孫正義と柳井正 (16) 孫正義は狩猟民族経営
●狩猟民族経営
孫氏のこのようなビジネス展開の手法、そしてそれを裏付けている経営哲学は、華僑華人の経営者のそれらと、とても似ています。筆者は以前、香港証券取引所に上場している華僑の会社の日本法人社長を4年ほど務めていた際によく観察する機会がありましたので、つくづくそう思います。
中国系企業家の特徴は、「関係(ガンシー)」ということを何よりも重視して、ビジネス機会があれば決してそれを逃さない、というところにあります。BtoBであろうがBtoCであろうが構わず進出していった結果、事業会社には共通性が見られない不整合なコングロマリットとして巨大化していくモデルです。
柳井氏がソフトバンクの社外取締役に就任して、その役員会に出席した感想を次のように述べています。
「役員会でも百億円単位の話をすると、みんなが『小さい話だ』と言って、一千億円という金額でも『たいしたことないな』と言うんです。単位が僕らの感覚とかなり違う。それは孫さん自身がそれまで投資家の面があったからでしょう。株式市場から資金を調達して事業を拡大していくんですね。(略)普通の会社ではとてもそこまでリスクはとれない」(「企業家倶楽部」<07年4月号>より)
柳井氏のこのコメントは、柳井氏と孫氏の経営の違いを象徴的に表しているように私には思えます。前回記事『ユニクロ柳井正の農耕民族経営 同じことの繰り返し&精緻化で同一事業領域を深掘り』で、筆者は柳井氏の経営を「農耕民族経営」と表しました。それに対し孫氏のそれは「狩猟民族経営」といえます。
日本を代表する2人の名経営者は、とても対照的な経営アプローチをみせています。
(この項 続く)