オペレーション経営を追い求めてきた
野中社長は、しまむらの3代目社長だ。しまむらは、創業者の島村恒俊(のぶとし)氏が初代社長(在任:1953~90年)として88年に上場公開した。中興の祖ともいえる藤原秀次郎氏が2代目(同90~2005年)を務めた。初代以外は創業家ではない、従業員社長だ。
ユニクロがSPA(製造小売)というビジネスモデルを確立して成功したのとは対照的に、しまむらは基本的には流通小売業である。つまり、仕入れたものを販売するという、形態としては従来型の小売ショップチェーンだ。しかし、2代目の藤原社長が開発したのは、ユニクロとは異なるビジネスモデルである。
(この項 続く)
商品の高単価シフトと連動して野中社長は、次のようにコメントしていた。
「高単価の商品も意外と売れる。単価が上がっている分、数量を抑え、商品レイアウトを工夫する。(略)昨年の下期からアイテムを絞り、1アイテム当たりの数を増やし、量を売る商品を増やすことを一部店舗でやってきた。
今年3月以降、それを加速して、アイテム数は現在4、5万点あるが、3割削減する。全体の在庫数量は2割削減となる」(1月28日付日刊工業新聞より)
野中社長はしまむらに染み付いていた「安くてダサい」というイメージの払拭に、躍起になってきた。
オペレーション経営を追い求めてきた
(この項 続く)
「安くてダサい」から変身できたか
15年から回復基調となり快進撃を続けているしまむらだが、14年2月期と15年2月期に上場来初めて2期連続減益に落ち込んでいた。その時期を経ての15年からの好調なので、V字回復などともて囃されている。
回復の要因はヒット商品の出現と、オペレーションの見直しにあった。15年の秋冬シーズンに売り出した「裏地あったかパンツ」は、見た目は普通のパンツだが、裏地に起毛素材を使い重ね履きしないでも温かいというのが売りだ。これが、3900円という値付けで100万本以上売れた。通常の「しまむら価格」はパンツ類なら1900円なのだ。
初めは、14年シーズンに2900円で発売しており、15年は3割=1000円値上げした。2900円でも高すぎるという声が社内にあったが、野中正人社長がこれを一蹴。高額の大型ヒット商品になった。
(この項 続く)
「第44回日本の専門店調査」(7月13日発表、日経MJ実施)によると、衣料品の分野で国内売上高1位はユニクロ(運営会社:ファーストリテイリング)、2位はしまむらだった。
しかし、両社は直近の業績では明暗を分けている。ファストリは2015年9月~16年2月期のユニクロ事業が国内外で営業利益計画を下回り、大幅な減益に陥り、4月7日に16年8月期の連結業績予想を下方修正した。それによると世界連結での売上収益は1兆8000億円で据え置くが、営業利益が前回予想から600億円減の1200億円に、最終損益も前回予想から500億円減・前期比46%減の600億円にとどまる見通しだとした。
一方しまむらは、16年2月期の連結業績は、営業利益が前期比8.4%増の399億円と、3年ぶりに営業増益に転じた(売上高は同6.7%増の5460億円)。加えて16年5月21日の今期第1四半期決算では連結売上1404億円(昨年同期比6.7%増)、営業利益120億円(同38.5%増)となり、目下絶好調という様相だ。17年2月期には過去最高となる営業利益462億円(同15.8%増)を見込んでいる。
「安くてダサい」から変身できたか
(この項 続く)
島国に暮らすイギリス人がそのような歴史的、地理的要因に本能的に目覚めたのが今回のBREIXT選択につながったと見ることができる。
私に言わせれば、イギリスの大きな失敗はドーバー海峡を渡るユーロトンネルを開通させてしまったことだ(1994年)。これにより、列車はもちろん車も(列車に乗るのだけど)、イギリスと大陸を行き来できるようになってしまった。
ドーバー海峡という「堀」で守られていたイギリスといういう城砦の堀が埋められてしまったのである。こう考えると、BREIXTの自然で必然的な帰結は、入管管理の厳格化、つまりイギリスのヨーロッパからの再度の”適当な”孤立化ということになるはずだ。
一方、BREIXTにより、スコットランドとアイルランドの独立志向が高まってくる。まこと、「ヨーロッパの国境は永久に不定」であり、現代を生きている私たちもその経緯に付き合っていかねばならないのだ。
(この項 終わり)
時間の経過とともに言ってみれば無限に国境を、国名を書き換えてきたヨーロッパ大陸と一線を画してきて、むしろ対峙してきたのがイギリスだった。
フランスとの100年戦争や、スペインを大海戦で撃破するなど、ユニークな位置を保って繁栄を謳歌してこれたのも、イギリスが島国で大陸からは物理的に離れていたことにある。そして、イギリス人の多くはそのことを歴史的に感じていたり、文化的に刷り込まれているのだ。
