2019年6月30日日曜日

LIXIL内紛、大波乱の瀬戸氏勝利の舞台裏…「株主総会=会社側有利」の崩壊(3)

株主総会では、議案ごとに採決が取られるのが通常だ。よって、上記3つの議案は個別に採決が取られるものと思われていた。つまり8名、2名、6名がそれぞれグループとしてまとまって採決されると見られていた。

 ところが今回の株主総会では、前代未聞のマークシート方式による選任投票が採用された。すなわち、16名の候補に対して、株主は一名ずつ賛否のチェックをすることとなったのである。

その結果、第1号議案に含まれていた2人の候補、福原賢一氏(前ベネッセホールディングスCEO)と竹内洋氏(前日本政策投資銀行常務)が落選したのである。会社側の候補で当選したのが6名、瀬戸氏側候補は第2号議案の2名も含めて8名全員が当選して6対8となり、雌雄が決せられた。

皮肉な役回り、投資助言会社

 

大手企業の株主総会で取締役選出を個別投票のマークシート方式で行うなど、およそ聞いたことがない。16名候補全員への持ち株数当たりの投票数を個別に集計するために休憩時間が取られ、それがさらに延長されるなど、今回の総会は5時間近くにわたる長時間となった。

(この項 続く)

2019年6月29日土曜日

LIXIL内紛、大波乱の瀬戸氏勝利の舞台裏…「株主総会=会社側有利」の崩壊(2)

異例のマークシート方式個別選出



 今回の株主総会には、会社側から提案されていた取締役候補8名(以下、「会社側」)と、瀬戸氏を盟主とした株主提案による取締役候補の8名(以下、「瀬戸氏側」)の計16名が、候補として挙げられていた。LIXILの取締役の定員は16名だったので、両陣営の全員が選出される可能性もあった。

 総会後の取締役会で選出されるCEO候補として、会社側は三浦善司リコー元社長、瀬戸氏側は同氏を提示していた。

 取締役選出の総会議案としては、LIXILは16名の候補を3つの議案に分けて決議事項としていた。第1号議案には8名の会社側候補、第2号議案には会社側と瀬戸氏側両方から候補とされた2名、そして第3号議案には瀬戸氏側の6名である。第2号議案の2名の方たちは瀬戸氏側候補との認識を示していたので、第1号議案候補8名が会社側、第2号議案の2名と第3号議案の6名の計8名が瀬戸氏側8名と、拮抗していた状況だったのである。

(この項 続く)

2019年6月28日金曜日

LIXIL内紛、大波乱の瀬戸氏勝利の舞台裏…「株主総会=会社側有利」の崩壊(1)

LIXIL新CEOの瀬戸欣哉氏(写真:日刊現代/アフロ)
注目されていたLIXILグループ(以下、LIXIL)の株主総会が6月25日に行われた。

復帰なるか、世間の耳目を集めていた瀬戸欣哉前CEO(最高経営責任者)は取締役に選任されただけでなく、総会後の取締役会でCEOに選任され、同社経営のトップに返り咲いた。

 私は本連載記事などで、「創業家で元CEOの潮田洋一郎氏による瀬戸氏のCEO解任が不当だったところにコトの発端があるのだから、瀬戸氏のCEO復帰が正道だ」と主張してきた(『LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない』)。

 瀬戸氏復帰までの紆余曲折を振り返ると、大企業における株主総会での機関投資家といわれる大株主たちの意思決定に、大きな変化があったことが観察される。そして今回のこの変化は、機関投資家の投票行動が今後変わっていくきっかけとなる可能性がある。


異例のマークシート方式個別選出


(この項 続く)

2019年6月27日木曜日

LIXIL、元CEO・瀬戸氏側が不利な情勢…議決権行使会社、会社側を概ね支持へ(2)

同ペーパーはLIXILの株主総会に向けて20ページにわたる詳細なものだが、取締役候補関連の議案に関する結論だけを報告する。

1.会社側提案候補について

 鈴木氏と鬼丸氏を含む全員に対して選出投票を勧める。

2.株主提案候補について

 濱口大輔氏(前企業年金連合会運用執行理事)についてだけ選出投票を勧め、他の5名(瀬戸氏も含む)に対しては反対投票することを勧める。

 同ペーパーには上記提案の根拠として、詳細な分析・評価が記載されている。それについては別の機会があれば触れたいが、「過去、あるいは現状との決別」というセオリーが採用されている。株主提案候補で推奨されなかった5名の候補は、現任のLIXIL幹部たちである。

