ゴールデンウィークが明け、スキー用品を手放すことにした。今シーズン初めに買ったのだが、気に入らず、別のモデルに買い換えたのだ。捨てる場合は粗大ごみ扱いとなって手続きが面倒な上、費用もかかる。インターネットオークションに出品するためには、写真を撮って掲載したり、発送などの手間がかかる。
そこで、近所にあるリサイクルショップのハードオフに持ち込むと、「シーズン前なら買い取ったのですが……」という返事があった。確かに、秋に来店した時にはスキー用品の売り場があったが、今は見当たらない。その時々の売れ筋となる品物を買い取る、というポリシーがあるようだ。
その代わりに場所をとっていたのが、オーディオやパソコン関連、ゲーム機器などだった。多くの商品が通路に置かれ、ビニールかけなどの作業が行われていた。
整理されずに置かれている状態だけを見ると、言葉は悪いが「ゴミの山」のようだ。しかし、ハードオフから見れば、ゴミの山は「宝の山」になるわけだ。
(この項 続く)
女性経営者が急増したといっても、やっと割合で2桁となった程度である。筆者が指導してきた多数の経営者の中でも、女性社長は2人しかいない。少数派の女性経営者の中でも、率いる会社の規模感から最大なのがテンプホールディングスの創業会長、篠原欣子氏だ。篠原氏には、光栄なことにスカウト面接をしてもらったことがある。1983年に筆者がMBA留学から帰国した際のことだった。
篠原氏を含めても、日本人女性経営者を多く存じ上げているわけではないが、経営者として成功してきた彼女たちには、やはり共通点があった。
まず、経営者として優秀なこと。それは男性社長と変わることはない。次に、家族からの理解や支援があるか、いっそ家族関係を作らない、つまり独身であること。最後に愛嬌があること、魅力的であると言い換えてもいい。日本のビジネス社会は、まだ男性多数で構成されている。冒頭の調査結果も、裏返せば社長の90%弱は男性ということを示している。その中に分け入ってコミュニケーションが取れ、ビジネスを開拓・獲得していく女性社長たちは魅力的な人柄の人が多いのだ。篠原氏も、お会いしたのは30年以上前のことだが、素敵な人だった。
こんなことを書き連ねてくると、今年の話題の女性社長、大塚家具の大塚久美子社長のことはどう評すればいいのだろうと思ってしまう。
(この項 終わり)
大会社の女性経営者は少数
前出の「全国女性社長」調査結果によると、女性社長が経営する会社の業種は、生活に身近なものが多い。
「産業別では、宿泊業、飲食業、介護事業、教育関連などを含むサービス業他の12万5388社(構成比40.4%)が最も多かった。また、産業別の『女性社長率』で最も高かったのは不動産業の21.0%で、5人に1人の割合を占めた。女性の起業は、個人向けサービス等の暮らしを充実させる分野での事業展開が多いという。女性の視点による商品開発やサービス提供が、新たな需要を掘り起していることも女性社長の増加に影響している」(同調査より)
逆に大企業では、まだまだ女性社長の率は低い。3000社強ある上場会社で、女性社長(代表執行役を含む)は29社(14年12月現在判明分)だけだった。その中で14年に1億円以上の役員報酬を得た女性社長は、日本マクドナルドホールディングスのサラ・カサノバ氏のみである。
この惨状は経営幹部のレベルでも同様だ。4月16日にコンサルティング会社の太陽グラントソントンが発表した「中堅企業の『女性経営幹部』に関する世界35カ国同時調査」によると、日本における割合は8%で、35カ国中最下位だという。
(この項 続く)
オーナー企業における後継問題は、待ったなしの喫緊の経営課題になっている。
なにしろ、全国267万社企業のうち248万社が同族企業なのだ(国税庁統計情報13年度会社標本調査結果)。実にその割合は93%に達する、我が国はファミリービジネス大国なのだ。ちなみに法人税法では、出資金額の半数以上を3人以下の株主が支配する会社のことを「同族企業」としている。
オーナー企業が事業承継する場合、もちろん子息承継を望むことが圧倒的だ。男子承継の傾向はまだ強いが、近年、男女間でも能力に差がないと認識されるようになったことで、女性経営者が急増している。