日本が島国で、蒙古来襲や中国からの直接の併合を免れてきたことと、イギリスの立ち居地は似ている。大陸と地続きだった韓国は、同じ極東という位置にありながら、大陸の国家興亡の歴史に大きく影響されてきたのと日本の歴史は大きく異なってきた。
(この項 続く)
九段クラブの月例勉強会でBREIXTが取り上げられた。
イギリスのEU離脱は、経済合理性から言えば不合理なことだ。しかし、ヨーロッパの歴史の大きなうねりからは自然なことだと私は見ている。
そもそもヨーロッパでは、有史以前から国境線が確定されたことなどなかった。執筆者が分明な書物として初出の一つ、『カエサル戦記』からして、ローマ帝国の拡大を叙述したものであった。第2次大戦後、安定して紛争から免れてきた日本とは異なり、大きなものはソビエト連邦の崩壊によるロシア衛星諸国の出現、東西ドイツの統一から、ちいさなものではユーゴスラビアの分割やクリミアのロシアへの実質的な併合など、「ヨーロッパの国境は今も動いている」のだ。
イギリスへ行くとイギリス人は今でも、ヨーロッパ大陸のことを「ヨーロッパ」と呼び、つまり自分たちのことをヨーロッパに帰属、同一しているとは思っていない。
(この項 続く)
都知事候補の鳥越俊太郎氏の女性スキャンダルが週刊文春7月21号で報じられ、騒然となっている。
鳥越氏は、7月21日に街頭演説の後で記者団と応答をして、所感を述べた。一部をそのまま掲げる。
「裁判になったり法的な問題ですので、うかつに私の口から具体的な事実についてあれこれ言うのは控えさせてください。これはすべて、そういう問題については、私の法的代理人である弁護士の方に一任をしております。以上です」
として、自らの説明責任から逃走した。
鳥越氏が問題指摘に対して言論の開示によって対応せずに、弁護士を通じて刑事告訴したことも、ジャーナリストとしての鳥越氏の自殺行為と言える。
これは、枡添要一前都知事が疑惑を指摘されて「第三者機関」なる自費弁護士による御用委員会を立ち上げて「全ては第三者委員会が明らかにする」と逃げ回ったのと同じ構図だ。
そもそも今回の都知事選は「枡添的でないもの」への選択、収斂として展開されているはずである。そうだとしたら、鳥越氏は完全にその資格を失ったと、私は考える。
今回のポケモンGOの大ヒットが、任天堂が今秋にリリースすると予想されている専用ゲーム機の売り上げにどう好影響を与えるかが注目されているが、実は影響を与えないとみるべきである。
むしろ経営学者クレイトン・クリステンセンが唱えた「イノベーションのジレンマ」理論からいえば、ポケモンGOという破壊的技術により、ポケモン・キャラクターを使用する専用ゲーム機の失速は加速する、と見ることができる。
ポケモンGOの大成功は、任天堂という企業全体から見れば諸刃の刃というべきものなのだ。クリスマス商戦に向かって、ゲーム市場がどのように推移していくのか、けだし見ものである。
(この項 終わり)
「このような構造の中で、任天堂が選択できる企業戦略としてはM&Aである。同社の財務諸表を見ると、現金と有価証券でなんと約9000億円も保有している。これを有効活用して、世界中のゲーム開発会社や関連するIT企業を早期に10社以上買収することだ。」
「そして同社に統合することなく、それらの会社を活性化させてローエンド・セグメントを席巻する。人事交流は行わないほうがいい。任天堂本社の現在の『持続的イノベーション』のモメンタム(惰性)が、それらの『破壊的イノベーション』を担当すべき企業の風土を阻害してしまうからだ」
ここでいう「ローエンド・セグメント」というのは、まさにスマホゲームのことだ。同記事掲載後に任天堂はスマホゲーム開発へ方針を転換して、提言した通りの道をたどってポケモンGOの大ヒットにつながった。
(この項 続く)
ツバメ1羽が任天堂に春を告げたのか
ポケモンGOが任天堂の業績を大幅に押し上げる、というのは少なくとも売上的には難しいことだろう。
というのは、任天堂は2009年に連結で年商2兆円近くの売上を計上した、大きすぎる企業だからだ。直近の16年3月期でも5045億円もの年商を有している。
専用ゲーム機という分野での勝者でありジャイアントとなってしまった同社は、スマホゲーム時代がやってきていたにもかかわらず、その分野への対応を怠っていた。名経営者といわれた故・岩田聡社長も「スマートデバイスには物理的なボタンがない。『スーパーマリオ』などを楽しく遊べない」(15年1月18日の会見)としていた。
私は昨年2月、本連載記事『任天堂、もう沈みゆくしか道はない スマホゲーム制覇戦略を採用できない構造的欠陥』で同社の立場に立った場合のスマホゲームへの対応の難しさを「イノベーションのジレンマ」セオリーにより解説した。同記事では「任天堂は、スマホゲームに参入できる、そして制覇できるすべての経営資源を有しているにもかかわらず、なぜ参入しないのか」と批判する一方、次のように対応策も提示した。