 株主提案候補のなかで濱口氏のみが選出投票を推奨されているが、同氏を含む6名は今回の総会では3号議案としてまとめられている。議事進行上、濱口氏だけ別扱いとされることはないだろう。結果、同ペーパーは株主提案候補全員への反対投票を進める助言として受け止められるだろう。

 そしてISSは、会社提案の取締役候補8人のうち6人について賛成を推奨しており、LIXILは「大勢としては会社提案を支持した」との見解を発表している。さらにISSは、瀬戸氏の取締役選任について反対を推奨しており、事態は瀬戸氏側に不利な様相を見せてきたが、その展開に注目したい。

(この項 終わり)

LIXIL、元CEO・瀬戸氏側が不利な情勢…議決権行使会社、会社側を概ね支持へ(1)

LIXILグループ(以下、LIXIL)の株主総会が開かれる6月25日が近づいてきた。今回の総会で注目されているのは、会社側の指名委員会が提案している取締役選任議案と、元CEOである瀬戸欣哉氏側が株主提案している取締役選任議案が対抗していることだろう。

そんななか、大手議決権助言会社である米グラス・ルイスが会社側の取締役選任案を株主に対して推奨していることがわかった。


2つの取締役選任案



 会社側の取締役選任案は10名。松崎正年氏(現コニカミノルタ取締役会議長)を取締役会議長に、三浦善司氏(前リコーCEO)を暫定CEOに充てるというもの。ちなみに鈴木輝夫氏(元あずさ監査法人副理事長)と鬼丸かおる氏(元最高裁判所判事)は当初会社側提案の取締役としても発表されたが、両氏は「了承していない」としたため、会社側は株主提案と重複する両氏を除く8名への賛否を問う1号議案と、両氏のみについての2号議案に分けた。

 一方、株主提案となった3号案件は、鈴木氏と鬼丸氏を除く6名となり、瀬戸氏がCEO復帰への意欲を示している。

 両陣営の取締役選任案は計16名で、LIXILの取締役定員も16名なので、全員が選任される事態も理論的にはありうる。

 LIXILの株主構成は、機関投資家が約4割、機関または個人を問わず海外投資家が約7割とされる。このなかで機関投資家の投票に影響力を持つとされるのが、議決権行使助言会社である。機関投資家はその行動を制約する「スチュワードシップ」によって、助言会社の助言を参考にしなければならないからだ。


グラス・ルイスは会社側の取締役選任案を支持



 米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と並んで世界の2大議決権行使助言会社といわれる米グラス・ルイスの文書「PROXY PAPER:LIXIL GROUP CORPORATION」(6月12日付け)を今回、筆者は独自ルートで入手した。

(この項 続く)

2019年6月26日水曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(16)

しかも、瀬戸氏解任に当たり指名委員会の委員長だった潮田氏は、瀬戸氏には「委員会の総意だから」と告げ、取締役会では「瀬戸氏から辞任の申し出があった」と、両者を愚弄するような対応をしたとされている。ここで両者を愚弄した、というのは株主をも愚弄したというに等しい。

 となれば、この実績のあるプロ経営者が希望しているのだから復活の出番を与えるのがガバナンスの王道というものだろう。

 瀬戸氏自身はLIXILの経営風土として「深く根付いた忖度文化が立ちはだかっていると感じたのは一度や二度ではありません」(「文藝春秋」<文藝春秋/2019年6月号>記事『私は創業家に屈しない』より)と、指摘している。

 LIXILは、このたびの取締役選任争いを奇貨として瀬戸氏が指摘しているような忖度人事から決別すべきである。潮田氏は社外に出て、ただの一般株主のステータスになるはずだ。つまり在野の存在となる。この際、トップ人事という大事を透明性のある議論で決定する方向に舵をきるべきだ。

 幸い、指名委員会が提出した8名の候補のなかには、社内の候補は1人しかいない。瀬戸氏側と合わせて16名全員を新取締役として選任し、瀬戸氏がCEO代表取締役に選任され復帰するのが、成り行きからみてLIXILの大義だと私は思う。