女性社長が急増したもう1つの要因は「プチ起業」である。06年に会社法が施行され、株式会社が資本金1円から設立できるようになった。それ以来、誰でも起業して経営者になることが可能となった。
(この項 続く)
「週刊ポスト」(小学館)から「女性社長が増えていることについて」というテーマで取材を受けた。きっかけは、信用調査会社大手の東京商工リサーチが4月24日に2014年の「全国女性社長」調査結果を発表したことにあるという。
同調査によると、全国267万社のうち女性社長は10年の調査開始以来最多の31万55人、11.5%になった。10年の調査では21万人強だったので、4年間で5割近くも増えた。「女性社長がどうして急増したか」という問いを受けて、2つの要因を挙げた。
まず、既存の経営者の高齢化だ。東京商工リサーチが14年10月に発表した別の調査によれば、14年の全国社長の平均年齢は60.6歳で、前年より0.2歳伸びた。調査が開始された09年には59.5歳で、毎年0.2歳ずつ平均が加齢している。11年に60.0歳と60代に乗ったのを契機に、女性社長の急増も始まったと見ている。
上記は全企業の平均で、戦後に設立された企業で創業者がまだ経営者である場合は70代以上となっていることが多い。中には80代の経営者が後継経営者に悩んでいる場合も多い。
(この項 続く)
写真のムック雑誌がまた7月に出るという。
「有識者が推薦する国内MBA校」というテーマで取材を受けた。
「山田先生は『元祖MBA』ということになっていますが」
と質問を受け、そんな呼称で呼ばれるようになった来歴も話した。「?」と感じたが、何しろ1980年代の話しで、30年前のことだ。
推薦した国内MBAとしては、通学した青山学院(留学したため中退)と法政(私が出たのは博士課程だが)の他に一橋、中央を挙げた。
「社会人経営大学院は、『経営者になりたい人』が行くところ、アラサーが中心で課長未満が大多数。経営者や幹部になったら経営者ブートキャンプとなる」
とも話したが、記事掲載には消極的。
演説前夜の晩さん会で安倍首相はオバマ大統領に「ここ数日議会演説の練習で、妻からうるさがれて昨晩は別に寝た」と冗談を言った。つまり、それほど一生懸命練習したのである。
実は安倍首相は若い時に2年間、米南カリフォルニア大学で学んだ(卒業はしていない)。また、新卒入社の神戸製鋼時代には米ニューヨーク駐在の経験もある。つまり、英語の素養は一定程度あるし、東京五輪招致の際にIOC総会に乗り込んでスピーチしたことは記憶に新しい。そんな場馴れした安倍首相なのに、これだけ準備する。いや、学んだからこそ英語の難しさ、準備の大切さを痛感しているのだ。
興ざめさせないためのテクニック
今回、安倍首相はプロンプターを使わなかった。欧米では重要な演説の際、演説者の目の前に透明なボードが2枚置かれていることがよくある。ボード上に原稿が流れて、演説者には見えるのだが聴衆からは見えない。総理は代わりにカンペを使った。映像に写ったカンペには比較的大きな文字列が映っていた。つまり逐語的な原稿ではない。これも大事なことだ。
スピーチやプレゼンで、用意した手元の原稿を棒読みされることほど興ざめすることはない。お勧めするのは、話そうとする各段(パラグラフ)の冒頭を列記しておくスタイルである。「そこで、売り上げ金額についてですが」「人事についてはこう考えています」などとだけ、メモっておく。各段で話す内容はもちろん決めておくが、こうやってトピックだけを語り出す形式にしておけば、内容については自然と言葉が出ていくはずだ。各段の内容を項目的に「(1)売り上げ金額、(2)人事」と箇条書きにしておくのは、スムーズなスピーチの醸成になじまない。
話す内容・構成についても、もちろんしっかりした準備が必要だ。「言葉で人を、部下を動かす」。それがビジネス・リーダーなのだ。コミュニケーションの達人を目指してほしい。
(この項 終わり)
5月23日(土)に経営者ブートキャンプの春期、第11期がスタートした。9月の戦略発表会まで都合7講の土曜日10:00-17:30のクラスだ。
今期も定員以上の参加希望をいただき、にぎやかな船出と成った。
前の10期には東証1部上場企業の社長が生徒として参加してくれるなど有ったが、昨日の自己・自社紹介を伺ったところでは今期も猛者や個性的な経営者が揃っている。ブートキャンプでは大企業より年商数億円でも創業経営者の方が一目置かれる。背負っているものが違うからだろう。
