2018年7月10日火曜日

『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様: 書評226 (5)

一作目での「ブルー・オーシャン事例」のその後の惨憺たる有様に、著者は新著で口をぬぐっている。新著で紹介されている事例としては、イラクの国立ユース管弦楽団やマレーシア政府の新刑務所政策など、非営利団体の事例の割合が多くなっている。あとになって、企業業績のその後を詮索されないという、経験則が働いたのだろう。


単なる有効市場域の拡大


 
新著で著者は、ブルー・オーシャンで形成される新市場域をマイケル・ポーターの「生産性フロンティア」から大きく離れたものであると図示している。この説明は、「既存市場領域(従来の有効市場域)と離れてブルー・オーシャン市場域は発生するので、既存競争者はそこに到達するのに恐ろしく時間がかかる」と理解することができ、著者はその乖離を「ブルー・オーシャン・シフト」と呼んでいる(新著13ページ)。

 しかし、たとえば一作目で重要事例としてあげられた「イエローテイル・ワイン」が、その主張への大きな反証となっているのは皮肉なことだ。同ワインはオーストラリアのカセラワインズ社により今世紀初頭に北米で発売し、安価ワインのセグメントで大成功を収めていた。ところが、一作目が世に出た2005年には市場の景色はすでに一変していた。「イエローテイル」とはワラビーの尾のことなのだが、その成功を追って「カンガルー・ワイン」やら「コアラ・ワイン」などが続々と市場参入して、「イエローティル」の独走などといった状態ではなくなっていた。さらに南米の安価ワインの参入を経て、カセラワインズ社の利益は2008年には対前年比50%減、09年にはさらにそれから70%減、12年には赤字、13年には倒産危機と報じられた。「10年間無敵のブルー・オーシャン企業」として紹介された同社は、「業績つるべ落とし企業」だった。

(この項 続く)

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