 さらにこの機会に、形骸化していた同社の指名委員会を実質機能させ、社外のオーナーもどきの人たちの影響や関与(クビキ、呪縛といったほうがいいのか)から、同社のステークホルダーの皆さんが完全に解放されることが望まれる。

(この項 終わり)

2019年6月25日火曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(15)

今回、LIXILの指名委員会で取締役候補の選出を主導し、発表したのは菊地義信取締役だった。同委員会で唯一の社内取締役で、潮田氏と近いと評されている。指名委員会による候補者のなかには、瀬戸氏側の候補者からの選抜がなかった(鈴木輝夫氏と鬼丸かおる氏は会社側候補となることを拒否)ことから、菊地取締役は瀬戸氏側と対立的な構図を現出させた。

 潮田氏は4月の会見で、「取締役退任後も相談事があれば」とコメントして、院政への関心があるかのような態度を示してもいる。菊地取締役がその受け皿、あるいはパイプ役を果たすのではないかと危惧する向きもあろう。

 LIXILの次期取締役選任に対する私の意見は簡単である。それは瀬戸氏をCEOに復帰させろ、ということだ。単純に瀬戸氏はCEO在職中に大きな失策を犯していない。瀬戸氏の失脚は、潮田氏の気まぐれ、あるいは潮田氏が主導したイタリア建材のペルマスティリーザ社のM&Aでの大きな損失計上の失敗の押し付けによるものだった。

(この項 続く)

2019年6月23日日曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(13)


瀬戸氏をCEOに復帰させるのがスジ


 瀬戸氏側と会社の指名委員会側と、2つの取締役候補案が提案された状況を受けて、執行役などのLIXIL幹部が指名委員会に「意見書」を2回にわたり提出した。幹部たちが自発的に、自社の重要人事を差配する委員会に意見書を提出するということは相当重大な決意の表れと取ることができる。

 4月に提出された1回目の意見書では潮田経営への批判、2回目5月に提出されたものには次のような指摘があったという。

「5月13日の指名委員会・取締役会の発表で、真に中立的な候補者名簿にならなかった理由をお聞きしたい」
「我々は提案された候補者名簿に潮田さんの影響が及んでいる理由を推定しています」
「我々上級執行者は多額の費用を必要とする委任状争奪戦を回避する全ての努力を支持し、瀬戸さんの建設的な提案(Olive branch:和解)を歓迎します」
(以上、5月24日付日経ビジネスオンライン記事『LIXIL幹部らが再び「意見書、委任状争奪戦回避訴え」』大竹剛より)

 つまり、幹部たちは瀬戸経営の復活を支持しているのだ。

(この項 続く)

2019年6月22日土曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(12)

潮田氏が昨年11月にCEOに復帰してから、LIXILの株価は急落した。昨年12月25日は昨年来安値となる1,270円となり、昨年高値3255円(1月23日)より60%も下落した。現在も1,359円のまま(5月24日)である。潮田氏への評価を市場も共有していると見ることができる。

 創業家出身の経営者への評価は、それぞれの実績で決まることも多いのだが、経営実績の矩を越えて存在感を発揮してしまうのが、私の言う「オーナーもどき経営者」ということだ。オーナーもどき経営者を実質的に支えてくれる「番頭経営者」がいない場合は、オーナーもどき経営者は、その会社に益をもたらすことは少ない。いっそ、「君臨すれど統治せず」のポジションに入ってくれたほうが、皆の幸せとなる。


瀬戸氏をCEOに復帰させるのがスジ


(この項 続く)

2019年6月21日金曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(11)

また、潮田氏はそもそもLIXILの株式を3%程度しか保有していない。これらの事実から、同氏はLIXILのオーナーではない。資本持ち分的には経営支配権を有しないし、指名委員会議長や取締役会議長でもなくなったので、機能的な支配権も失った。6月の株主総会で取締役も辞任すれば、一般株主と同様な立場の関与者となる。

 そんな潮田氏が、LIXILの本社をシンガポールに移転することを画策していたというのだから呆れる。前回記事に書いたことだが、シンガポールに居住している潮田氏は自らへの税制の制約から、日本には年の半分以上滞在できない。シンガポールと日本との往来を忌避して、自らが預かった会社のほうを自宅近くに持ってこようとしていたのだとしたら、経営者の道楽、いや、わがままもこれに極まれりというほかはない。