皆さんの社業の「急激な」隆盛のために、また経営者としては「経営力」を強化して貰うために、私も5ヶ月の間、啓蒙や叱咤激励を続ける。何より、戦略発表に漕ぎ着けて貰いたい。
安倍首相の演説でも、原稿は事前にハードコピーで聴衆に配られている。「間違いのない案内」ということだけなら、議場でそれを配って終わりにしたほうがよかったというのだろうか。事前に「内容は百も承知」なのにもかかわらず、ベイナー下院議長が涙したのはなぜか。それは「言葉の力」「プレゼン力」なのである。
「直接、言語で」行う大切さ
「ちょっとした文法上の間違いを恐れて、人前で話すのを躊躇する『完璧主義』が日本人の英語力の最大の障壁だ。発音をバカにされようが、練習を重ねて、大舞台に挑戦したこと自体、少しは評価されてもいいのではないか」(5月1日付東洋経済オンライン記事『歴史的演説!首相を支えた10のプレゼン技術』)
この指摘に筆者はまったく同感する。コミュニケーションは「直接、言語で」行うのが一番強力だ。それは政治家でも経営者、ビジネス・リーダーでも同じことだ。メールを送ったり書類を配布したりすることは、情報を渡すことではあるが、真の意味のコミュニケーションとはならないということをしっかり意識すべきである。
(この項 続く)
演説途中、数百人もの高位高官が十数回もスタンディング・オベーションで強い賛意を示した。安倍首相の後ろに座っていたベイナー下院議長などは、太平洋戦争における硫黄島戦闘のくだりで感極まって泣いていた。
今回の演説を「カンペを見ていた」「発音が悪い」「時々つかえた」などと腐す向きもあるが、これらは非英語圏である日本人が英語でコミュニケーションを取ろうとする時の困難を知らない人たちの非難だ。つまり「ないものねだり」である。
かつて、中曽根康弘元首相がある国際会議で日本人首相としては珍しく英語でスピーチを行ったことがある。その時、「United Nations(国連)」と言うべきところを「United National」と言い間違えた。何人かの評論家たちが鬼の首を取ったように「重要な演説なのだから、しっかりした通訳を使って日本語で行うべきだった」とコメントした。
そんな指摘はまったく馬鹿げている。
(この項 続く)
安倍晋三首相が4月29日、米国連邦議会上下両院合同会議で演説した。45分間に渡って英語で語りかけ、出席していた米国の高官や上下院議員たちを魅了した。
首相官邸HPにその動画『米国連邦議会上下両院合同会議における安倍晋三内閣総理大臣演説』が掲載されており、日本語字幕付きでわかりやすくビジネス英語教材としてとてもいいので、ぜひ視聴を薦めたい。 本稿では安倍首相が「何を」語ったのかについてより、「どのように」語ったのかについて注目したい。
率直にいって今回の英語演説は上出来というか、大したものだった。今世紀に入って英語によるスピーチの達人といえば、初当選した米大統領選挙中のオバマ氏の英語演説、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏のプレゼンが卓越していた。もちろん彼らほどではなかったが、安倍首相の「トータル・コミュニケーション力」は素晴らしかった。
(この項 続く)
発売中の「週刊ポスト」5.29号にコメントが。
「ビッグデータで見る 日本の女社長31万人」という4ページ特集記事。締めコメントとして私が引用されている。
「経営コンサルタントの山田修氏が語る。
『日本の大手企業の女性会社員が社長を目指すには、恵まれた家族環境が必要になります。出産・育児・介護による長期離脱があると難しい。
米コンサル大手のマッキンゼー社に勤務した後、IT起業のDeNAを創業し、今年から横浜DeNAベイスターズのオーナーに就任した南場智子氏でさえ、病気の夫の看病のため一線を退かざるを得なかった時期がある。
日本のビジネス界にはまだまだ男社会の風習が強く残っており、女性が活躍できる場が少ない.』」
5月20日(水)までドイツに視察旅行に出ていた。
ブログは本日より再開。ドイツのこともいずれ書く予定。
歴代社長の罪
