パリはドゴール空港でレンタカーを借り、オルレアンの南100km程のミードヨーロッパで所用を果たした。その後バカンスとしゃれこんで、ロレーヌ河畔の古城めぐりにまわったわけだ。
シャトー・オブリエールというそのホテルは何しろ昔の貴族の城なので、石造り3階建て、エレベーターなど無い。小ぶりで居住性は良くない建物だ。その代わり日比谷公園ほどの広大な庭園の中にある。
この庭園がとても手入れが良く、野生の鹿やらハチ鳥、鴨などが目の前を通ったり池で遊んでいたりする。フランスの6月の昼下がりはとても気持ちが良く、庭のベンチで日光浴をしていると、私の他は誰もゲストが通らない。お城を一人占めにした感覚で小一時間座っていた。
55歳の夏、単身のフランス行だった。その贅沢な時間を楽しみながら、私はそんな休暇をビジネスの一環として実行したこと、一人で異国でレンタカーを駆って旅行していること、ツアーでもなくガイドもいない旅程を異国の言葉で不自由なくこなしていること、ミシュランの一つ星がつくそのホテルのレストランを「そんなにはおいしくはないな」などと思ったことを覚えている。
その庭に座って、私は自分のそれまでの30年間が、自分をこのホテルのこのベンチに連れてきたことをしみじみと思い起こした。連れは誰もいなかったが、思い出のホテルとなった。
0 件のコメント:
コメントを投稿