 株式所有が少数でも、創業家出身者が実質オーナー経営者のように振る舞っている上場企業は珍しくない。トヨタの豊田章男社長が所有するトヨタ自動車の持ち株比率は0.1%にすぎないが、その求心力はいうまでもない。

(この項 続く)

2019年6月20日木曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(10)

それが経営の不調ということでもなく、あるいは経営路線の乖離という真摯な議論の結末でもなく、オーナーもどきの気まぐれから更迭され、そのトラック・レコードに理由なく傷を付けられていく――。

藤森氏と瀬戸氏に起きたのは、そのような不条理といってよいハプニングだった。経営人材として世に希少な2人のプロ経営者をないがしろに扱い、リスペクトを示していない潮田氏を支持するわけにはいかない。

 潮田氏のLIXIL経営への関心度が、同氏にとってほかの文化的趣味と同程度のものだったとしたら、6万人を超す同社の従業員の不幸は大きなものがあったといわざるを得ない。


オーナーもどき経営者は去れ


 私が潮田氏のことを「オーナーもどき」と呼ぶのは理由がある。潮田氏は創業家であるが、2代目で創業者ではない。またLIXILは数社が統合された会社なので、ほかにも創業家が存する。

 (この項 続く)

2019年6月19日水曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(9)

つを指摘した。本記事はその3つ目から始まる。

プロ経営者を道具扱いするな





 日本GE会長だった藤森義明氏と、瀬戸氏のCEO招聘は、趣味人である潮田氏にとっては、茶道の名茶器をコレクションするような感覚だったのではないだろうか。世間で名器として評価されているお道具(名経営者)を自らのものとし、それをみせびらかして自慢する。名前だけが重要で、その実質的な機能には頓着しない。そもそも茶器の場合なら、あまり使いもしないだろう。

 だから招聘した両氏がCEO経営者として実際に機能するようになると、それは潮田氏が要望したこととは外れたことだったのではないか。潮田氏はその都度「路線の違いがあった」と説明していたが、実際には連れてきたスターたちがパペット(操り人形)ではなかったということへの“趣味人の対応”として理解できる。

 しかし、招請され短期で解任された2人にとっては、たまったものではない。プロ経営者は、預かった会社の業績伸長や回復に命を削って取り組むものだ。そして、幸いに実績を出すことができると、それをトラック・レコードとして次の活躍の場を求めていく。

(この項 続く)

2019年6月18日火曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(8)

潮田氏のそんな側面と絡めて、同氏の経営への関与を“趣味人経営”と評する報道もあった。そう評されるとき、それは潮田氏の文化的趣味を“道楽・数寄(風流の道)”ととらえ、同氏のLIXIL経営への取り組みもしょせんは同氏の道楽の一つと断ずる見方だったであろう。

 確かに潮田氏は2012年に取締役会議長に上り詰め、いわば経営の第1線から距離を置いた。しかし、外部から藤森氏、瀬戸氏と続けてスター経営者を招聘して、自らはオーナーのごとく院政を敷いてきた。

 2氏を連続して更迭したことで、もう次にスター経営者を外部招聘できなくなったことから、昨年暮れに急遽自らがCEOに復帰しなければならなくなった。この時も、指名委員会の議長本人が自らをCEOに指名するという、利益相反的な行動をごり押ししてしまっている。正常なガバナンスとは言えない、やりたい放題のオーナーもどきだった。

 この時のトップ人事の不透明性を海外機関投資家から非難され、今春その是非を問う臨時株主総会の開催が決まると、潮田氏はさっさとCEOを辞任してしまった。そして、6月の定期株主総会での取締役辞任も表明して、臨時株主総会の開催をつぶしてしまう。

 ひとたび公の席で説明責任を果たさなければならない状態が発生すると、その責任をあっさり投げ出してしまった。まるで自分のほかの趣味と同様に軽く対応したその様は、「道楽経営」「海外居住者のパートタイム経営」などと謗られても仕方がないのではないか。

(この項 続く)

2019年6月17日月曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(7)