アップルがソニーを凌駕してきたものは何か。iPodで音楽の楽しみ方を提案し、iPhoneでスマートフォンの世界を切り開いた。しかし、アップルは既存技術とコンテンツ、その提供方法を組み合わせて、新しいビジネスモデルとしてプロモートしたにすぎない。個々の技術分野で新たに開発をしたわけではない。
ソニーは、これらの新世代的な製品について、構成要素としてはすべて保有していたし、それぞれの分野では凌駕していた。拱手傍観していた出井伸之氏以降の歴代社長の罪は重い。
主要部門がエレキであり、そこへの回帰が王道だと考えられている間は、ソニーの本格的な復活はない。新しいビジネスモデルをひっさげ、「新生ソニー」として再登場する必要がある。「新しい器」には「新しい酒」が入らなければならない。そして「新しい器」には当然、新しい経営者が必要である。
(この項 終わり)
復活への道筋とは
ソニーがこれから発展の道筋を探すとすれば、現有の事業ポートフォリオを上手に組み合わせていくほかはない。ちなみにここでいう事業ポートフォリオとは、事業の組み合わせ(プロジェクト・ポートフォリオ)のことであり、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:製品の組み合わせ)ではない。事業ポートフォリオは全社戦略レベルで、プロダクト・ポートフォリオはマーケティング戦略レベルで効果的となるセオリーだ。
デバイス事業はBtoCに比べて高マージンが期待でき、安定性があるため、このまま注力すべき 「花形事業」 だ。一方のテレビ事業は、PC事業に次いで売却したほうがいい。家電の単一事業は海外メーカーとの長期的な競争に耐えられない、事業ポートフォリオ・セオリーで「負け犬事業」だからだ。
銀行・保険・不動産などの金融事業を「キャッシュ・カウ(金のなる木)事業」として、ここから出てくる資金を活用して新しい組み合わせ事業を開発する。現有の事業として映画や音楽などのコンテンツがあり、モバイルなどの通信技術がある。ソニーのITデジタル技術は、まだ一流だろう。加えて「プレイステーション」は世界を席巻しており、さまざまなサービスやコンテンツを消費者へ提供するプラットフォームとして使える。
ソニーはこれらのハード、ソフト、コンテンツを組み合わせ、新しいビジネスモデルを提案できる。そのためには、エレキ部門の単一製品レベルの枠を超えるものでなければならない。現有の個別事業のそれぞれを「プロブレム・チルドレン(問題児事業)」と捉えて、組み合わせ糾合により「スター(花形事業)」を現出させるのだ。
(この項 続く)
パナソニックが津賀一宏社長主導の改革によりV字回復の様相を呈しているのに比べて、ソニーでは平井一夫社長の経営力に多くのOBが疑問を投げかけている。実はソニーほど多数のOBが公に同社についてコメントする会社は珍しい。OBが著した「ソニー本」は優に数十冊を超える。
例えば、元ソニー・ミュージックエンタテインメント社長の丸山茂雄氏は、
「“斬新で高級なおもちゃ”を世に送り出すという創業時からのソニーの使命は、20年前の大賀さんの引退で、もう終わっていたんだよ」(「日経ビジネス」(日経BP社/4月20日号)
と指摘する。
しかし問題は、OBたちの多くが、大賀典雄社長時代以前のように画期的なエレキ製品を世に送り続けた「栄光の製造業」への回帰、再現を希求していることだ。OBまでも「成功の復讐」にとらわれている。そして消費者や業界関係者の多くも、「世界のソニー」として刷り込まれてきたかつてのイメージと比べて失望感を高めたり、過去の栄光への回帰を求めているのだ。
ところがソニーという企業の体質は、丸山氏が指摘しているように20年前から変質し始めている。OBも、そして現経営陣も、それを自覚する必要がある。
(この項 続く)
ソニーは4月22日、2015年度連結業績見通しを上方修正した。2月の予想から売上高を8兆円から8兆2100億円に、営業利益を200億円から680億円に、税引き前利益を50億円の赤字から390億円の黒字へ修正。当期純損失も1700億円から1260億円に圧縮するという。
この発表を受け、同社株価は大きく反応しなかったが、それは事前に織り込み済みだったためだ。3月末時点の株価(3190円)と比較し、4月22日(3675円)には15%上がっている。