(この項 続く)
しかし、ポケモンGOの世界全体での好調がどれだけに上るかはこれからのことだし、任天堂本体に売り上げとしてどれだけ寄与するかは、実は現時点では不分明なのだ。
というのは、ポケモンGOを開発販売しているのはグーグルから独立した米ベンチャー、ナイアンティックという会社で、任天堂はそこの株式を部分的に所有している。ポケモンGOの販売にかかわる収益をどう分配するかについて、ナイアンティックは明らかにしていない。任天堂が所有する株式持分についても明らかにしていないのだ。
ちなみに、任天堂はポケモン・キャラクターを管理する株式会社ポケモンについても32%の株式を所有しているにすぎない。
ツバメ1羽が任天堂に春を告げたのか
(この項 続く)
任天堂の業績にはどれだけ寄与するのか
無料でダウンロードして遊べるが、モンスターを捕まえるのに役立つアイテムをゲーム内で販売するというビジネスモデルだ。米国でのアイテム販売収入は現在一日約160万ドル(約1億6000万円)との推定もあり、任天堂の株価は7月6日に1万4380円の終値だったのが、12日は2万2840円で引けた。実に60パーセントもの棒上げであり、同社の時価総額は4営業日で約1兆円も増えたことになる。
さらにポケモンGOの好調はまだ入り口でしかないという見方がある。というのは、世界でも有数のゲーム市場規模である日本(2015年:1兆3591億円、「ファミ通」<カドカワ>による)でのリリースがこれから控えているからだ。そして日本ではもちろんポケモン人気はしっかり定着していて、リリースされれば人気が出るゲームとなることは間違いない。
(この項 続く)
任天堂が展開してきたポケットモンスター(ポケモン)・キャラクターが登場する新スマートフォン(スマホ)ゲーム「ポケモンGO」がアメリカでリリースされ、大変な人気を博している。スマホが持つ位置測定システム(GPS)を活用した位置情報ゲームで、キャラクターを実際に自分の周辺で探し出すというゲーム。発見すること自体が楽しいが、さらにそのキャラクターと遊んだり捕まえたりする。ほかのプレイヤーと交流することもできる。
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故・岩田聡氏 Wikipediaより |
7月6日にアメリカで先行リリースされると、Androidユーザーだけでも5%以上がこのゲームをインストールして、その後の継続利用率は60%を超えているという。さらに1人1日当たりの利用時間は43分23秒にも上っている。これはスマホ用の全アプリのうち、SNSも含めて現時点で最長となっている。
キャラクター探しに夢中になり、他人の敷地に入り込んでしまったり、移動中に転倒してけが人が出たりしている。ワイオミング州リバートンという町では、19歳の女性がキャラクター探し中に本当の死体を発見してしまったという事件が報告された。
任天堂の業績にはどれだけ寄与するのか
(この項 続く)
リーダーズブートキャンプは7月9日(土)に第3講に突入した。
午前中は、課題図書『影響力の武器』の第5章、第6章を報告発表と討議してもらう。
また私の「戦略セオリー」のセッションも。
午後からカリスマ講師箱田忠昭先生の「エグゼクティブのためのプレゼンテーション」。オープンクラスとしたので、外部からも聴講者を受け入れた。
その後、戦略策定途中の1回目グループ発表を二コマ。箱田先生にもコメンテーターに入ってもらった。
今回から遅ればせに参加された受講者の方が「とても刺激を受け、おもしろかった、次講が待ち遠しい」との感想をもらった。まあ、それはそうだろう。
7月7日、七夕のその前日に福岡に入った。
7月の前半は、博多の町は山笠祭りの一色となっていた。
博多駅頭にも、高さで左の写真を優に倍に超える「飾り山(山車の部分)」が安置、飾られていた。こんな大きな置物が男たちにより町並みを疾走すると思うと、その迫力が思いやられる。
そんな中、朝から夕刻まで集まってくれた経営者や幹部の皆さんに、戦略カードを使って戦略策定演習を実施。
終わって、皆さんのアンケート評価も高く、主催者の方にも喜ばれた。また、秋に足を運ぶことになった。
鈴木氏は、あまりに偉大なカリスマ経営者となったので、オーナーや創業経営者のような錯覚を持ってしまったのではないだろうか。つまり「矩(のり)を超えてしまった」ということである。
井阪隆一セブン&アイHD新社長に対して総合スーパー(GMS)事業での経営経験がないと指摘する向きもあるが、GMS事業とコンビニエンスストア事業の両方で経営実績を持ち、かつスカウト可能な人材がいるとでもいうのか。「カリスマ鈴木氏」の幻影を求めることは空しいことだ。