2世経営者の趣味の広がりが


 潮田氏は瀬戸氏の前には、日本GE会長だった藤森義明氏をCEOとして招聘し、これも短期かつ唐突に解任している。潮田氏は藤森氏を招請した2011年以降は、LIXILで指名委員会議長だったが、創業2代目として実質的にオーナーが意思を行使したのと同じようなことだった。

 経営に創業家が直接乗り出さなくとも関与を続ける形態はいくらでもある。問われるのはその関与モデルの是非ではなく、個々のケースでそれがうまく機能しているかである。

 潮田氏は資産家の子息として育ち、大変な趣味人となったことで知られる。それこそ東西の古典から茶道、建築にいたるまで文化への造詣が深く、フィランソロピー(文化への啓蒙、援助)活動も活発にやっている、文化スポンサー的な立場の人だ。関西ではこれを“大旦那”と呼ぶ。

(この項 続く)

2019年6月16日日曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(6)

洋一郎氏が日本の税制に疑問を感じたことは自らも明言してきたことである。シンガポールは住民税がなく、所得税の最高税率は22%でしかない。日本人の富裕層が多く移住していることで知られる。

 しかし、日本の税制では「10年ルール」というのがあり、海外に10年以上居住を続けないと、その資産の相続税や贈与税の免除が適用されない、ということになっている。15年に移住した潮田氏は2025年まで日本に本格帰国できないはずだ。その間、日本に年間半年以上滞在すると、日本の居住者として本邦の課税適用の対象となってしまう。

 さて、年の半分までしか滞在できない日本で、年商1兆8000億円、従業員数6万人以上という大企業のCEO職の責任を果たせると、潮田氏は昨年11月にCEOに復帰したときに本当に考えていたのだろうか。経営者の「覚悟と責任」を潮田氏がどのように認識しているのか、機会があればぜひインタビューしたい。

2世経営者の趣味の広がりが


(この項 続く)

2019年6月15日土曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(5)

創業者の息子として、社内では独裁者的に振る舞ってきたのだろうか。誰からも指弾・意見されるようなこともなかったのだろう。それが欧米の機関投資家などが仕掛けてくるであろう直截な議論や難詰に直面する可能性が見えると、すぐさま辞任してしまうという経緯となった。

 私は、このような潮田氏の「経営者としての覚悟と責任」に大きな疑問を持つ。そして現在展開している次期CEO争奪戦は、すべて「潮田氏問題」に端を発していた、ということになる。

 経営者としての潮田氏の問題点を、大きく3つ指摘しておく。


シンガポール居留で大企業の経営ができるのか


 潮田氏がシンガポールに移住したのは2015年と報じられている。その前年にLIXILの前身であるトステム社を創業した父、健次郎氏が死去している。健次郎氏の死亡に伴い、洋一郎氏の姉が相続税の申告漏れを指摘され、60億円強を追徴された。


 (この項 続く)

2019年6月14日金曜日

LIXIL、元CEO・瀬戸氏側が不利な情勢…議決権行使会社、会社側を概ね支持へ

LIXIL前CEOの瀬戸欣哉氏(写真:日刊現代/アフロ)
LIXILグループ(以下、LIXIL)の株主総会が開かれる6月25日が近づいてきた。今回の総会で注目されているのは、会社側の指名委員会が提案している取締役選任議案と、元CEOである瀬戸欣哉氏側が株主提案している取締役選任議案が対抗していることだろう。そんななか、大手議決権助言会社である米グラス・ルイスが会社側の取締役選任案を株主に対して推奨していることがわかった。

2つの取締役選任案


 会社側の取締役選任案は10名。松崎正年氏(現コニカミノルタ取締役会議長)を取締役会議長に、三浦善司氏(前リコーCEO)を暫定CEOに充てるというもの。ちなみに鈴木輝夫氏(元あずさ監査法人副理事長)と鬼丸かおる氏(元最高裁判所判事)は当初会社側提案の取締役としても発表されたが、両氏は「了承していない」としたため、会社側は株主提案と重複する両氏を除く8名への賛否を問う1号議案と、両氏のみについての2号議案に分けた。