しかし、この上振れ予想によりソニーが大幅な回復基調に入れたかというと、それは早計だ。今回の修正の主因は、金融、音楽、イメージング・プロダクツ、ゲーム&ネットワークサービス分野などで売上高が想定を上回る見込みとなったためである。主力事業とされるエレクトロニクス(エレキ)事業が大きく伸張したということではない。
テレビ事業が辛うじて久しぶりに通年黒字を達成できる見込みだが、この事業部門は次の売却候補の筆頭ではないかと筆者も指摘してきた。薄日が差した業績修正だが、輝きを取り戻したというには遠い。
(この項 続く)
さらに金融事業は、そこから得た利益を製造業における開発費や設備投資に回せるという旨味もある。20世紀最大の経営者といわれたジャック・ウェルチ氏がそんな金融事業の拡大に注力したのだが、同氏は次のように語っている。
「GEキャピタルに関しては、壮大な戦略的ビジョンを掲げたことはない。ナンバーワン・ナンバーツーになる必要はなかった。(略)GEのバランスシートをGEの頭脳と組み合わせ、成長軌道に乗せればそれでよい」(『我が経営』<ジャック・ウェルチ/日本経済新聞社>より)
身もふたもなくいえば、「金融事業は儲かればいい」ということだった。ウェルチ氏は同書の中で「創造力のある人材とモノづくりやマネーの規律とを巧みに組み合わせるという戦略が実に上手くはまった」と自賛している。
もちろん時代や環境が変われば、経営者が取るべき戦略も変わる。イメルト会長の今回の戦略転換が、ウェルチ氏を超える判断となるのか。大いに興味を持って見守っていきたい。
次稿では、金融部門と製造部門を有するもう一つの大企業、ソニーの事業組み合わせを分析する。
(この項 終わり)
最も困難な道
しかし、果たして結果は吉と出るか。GEキャピタルがGE全体の営業利益に占める割合が、07年の57%から18年にわずか10%になる。それだけ縮小する利益を、インフラ事業とサービス事業だけで新たに埋めることは易しくはないだろう。
GEのような世界最先端をいく製造業では、最高の開発陣を揃えて最先端の技術を生み出し、高価な機械設備を揃え、最も効率の良い生産方法を編み出そうとする。世界シェア1位か2位になる可能性がある事業しか手がけないという、ウェルチ氏が定めた同社の方針は素晴らしいが、それだけでは最も困難な道を選ぶことにもなる。
一般的に、製造業より金融業のほうが利益を生み出すことは容易だ。その理由は、使用・動員する資産の大部分が資金だけという事業構造にある。イメルト会長は「金融事業は業績変動リスクが高い」と判断したが、実はGEキャピタルはこの10年間で一度も赤字を計上していない。リーマンショックの08年でさえ80億ドルもの利益を計上している、GEにとっての金城湯池の部門なのだ。
さらに金融事業は、、、
(この項 続く)
イメルト会長が金融事業を縮小する方針に転換したのは、08年のリーマンショックによる金融危機が契機とされる。それまで米スタンダード&プアーズ信用格付けにおいてGEは最高格付けAAAだったのが、GEキャピタルが保有していた金融資産などの評価により、AAへとグレード・ダウンしてしまった。
格下げにより、目指していたM&Aなどの資金手当計画が狂い、戦略遂行に遅滞が生じたという。収益性は高いものの業績変動リスクの大きい金融部門は縮小しようということで、今後手がける金融業務は本業の産業機器の販促を支援するリースや融資機能などに絞るという。
昨年1~3月期決算は29億9900万ドルの黒字だったものを、今期は大きな赤字を計上してまで方針転換する格好となり、イメルト会長乾坤一擲の戦略的判断である。前任のジャック・ウェルチ氏から受け継いだ「選択と集中」戦略という伝家の宝刀を抜いた格好だ。
(この項 続く)
米ゼネラル・エレクトリック(GE)は4月10日、不動産などの資産を売却すると発表した。約265億ドル(約3兆1800億円)規模の不動産や関連金融資産を売却する。売却する不動産はオフィスビルなど多岐にわたり、金融子会社GEキャピタルの事業縮小の一環とされる。
ジェフ・イメルト会長兼CEO(最高経営責任者)は
「(今回の不動産売却は)GEの競争優位性を高めるうえで大きな一歩となる。産業分野の成長戦略に一致するものだ」
