが、それをパレート図として描出することが実際には難しいところがあります。

福永 そのとおりです。顧客別にせよ、アイテム別にせよ、実際には共通経費をどう個別に振り分けるか、その方式を決めるのに苦労しました。なかでも、製品設計から製造、そして売上が計上されるまでのプロセスを具体的に理解することに苦労しました。

――しかし、その苦労に対する果実は大きかった、と。

福永 アイテム数も、取引いただく小売のチェーンの数も絞り込んだので年商は一時的には減少しましたが、現状ではほぼ横ばい近くまで回復しています。一方、利益のほうは私の着任前にはスーパー・コンビニ向け事業で数億円あった営業赤字が、2期目には黒字になりました。

――木村屋のように伝統のある会社では難しい改革を積み上げて、いわゆるV字回復を達成なさったのですね。

福永 社員に愛着があるが、強み・こだわりが希薄で利益も確保できていないアイテムを絞り込むには労力を要しました。一方、捨てるだけでは縮小するだけで未来がなくなってしまいますので、「育てる」ことにも注力してきました。

(この項 続く)

2018年1月13日土曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (2)

――そうなんですか? でも貴社でもあんぱんを扱っています。

福永 木村屋総本店のスーパー・コンビニエンスストア向けの事業では、袋パン向けに独自に開発設計したあんぱんを、埼玉と千葉にある工場で製造しています。当然、あんぱんの老舗をルーツとする企業として、こだわりの生地とこだわりの餡を使用した、大手メーカーとは差別化した袋パンのあんぱんです。

――現在の事業構成をご説明いただけますか。

福永 木村屋総本店には、デパートなどで伝統的なあんぱんを中心に販売している「直営店事業」と、袋パンを製造・販売している「スーパー・コンビニ向け事業」に大きく分かれており、後者が売上全体の80%を占めています。

――福永さんは木村屋総本店には外部から5年ほど前に着任なさったのですね。外から来てみてパン業界の難しさは、どのようなところでしょうか。

福永 一番の特徴は日配(にっぱい)業だということですね。前日までに受注した一定のボリュームを、翌日の決められた時間までにはスーパーやコンビニの店舗に届けなければなりません。物流は時間がタイトで待ったなしの状態であり、受注から納品までのリードタイムが短く生産計画がとても立てにくい状況にあります。

 袋パンの場合、消費者が製造メーカーを認識しづらいほど類似品が溢れかえっていて、パンメーカーは数が多いので競争が激甚です。近年、コンビニ向けにはパン専業ではない食品メーカーがパンを提供したりして、新規プレーヤーの参入も続いています。もうひとつ特徴を挙げると、小売りの力がとても強い、言い換えると、メーカーサイドの提案力がとても弱いということです。

(この項 続く)

2018年1月12日金曜日

あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復 (1)


 明治の初めに創業した老舗、木村屋総本店副社長の福永暢彦氏は、外部から送り込まれた経営者だ。従来のやり方に慣れ親しんだ社員たちや業界慣習と向かい合い、この老舗を見事によみがえらせた。回復フェーズを通過し、成長フェーズをうかがう福永氏に、これまでの苦闘とこれからの展望、戦略を聞いた。



木村屋総本店の売上構成の中心は袋パンだった


福永暢彦氏(以下、福永) 木村屋というと東京・銀座4丁目にある、あんぱんで有名な銀座木村屋が知られていますが、木村屋総本店と同じルーツの別の法人であり、事業内容や主力の商品なども異なっています。

(この項 続く)

福永暢彦・木村屋総本店副社長:1968年生まれ、滋賀県出身。神戸大学経営学部卒業後、大手生命保険会社、業務改革コンサルティング会社にてキャリアを積む。2011年1月より、株式会社企業再生支援機構にて、中堅印刷メーカーの再生に構造改革責任者(CRO)として従事し、再生経営者としてのキャリアをスタートさせる。13年4月より、株式会社経営共創基盤に参画し株式会社木村屋総本店に経営者として派遣され、13年10月に代表取締役副社長に就任。17年4月に株式会社木村屋総本店に転籍する。「強みのある領域にフォーカスする」「仕組み・基準・手順に基づいて行動する」ことを信念とし、創業149年老舗企業の一層の発展に取組中。