 一方、株主提案となった3号案件は、鈴木氏と鬼丸氏を除く6名となり、瀬戸氏がCEO復帰への意欲を示している。

 両陣営の取締役選任案は計16名で、LIXILの取締役定員も16名なので、全員が選任される事態も理論的にはありうる。

 LIXILの株主構成は、機関投資家が約4割、機関または個人を問わず海外投資家が約7割とされる。このなかで機関投資家の投票に影響力を持つとされるのが、議決権行使助言会社である。機関投資家はその行動を制約する「スチュワードシップ」によって、助言会社の助言を参考にしなければならないからだ。

グラス・ルイスは会社側の取締役選任案を支持


 米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と並んで世界の2大議決権行使助言会社といわれる米グラス・ルイスの文書「PROXY PAPER:LIXIL GROUP CORPORATION」(6月12日付け)を今回、筆者は独自ルートで入手した。

 同ペーパーはLIXILの株主総会に向けて20ページにわたる詳細なものだが、取締役候補関連の議案に関する結論だけを報告する。

1.会社側提案候補について

 鈴木氏と鬼丸氏を含む全員に対して選出投票を勧める。

2.株主提案候補について

 濱口大輔氏(前企業年金連合会運用執行理事)についてだけ選出投票を勧め、他の5名(瀬戸氏も含む)に対しては反対投票することを勧める。

 同ペーパーには上記提案の根拠として、詳細な分析・評価が記載されている。それについては別の機会があれば触れたいが、「過去、あるいは現状との決別」というセオリーが採用されている。株主提案候補で推奨されなかった5名の候補は、現任のLIXIL幹部たちである。

 株主提案候補のなかで濱口氏のみが選出投票を推奨されているが、同氏を含む6名は今回の総会では3号議案としてまとめられている。議事進行上、濱口氏だけ別扱いとされることはないだろう。結果、同ペーパーは株主提案候補全員への反対投票を進める助言として受け止められるだろう。

 そしてISSは、会社提案の取締役候補8人のうち6人について賛成を推奨しており、LIXILは「大勢としては会社提案を支持した」との見解を発表している。さらにISSは、瀬戸氏の取締役選任について反対を推奨しており、事態は瀬戸氏側に不利な様相を見せてきたが、その展開に注目したい。


2019年6月13日木曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(3)

一部報道では、2グループの対立が先鋭化していけば互いに相手候補を否認することも含む委任状闘争(プロキシーファイト)の可能性も指摘されていた。

しかし、株主総会が迫っている現時点でその動きが始まっていないこと、本格的にプロキシーファイトをするには双方に多額の資金が必要なことから、その実現の目は少ないと私は見ている。会社側がそれを行えば、株主や社会からの非難を浴びることになるだろうから、抑制的にならざるを得ない。

LIXILの定款では取締役の最大定数は16名なので、双方の候補全員が選出される事態もありうる。その場合は、株主総会後に初となる取締役会で代表取締役およびCEOが選出されることになるので、どちらのグループから選出されるか、大いに興味が持たれる。

 現状での候補者数が同数なので、瀬戸氏側が恐れているのは、会社側が(つまり指名委員会が)さらに候補者を追加することだ。ただし、私はそのような事態にはならないのではないかと見ている。そんなことになると株主総会での取締役選出手続きが紛糾してしまい、今回の成り行きがLIXILほどの大企業のガバナンス不在として、ますますクローズアップされてしまうからだ。

逃亡と言われるか、潮田氏の唐突辞任


(この項 続く)

2019年6月12日水曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(2)

2つの取締役候補案





 最初に発表されたのが、瀬戸氏を中核とする8名の取締役候補案。瀬戸氏は、取締役に重任されることにより、その後の取締役会で再び代表取締役CEOへ復帰することを目指している。

 瀬戸氏を含む8名は、会社からの指名推薦ではなく、株主提案として4月に発表された。LIXILの指名委員会はその後5月13日に、会社側の次期取締役候補としてこれも8名を発表した。ところが、そのなかで鈴木輝夫・元あずさ監査法人副理事長と鬼丸かおる・元最高裁判所判事の2人は、瀬戸氏らが株主提案で候補者とした人物だった。

 鈴木・鬼丸両氏は会社側からの指名プロセスに問題を感じたなどとして、「会社側の候補としては受けない」として株主提案側の候補となることを明言し、いってみれば旗幟を鮮明にした。