と述べた。すでに2016年までに営業利益に占める金融事業の比率を25%(14年は40%強)まで下げる方針を掲げていたが、新たに18年までに10%以下へ縮小させる目標を明らかにした。
株式市場はこの発表を好感し、発表があった10日、GEの株価は前日比10.8%高の28.51ドルへと急騰した。イメルト会長の経営方針に対する信頼感は強く、17日に発表された15年1~3月期決算で、最終損益が135億7300万ドル(約1兆6000億円)の赤字となったにもかかわらず、株価は動揺を見せなかった。この同期赤字の要因としては、GEキャピタルの、主に不動産関連事業を縮小したことが響いた。不動産評価損などを約160億ドルを計上した。
イメルト会長が金融事業を縮小する方針に転換したのは、、、
(この項 続く)
転地経営という荒事
これらの一連の発表をみると、富士フイルムHDが一昔前には写真フィルムメーカーだったということが嘘のようだ。
一般的に多角化とは、業態が隣接する分野、つまり連続するドメインに進出していくのが定番である。しかし、同社は基幹業態だった銀塩フィルムが消滅する変革事態に遭遇し、一見すると連続しないような業界セグメントに打って出た。これを「転地経営」と呼ぶ。写真フィルムメーカーとしては世界最大だったコダックが破綻し、富士フイルムは現在の繁栄に至った。その違いについて、筆者は拙著『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(ぱる出版)で古森重隆会長の戦略的経営を高く評価した。
古森会長の時代の先を見る見識や洞察力は、とても優れている。しかし、経営者としては、それだけでは大成しない。先見力を実際にどのように自社の事業展開へ、戦略として書き下ろせるのか。そしてそれを信念を持って実現していくことができるのか。それらの能力を併せ持つ経営者だけが「転地経営」のような荒事を実現していける。
今回、富士フイルムグループ各社が一連の発表を同日に集めたのも偶然ではないだろう。戦略的経営を続ける同グループは、ますます発展していくに違いない。
(この項 終わり)
メディカル機器の分野では4月7日に、1回の撮影で複数の断層画像を得ることができるデジタルX線画像診断システム「BENEO-Fx」を発表した。高額な医療機器はGE、シーメンス、フィリップスが世界的に寡占し、いずれも高い利益率を誇っている。これら三大メーカーの金城湯池に割って入ることができれば、その事業価値はとても大きい。そして富士フイルムHDはこの分野で画像処理技術というコア・コンピタンス(中核となる強み)を有している。
今月7日にはまた、2つの新製品の発表をしている。シミや肌のくすみなどの肌悩みを持つ幅広い年齢層の女性に向けたスキンケアシリーズ「ASTALIFT WHITE(アスタリフト ホワイト)」から、美白シート状マスク「アスタリフト ホワイト ブライトニングマスク」(医薬部外品)を5月15日に新発売する。そして傘下の富士ゼロックスが4K映像・音声データとLANデータを同時伝送できる光伝送器を世界で初めて開発、5月15日から発売すると発表した。
(この項 続く)
拡大するセキュリティ市場
実はCDI創業者の一人、米ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソン教授は、この研究分野で山中伸弥・京都大学教授の最大のライバルだとされており、今回のCDI買収に対して山中氏がどのような立ち位置を取るのか注目されていた。その山中氏はすでに、有力なiPS細胞関連特許についてCDIとの相互利用を検討中であることを明らかにしており、臨床応用が進むとの期待も高まっている。
周到な多角化戦略
医療再生分野での富士フイルムHDの多角化は、実に周到に展開されており、舌を巻くばかりだ。2008年に買収した医薬品中堅、富山化学工業は、当時最終赤字87億円の企業だったが、今ではエボラ出血熱に対する治療薬として期待される「アビガン錠」で世界的に注目を集めている。また昨年10月末に連結子会社化を発表しJ‐TECも赤字が続いていたが、再生医療製品開発という事業分野を有望視して参入した。今回のCDI取得により、両社の相乗効果は計り知れない。
(この項 続く)