集英社インターナショナル社、2008年刊。社会心理学の重鎮が、その学問分野からの透察により「常識の嘘」を指摘する、といったテーマ。
どこの國の場合でも、行動形式にはその社会での自分に対する利益を最大化するドライブが効いていて、「日本的」と考えられていたものも、時代によって変遷してきている、つまり不変なものではない、という。
従来の日本社会は、農村に代表されるような集団主義社会で、その中では(知っている同士では)「安心」が保証されていた。しかし、現在は信頼社会に移行しているのでそれに対応する行動規範を習得しなければ、社会的苦痛が増大する。著者は、その新しい行動規範として「商人道」を上げている。
今までの日本人の行動様式を理解するのには助けとなるが、本書の主張に二つの点で賛同できない。
1.日本社会は現在信頼社会に移行しているのか。突出している社会事象とか経済事件などは、実は何時の世にも有り得ることで、特異な現象をベースとした議論を鵜呑みには出来ない。そもそも、社会全体の価値観はそんなに全面的に移行しうるものなのか。太平洋戦争での敗戦などの大エポックがあったのか。
2.信頼社会に移行するための新行動規範、「どうすればよいのか」の概念提出がクリアではない。「武士道」の不要の指摘と関連して「商人道」を称揚しているのだが、大分唐突感がある。
著者の認識のベースとなった「日本の安心」は基本的に損なわれてしまっているのだろうか。犯罪発生率や医食のシステムを考えると、まだ捨てたものでは無いどころか、こんなに良い國は世界でも少ないと私は思う。
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