すると、LIXIL指名委員会は新たに別の2人を候補として追加したのである。指名委員会のメンバーには社内取締役である菊地義信氏がいること、同氏が潮田氏と近いとされることからも、指名委員会の動きは瀬戸氏グループと対立、あるいは排斥するものとして受け止められている。

(この項 続く)

2019年6月11日火曜日

LIXIL創業家・潮田氏、敵前逃亡連発の“道楽経営”で6万人企業は経営できない(1)

LIXIL・潮田洋一郎会長(写真:東洋経済/アフロ)
LIXILグループ(以下、LIXIL)では6月末の株主総会を前に、取締役候補案が2つ提案される事態となり、世の耳目を集めている。会社の指名委員会が選出した候補は8名なのに対し、昨年にCEOを実質解任された瀬戸欣哉氏は自身を含む8名の候補を提案している。言ってみれば、前者が与党、後者が野党的な立ち位置だ。

 私は、瀬戸氏を実質解任して自らがCEOに復帰した潮田洋一郎氏が行使していた「オーナーもどき」のクビキから、LIXILが解放されるためにも、瀬戸内閣が再組織されることが同社にとってはよいことだと考えている。

2つの取締役候補案


(この項 続く)

2019年6月6日木曜日

M&Aが周りでマイブーム

経営者ブートキャンプのOBの社長さんからの相談を受けた。

展開している事業を急速に伸ばしたい、という。

その業界と地域性を分析すると、撤退を考えている同業をM&Aしていくのが最有効な成長戦略と助言した。「ロールアップ戦略」という。「纏め上げる」という意味だ。

すると、足りないのが資本となる。私は「投資ファンドを探して、出資してもらうのが良い」とも助言した。

すると、「すでにいくつかアプローチされていたが、話を聞くところまでは踏み切れていなかった」と言うではないか。私は彼の背中を押した形となった。

この三ヶ月の間に私が関与している会社で3件目のM&A相談となった。いずれも買収を申し入れられている。業績と成長性が認められているということだ。ファンドや大手の事業会社と組むことは決して悪いことではない。今後ともこんな相談が増えてくるのではないか。

2019年6月5日水曜日

テーミス6月号でRIZAPについてのインタビューが

「RIZAP・創業者VSプロ経営者の相克」

2ページの記事の副題は、「直情径行型創業者と実績を誇るプロは最初こそいいものの必ず対立した挙句に」とある。

私のコメント自体は、

「半年かけて瀬戸氏がM&Aで買収した企業を(松本晃氏が)精査し、売れるところは数社だが売却した。しかし、他は反対があったり、売っても赤字が嵩むだけだったりして諦めたようだ。それもあって、V字回復するための処方箋だけ書いて、本人はおさらばしたというのが真相だと思う」

あるいは

「中井戸氏がいた住商は優秀な人が多く、小さな会社の経営を任せられる社員はかなりいる。しかし、RIZAPグループではそうはいかないだろう。瀬戸氏も自分では出来ないから、二人目の中井戸氏を引っ張ったののだろうが、住商とは人材の層が決定的に違う。プロ経営者が投げ出したRIZAPであるだけに、中井戸氏にとっても厄介だ」
など。

中井戸氏は大変だろうが、腕の見せどころとであるとは、本ブログで指摘したとおりだ。私は期待、応援している。

2019年6月4日火曜日

ライザップ、松本晃氏が半年で敵前逃亡した“蟻地獄”…数十社の不振子会社群に慄然(13)

2つ目は、極端な悪業績が現出したことによる、組織内の危機意識の醸成である。一部には倒産の可能性さえ報道された。こうなると従業員や役員までもが改革を望み、受け入れる状況が出来上がる。

 3つ目が、社内に充満していたであろう“松本アレルギー”だ。中井戸氏を連れてきたのが松本氏と距離をおいていた新最高顧問ということもあり、今度は意外と受け入れられるのではないか。経験豊富な中井戸氏はうまく人心一新をアピールできるかもしれない。

 RIZAPを企業再生させるには、子会社群の「選択と集中」しかない。その方向性はすでに示されている。そちらの方向に舵を切った松本氏は悪役を買って出た上で舞台から退場した。「選択」ということなら、RIZAPで知られている「結果にコミットする」というコピーに合致した、あるいは関連した事業に絞るということだろう。RIZAPが自ら掲げている「自己投資産業No.1へ」に回帰しなさい、ということだ。