いずれにせよ、孫氏が今、58歳にして事業意欲の再燃を自覚して続投宣言をしたことはまことに喜ばしい。ソフトバンクグループどころか、企業の枠を超えてどこまで羽ばたいていくのか。ぜひ見届けたいものだ。
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しかし、ウェルチの場合、孫社長などと決定的に異なるのは、創業はもちろん、オーナー社長でもなかったことだろう。新卒からGEに入社した純粋な従業員経営者だった。いずれは「バトンを渡す」という覚悟、風土がGEにはあったので虚心に後継社長選びのプロセスを踏むことができたのではないか。
後継経営者を育てられないのがカリスマ経営者の悩みだったとしたら、カリスマが去ってしまったらどうしたらいいのか。それは、そのときの成り行きで決めるしかないのだ。
今年になって退陣したカリスマ経営者としては、鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス(HD)前会長が記憶に新しい。鈴木氏の場合は、後継経営者候補として浮上してきた井阪隆一氏を排除しようとしての蹉跌となった。
(この項 続く)
カリスマの後継はそのときの成り行き
FR-MICや星野リゾートが展開している幹部研修プログラム『麓村塾』にしても、後継経営者の発掘あるいは教育を標榜している社内プログラムは珍しくない。しかし、そんなことをしても実はカリスマ経営者の2代目をつくることは不可能だ。ほとんど再現できないような人材だからこそカリスマ経営者であり、同じような人材がもうひとり同じ組織から発見できると期待してはならない。従業員をいくら教育しても、せいぜい幹部教育として実を上げられるのが限界である。
そんな限界をカリスマ経営者自身が実はよく理解している。あるいは直感している。そして逆説的にいえば、そんなことが難しいと思うからこそ、後継育成プログラムなどを整備したがっているともいえる。
カリスマ経営者の後継育成、指名プロセスでうまくいったのが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチだろう。ウェルチは退任前の数年間にわたって4名の後継者候補を公示して、その4人を徹底的に競わせた。その結果、ジェフ・イメルト現会長兼CEOが勝ち残り、後継となり現在に至っている。そして就任以来同社の業績を伸張させてきている。
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カリスマ経営者には後継ぎは育てられない
孫氏がグループのCEO(最高経営責任者)として全体を見て、海外部門をアローラ氏、国内部門を宮内謙氏がそれぞれ副社長として受け持つことが企業価値を増大させる格好の布陣だったろうが、今となっては「ないものねだり」となってしまった。アローラ氏は、7月1日以降は顧問としてソフトバンクグループに関与するという。しかし、より大きな権限と責任を求めての副社長退任なので、外にポジションを探すことになる。
そこで、ソフトバンクグループで後継経営者の育成はどうするのか、という命題が発生してしまった。私は「そんなことは無理だったのだ」と指摘したい。同社には以前からソフトバンクユニバーシティがあり、社内だけでなく社外からも参加を認めている。何百人もの参加者を輩出し、当初は孫氏の後継経営者の発掘、あるいは教育機関ともいわれてきたが、結局外部から唐突にアローラ氏をスカウトした。
柳井氏にしても、09年にFR-MIC(ファーストリテイリング・マネジメント・アンド・イノベーション・センター)を立ち上げて後継経営者を育成し始めたと思ったら、自らの65歳引退を公言していたのを13年に至り撤回して、現在67歳で陣頭指揮を執っている。永守氏に至っては常々「死ぬまで経営に関与するのが創業者の責任だ」と覚悟を示している。
(この項 続く)
株主総会には社外取締役も出席した。柳井正社外取締役(ファーストリテイリング社長)は「60歳にもなっていないのに引退なんて冗談じゃないぞと申し上げた」と述べ、続投を支持した。
また永守重信社外取締役(日本電産社長)も「経営意欲は年齢ではない」と強調して、「最初から絶対に辞めないと思っていた。69歳になったらまた10年やるだろう。あまり信用しないほうが良い」と述べて、会場の笑いを誘った。
私も孫氏の続投を大いに歓迎する。同氏は創業時から「豆腐を1丁、2丁と数えるように売り上げを1兆、2兆と数える会社にする」と豪語してきた経営者だ。日本で20世紀における最高の大経営者は故・松下幸之助氏だったが、孫氏は21世紀における最大の創業経営者の道を歩んでいる。
カリスマ経営者には後継ぎは育てられない
(この項 続く)