 最悪期という、機は整ったRIZAPをこれから中井戸氏がどう浮上させていくのか。手腕の発揮どころがきた。

(この項 終わり)

2019年6月3日月曜日

ライザップ、松本晃氏が半年で敵前逃亡した“蟻地獄”…数十社の不振子会社群に慄然(12)

中井戸氏はRIZAPをどこへ連れて行くのか


 では、プロ経営者が匙を投げた会社を引き受けた中井戸取締役会議長は、RIZAPを立て直せるのだろうか。

 私は、松本氏のときほど中井戸氏はこの会社の経営に手を焼かないのではないかと見ている。

 ひとつは、同社の業績が今どん底にあるような状況だということ。発表された19年3月期の決算数字、特にその利益額は恐ろしく悪かった。そうすると、「これ以上は悪くならない」という状況でもあるのだ。底を打った業績を回復させることは、実は絶好調の業績をさらに伸ばせと要請されることより容易なのだ。

 おもしろいことに決算発表がされた5月15日の同社の株価終値は288円だったが、個人投資家の予想株価は419円(株式投資の総合サイト「みんなの株式」より)だった。つまり、一般投資家はRIZAPは今底を打ったような状況だと思っていると読むことができる。

(この項 続く)

2019年6月2日日曜日

ライザップ、松本晃氏が半年で敵前逃亡した“蟻地獄”…数十社の不振子会社群に慄然(11)

パートタイムでは企業再生はやりとげられない


 松本氏のRIZAPにおける最大の蹉跌は、氏の多忙さということに尽きるだろう。瀬戸社長の要請を受けてRIZAPに乗り込んできた松本氏は、瀬戸社長に対して、外部ですでにコミットしてしまっている業務の続行を条件とした。

 その結果、名が知れたこの会社のCOOが週に一度程度の稼動という態勢しかとれなかった。そして、管掌業務は80を超すといわれる子会社群の担当及び立て直しとされた。週に1度しか顔を出さないトップがどうやって業種、業態、規模が異なるそんな数の会社群の経営、あるいは経営指導ができようか。

 RIZAPに着任した松本氏は、すぐにそれまでのM&A拡大路線の無理筋を読み取り、それをストップさせた。しかし、すでに買収してしまった企業群の立て直し、さもなければ売却は短期間では不可能だ、およそ豪腕を誇る自分でも難しいことだということも悟った。

 ところが、社内では瀬戸社長以外は四面楚歌、自らは社外活動もあり経営にフルコミットできない状況である。当然ながら実績、業績は確保できないだろう。そんな判断を下したプロ経営者は半年もたたずして当社の代表取締役COOの座を自ら滑り降りた。

「RIZAPは手に負えない」

というのが、松本氏の苦い判断でなかったか。

(この項 続く)

2019年6月1日土曜日

ライザップ、松本晃氏が半年で敵前逃亡した“蟻地獄”…数十社の不振子会社群に慄然(10)

人間というものは、それまで自分が正しいと思って一生懸命やっていたことを否定されるとおもしろくないものだ。まして、その結果として好成績が出ているとすれば、それに異を唱える人物に対しては不信感を抱く。そして、それは理由のない嫌悪へとつながることがある。

 松本氏の「M&A路線凍結」提言を受けた瀬戸社長自身も、路線変更に当初は大いにためらいがあったとされている。しかし、結局新参COOの提言を受けて、18年秋に路線変更を発表した。その結果のひとつとして、財務担当とM&A担当役員が年末に解任されている。突っ走っていた組織に鉈をふるってしまった再生経営者が、既存の組織成員からは反感を持たれることは覚悟の上のことでもあったろう。

「週に1回しか出社しないのに年俸1億円だって?」

 吐き出すように話したRIZAP社内の人の言葉が、私の記憶に残っている。念のために書き添えると、松本氏のRIZAPでの報酬は開示されていないので、この金額が事実かどうかは確認できない。

 居心地の悪い会社、それが新任COO松本氏にとってのRIZAPだったと私は見ている。

(この項 続く)